第35話:隣国の
眼下に広がるのは、大国、と呼ばれている隣国。
今立っている位置からは街が見渡せ、単純に美しいと思った。
自然に囲まれつつ、貿易も盛んに行える。国王もバカではない。逆にあの若さで賢王と名高い。
そんな国。
自分の国であるシルナリヤスは、国を包むように強力な結界が張られ、厳しい検査を受けなければ入れない。
いわゆる鎖国状態だ。
ゆえに貿易などは盛んではない。それでも世界有数の国と呼ばれるのは、他国にはないものがあるからだ。
まずシルナリヤス国には他国にはない鉱山資源が豊富であった。カラフルな宝石から頑丈な岩石まで種類はたくさん。
そして石たちを加工する技術の高さ。鎖国状態にあるからこそ、技術が外に漏れることはほとんどない。
人々は貴重で珍しいものに興味を惹かれ、欲しがる。
結果、品々が高値で売れ、国は安定しているのだ。
最後に特異と言われるのは、魔法を使用する際に出てくる”幾何学模様の魔法陣”。
この魔法が使えるのはシルナリヤス国国民のみ。代々引き継がれるもので、国内でも地域によって模様が変化する。
中でも王族が使う魔法は国内でも珍しく、その模様は複雑で、まるで”華”を連想させる。
すると、後ろにいた男が声をかけてくる。
「殿下。準備が整いました。」
手を胸に当て恭しく頭を下げるその姿は、久しぶりに目にするものだ。
こういうことには慣れている。とはいえ、あの場所で誰からも”ウィリアム”一個人を見てもらえたのは単純に嬉しかった。
「分かった。」
無表情で返事をし、もう一度隣国の街並みを見る。
そこでたまたま見つけた。
誘拐された人々を見送る、彼女の姿を。
国王に抱えられ、笑顔で手を振っている。
思わず、手を伸ばした。届くはずもないのに。
「……………………。」
グッと拳を握りしめる。
お別れの言葉を言うつもりはない。
なぜなら、これで終わりにする気は無いから。
「……………………また、会いましょう。チカコ。」
いつまでも来ないからか、男が再度声をかけてくる。
「もう行く。」
そして大国、アドリオンを後にした。
馬に揺られて着いたのは、我が国シルナリヤス国。
厳しい検査を受け、向かったのは国内で最も強力な結界を張られ守られている王の城。
謁見の間にて今回のことを報告すると、国王であるその人は言った。
「よく無事に戻った。ウィリアムよ。」
「…………ありがとうございます。」
だがもう一つ言わなければならないことがあるのだ。
「陛下。今回の件の褒美を頂きたいのですが、よろしいでしょうか。」
「あぁ、構わない。」
「では、――――――――――――――――――――—」
謁見の間から出て、久しぶりの王城を歩く。
向かう先は自分の部屋だ。
すると足音が近づいてきた。振り返ってみると、右腕とも呼べる男がいた。
男は「お疲れさまでした。」と頭を下げた。
「皇太子殿下。」
呼び慣れた自分の呼び名。
ここではウィリアムと呼ばれるのさえ珍しい。
「あぁ。」と返事を返し、やらなければならないことに取り掛かるため、再び足を動かす。
「聞きました。なんでも、大国アドリアオンへの長期滞在を計画しているとか。」
「そうだ。」
陛下………父にも理由は説明してある。
後はどのような対策を立てるか。そしてそれを受け入れさせるか、だ。
「一か月だ。」
「一か月……?」
一か月で、あの国へ行く。そのためには、一分一秒だって勿体ない。
「急ぐぞ。」
「はい。」
空には幾何学模様が浮かんでいる。




