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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第51話:石は割れて

少し書き加えました!2023/7/18

ぼんやりとしたカロラス。

目を覚ましたのは良かったが、まだ意識がはっきりとしないようだ。


「カロラス!」


それでも嬉しい智香子は走り寄ろうとしたところで、自分が動けないことを再度確認することになる。


「っ、うっとうしいわね!放しなさいよ!」


力の限り動こうともがいてみるが意味はなく、無駄に体力を消耗するだけとなった。

傍から見れば妙な踊りをしているようにしか見えない智香子を尻目に、上級妖精は『な、なぜだ?!』と驚きの声を上げていた。


『我の許可なく解けるはずがないのに、なぜ…!』


対してカロラスは智香子の声と彼女の姿にようやく意識がはっきりしたようで、「え、何この状況?!」と上級妖精同様驚いていた。


「オレ、確か、ゲットル伯爵のところで妖精たちと話してて、で…あれ、なんだっけ?」


その間に落ち着きを取り戻した上級妖精はカロラスの近くまで飛んで行く。


『貴族どもがカロラスを傷つけたので我らが保護したのだ。』


「保護…?」


視えるカロラスは上級妖精の言葉に嘘はないことが分かるが、ではなぜ目の前で智香子は何かから抜け出そうと暴れているのだろうか。

遠すぎるからか、それとも自分を覆っているこの透明な球体のせいなのか、カロラスは智香子を視ても理由が分からない。


「チカ、何してるんだ?」


「カロラ――――――――――」


何かを訴えるように口を開いた智香子だったが、突如彼女から音が消えた。

智香子が上級妖精を睨み付けたことで理由が分かったため、カロラスは訪ねた。


「なんでこんなことをするんだ?」


『こんなこととはなんだ?』


「チカの声をなんで奪うんだ!」


『あぁそのことか。会話のできない者の声など不必要だからだ。』


上級妖精は、親和性の高い者や魔力の多いものが願えば何でも叶えてくれる下級妖精たちとは違う。彼らは理性を持っており、その上で行動する。

上級妖精は『他に聞きたいことはないのか?』と逆にカロラスに訪ねた。

願っても意味がないと分かっているカロラスは、取り合えず現状を理解することにした。


「…貴族たちは今、どうなっているんだ?」


『気絶している。』


「他の妖精たちは、どうしているんだ?」


『我らを待っている。』


「…なんで待っているんだ?」


その可愛らしい微笑みは見慣れているものなのに、なぜか心がざわつく。


『カロラスを我らの国に連れていくためだ。』


直後、上空を思わせる空間は消えて周囲は再び暗闇に包まれ、その中にワープホールが現れた。

転移魔方陣しか見たことがない智香子だったが、上級妖精の言葉から何となく理解していた。

だから暴れるが、自分を拘束する何かは力を強めて智香子を動けなくする。


ワープホールの奥に見えるのは美しい景色。カロラスの周りに一切光がないからこそ、その美しさは際立つ。

カロラスは驚きに言葉を失っていた。

こんなに大きなワープホールを見たことないからだ。

遠方の物資を運ぶときくらいしか使われないワープホールは、その形を維持する魔力量もさながら、形を綺麗に保つ繊細さが問われる。

兄のダミアンのような人間であれば作り出せるかもしれないが、そもそも彼らは普通じゃない。

使う魔法の仕組みが違うとはいえ、それでも上級妖精では、この大きさも形を維持することも不可能なはず。


カロラスの感情を読み取った上級妖精は楽し気に笑う。


『驚いただろう。カロラスが考えている通り、これは我一人の力ではない。あるお方から力を貸していただいている。』


「あるお方…」


『我らのカロラスへの想いを、それはそれは重く受け止めてくれてな。我らの力になりたいと“欠片”をワープホールに使うよう勧めてくださったのだ。だがあのお方の力をもってしても、そう長くは続かない。さ、早く行こう。』


上級妖精がカロラスに手を伸ばすよりも前に、カロラスは拳を握り締めて、自分を覆う膜を攻撃する。想像以上に固く、殴るとガンッっと音が鳴った。


『な、なぜだカルロス!やめろ!』


だがカルロスは攻撃の手を緩めない。

それどころか、膜に入った傷の浅さを見て一層威力を強くする。


「俺は、帰らないといけないんだ!約束したんだ!」


約束の言葉に上級妖精は首を傾げる。

しかしそこで、強い力に引き付けられるように上級妖精は振り返った。

そこいたのは、ずっと動けず話せないはずなのに、未だ諦めず解決策を考える智香子。

強い意志を持つ目に、上級妖精は底知れぬ何かを感じた。


たかが人間ごときに怯えているのか。


そんなはずはない!と上級妖精はカロラスの元へ行く。


『やめるんだ、カロラス!なぜ拒む!約束は誓約ではない!破ったとしても罰は降りかからぬ!』


「そういう話じゃない!俺が守りたいんだ!」


これでは聞く耳を持たない。

そう判断した上級妖精は口を開く。


『我らの国は素晴らしいものであふれている。醜いものなど何もない。苦しいことも辛いこともない。カロラス、お前を“人殺し”だと責め立てる人間もいない。』


その言葉にカロラスの顔が強張り、攻撃の手が止まる。

だが上級妖精は言葉を止めない。


『無能だと、不出来だと、蔑む輩など誰一人としていない。皆そなたを大切に思い、そして宝のように扱う。過去のことが頭を回り、夢に出ては現実でないことに息を吐き、しかし同じことを繰り返すかもしれないと恐れる日々を送っているのだろう?可哀そうに。』


上級妖精の声を聞いている内に、カロラスは誰かの声が聞こえた。


『使えない皇子、人殺し』


それはあの時の少年たちの声だ。


「ち、違うんだ…俺は殺してない…俺は殺してない…」


眼前に現れたのはあの日のミゲル。


「カロラス様がぼくをころした。」


「殺してない!俺は、俺はお前を助けようって、」


「じゃぁなんで、ぼくはここにいるの?」


カロラスがいたのはあの日の秘密部屋。

その窓から下を見ると、動かなくなったミゲルの姿。

彼はその姿で口だけを動かしてもう一度訪ねた。


「ねぇ、なんで?」


「あぁああああああああああああああ!!!!!!!」


蹲り泣き叫ぶカロラスを前に、智香子は自分の不甲斐無さに腹が立っていた。


なんでカロラスが苦しんでいるのを前に、動けないのか。

なんでカロラスが助けを必要としているのを前に、声さえ出せないのか。


カロラス!カロラス!


やがて小さな声しか出せなくなったカロラスに、上級妖精は透明な球体を消してその手を伸ばした。


『我らの国は素晴らしいものであふれている。美しいものであふれている。一緒に行こう、カロラス。』


それがいいのかもしれない、とカロラスは思った。

このまま妖精の国に行けば、これまでのことを考え震えることも、これからのことに不安を抱くことも、家族に対して申し訳ないと思うこともなくなるかもしれない。

それが自分にとって最も良いことなのかもしれない。


自分の頬に添えられた手に触れ、カロラスは顔を上げる。

涙で視界がぼやけていたため、彼は一度瞬きをした。


はっきりとした視界で見えたのは、微笑みを浮かべる上級妖精のその先にいる智香子。

智香子は声に出ない声で、叫んでいた。


カロラス!カロラス!できるから!絶対できるから!カロラスならできるから!無能なんかじゃない!カロラスは無能なんかじゃない!すっごくすごいのよ!可愛いのよ!かっこいいのよ!なんでもできるのよ!カロラス!あーもーなんなのよ!なんで声でないのよ!動けないのよ!カロラス!カロラス!まだ何もできてないわ!カロラスと何もできてないのよ!連れて行かせるものか!ガトーの無事だって確認したいし、というかやることたくさんあるし!カロラス連れて行ったらただじゃ置かないわよ!絶対迎えに行くんだから!連れて行けるもんなら連れて行ってみなさいよ!カロラス!カロラス!



一緒に帰るんでしょ!!




―――「―ラス。約束。どこに行っても、戻ってくるって。守ってね。―」―――




「オレは、ばかだ。」


『カロラス?』


ぽつりとつぶやいたカロラスは、再び俯いた彼を不安そうに見る上級妖精を前に、はぁー…と息を吐いた。落胆を滲ませた息は、自分自身へ向けたものだ。


(何やってるんだ、俺は。)


あの夜、智香子に話した、昔のこと。

”花の聖祭”で魔力暴走したから。だから魔法を使わない。

ミゲルを傷つけたから。だから妖精の力に頼らない。

全て、誰かを再び傷つけるのが怖いから。


違う。そんなんじゃない。


逃げているだけだ。


魔力が安定した時ほっとした。けど、それ以上に、今まで魔法を使わないでいられる大義名分がなくなったことが嫌だった。

妖精の力に頼らないと決めた時は重荷が下りた気がした。高い妖精親和性と魔力は分かっていた。だから小さい頃から妖精言語を勉強していたし。その分周囲からの期待はすごく、より妖精と親密になれるよう双方の架け橋となることを求められていた。


理解した瞬間、最低だと思った。

姉のベネッタは自分の運命を理解しながら、長く生きられるように努力しているというのに。


(楽な方にすぐ行こうとして情けない。それをチカに助けてもらうとか、ますます情けない。約束も破ろうとするし。恥ずかしい。家族に知られたら、しばらく家出したい。いや、絶対ばれる。オレが隠せてもチカからばれる。)


「じゃぁ、家出必須か。」


その時はチカを一緒に連れて行こう。

多分ベネッタも、気持ちを汲み取ってついてくるはずだから、三人で、あの小屋で、一晩また過ごそう。


しかし、今まで使わずにいた魔法を使うのは、やはり怖い。

失敗したら、また、誰かを傷つけてしまう。

ここには頼りになる家族もいないのに、暴走して誰が自分を止めてくれるのか。


(ん?)


頼りになる家族もいない?

ふと前を見て、この空間にいるのは上級妖精と智香子、そしてカロラスだけだと気づいた。


(…なんだ、そこまで気にしなくていいじゃん。)


カロラスはそう考えるとワクワクしてきて、笑みを浮かべていた。

怪訝に思った直後、上級妖精の反応は早い。

カロラスから素早く身を引いた上級妖精は、すぐさまカロラスの周りに透明な球体――外からと中からの攻撃を防ぐ防御壁の一種――を再度展開する。


球体の中ではカロラスが攻撃魔法を使った証拠に、球体に傷がついていた。

だがカロラスは止まらない。

次々と高威力の魔法を球体にぶつけていく。


対して上級妖精は、今までの魔法行使により疲労が溜まっている。加えて、初めの防御壁に比べて今の防御壁は、製作時間や熟練度があまりにも少なすぎる。

今はあの方から頂いた“欠片“で無理やり強度を上げている状態だが、いつ壊れてもおかしくない。

またこの防御壁である透明な球体は、本来罪人を捕らえることを目的としている。

法で裁かれる前に殺されないように外から守り、逃げ出さないように内を閉じ込める。

罪人向けであるため、内側から攻撃をした場合、少しだがダメージを与える仕組みになっている。

死なれては困るが、逃げ出そうとした罰も与えなければと、ジワジワ傷や痛みが大きくなっていく仕組みだ。


それを証明するように、カロラスの体にはどんどん大きな傷が増えていく。


『やめろ!カロラス!やめるんだ!』


だがカロラスはやめない。

十分すぎる魔力量が凄い勢いで減っていくのが感覚で分かるが、それでも強力な魔法でなければこの球体が破壊できない。

傷で、痛みで、魔力不足で、めまいがしてくるがカロラスはやめない。


やがて球体にヒビが入る。

それはどんどん大きくなり、球体は弾けた。


出られたことに喜びたかったが、カロラスの体は傾いていく。


倒れる寸でのところでカロラスを抱きとめたのは智香子だった。

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