第46話:魔力の魅力
先ほどの“使えない皇子”とは比べ物にもならない“人殺し”という言葉。
考え込んでいた智香子もぎょっとしてその子供を見た。
周りの大人たちも驚いたようにその子供を見ている。
つまり今までとは違い、彼の発言は禁句に該当するもののようだ。
しかし子供たちは気づいていないのか。
笑っていたカロラスが硬直して動かなくなったのを見て自分たちの優位を感じ、さらに言葉を募る。
「貴方が精霊の力を使って高い場所から突き落したミゲル・フレミング。覚えてますよね?」
「一昨年のことですよ、覚えてないわけがない。」
「自分の思い通りにならない彼に怒った貴方は精霊の力を頼りに彼を消そうとした!」
「なんて横暴なんでしょう!」
途端カロラスの態度が変わる。
ガクガクと体が震えだし、ブツブツと何かを呟きだした。
「俺の、俺のせいじゃない!!」
ようやく智香子にその言葉が聞こえたとき、カロラスは頭を抱えて蹲ってしまう。
「お前たち!何を言っているんだ!!」
大人たちが子供たちの言葉を止めようと声を荒げる。
ようやく自分たちの行動が駄目だと気づいた子供たちの顔は焦っていた。
「な、でも、お父様だって、こいつを傷つけろって…」
「ば、馬鹿者!!私はそのようなことを口にしたことなどない!!」
青ざめる子供と怒りに顔を赤くする親。
しかし親の顔が青くなる出来事が起こった。
今まで微風だったその場に、明確に風が吹き始めたのだ。
「チカコ!」
「?!」
一体何が起きたのか。
突風が吹き荒れ、飛ばされそうになった智香子を抱き込んだガトーが身を挺して守ってくれたようだった。しかしガトーも支えきれず、飛ばされて近くにあった門に背中をぶつけてしまう。
「っ……。」
「ガトー!ガトー!」
「ガトー様!」
同方向に飛ばされていた騎士は無事だったようだ。
駆けつけた彼と二人でガトーを少し離れた場所へ連れて行く。
血は出ていないが、背中にくっきりと跡が残るほど強く打ち付けている。
骨が折れているかまでは分からず下手に動かすとまずいため、とりあえず地面に仰向けに寝かせた智香子は「ガトーをお願いするわね。」と騎士に託す。
「いけま、せ、チ、カコ…」
絞り出されたガトーの声にぎゅっと手を握りしめる。
ガトーや騎士が飛ばされたのに智香子が相対してもできることはないに等しい。
「私が無力なのは分かっているの。でもね、それはカロラスを助けに行かない理由にはならないわ。」
ガトーの乱れた前髪を整え、智香子は笑って見せた。
「いらない心配してないで、貴方はさっさと背中の傷を治しなさい。じゃなきゃ、助けられた私が責任を負わないといけないでしょ?」
驚き、笑おうとして痛みに顔を歪めたガトー。
「なる、ほど…。貴方に余生を任せるのも悪く、ないですね…。」
「冗談じゃないわ。」
「は、ははっ……。承知いたし、ま、っした…。カロラス様を、お願い、いたします…。」
「当り前よ。」
足が向かう先は会場の中心。
ビュンビュンと吹き荒れていた風は少し落ち着き、しかし代わりに雨が降り始める。
また会場内にいる貴族たちは、意思を持ったかのような植物の蔓に捕まり宙に浮いていた。
誰かが魔法でも使っていない限り、あり得ない状況。
では使っている人物を突き止めて魔法を使えなくしてしまえば良い。
ぐるりと会場を見渡すが、多くの貴族は蔓に捕まっているか、先ほどの風に飛ばされて意識を失っているかの二択だ。
そこで智香子はカロラスを見る。
蹲り頭を抱えるカロラスの、周り。
その場所だけは、雨も、風も、何もない。
「カロラス……?」
カロラスが勇気を出して話してくれたことを思い出す。
(もしかしてカロラスの魔力が暴走してる?)
ならば体を張ってでも止めなければならない。
これ以上自分を責め続ける記憶を残したくない。
カロラスの元へ走り出した智香子だったが、また風が吹き、それ以上前に進めなくされる。
「っ、カロラス!聞こえる?!カロラス!」
かろうじて目を開けて彼を見るものの、こちらの声が聞こえていないらしい。
まだブツブツと何かを呟いている。
カロラスの意識をこちらに向けなければ、この魔力暴走によって起こった風が消えることはない。
しかしどうすればカロラスに声が届くのかも分からない。
一歩下がってまた別方向から近づこうとしても風に遮られてしまう。
カロラスから円形に風の壁ができているようだ。
行き詰まった智香子。
無理にでも前に進むしかないのか、と思ったその時。
クスクスクス……
「?!」
どこからか笑い声が聞こえた。
可愛らしい子供のような声。
周囲を見てみるが、目ぼしい人物は見当たらない。
「誰なの!こそこそと隠れてないで、出てきなさい!」
クスクスクスクス……
『なにいってるのかな、あのにんげん』
『わたしたちはかくれてないのにね』
『みつけられないなんてかわいそう』
クスクスクスクス……
(隠れてない…?)
馬鹿にするような感じだということはとりあえず置いておき、隠れてないとはどういうことだろうか。
智香子にただ見えていないだけ、ならば幽霊とかそういった類だろう。
しかしそうではなく、普通に見えるのなら。
智香子は先ほどから周囲しか確認していない。
探していないとすれば、上と下だけだ。
バッと上を見上げてみる。
「!」
そこには、ニコニコと笑う妖精たちがいた。
のだが、なによりも智香子には気になることがある。
「多くない?」
ざっと30はいるように見える。
集合物恐怖症の人とかには、ちょっと嫌だなって思われそうな程度だ。
自分の思うがままに宙を舞い笑っている彼らは自由気ままという言葉がとても似合っている。
しかしなぜだろう。
妙な違和感を感じてしまう。
智香子はその違和感を今気にすることではないと頭の隅に追いやった。
再度見上げた先、クスクスと笑う妖精たち。
彼らに話を聞く必要がある。
「貴方たちが何でこんなところにいるのかは知らないけど、なんでこんな現象が起きているのか知らないかしら?」
カロラスの魔力暴走か、それともただの自然現象か。
妖精親和性が高いカロラスを妖精たちはきっと大切に思っているはず。
彼が苦しむような状況にいて、何もせずに黙ってみているだけなんてないだろう。
せめてこの現象のヒントさえ分かれば、対処しようがあるのだが。
つらつらと考えながら妖精たちの答えを待つ智香子。
しかし妖精たちは一瞬智香子の言葉に目を開いたが、次の瞬間には笑い出した。
「?!」
驚く智香子の耳に幼い声が響く。
『おかしいにんげん!きづいてないんだ!』
『あたまがわるい!』
『ばーかばーか』
『だれがおまえにおしえるか!』
『じぶんでかんがえろ!』
『ぼくらがやってるってきづけないにんげんにおしえるわけない!』
『ばーかばーか』
もろもろは再度置いておき、一つ言いたいことがある。
「めっちゃ嫌われてるじゃないの!なんで?!」
何もしていないのに、この嫌われ様。
知らない間に彼らにここまで嫌われるようなことをしてしまったのだろうか、と思った智香子だったが、答えてくれたのは妖精たちだった。
『まりょくなしはみりょくなし!』
魔力なしは魅力なし。
つまり魔力がないものには一切心惹かれないということで、魔力が全くない智香子は彼らにとって嫌悪するような対象ということになる。
悪いことなどしていないのに、ただただ魔力がないというだけでここまで嫌われると分かった智香子は、腹を立てていた。
「魔力なしだからって魅力がないって決めつけるのは理不尽じゃないの!私にだって魅力になる要素が一つや二つあるはずよ!」
『なにもおかしくない!まりょくがないはみりょくない!』
「人間の魅力は魔力だけじゃないのよ!性格とか容姿とか、色々あるわ!」
『そんなのみりょくじゃない!まりょくないにんげんはきらい!』
「はぁ?!」
この場にもしダミアンがいたならば、「そうだね、君の魅力はたくさんあるよ」と腹を抱えて笑っていたことだろう。
妖精たちとの言い争いに息を切らしていた智香子は、ふと思い出した。
「っていうか、この現象起こしてるの貴方たちだったのね!」
聞き逃していないぞ、と妖精たちを見てみると、彼らはマズイという表情をした後、だれが言ったのかの犯人捜しをし始めた。
徐々に擦り付け合いになりそうだったので、「そこは別にいいのよ!」と智香子は叫ぶ。
「事の元が分かったのなら話は早いわ。雨とか蔓とかはいいから、ひとまずこの風をどうにかしてくれないかしら。カロラスと話さなければならないのよ。」
カロラスを囲む風の壁を指しながら言う。
だが妖精が聞き入れるはずがなかった。
『いや!』
「なんでよ!」
『いやなものはいや!』
「理由になってないわ!」
妖精はその後、智香子が何を言っても『いやだ』と拒絶を示すばかり。
甘く見ていた、と智香子は思う。
(私のことが魔力なしだから嫌いなら、そりゃ命令にも聞こえるお願いなんか聞きたくはないわよね…。)
しかし智香子も引くことなどできない。
「なら、せめてなんでこんなことをするのか、理由だけでも教えてくれないかしら」
理由がわかれば、そして解消できるようなものなら、このどうしようもない押し問答するよりもずっと良い。
嫌い嫌いという彼らが素直に智香子に話すかどうか不安ではあるが、先ほどと同じようにぽろっと言ってしまうこともあるかもしれない。
そう期待していた智香子は妖精たちを見て驚く。
はっきりとわかるほど、彼らが怒っていたからだ。




