第43話:重い石②
翌朝目を覚ました智香子は、なんだか違和感を感じた。
腕の中で未だに眠ったままのカロラスをナデナデしながら考えること数分。
はっと思い当たったことは、ベネッタがいないということだった。
この世界にやってきて毎日。それはもう毎日、二人に挟まれて寝ていたために違和感を感じていたらしい。
誘拐されたときは緊張やら疲労やらウィリアムに抱き込まれていたからか気にならなかったが、なるほど。
(やばいわ。)
そう思った智香子だった。
それから目を覚ましたカロラスとともに身支度を整え、部屋の外で既に待機していたガトーと護衛騎士と合流した。
階下に降りていくと良い匂いが鼻をくすぐる。どうやら朝食を用意してくれていたらしい。
なんだ、あんな礼儀もなっていない貴族でもこれ位の気は使えるのね、と思っていたところ、実は宿からのサービスと知る。
「はぁ、本当に成人しているのかしら?」
昨晩智香子の年齢を聞かなければ「子供が何を言っているんだ、ハハハハハ」で済ませたことだが、彼女は二十歳。ガトーと護衛騎士は苦笑をこぼすほかなかった。
胃に優しく元気が出る朝食を済ませた四人は、宿の店主らに礼を言って次の村へと移動する。
その際再び智香子がお菓子をもらったが、彼女は思わずにはいられない。
(カロラスにもお菓子あげなさいよ!)
ちなみにカロラスは店主からのご厚意で軽食用のサンドイッチをもらっていた。
だからと言ってお菓子をくれたことには文句は言えない。
割り切ってしまえば楽になる。と自分を奮い立たせ、100%の笑顔を宿の店主らへ贈った。
お菓子は四人で均等に分けた。
最後の村も、今までの場所と同じように滞りなく済んだ。
カロラスと村人の会話を少し離れたところから微笑まし気にみていると、トントンッと肩をたたかれた。
振り返ってみると、高価な服を着た男性が立っていた。
身長はどれくらいだろうか。
最近の癖でそんなことを考えてみたが、約210、まぁ2m10㎝くらいだと教えてくれたガトーよりもその背は高い。ダミアンには及ばないが。
誰だろう。
疑問を口にする前に、当の本人が答えてくれた。
「突然話しかけて申し訳ない。私は、ジルベール。たまたまここを通っていたところ、何やら人だかりを見つけてね。気になって降りてきたんだ。」
腰を折って智香子と目線を合わせようと話してくれる男性、ジルベール。
身にまとっている服や身のこなしから、智香子は貴族だろうと推測したが、彼はファミリーネーム、日本でいうところの名字を言わなかった。それはつまり、貴族としてではなく、一般人として扱ってほしいということだろう。
ちらっと彼の後ろに目を向けてみると、一台の馬車が見える。
貴族であることを確信しながら、智香子は口を開いた。
「そうだったの。それで聞きたいことって何かしら?」
「あぁ、あの人だかりの原因を教えてほしいんだ。」
人だかりの原因はもちろんカロラスだ。バッチリ見えるはずなのに、なぜ見えないんだろう…。と首を傾げたが、直ぐに問題は解決する。
理由は簡単だ。カロラスの身長は智香子よりも高いがまだ子供。対してその周りを囲んでいるのは大人たち。上からよりも下からの方がカロラスを見やすいだけなのだ。
その事実に気づくも、バレてはあまりにも恥ずかしい。
なんとか平静を保って簡単な説明をした。
ジルベールは「なるほど」と頷いて礼を言う。
「それにしても、こんな制度があるとは…。是非私の領地にも来て欲しいものだ。」
「?この国の人間では無いの?」
「いや、ここ数年の間、国を離れていてね。それに領地が王都と少し離れていて情報が届きにくいんだ。」
王都、は確か王侯貴族が集まる場所…だったっけ?
あやふやだが、離れているとなれば辺境付近にでも領地があるんだろう。
情報はとても重要だ。
元の世界は化学が進歩していて情報があれよこれよと飛び交っていた。
対してこの世界には化学ではなく魔法が進歩している。そのため情報は前よりも入りにくい。
どちらにしろ、情報とは生きるために必要なものである。それを収集する力も、処理する力も、つける必要がある。
「ふ〜ん。それは大変ね。」
せめて電話のように遠くの人間と誰でも会話できるようになれば良いのに。
魔法の一つに、遠くにいる人間と会話ができるものがある。”念話”と呼ばれるものだ。
だが簡単な魔法ではないようで、ひどい集中力が必要なんだとか。
「あれは慣れないころは、すっごく疲れるんだよ…。」
とダミアンが言っていた。
要するに誰でも使えるものではないということ。
基本的に情報入手手段は手紙。風魔法に特化した人ならば魔法で相手のところまで届けるが、平民などは配達員に任せているらしい。
そんな智香子の態度に、ジルベールは「面白いなぁ」と興味深そうにつぶやいた。
「君は彼の妹さんかな?」
彼、とはカロラスのことだ。しかし。
「頭握りつぶすわよ、あんた。」
妹と間違えたことは許すまじ。
ジルベールは見た目少女の智香子から何に怒られたのか分からないようだったが、すぐに「あぁ!」と声を上げた。
「ごめんごめん、お付きの侍女だったん」
「だね。」と続けようとした言葉は、智香子に頭を握られたことによりさえぎられる。
「誰がお付きの侍女よ。しかもその侍女、カロラスより年下でしょうが。」
頭を握ったのはいいがそもそも大きさが智香子の手に収まるものではないため、握る、を押す、に変更。
結果、頭のてっぺんにある所謂”下痢ツボ”と呼ばれるところをぐりぐりと押してやる。
「アイタタタタタッ」と地味な攻撃に声を上げるジルベール。
ガトーと護衛騎士は子供と大人の遊びだから止めなくてもいいかな?と思ったが、そういえば二人とも大人じゃん!と、すぐに智香子を抱え上げ距離を置いた。
押したりない智香子だったが、今日のところはこれで勘弁してやろう。
(それにしても、なんで侍女って発想が出てくるのかしら。)
攻撃から回復したジルベールは、騎士の腕に抱えられたままの智香子を見て真剣に言う。
「いや~、何がダメだったんだろう?」
「私は二十歳よ!!」
その後、沈黙が訪れたことは言うまでもない。
中々投稿できず遅くなってしまい申し訳ありません…。




