第41話:カロラスへの来客⑤
最初に向かった場所は転移魔方陣から最も近い村。
魔獣の出現が多くなり、困っているということだった。
長である老人が近づいて、カロラスに頭を下げる。
「本日はこんな小さな村にまでお越しいただき、誠にありがとうございます……。」
「かまわない。国民の幸せを守るのが、オレの役目だからな。」
早速妖精のいる場所へと歩き出したが、あちこちから呼び止められた。
老若男女。様々な人間から声を掛けられ、モノを差し出される。
「カロラス様!ようこそ!」
「お兄ちゃん、お花どうぞぉ!!」
一人ひとり誰も見逃すことなく「ありがとう」と答えるカロラス。
後方からガトーと護衛騎士と並び様子を見ていた智香子は、村人たちからの心の底からの感謝とカロラスへの好意を感じ心がほっこりとした。
やがて妖精のいる場所に到着した智香子たちは、カロラスからさらに距離をとる。
妖精との対話を少しでも邪魔しないためだ。
村人たちも静かに見守っている。
カロラスが目を閉じて、ささやきかけた。
『我が呼びかけに答えよ。道を示し、導け。自由な風の赴くまま、貴方の風の赴くまま。』
言葉が終わると同時に風が巻き起こる。
慌てて顔を腕で覆った智香子が次に目を開けてみたのは、カロラスと、彼の前にフワフワと浮かぶ白い少女の姿だった。
『うふふ、久しぶり、カロラス。また会えてうれしいわ。』
『あぁ、オレもまた会えてうれしいよ。』
普通のしゃべり声とはまた違う、頭に響くような音がする。
妖精と対話するのには専用の声の出し方でないと伝わらないと教わった。しかし中々難しいようで、会得するのには最低でも十年かかるらしい。
ただ妖精の力を借りて魔法を使用するのは対話よりも簡単なようだ。このように特殊な声が出なくても、魔法使用者の魔力と引き換えに魔法を使用できるらしい。もちろん呼びかける言葉が必要だ。
それにしても、妖精の姿は想像していた通り、いやそれ以上に幻想的だった。
カロラスも同化しているのだろうか。
全体が光に包まれて淡く輝く様は、まるで人間ではないように思ってしまう。
ぼーっとしている間に二人の会話は終わったようで、
『―――っていうのが、魔物が活性化している理由だよ。じゃぁ、いつでも呼んでね、でも、無理しないでね。』
『うん、ありがとう。』
簡単な挨拶を済ませた後、再び風が巻き起こり、目を開いたその先に妖精の姿は見えなかった。
ありがとうございます。
繰り返されるお礼の言葉に、カロラスは始めと同様丁寧に対応している。
そうして次の村もその次の村も、特に大きな問題もなく済んだ。
ただ三か所回るということに智香子はそれほど時間はかからないだろうなぁと思っていたが、村人たちと会話をすることで思った以上に時間がかかったことに驚いた。
現在は宿。
部屋の振り分けで少しもめてしまった。なんでも空きが三部屋しかないようだ。
智香子とカロラスとガトー、そして護衛の騎士。計四人が止まるには部屋数が足りない。
護衛騎士が外で野宿をすると言ったが、宿主曰く魔獣が頻出しているそうで危険だ。
そこでカロラスが、いつも智香子と一緒に寝ているから二人で一部屋使うといったのだが、「それならば私が護衛騎士殿と相部屋になります!」と却下されてしまった。
しかしここで智香子が手を挙げた。
「さすがに男二人であの部屋は窮屈よ……。それにカロラスも言った通り、私たちは日ごろから一緒に寝ているので気にしないわ。明日の体力のためにも、私とカロラス、残り二部屋をガトーと護衛騎士さんそれぞれが使うという部屋振りでいいと思うの。」
それでも渋る二人に年齢を告げると、許可された。いや、許可をもぎ取った、というべきだろう。
年齢を聞いたときに護衛騎士は「嘘ぉ!!」と大声を出し、ガトーも目を見開いた。その二人の態度に「あまりにも失礼ではないかしら?」と怒気を含ませていったところ、謝罪と許可が下りたのだ
宿にある共同のお風呂で本日の体の汚れを落とす。
智香子は魔法が使えないから、お店の人に頼んで桶にお湯をつくってもらい、それで体を洗っているのだ。
モノから何まで基準が違うので、普通の桶でも智香子にとっては十分すぎる大きさであり、たくさんのお湯がある。
ぽかぽかとした気持ちでお風呂から上がりカウンターの前を通って部屋に帰ろうとすると、なぜかお店の人から飲み物とお菓子をいただいた。
理由は思い当たる。しかし、そう思いたくない。
智香子はもらえた喜びと子供だと勘違いされている悲しみで頬がひきつるのを感じつつも、「あ、リガとう…。」と礼を言い部屋に戻った。
「ただいま………。」
部屋の扉を開けると、すでにお風呂を済ませたカロラスがいた。
金髪と空の青の瞳を持つ少年。
子供ながらも整った容貌は、将来必ずダミアンに劣らない美青年になることを確定している。
窓の外を見て、考え込んでいるようだ。
きれいだなぁ。
一緒にいる間はあまり考えないことを思っていると、カロラスは智香子の存在に気付いたのか「おかえり」と笑った。
そして二人で明日の荷造りをする。
といっても、今日使用した服を直して明日の服を用意しておく、程度のことだけど。
ちなみに荷物は空間魔法で収納が可能らしい。ただ智香子はその魔法を使うことを遠慮した。
今回は荷物が少ないうえに、いざって時に必要なものを荷物には入れている。すぐに取り出せるようにしておきたい。
準備も終わり暇になった二人は、ベットに腰を掛けて先ほどカロラスがしていたように窓の外をぼんやりと見つめた。
そこから見える景色は平凡なものだ。大半が畑で、所々に家が建っているだけ。
しかしレッドフィールド家の周りには森しかないからかもしれないが、そんな景色でさえも智香子のとっては新鮮なものだった。
元の世界でも街の喧騒に囲まれて育ったから、のどかな風景というのはなじみがなかった。
今は夜で、どこの家も光が落ち着いている。
(こういうのも、いいな。)
すると、今まで黙っていたカロラスが「………今日は……………。」と言いかけてやめてしまう。
智香子はしばらくカロラスが何か言わないか待ってみたが、ためらっているようだ。だから、代わりに彼女が口を開いた。
「今日は、一緒に来ることができてよかったわ。」
「!」
「まぁ、カロラスの仕事に私が無理言ってきたようなものだけど、それでもついてきて良かったって思ってる。」
レッドフィールド家で過ごしている中でも、十分カロラスのことを知ることができる。
しかしやはり、こうして外にでないと分からないこともたくさんある。
村人一人一人に優しく対応していたり、そんな村人たちのことが大好きだったり、どんなに嫌なことがあっても我慢する強さを持っていたり。
「家の中では見られないカロラスをたくさん見れたもの。」
智香子の嬉しそうな言葉に、カロラスは頬を赤くする。
気づいていない彼女から隠すように顔をそらし、「オレ、は、」
「……オレは、正直、チカには来てほしくなかった。だってここには、チカに嫌な思いをさせるものしかない。それに、オレの悪いところやダメなところ、見られたくなかったし気づかれたくなかったから。」
また何かをためらうように目を閉じたカロラスだったが、決意をしたようだ。
「…………チカ、オレの話を聞いてくれるか?」
もちろん、と頷いた智香子を見て、彼は話し始めた。
早く収まって、のびのびと前の日常を取り戻すために!
大変な時期ですが、後の大きな損害をなくすため、外出は控え、手洗いうがいを徹底していきましょう!




