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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第63話:可愛い物②

外に干しっぱなしの洗濯物があるということで、一度席を外しているユースティース。


智香子は席に座ったまま考えていた。

今の所わかっている入り口は一つ。

聞いたところ、国儀が行われるのは一ヶ月後。


一ヶ月。


『ねぇーねぇー』


そんなに待つことはできない。

他の入り口を探しに行かなければ。

ユースティースの協力は無理だと考えた方が良いだろう。

妖精たちも、きっと助けてはくれない。


『ねぇーねぇー』


だからと言って、ツテも何もない状況で無闇に動き回るのは得策ではない。

まずは情報収集から始める必要がある。

しかしユースティースから先ほど、「泊まる部屋がないんだよね。」と断られたばかりだ。

宿泊場所がないと、情報収集さえままならない。

となれば泊まる場所を探さなければならないのだが、すぐに見つかるとも思えない。

それなら野宿しか残っていないのか?


『ねぇーってばー』


「っ〜〜〜〜〜〜うるさいわよ!今考え事してるのがわからないのかしら?!なに!」


ずっと隣にいる下級妖精。

頬をペチペチと叩かれれば反応しない訳にはいかない。


智香子が振り向いたタイミングで飛び上がる。


『んー。やっぱりおかしいー。』


かと思えば、すぐに飛ぶのをやめて机の上に座った。


「おかしいって…何がおかしいのよ。」


『んー、えっとねー、なにかいやなかんじがするのー。変なかんじがするのー。でも、すきだなーだから、わからないのー。』


話している妖精本人もよくわかっていない。

智香子も何を伝えたいのか全く分からなかった。


「それは、この家の中で?」


頷く妖精。

解決になるか分からないが、取り敢えず外に出てみる。


『ちょっとらくになったきがするー!』と喜ぶ妖精を見ながら安心するとともに、智香子は疑問に思う。


妖精の国で妖精が嫌うものとはなんだ?

フワフワ飛ぶ妖精を見ながら考えを巡らせていたところ、「はっ!」とする。


(私か!)


彼らにとって魔力なしは魅力なし。つまりとんでもなく嫌いな存在。

長時間一緒にいる、もしくはくっついていると妖精たちに何かしら悪影響を及ぼしてしまうのかもしれない。


自分で考えていることに傷つく智香子。

可愛いものからなぜ距離を取らなければならないのか。

崩れ落ち、落ち込む智香子に気づいた妖精が、飛ぶのをやめて近づいてくる。

触れようとする直前に智香子は慌てて距離をとった。

不満気な顔になる妖精。


『なんで避けるの!』


「あなたの体調不良は恐らく私が原因よ。あまり近づきすぎるとまた体調が悪くなるかもしれないから、お互いに近づかないようにしたほうがいいわ。今まで気づかずに悪かったわね。」


そう言って距離を取る。

しかし。


『べつにへいき!いやなかんじしたらはなれればいいだけ!めいれいするな!』


引き下がることなく距離を詰められる。

慌てて智香子も距離をとる。


「そんな我儘言うんじゃないわよ!体調悪くなるなら近づかないのが一番良いっていうのは猿でも分かることよ!」


『いや!』


「なんでそんなに嫌がるのよ!さては嫌がらせ?!嫌がらせね!」


自分の健康を害してでも嫌いな相手を困らせようとするとは。

嫌な執念だ。

やがて近づきたい妖精と離れたい智香子の追いかけっこが始まった。


『なにしてるのー?』


1人と一匹の遣り取りに首を突っ込んできたのは妖精たちだ。

妖精から人間が逃げるという不思議な様子に疑問を抱いている。

やがて面白そうという理由で同じように智香子を追いかけ始める。


「なんで?!」


『面白そうだからー!』


いくら相手が下級妖精とはいえ、彼らには羽がある。

智香子は当然羽なんてものはないので空は飛べないし、休憩したとは言え、疲労も溜まっている。

しかし逃げなければ彼らに捕まり触れられ、彼らの体調が悪くなってしまうのだ。

結果、智香子は死に物狂いで逃げることになる。

その様子がより妖精たちの好奇心を刺激してしまう。

彼らは智香子の逃げる道に水溜りや火、蔦などを出現させては妨害をし始めたのだ。


「ふざけるんじゃないわよー!」


智香子が叫んだ直後、足元の蔦に智香子の足がかかる。

誰かが「あ」と呟いてから間もなく、智香子は顔から地面に倒れたのだった。

そういえばゲットル伯爵のところでも、妖精から絡まれた結果、顔から地面に着地したことがあった。

彼らに関わると顔からこける呪いにでも掛かっているのだろうか?


(そうだとしたら、とんでもない呪いね。)


呪いという物自体、あるかどうかは分からないが、良い物とは言えない。

むくりと体を起こした智香子。

振り返った姿を見て、妖精たちは青ざめた。


運が悪かったのか、智香子が突っ込んだのは妖精たちによって作られた水溜まり。

汚れた服、髪。

そして、怒りに染まる泥に塗れた顔。

先ほどよりも大きな声が響く。


「いい加減にしなさい!」


『『『きゃー!』』』


追いかける側と追いかけられる側が変わった瞬間である。


側から見れば楽しげな、しかし智香子からすれば本気の追いかけっこは、智香子の体力が尽きたことで終止符が打たれることになる。

ぜーはーと荒く呼吸を繰り返す智香子と、下級妖精たち。

数匹ユースティースに呼ばれた気がすると戻って行った。


今はユースティースの家から少し離れた川の近くに座っている。

キラキラと光る水面をみていると、心が穏やかな気持ちになっていく。

体力は戻らないけれど。


少しでも疲労を癒そうと足を水に入れる。

冷たいが火照った体には丁度いい。

川面を眺め、その水深が意外と深いことに驚く。

ダミアンたちであれば腰までだろうが、智香子が入ると余裕で頭まで浸かってしまいそうなほどあるように思う。

運動神経が2である智香子は、泳ぐことも苦手だった。

海に行っても川に行ってもプールに行っても、浮き輪とビート板は絶対に離さないことを常に徹底する。

それくらい苦手だった。

もし落ちたらどうしようと考えて、体をふるりと震わせる。

落ちなければいい話だ。


落ちなければ。


悪い想像を打ち消そうと別のことを考えたが、今考えることと言えば、どうやって妖精の国を出ることができるのか、だ。

無一文、宿なし、嫌悪対象。


「…どうしようかしら…。」


ポツリと呟いた言葉は、少し離れたところで水遊びをしている下級妖精たちには届かない。

風で水を浮かせて遊んだり、水を操ったりする姿は可愛い。


何も考えずに遊ぶ姿を見ていると、こんなに必死に考えている自分が嫌になる。


(って、考えてる自分が嫌になる。)


足を水につけたまま、後ろに倒れ込む。


宿泊場所は定まらない。なら、できるか分からないけど野宿をするしかないだろう。

帰宅するための情報収集は、妖精から嫌われているから難しい。なら、近くに来てくれる妖精からでも、ユースティースのように連れてこられた人からでも、聞き出すしかない。


地味で地道な作業。


それは、智香子の得意分野だ。


「よし!」


勢いをつけて体を起こす。

突然の大声に下級妖精たちが何事かと驚いている。

その様子には気付かず、智香子は意気込む。


ここでうじうじしていても仕方がない。


(とにかく動かないと!)


虫は得意じゃないし、獣が出ても運動神経なんてあってないような物だから、戦うことも逃げることもできないだろうけど。妖精から嫌われているし、なんなら普通の人間にも好かれないけど。


体の疲労は大分癒えたのでユースティースのところに戻ろうとする智香子。

まずは他の人間のことを聞いて、次に妖精の好きな物でも聞こうかなと考えていた。


バシャッバシャッ


「あなたたち!ユースティースさんのところに帰るわよ!」


『『はーい!』』


「…やけに素直ね…。ユースティースさん効果かしら…。…怖っ…。」


妖精たちが川から離れ、我先にとユースティースの元へ向かう。

智香子はそれを見ながら動き始めたのだが。


バシャッバシャッ


まだ聞こえる水飛沫の音。


ユースティース効果で動かない妖精がいるのか、と振り返っても、いたのは風の下級妖精だけだ。

どうしたの?と言うように首を傾げる妖精を前に可愛いと思うが、では聞こえてくる水飛沫は一体誰が?

水辺を見ても、妖精たちの姿はない。


バシャッバシャッ


まさか自分にしか聞こえない音だったりするのだろうかと下級妖精に聞いてみると、『聞こえるよー』と言うではないか。

幻聴ではないことが分かった。

しかし姿が見えないのに音は聞こえる。

この状況に背筋がゾッとした。

すると水飛沫以外の音が聞こえた。


『…か、けて…』


頭の中に響くような、そう、妖精たちの話し声と同じ。


バシャッバシャッ


やがて水飛沫を上げながら、その音の出所が現れる。


『だ、れか!っ、ぷはっ!た、助けて、ください!だれか!』


川に流されて現れたのは、妖精。

茶色の髪と緑色の服を纏っている。

智香子と同じような大きさの妖精である。

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