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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第4話:レッドフィールド家との出会い③

思わず叫んだ智香子に、カロラスとベネッタが不思議そうに首をかしげて「そうだ。」と言った。


「なんだお前、魔法も知らないのか?」


「いや、魔法って物語のものじゃないの?」


しーんと、空気が冷えた。

お互い、自身の”普通”が相手に通じていないことを感じているからだ。


「とにかく、座る。」


今だ立ったままのカロラスにベネッタが声をかけたことで、空気がほんの僅か暖かく感じた。


そして智香子を挟むように座った二人は、干し肉を歯で当たり前のようにかみ砕いて食べている。

その様子を呆然と見ていると、先ほどの話に戻される。


「魔法が物語のものって、どういうことだ。お前のいた国では魔法がなかったってことか?」


「ん~~~、国どころか、世界中どこに行っても魔法を使える人はいなかったわ。」


という智香子の言葉に二人は興味を持ったようで、質問攻めにあい、結局異世界から来たということを言わざるを得なかった。


「………………ということよ。」


ずっと喋ったことで疲労がたまった智香子と、智香子から聞いた”異世界”のことに興奮した二人。


「魔法がなくても動く馬車………。」


「立つだけで開く扉………。」


「すごい!」「すごいな!」


「はは………ありがとう………私が作ったわけじゃないけど…………。」


今もなお、智香子から聞いた話を二人で話し合っている。


それにしても、と智香子は思った。

異世界から来たと言っても信じてもらえないと思っていたのに、あっさり信じてもらえたな、と。


(不思議な感覚…………。)


また、ちょっと心配になりもした。

人の話を簡単に信じてしまう二人が、これから先騙されたりしないか。


すると意識がぼんやりとして、体がフワフワとする。


(ねむ………。)


瞼がゆっくりと落ちていく中、カロラスが思い出したように訊ねてきた。


「なぁ、いまさらなんだけど、名前ってなんていうんだ?」


沈みかけている意識をなんとか浮上させて、


「ち……か……………。」


彼女は眠りについた。



       *



スースーと静かな寝息が耳に入る。

カロラスとベネッタは、隣で眠る、少女に見える二十歳の智香子を見つめた。


「チカ………チカ、か。」


「可愛い名前。」


そう言って二人は、智香子の頭をなでる。

さらさらとした肩にかかる程度の黒髪に、肌触りの良い素肌。


ふと、思い出したようにカロラスがベネッタに言う。


「やっぱ、良い奴だな。チカは。俺たちが騙されないか心配してくれた。」


その言葉に、ベネッタは思わず口角を上げる。


「うん。チカの方が騙されやすい。」


めったに笑わない姉に、カロラスは驚き、そして似たように笑った。


「兄さん、帰って来るの遅れるって言ってたんだって?」


「執務がまだ終わらないって。明日………今日。の夕方には帰ってこれるって言ってた。」


「で、姉さんは遠征に行ってるからまだしばらくはかかる、と。なるほど。」


そこで二人は、同時にあくびをした。

ベネッタは思い出すように宙を見つめた。


「チカは、初めて会った時から変わってたね。」


思い出すのは、父と母が家に帰ってきた時のことだ。

その時は日常ではなかった。

なぜなら、二人は小さな眠る少女を腕に抱いていたからだ。


今までにも、捨て猫や捨て猪を拾っては育てることをしてきたが、人間を拾ってきたのは初めてだった。


その人間は変わった服を身にまとっているも、寝息を立てて眠りについており、警戒対象のはずなのに気がゆるんだ。

すると母が言った。


「カロラス、ベネッタ。今日から新しく我が家の一員になる子よ。」


「仲良くしてあげてね。」という母の声は聞こえていたが、その時の二人の耳には入っていなかった。

少女が涙を流したからだ。


慌てて父の腕の中にいた少女を自分たちが抱きかかえる。

そのまま自分たちが眠っているベットへ行き、少女を寝かせた。

そして部屋を退室しようとしたのだが、少女はベネッタの裾を離そうとせず、一緒に寝ることに。


カロラスよりもベネッタよりも身長の低い少女。

その軽さと柔らかさに、十にも満たないだろうと推測をする。


しばらくじっとしていると、少女が再び涙を流した。

シトシトと、布を濡らす涙に二人の体は自然と動き、カロラスは少女の体を包むように、ベネッタは少女の涙を己の胸で受け止めるように抱きしめた。


少女の体温は暖かく、二人はいつの間にか眠りについていた。



ベネッタは、ミルクを温めたモノをカロラスに手渡す。

喉に流すと体温がわずかに上昇して心地が良い。


「母さんを見た時の驚きようも面白かったよな。」


「ね。」


そして眠くなってきた二人は、少女―――智香子にくっつき、眠りにつく。


その時二人は思った。

これから先、眠るときは絶対チカと一緒に眠る、と。

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