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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第72話:道すがらの雑談②

エフィエルシーが話し始めたのは、教会という組織のこと。


「私が知っている教会は神を信仰していて、信者を増やすために教義を広めたり、礼拝しては神へ祈りを捧げたりするような人たちの集まり、という感じだけれど、違うのかしら?」


『ほとんど同じですよ。彼らは創生の神お一人を信仰しています。しかし、チカコさんの知る教会と違うのは、その目的です。』


嫌なことを思い出したのか、また顔色が悪くなる。

やめるように口を開いた智香子を止めてエフィエルシーは話す。


『…彼らは、創生の神、ツェーララを信仰しています。創生の神に祈りを捧げ、教義を説き広めるだけで済めば良かったんです。彼らの目的は、消えた創生の神を探し出し、世界を正しい方向へと導くこと。』


「正しい方向…?」


『創生の神がいなくなり、彼女の意思を尊重しながらも、世界は人間の手によって創造と破壊を繰り返し、現在に至ります。』


創生神は世界を創った時、世界を突然人間だけで納めるのは難しいと考えた。

そして10人の者にそれぞれ力を与え、バランスを取りあえるようにすることで、彼らを長として過酷な世界をよりよく暮らしていけるようにした。


創造者。守護者。発展者。教育者。判断者。授与者。強奪者。先導者。治癒者。理解者。


彼らは“名持ち“と呼ばれており、現在も世界の均衡を保つために名前を後世へと引き渡しながら存在している。


『創生の神がいなくなったことで、彼らを中心に人々は自分たちで生きていけるように工夫をし、時に失敗して、成功して、暮らしています。しかし教会はこの状態が正しくないと。今、名持ちと呼ばれる者たちが好き勝手に世界を荒らしている状況は本来の姿ではないと、そう考えているんです。』


教会が起こした事件はいくつもある。

その中でも最たるものとしてあげられるのは、500年前の事件だ。


当時食物の不作や動物の病気といった問題が世界各地で流行し、人々は飢えに苦しんでいた。

一日に一度食べられれば良いという生活が何ヶ月も続き、彼らは絶望していた。

その時、教会は立ち上がった。

この飢餓は創生神ツェーララが不在だからであり、名持ちが世界を荒らしているからだ。

飢えから解放されるには、祈りを捧げ、ツェーララに戻ってきてもらうしかない。

人々の弱い心に漬け込み、教会は信者を増やした。


それだけならば良かった。

人々の心の支えとなるだけならば。


しかし、教会が信者を増やすのと同時期から、行方不明の人間が出始めた。


やがて異常事態だと国が動き調べた結果、教会は信者を攫っては創生神ツェーララの復活の生贄にしていたのだ。


「いけにえ…」


『当時広まっていたことですが、創生神は転生し、もうこの世には存在しない。しかし、その魂はバラバラに分かれて、人として生きている、という説がありました。教会はその説を信じ、創生神ツェーララを手に入れようとしたのです。』


彼らは信者を増やし、その信者の中からツェーララに似た人間を集めては攫った。

そして攫ってきた人たちに、創生神の復活の礎となれる。少し眠れば飢餓から解放される。などと吹き込み、彼らの命を奪った。


「奪って、それで創生神は復活するの?」


『いいえ。命を奪うだけでは創生の神は復活しませんでした。そこで彼らは考えたのです。魂がバラバラになった。では、その魂を一つにしたら良いのではないか?と。』


無意識に唾を飲み込んだことで、喉から変な音がなる。


『教会は創生の神に似た人間を集め、命を奪い、人々の心臓を集めて、1人の人間に取り込むことで、女神が生まれる。そう考えただけでなく、実行したのです。』


それが、約500年前に実際に起きた、神創造虐殺事件と呼ばれるもの。


『…しかし、教会の計画は完遂されることはありませんでした。後一歩というところで、とある人物が彼らの計画を防いだのです。その人物は当時から現在まで英雄として語り継がれることとなりました。』


智香子はほっと息を吐き出す。

どちらかといえば、この話が終わったことへの安堵だった。

命を奪われた人たちのことを考えると、気分が悪くなる。

エフィエルシーも無事に話終えて安堵の息を吐いた。


『この話、終わりは好きなんですけど、虐殺の部分がもう気分が悪くて…。それこそ、詳しく書かれた書物を見たことあるんですけど、どのように命を奪ったのか、とか、1人の人間に取り込む方法は、とか。事件後に回収された教会所有の資料を元に、作者の考察も交えて書かれていたのでほぼノンフィクション。作者の文才があっただけに、こう、その当時の情景だとかが凄く分かりやすくて、まるで実際に見たかのように想像できちゃう、と言いますか…。なので思い出すと気分が悪くなってしまうんですよね。』


「それなのによく私に話そうと思ったわね。」


『他人事ではないからですよ!?』


エフィエルシーの突然の大声に、智香子は驚く。

まるで何も分かっていない智香子に、エフィエルシーはもどかしい気持ちになった。


『チカコさんがどこに住まわれているのかは分かりませんが、教会は今なお世界各国に存在しています。500年前の事件以来、大きな顔ができなくなった教会ですが、創生の神を手に入れるという目的は変わっていません。彼らはひそかに、創生の神の復活を企んでいるんです。また500年前みたいな事件が起きたら、小さなチカコさんのなんかすぐに攫われてしまうんですよ?!それなのに他人事みたいに!危機感を持ってください!』


「ご、ごめんなさい…。」


あまりの勢いに智香子は思わず謝ってしまう。

落ち着こうと息を整えるエフィエルシー。


『いえ…。私も少し熱くなりすぎました…。』


恥ずかしいと頬を抑える姿は可愛らしく、エフィエルシーの方が攫われやすそうだなと思う。

妖精たちに群がられながら、エフィエルシーは『でも大丈夫ですかね。』と呟いた。


『創生の神ツェーララに似ていると言われる人間は全て、高い魔力を所持していますので、一切、全く、かけらも、魔力を持たないチカコさんが教会に攫われる可能性は低いかもしれないです。』


一切、全く、かけらも、のところが智香子の心臓になぜか刺さる。

なんとか心を奮い立たせる。


「っ、創生神に似ている、って言われている人の見分け方は、あるの、かし、ら…?」


『そう、ですね…。高魔力保持者という点以外だと、見目が麗しいというのもあるかもしれません。あ、あとは13歳未満ですね。』


「?やけに具体的な数字ね。」


智香子の態度にエフィエルシーは驚く。


『もしかして、“世界の乙女“もご存知ではないのですか。』


なんだその名前は。

カッコよくて可愛い名前だ。

しかし、エフィエルシーの反応的にあまり良い存在ではないのかもしれない。


『なるほど…いや、しかし、“世界の乙女“について教育しないものでしょうか…?』


考えても仕方がないとエフィエルシーは智香子に向き直る。


『“世界の乙女“とは、世界に愛された存在で、高い魔力を持つ人間のことを指します。それだけではなく、彼らは生まれながらに世界から与えられた特別な力を持っているんです。』


その一つは、なんでも願いを叶える「約束」。

「約束」は世界の力の根幹であるため、対価と引き換えになんでも願いを叶えることができる。

対価は願った者の命。

その重みによって、世界は“世界の乙女“を仲介者として願いを叶えるという「約束」をする。


『もう一つは「言霊」という力です。』


「……?」


『簡単に言いますと、言葉がそのままの通りになる力ですね。飛べ、という言葉を向けられれば飛んでしまいますし、沈めと言われれば体が勝手に沈んでしまう。人間には魔力がありますよね?魔法を繰り出すために体内の魔力を使ってしまうと魔力が底をついてしばらく魔法が使えなくなる。ですが「言霊」は世界の力ですので、魔力を使わないで、半永久的に魔法を使うことができます。』


便利すぎる能力だと思いながら、智香子は「言霊」という言葉に引っ掛かりを覚える。


『ただ、一つ欠点があります。それは、短命だということです。“世界の乙女“は世界から特別な力を与えられていますが、世界の力は人間には大きすぎて、力を使うとその力に体が耐えられなくなり、早く死んでしまいます。』


特別な“世界の乙女“はその能力の高さ故に、発見されると国に保護され大事に大事に守られる。だけでなく、その力を国のために使うことを強要される。


『彼らが短命なのは“世界の乙女“だからというよりも、世界の力を使ってしまっているからじゃないかなって思うんですけど、まだはっきりとしてはいません。しかし、国などに力を強要された彼らは、やがて眠りに付き、死にます。』


エフィエルシーはその細い指を三つ立てる。


『13歳までに。』


指を下ろしながら、エフィエルシーは息を吐いた。

妖精たちが擦り寄り、安心させるように頭らへんを撫でてやる。


『教会は彼らを創生の神を手に入れるための道具としか思っていません。なんとも嫌な話です。そして教会は今、1人の人物に目をつけています。』


エフィエルシーの話を聞きながら、智香子はずっと頭の引っ掛かりについて考えていた。


『その人は、“世界の乙女“でありながら、14歳になっても生きている。稀有な存在だと、創生の神ツェーララの生まれ変わりであるとして、教会は彼女を手に入れるために動いているそうです。』


「その人って、」


だれ、という言葉は出てこなかった。


体が震える。


そんなまさか。

あの子が、まさか。


『赤の国、大国アドリオンの第二王女。ベネッタ・レッドフィールド殿下、その人です。』


名前を聞いて、智香子は目を見開いた。

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