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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第36話:存在しているからこそ

他国への馬車を見送っている最中。見えなくなるまで手を振る智香子を見て、ダミアンは昨晩の父と母との会話を思い出した。


『あの子は、受け止めてくれると思うぞ。』


確かに、とそう思う。

チカコはきっと受け入れてくれるだろう。

だが、


(受け入れられなかったら、どうしよう。)



()()()のように――――。



「ダミアン?」


腕の中から、自分を気遣うような声がする。視線を下げると心配そうな顔をした智香子がいた。

安心させるように「大丈夫だよ」と言うのだが、彼女は訝し気に眉をひそめるだけだ。


「その顔は絶対大丈夫って顔じゃないわ。隠してないで吐いたらどうなの。」


子供のような見た目をしてこうして腕の中で抱えられてるのに、彼女はいつだって堂々としている。

なんだかうじうじしているのが恥ずかしくなるくらいに。

だから言って見よう。

言わずに悩むよりも口に出してしまった方が良いのだから。


拒絶されたら、その時はその時だ。


ダミアンは口を開いた。ベネッタとカロラスがこちらを見ている。


「チカコ、聞いてほしい話があるんだ。」


「えぇ、聞いてあげるわよ。」


ゴクリ、と唾を飲み込む。





「実は、俺たちは、」





「ここには久しぶりに訪れるが、時が経ってみると見方も変わるものだな。」


「ねぇ~!新しい発見って言うのかしら?すごく新鮮ね!」


「っ!」


しかし言葉を発することは叶わなかった。

楽し気な二人が現れたからだ。


「あれ、クリストフさんとアリシスさん。どうしてここに?」


不思議そうに首を傾げる智香子と、恨めし気に二人を見るダミアン、楽しそうに笑うベネッタとカロラス、あたふたと慌てふためく騎士たち。

彼らを面白そうに見つめながら、クリストフとアリシスは智香子の頭を撫でた。


「仕事場の近くだったからな、寄ってみた。」


「朝早くから元気ね~チカちゃん~。」


「ありがとう。」と智香子が言おうとしたところ、突然引き離されてしまう。犯人はダミアンだ。

あっという間にベネッタの腕の中におさまった智香子は目を白黒させていた。


ダミアンはクリストフとアリシスに詰め寄る。智香子に声が届かないようにしながら。


「っ、貴方たちが言えって言ったんじゃないか!なぜ邪魔をする!」


「ん?決まっているだろう?面白そうじゃないか。」


「まっ、仕事を押し付けられたってことと~、ご飯ちゃんと食べなかったってことへの腹いせもあるけどね~。」


ニコニコとした顔でなんてことを言うのか。ガクッと項垂れるダミアンに、二人はさらに追い打ちをかける。


「まぁ人生楽ばかりあってもつまらぬ。苦しみもがくことも必要だ。」


「うふふ、応援しているわ~。」


「くそっ!」


この二人に借りを作ってしまったことをひどく後悔するダミアンであった。



      *



そんな様子を遠くから見ている騎士たち。

はぁ~~~とどこからともなく息が漏れた。


「いや、なんというか、恐れ多い集団っすね。」


「そう思いませんか、団長。」と声をかけられたのは、第一騎士団団長のルバートだ。


「……………そうだな。」


端的に返された言葉に不満を漏らすことはない。日常だからだ。

ルバートに声をかけた騎士―――副団長であるウィルソンは「それにしても」と言葉をつなげる。


「クリストフ様とアリシス様は、どうして『跪くな』とご命令されたんすかね?」


「…………………………。」


突如現れた二人から、ルバートは命令を下された。


『私達に跪くなと騎士に伝えろ。』


ダミアンたちに関しては前々から伝えられていたから良いのだが、突然のクリストフ達からの伝言に騎士たちは慌てた。

理由はいまだ不明。跪きたい。というのが騎士たちの意見だった。


すると一人の少女がトコトコとこちらにやって来る。


今回の誘拐から救出した際、ダミアンたちが大切そうに抱えていた少女だ。

歳は十にも満たない見た目だが、なぜだが違和感を覚える子だった。

彼女は言った。


「今回は助けていただいたこと、心から感謝するわ。皆さんの力によって、被害者を0に抑えることができたとベネッタやカロラスから教えてもらったの。私が皆さんに何かお返しすることはできないけれど、本当にありがとう。」


丁寧なお辞儀、丁寧な対応、そして何より気持ちのこもった真摯な目。


小さな体から発せられたものに、騎士たちは固まるしかなかった。

そこで二人、ベネッタとカロラスが慌てたように少女を回収しに来る。


「え、ちょ、待って待って。まだ、」


「良いから!行くぞ!」


「チカがいなくなって兄さんに暴れられたら困る。」


「何それ?!」


ぎゃーーと言いながら回収される少女は最後に慌てて笑っていった。


「ありがとう!」


と。まだ呆けている騎士たちは、しかし理解した。


あの少女が、理由なのだ、と。


一体何者なのか、どういう人物なのか、分からない。

それでも騎士たちは今の出来事と、そして、あの砦での出来事を知っている。

小さな体で大きな男たちに挑み、仲間を助けた少女を知っている。


「……あの子、俺たちに全然ビビってなかったっすね。」


「………そうだな。」


第一騎士団はその名の通り、国内でも有数の実力者がそろった騎士団だ。

強さは他の追随を許すことはない。その反面、体が大きく強面で屈強な男ばかりなので、子どもには基本的に泣かれる。

だから智香子の反応は新鮮でたまらなかった。


騎士たちの間で”チカ”という少女の存在が広がりつつある。

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