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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第71話:道すがらの雑談

挨拶を終えたエフィエルシーは変わらず笑顔だった。


「なるほど。理解したわ。」


時折見せる、諦めたような笑顔。

日常で彼女は、不足している者として虐げられ、心を傷つけられてきたのだろう。

だからこそ智香子は許せないと思う。


「あなたが私にこのふわふわキラキラな服を渡してきた理由が!」


『………ん?』


エフィエルシーの笑顔が崩れる。


「お嬢様だったから、こんな…こんな、お嬢様しか着ることが許されないみたいな服を持っていたのね。お嬢様でもない、ただの平民の私からすれば良い迷惑だわ!これはあなたのようなお嬢様然とした人が着るから似合うのであって、私のような人間には合わないのよ。今度来た人が私のように辱めに合わないよう、普通の服を用意しておくのが相手のためになる行動だと思うわ。」


突然何を言い出すのかと思えば、どうやら今身につけている服が気に入らないらしい。


多くの妖精から、身分に釣り合わない妖精だと言われた。

族長の娘のくせに。

羽がないくせに。

自力が使えないくせに。


生まれ変わった方が良いだろうに。


なぜ不足者であるエフィエルシーを生まれ変わらせないのかと、両親をばかにする輩もいた。

その度に、娘は何も不足していないと説得してくれる両親の姿を見るたびに、エフィエルシーは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


下級妖精たちには個性も理性もない。

だから彼らはエフィエルシーを蔑んだりすることはしなかった。

しかし中級以上になると何もできないエフィエルシーを軽蔑した。


身の回りの世話をするのはもっぱら中級ばかりで、距離はあったが世話をしてくれていたから有難いと思っていた。

しかし、彼らは影でエフィエルシーを馬鹿にし、あることないことを周囲へ吹聴していた。

そんな生活に耐えられず、父と母に頼んで中央都市から離れた場所に、1人で暮らすための家を建ててくれた。


ひっそりと、4人の下級妖精たちとともに、穏やかに暮らしたい。

望みはそれだけなのに、彼らはエフィエルシーを放っておいてはくれない。


先日、月に一度の顔見せで族長の館に赴いた。

こっそり行ってこっそり帰ろうとしたが、彼らに見つかってしまった。


暗い顔をよくも見せたなと水の玉をいくつも当てられた。

族長である両親に心労をかけるなと火をぶつけられた。

羽が生えるように刺激を与えてやると風で切り付けられた。


逃げるように館を出れば彼らは追ってきて、川に落とされた。


ただ自力が扱えないだけ。

ただ羽がなく、飛べないだけ。

ただ、族長の娘なだけ。


どうしてそれだけで、ここまで傷をつけられなければならないのだろうか。


努力をした。

満足とは言えないかもしれないが、自分なりに書物を読み込んだりや両親に聞いたりしては、様々な方法を試した。


自然の力が体に溜まるのならそれをどうにかして外に出せないのかと、自然の力を集めて火を作る人間の魔道具を使って抽出してみた。

結局魔道具はなんの反応も示さないし、コツコツ貯めた10年分のお小遣いは消えた。

羽を生やすために、薬を塗ってみた。

背中の羽が本来生える場所には、エフィエルシーにも羽の跡がある。

試して、試して、これは効く!というものも試した。

しかしどれも効果がないし、時に悪意を持った妖精から渡されたものを塗って、皮膚が爛れたこともあった。


涙を流すエフィエルシーに、両親はただ言い聞かせた。


いつか必ず、報われる。

いつか必ず、救われる。

いつか必ず、幸せになれる。


智香子は分かっていないのだ。

妖精にとって、自力が扱えないこと、羽がないことは、とても劣っていることで見下されることだと。

異世界から来て日が浅いのなら、知識の薄さは仕方がないこと。


しかし今は、その無知に救われる。


『……とても、お似合いですよ。』


「それはあなたの感性が可笑しいの。」


耐え切れず、漏れた笑い声はクスクスと小さなものだった。

すると4人の妖精はエフィエルシーに突撃して、彼女は『ぅぐふぅ!』と地面に倒れる。

呆然としたエフィエルシーは、次にはアハハハッと大きな声で笑う。


そんな彼女を見ながら、智香子は小さく笑った。


ようやく笑いが収まったときには日が傾き始めの頃。

かといってエフィエルシーの家にはあの三人の妖精たちが待っているかもしれない。

戻れないと悩んでいたとき、手を挙げたのは意外にも風音であった。


『ここのちかくにいえあるー。』


風音の後に続き、その日休むための家に向かう。

花畑がある方向とは別の森に入り、やはり足場の悪い道をなんとか歩きながら、智香子は先ほど聞いた話の中で浮かんだ疑問を口にする。


「そういえば、どうして他の神が干渉してくるの?妖精なりビスウィトなりが必要だったのなら、その、創生神が創れば良いじゃない。自分が作った世界なんだから。それこそ500年前の飢餓の時、他の神が干渉することができたのなら、創生神が干渉でもして飢餓を抑えることができたんじゃないの?自分の作った世界では何もできないってわけないでしょうし。」


同じく道を歩く、智香子よりも体力のあるエフィエルシー。


『そうですね、創生の神だからといって、この世界に干渉できないということはないかと。歴史書にも、世界の始まりの時、創始期の時代、創生の神が人々に干渉したという記録が残されていますから。』


「なら、」という智香子にエフィエルシーは首を振った。


『500年前の飢餓を含め、それ以外の災害や災厄を含め、創生の神は何もすることはできません。なぜなら御身を隠されているからです。』


どういうことか、と疑問を浮かべる智香子。

エフィエルシーも苦笑している。


この世界が作られた数千年前。

神は神の声を聞く人間を掛橋として、時には人々の前に降り立っては、彼らの生活を良いものにするために知識や力を授けていたという。

手を取り助け合いながら暮らしていた人々はある日、領土争いが原因で分裂してしまうことになる。

争いを止めようと仲介に入った創生神のおかげで人々は落ち着きを取り戻すが、巻き込まれたことで傷を負った神はその身を癒すために姿を消してしまった。


『というわけで、創始期以来、創生の神は姿を消してしまわれ、他の神が心配して干渉している、というわけなんです。一応この世界のどこかにいらっしゃるみたいですよ。』


「なるほどね。…この世界のどこかで休んでて、数千年経ってるなら、誰かが見つけた、なんてことはないのかしら?」


『今のところは聞いたことも見たこともありませんね…。あぁ、ただ、一説にはすでに転生をして、人間として生まれ変わっては人として暮らしている、とも言われていますよ。』


するとエフィエルシーの顔色が悪くなる。


「どうしたの?!」


『あぁ、いえ、すみません…。ちょっと嫌なことを思い出してしまって…。』


まだ日が完全に落ちるには時間があるからと、少し休憩をするために木の根元に腰を下ろす。

すみません、と謝罪を口にしたエフィエルシーは息を吐いて疲れを逃した。

自力が溜まったから、というわけではないようだが、4色の下級妖精はピタッとエフィエルシーにくっついていた。


『本当にすみません…。』


「本当よ。体調不良を隠して他の人に迷惑をかける事以上に迷惑なことはないわ。」


『体調不良というか、深淵の扉を開いたことにより、我を取り込もうとする知識の巣窟に命を狙われたというか…。…あまり良い話ではないんですけど、聞いていただけますか?』


「聞いて誰かに悪影響を与えるのなら、聞きたくないわね。」


鋭く突き放すような智香子の言葉に、エフィエルシーはクスッと嬉しそうに笑う。


『大丈夫です。もう元気になりましたから。』

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