第45話:重い石④
本当にすみません!遅くなりましたが投稿いたします!
よろしくお願いします!
揺れる馬車の中で、智香子は次第に不安になってきた。
領主の城とかカロラスを傷つける人間の溜まり場ではないか。
なんとか理由をつけて帰りたい。怪我したとか言って帰りたい。
するとカロラスが智香子の手を握る。
顔はこちらを向いていないものの、なんだか自分の考えを見透かされたように「駄目」と言われた気がした。
ただ膝の上で握りしめられた右の拳をじっと見つめる姿は、痛々しく感じられる。
しかしカロラスが決めたことだから仕方ない。
なにより領主の城さえ終われば帰れる。
なるべく前向きに考えながら、智香子はカロラスの手を握り返し窓の外を見る。
自分にできる精一杯のことをやるしかない。
馬車が止まり御者が扉を開けた先にあるのは領主の城。
出迎えた老執事はきれいに頭を下げた。
「皆さまお待ちしておりました。領主様のもとへご案内させていただきます。」
てっきり連れていかれるのは城だと思っていたが、老執事が向かうのは外。
こちらの疑問を感じ取ったのか、彼は申し訳なさそうに答えた。
「領主様が貴族の方々をお集めになり、領内の無事が確認されたことを祝したガーデンパーティを催しているのでございます。」
目的地に近づいてきているのか騒がしい音が聞こえ始める。
きれいに咲いた花々を抜けた先に開かれたパーティ。
領主や貴族たちは互いの近況報告などを自慢げに話し、ご婦人方は扇を口元にあてて楽しく談笑、子供たちは元気に走り回る。
だが彼らが身に着けている衣服は智香子からすれば異常にギラギラとド派手なものであった。どでかい宝石、目につきすぎる色、フリフリのフリル。まるで自分の財力を主張しているようだ。
(目が痛い。)
もしやこれがこちらの世界の普通のドレスなのかもしれないと飲み込もうとしたが、隣にいるカロラスも智香子と同様に目をシパシパさせており、また後ろにいるガトーの顔が微妙にひきつっていることからも普通ではないことが分かった。
入口にいるに智香子たちに気づいた領主が初めて会った時のようにニヤッと顔を歪める。
「おや、いらしていたのですね!少々到着が遅かったものですから、お客様の皆さまを退屈させないためにも、パーティを開かせていただきました。あぁ、早速ですがお願いしてもよろしいでしょうか?皆様も待ちくたびれてしまったようだ。」
「なぜ客がいる。」
「おや?お伝えしていませんでしたか?本日カロラス様がこちらで精霊と対話されるという話を親しい方々にしたところ、ぜひ近くで見たいと願い出た方がいらっしゃいまして。それならば是非にと我が家にいらしていただいたのです。」
智香子は「は?」と言いそうになった。まるでカロラスを見世物のように扱う彼らに腹が立ったからだ。口に出さなかっただけ、いやこれほど侮辱されながらも相手を貶さなかっただけほめていただきたい。
ギリギリと耐えている私の代わりに、ガトーが口を開いた。
「カロラス様は見世物ではありませんが。こちらに断りもなくこのようなことをされるのは非常識だというもの。」
「お待ちくださいガトー様!私はきちんとお伝えするよう命じましたし、命じた下人は遂行したと報告をしてきました。故にこれは下人の責任だと言えます。下人には罰を与えますので、どうかお許しください!」
どう考えても嘘だろうと思われた。
自分の罪を下人に押し付けることで今回のことを不問にしようとしていると。
だがここに領主が嘘をついているかどうかを証明する手段はない。
「カロラス様。いかがなさいましょうか。」
ガトーがカロラスに尋ねる。一度ため息をついたカロラスは「今回は不問にする。次はない。」と告げた。
「おぉ、流石カロラス様。広い心をお持ちである!」
クスクスクスクス。
はっきりと笑わないものの、笑顔の奥でカロラスを見下す声が聞こえた。
「ではカロラス様、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「……わかった。」
結局ほかの貴族は下がることはなかった。
カロラスも面倒を起こすより早く片付けた方がいいと考えたのだろう。
精霊がいる場所へカロラスが向かっていき、予定通り精霊との対話が行われた。
相変わらずカロラスと精霊の掛け合いは美しい。
しかし貴族たちは値踏みするようにカロラスを見る。
そのことに智香子はイライラする。
自分たちの生活を守ろうとしているカロラスに、なぜ彼らはこんなにも無礼なのだろうか。
他の場所で出会った人々たちのように、なぜ「ありがとう」という感謝の思いを持たないのだろうか。
「チカコ。」
嗜めるような声で、隣にいるガトーから話しかけられる。
「落ち着いてください。貴方が苛立っていることが丸わかりです。」
「大人なのでしょう?」と言われれば反論などできない。
ぐっ、と感情を押し込み、落ち着けと念じる。
早く終わって。そして、カロラスと一緒に帰りたい。
やがて精霊との対話を終えたことが分かり、カロラスが智香子の方を向く。
遠くからではっきりとは見えないが安心しているように見えた。
流石に迎えに行くことくらいは別に良いだろう。
ガトーを伺うように見れば、良いと判断したらしく「どうぞ」と片手で示される。
智香子が走り出そうとしたとき、こちらへ歩いていたカロラスの前に人が立ちはだかった。
それは貴族の子供たちだった。
親と同様の派手な衣装を身に着け、クスクスとカロラスを笑っている。
「……なんだ。」
「大したことではありません。お母さまから、カロラス様へご挨拶してくるように言われたので。」
「本日の精霊との対話、流石でした!カロラス様のような方でもできるんですから、きっと簡単にできる方法とかあるんじゃないですか?」
「…別に。」
「精霊親和性が高いから、だよ!カロラス様自身の力じゃないんだ。そう聞いてやるなよ!あ、でも、上手く精霊と会話できるコツとかは流石にありますよね?」
「…ないな。」
「精霊と会話できるコツ?人間相手でも上手に話せない方だぞ?そんなことを尋ねるなんて失礼じゃないか!」
クスクス……
ニヤニヤ……
ご挨拶、などと言っておきながら、彼らは自己紹介をすることもない。
しかしカロラスを馬鹿にするために用意された質問に対して、カロラスはいつものことだとそっけなく返事をするだけ。
その反応に面白くないと思った一人の子供が、言い放った。
「貴方がなんて呼ばれているのか知っていますか!”使えない皇子”ですよ!!」
次の瞬間、どっと湧き上がる会場。
「使えない皇子」
聞き覚えない言葉に、智香子が首を傾げる。
王子…?という意味だろうか?と思った智香子。
(確かにレッドフィールド家の皆って、全員顔が整っているわよね。ってことは、顔が整っており、まるで王子様のようだ、という意味かしら?)
などと考えていると、言われた本人であるカロラスが突然噴き出すではないか。
驚いたのは考え込んでいた智香子以外の周囲の人間だ。
今までカロラスを笑いの種にしていたのに、カロラスが可笑し気に堪えながら笑みをこぼしているではないか。
自分たちの言葉や態度など一切気にしていない、とでもいうようなカロラスに、彼らはますます苛立ちを募らせる。
そして先ほどと同じ子供が、ぽつりと呟いた。
「人殺しのくせに。」




