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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第58話:余白と会話②

すみません!付け足すの忘れて投稿してました!

後半に2000字ほど付け足しています!

カロラスとベネッタは家に帰った。

ほっとした顔で迎えてくれた父と母、兄に礼を言い、ベネッタから風呂に入る。

次いでカロラスが風呂から上がった時には、ダミアンとベネッタは城に向かった後だった。

詳しいことは聞かなかったが、ゲットル伯爵や他の貴族たちのことだとすぐに分かった。


「今日はもう寝なさ~い。まだ不十分よ~。」


アリシスから体の状態について言われてしまうと、逆らうことはできない。

心配をかけたくないというのもある。

おやすみ、と告げて二階に上がった。

自分の部屋に行こうとしたが、何となく智香子の顔が見たくなって、カロラスは智香子の部屋の扉を開けた。


寝室のベッドの上。

寝相が良い智香子は、寝たときと起きたときの位置が変わらない。

ベッドの脇に腰かけると、寝ていたはずの智香子が目を覚ます。


「カロ、ラス…?どうかした…?」


瞬きを繰り返し、眠そうに頭を揺らす智香子。

寝ぼけているらしい。

珍しい智香子の姿に顔が緩む。


「チカの顔を見に来た。」


なるほど、と頷いた智香子はカロラスから距離を取った。

そうして今まで自分が寝ていた場所の毛布を持ち上げて、「はい。」とカロラスを招く。

一緒に寝るつもりはなかったカロラス。

伯爵領地に行っていたときは別だが、ベネッタがいないときに寝るのは、なんだかズルをしている気分になる。


(まぁ、チカから誘われたし。断ったらダメだろ。)


この気持ち、わかるよな、オレの片割れ。

頭の中のベネッタが頷いたので良しとする。

智香子の隣に潜り込む。

布団に残る智香子の体温が心地よい。これならすぐ眠れそうだ。


「!」


気を抜いていたところで、智香子から頭を撫でられる。

まだ寝ぼけているのか、にっこにこの智香子がいた。

とろけるような笑顔。

何事かと固まるカロラスには気づかず、智香子はサラサラと指通りの良い金髪を撫で続ける。


「カロラスは、すごいわ、うん。責任感は、あるし。努力も、するし。優しさを、持ってるし。それに、こんなに可愛いし。」


「そ、れは、あんまり嬉しくない。」


可愛い、可愛い。頭を揺らしながら、ほぼ目を閉じて繰り返す。

「はっ!」と意識を取り戻して目を開けるが、すぐににっこにこの智香子に戻った。


(なんだこの状況。)


いまだ固まったままのカロラス。

しかし、にっこにこだったはずの智香子の顔が、なぜかズーンと暗くなっているではないか。

何事かと慌てるカロラスに、智香子はぽつぽつと話し出した。


「私、昔父さんと母さんに泣いちゃダメって言われたの。泣いたら、目が溶けちゃうからって言われたわ。本当だとは思ってないけど、子供のころの思い込みが残ってるのか、今でも目が溶けるから泣いちゃダメ!って思っちゃうの。でも泣かない方が良いわ。泣いても、誰かに迷惑をかけてしまうもの…。それなのに…それなのに、私、こっちの世界に来てから、ずっと泣いてばっかり!駄目じゃないの、私!」


架空の自分に怒り始める智香子。

カロラスが驚いている間に、架空の自分に向けてエアーボクシングを始めている。


「ぉお落ち着け!チカ!」


抑え込むように抱き着く。

そのまま体を倒して寝かせ、布団を上からかけて、あやすように腹のあたりをポンポン叩く。


「うぅ…情けない…自分が情けないわ…」


嘆く智香子を励まそうとカロラスは「そんなことない!」と言い続けた。


「チカは全然情けなくなんかない!自信持て!な!」


「うん…。」


良かった。

このままもう一度エアーボクシングされたらどうしようと思ってたから、良かった。

頷いてくれて本当に良かった。

しかし目の前にいるのは寝ぼけている二十歳児。ほぼ幼い子供と一緒だ。

今は落ち着いているが、突然何をするかわからない。

緊張感を持つカロラス。

するとぼんやりとしていた智香子が口をひらいた。


「ありがとう、カロラス。」


キラキラと眩しい笑顔。

そうだ。例えるならば海面から顔を出した太陽の光、雲から零れ落ち降り注ぐ一筋の光。

見る者の悪いナニかを浄化してしまうような、そんな笑顔。

不意打ちからの突然の光に一瞬息が止まっていたカロラス。


(やっぱり二十歳児は何するかわからないんだな~。)


ではない。

なんだ今の。


「は、え、あ、いや、オレ、オレはチカが泣いても迷惑だなんて思わないっていうか、チカを見せてもらえる感じするから、嬉しいっていうか、そう、お礼言われる必要はない、んだ、け、ど…」


止まっていた間の時間を取り戻すかのように話していたカロラス。

横から音がすると思ってみてみると、智香子が寝息を立てていた。

自分のこんな慌てた姿を見られなくて良かったと思うべきか。

よくわからない気持ちになったが、まぁいいかと智香子を抱きしめる。


「一緒に来てくれて、ありがとう。チカ。」


カロラスが目を閉じた数秒後。

部屋から二つの寝息が聞こえてきた。







翌朝。

時計を見て、いつもよりも遅く起きてしまったと気づいた智香子。

なぜカロラスに抱きしめられながら寝ているのかは分からないが、手伝いをしないわけにはいかない。

カロラスを起こさないようにベッドから抜け出し、下の階に降りる。


「あら~おはよう~。ぐっすり眠れたみたいね~。」


「おはよう…」


智香子の前に来て目線を合わせ、アリシスは頷いた。


「うん、元気になってよかったわ~。」


扉からクリストフが現れる。


「おや、目を覚ましたのか。おはよう。」


「おはよう、クリストフさん、アリシスさん。」


彼らの服装は作業着。

既に朝ご飯は取り終わっているようだ。

作業着を着ているということは、皿洗いから部屋の片づけまで、大方終わってしまっている証拠だ。

確かに今は9時半すぎ。

普段なら終わっている時間だった。


「心配はいらない。今日はゆっくりと休みなさい。」


何かできることはないか、と訪ねようとしていたが、先手を打たれてしまう。

しかし、と渋る智香子。


「テーブルの上に朝ご飯、置いてるわ~。お腹が空いてるようだし、カロラスも起こして食べててくれる~?」


アリシスから出された、朝食、という仕事。


「ふん、こんな朝から体を動かして、暇なのかしら。他人の体調を気に掛けるよりも、自分の体調を気にかけなさいよ。」


降りてきたばかりの階段に足を向ける。

優しく笑う二人を振り返った。


「怪我して帰ってくるなんてみっともないことはしないことね。…さっさと行ってきなさい。」


「あぁ、行ってくる。」


「行ってきま~す!」


見送り、カロラスを起こしに上の階へ向かった。


今日の料理担当はアリシスであったが、机に置かれていた料理は智香子とカロラスが顔を洗ってきても湯気が立ち続けていた。

保存魔法の応用である。

魔法って便利だ、と思いながら、美味しい朝ご飯に感謝する。


「この家の人間は皆料理が上手なのに、どうしてそれが当たり前のような顔をするのかしら。」


「そうか?普通だぞ。チカの料理とそう変わらないだろ。」


料理当番は交代制で、担当になった者が作り、皿を洗う。

何かしら事情があったら、誰かが代わる。

手伝いするのは自由だ。


「何が普通よ。全然違うじゃない。」


智香子が作る料理は、一人暮らし歴約2年の腕前程度。

実家にいたときにそれなりに手伝いはしていたが、大したことはしていない。

好きな作業は、ハンバーグのタネの空気抜きと、小麦粉→卵→パン粉の順に肉だったり魚だったりを付けていくものだったが、それは今どうでも良いことだ。


つまり平凡。


対してレッドフィールド家の腕前は、どこぞの一流料亭のように凝った作りにしたり、平凡な見た目かと思いきや、実は手間暇が凄くかけられたり。

元の世界なら、いや、この世界でも十分料理人として名を馳せるレベルである。


「ん~、チカが美味しそうに食べるから、ってのもあると思うぞ。皆作り甲斐があるって言ってた。」


「私が美味しそうに食べるからって、あんな手間暇かける人間いるわけないじゃない。いるならとんだ物好きよ。」


すぐ人の言葉を信じてしまうカロラスが心配だと思う智香子。を呆れたように見るカロラス。


「ま、いいや。チカの料理は美味しいからな。特にハンバーグが好きだ。」


「あら、分かってるわね、カロラス。私もハンバーグが一番好きなの。」


その後も和やかに食事は続く、かと思われた。


「あ」


カロラスが何かを思い出す。

ちょうど汁物を食べていた智香子は何だと横を見て、すごい勢いで頭を下げたカロラスに驚いた。


「?!ちょ、なに?!」


顔をあげさせると、目を泳がせるカロラス。


「ご、ごめん。実はチカに謝りたいことがあって…。オレ、魔力が安定しないのも遅かったけど、その影響で身長も周りより伸びなくて…。オレよりずっと年上なのに、子供みたいな見た目のチカを見て、見下して、ほっとしてた…ごめん!!」


もう一度頭を下げる。


静寂。


鳥のさえずりが聞こえてくるほどの、静寂。

しかし分かる。これは、噴火前の静けさだ。


叫ばれるくらいなんだ!それくらい別に構わない!後々バレて、チカに嫌われるよりも良い!と思っていた。しかし今はその喧騒が逆に欲しい。いや怒られるのは普通に嫌だけど。


耐えられなくなったカロラスはゆっくり顔をあげる。


「っ!」


ゴゴゴゴ……。

智香子の背に噴火寸前の火山が見える。

それほどの怒りを込めて、智香子がこちらを見ていた。


「カ~ロ~ラ~ス~…」


智香子の手にあった汁物の皿がトンッと机に置かれる。


「ひぃ!!」


「貴方にだって、事情があるのは分かるわ…悩んだこともわかるわ…。でもねぇ、私に打ち上げたところで、傷つくのは私よ…。貴方がすっきりするために、私を傷つけるんじゃないわよ…。なんならそういうのは、本人にバレないように墓まで持って行くものなのよっ…!」


「は、はいっ……。」


物凄い形相の智香子に気圧されてしまう。

昨晩見た、天からの使いのような笑顔は一体どこへ行ったのか。

まるで地獄の使者のようだ。


「ぅ、でも、チカに隠し事、したくなかったし…。」


申し訳なさそうにしながらも、上目遣いで智香子を見上げるカロラス。

美少年のあざとい行為に、ぐっと喉を詰まらせる智香子。


(か、かわいい…!!)


思わず赤面してしまうほど可愛い。

こんなに可愛いと、ついつい許してしまいそうになるじゃないか。

まぁ本人も、こうして反省しているわけなのだから、別にそこまで怒らなくても良いのかもしれない。


「えっ、本当?」


「ん?」


「あ」


気が緩んだのか、笑顔になってしまったカロラスは慌てて上目遣いを再開するが、もう遅い。

何が「本当?」なのだろうか。

智香子は分からなかったが、カロラスがそこまで反省していないということは分かる。


後ろに恐ろしい化け物を従えて、やがて火山は噴火する。


「見下すな~~~~!!」


「ごめんなさい~!!」


クリストフとアリシスが帰ってくるまで、皿洗いなどの家事や勉強と並行して、智香子はカロラスを説教し続けたのだった。

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