第34話:大人の会話
智香子が部屋に入ったことを気配で確認したダミアンは、目の前に座る二人の顔を見て、不愉快そうに睨みつける。
「俺の顔に何かついてる?」
ニヤニヤと笑うクリストフは「いや」と首を振る。
「お前も精神統一がまだまだだなと思ったまでだ。」
「うふふ~。面白かったわよ~、貴方の顔~。」
仕方ないではないか!突然あんなことを言われたら、驚くのは当たり前だろう!
そう反論したいところだが、逆に丸め込まれるのは目に見えている。
自分はまだこの人たちに勝てないのだ。
「はいはい」と息を吐いたダミアンは、話す予定だったことを話し始める。
「屋敷の中を調べた騎士たちから報告があった。」
二人はワインを口に流しながら、耳を傾けている。
先ほどまでの雰囲気はすでにない。
「豪華絢爛に飾られた部屋から資材庫まで、様々な部屋があった。そしてその中に、妙な部屋があったそうだ。」
ダミアンの手には、いつの間にか一枚の紙があった。
机の上に起き、クリストフとアリシスに見せる。それは報告書のようなものだった。
「頑丈な鉄と計5個のカギが付いていたドアの中に入ってみると、窓から家具まで一切ない、そんな部屋だった。」
「確かに奇妙な部屋だな……………。」
「そうなんだ。でも、それだけじゃなかった。」
丁度ダミアンが話す内容に当たる部分を報告書内で見つけたのだろう。
「人間用の鎖があった。」
二人の顔に影が差す。
「人間用の、鎖」と呟いたアリシスと、考え込むクリストフ。
「うん、奴隷を拘束するための鎖だった。それも、唯の鎖じゃない。調べた結果、魔力を吸い取り、かつ、契約主の意に反するようなことがあれば、すぐさま罰を与えるものだ。」
「なるほどな。それほどの強力な力をもつ者を飼っていたから、あの速さで事を進めることができたのか。」
3か月という短い期間にも関わらず、あの場所にあれだけの大きさの穴を作り、立派な屋敷を立てる。
それは、膨大な魔力を要することだ。
「これは俺の推定だけど、3か月間、両国から誘拐をしていたのは、その人間の魔力回復の為だと思う。そして捕まえていたはずの奴らが突然消えてしまったのにも、その人間が関わっていると考えられるね。」
ふぅ、と誰かわからないが、ため息が漏れる。
「まぁ、今はどうすることもできないってところだよ。シルナリヤスからの返事がない限りはね。」
もう話すことはない。
グラスに入っていたワインを一気に飲み干し、席を立つダミアン。
呼び止めたのはアリシスだ。
「あの子に、話さなくてもいいの~?」
ダミアンは訪ねてきたアリシスに目を向ける。すると、すでにこちらを見ていた青色の瞳と目があった。
詳しいことを聞かずとも、何を言いたいのか理解している。
だから、
「……………………さぁ、ね。」
それだけ言って、今度こそ階段へ足を向ける。
「あの子は、受け入れてくれると思うぞ。」
クリストフからの遅れた言葉は、ダミアンの耳に届いたのか。
*
なにやら物音がしたので、智香子は目を覚ましたのだが。
「んぁ…………?」
「「あ」」
泥棒がベット付近にいました。
と、思ってしまったのは仕方のないことだ。叫び声を上げなかっただけ褒めていただきたい。
だって身を低くして、こっそり部屋を出ていこうとしていたのだ。怪しいことこの上ない。
眠い目をこすり、二人にたずねる。
「何してるの…?」
しかしベネッタとカロラスはすぐに答えることなく、言葉を濁す。
どうしたのかと疑問に思っていると、静かにドアが開かれた。そこにいたのはダミアンだ。
「ベネッタ?カロラス?どうしたの?」
とてもとても小さな声を発したダミアンは、起きている智香子に「あ」と声を漏らす。
それから智香子は三人に詰め寄り、隠していることを聞きだした。
「誘拐された人たちの見送りに行く?」
うん、とうなずく三人。
何が気に食わないって、見送りを隠されたこともそうだが、智香子を抱えて放そうとしないダミアンも気に食わない。
「放しなさい!」と反抗しても、「いーや。」と拒否されてしまう。
解せぬ。
「まぁまぁ、チカコも見送りに行くよね?」
「………………もちろん、そうだけど………………。」
どうせ見送りに行くのなら、今抱えようが後で抱えようが同じでしょ?じゃない。
というか、徐々に抱えられることが当たり前にならないのかが怖いのだ。
そして現在、国から出る門の前に、智香子含めた4人と見送られる人たちが。
どうやら元々この国の住民の人たち以外は自国に帰るらしい。
それぞれの国に無事帰れるように護衛として騎士が数名付いて行ってくれるし、何より大型の、十数人を一気に運べる馬車を使ってもらえるようだ。
智香子はなんとかダミアンに下ろしてもらおうとしたが無理だった。
何を言っても「嫌だ、駄目だよ」の一点張り。
ベネッタ曰く、離れたくない、と。
(いや、意味わからないんだけど。)
というか駄々っ子か。
渋々智香子はダミアンに抱えられたまま、皆に声をかけた。
「皆、元気かしら?」
次々に声が返って来る。
「勿論だぜ!」
「食料もたくさんいただいたしね!」
確かに数日苦にならないよう、生活用品やら食糧やらが配られている。
「良かったわね。」と声をかけ、ふと、この国って結構裕福なのではないのか?と思った。
だってそうでもなければ、他国の人間のためにここまで手厚くするはずもないし。
今回の誘拐で、たびたび耳にした大国アドリオンといい勝負をするのではなかろうか。
なんてことを智香子が考えている内に、出発の用意ができてしまったようだった。
「じぁあな、嬢ちゃん。」
そう声をかけられて、慌てて「えぇ。」と返す。
だが、彼の姿が見当たらない。
「あれ?ウィリアムは?」
彼には随分とお世話になった。ぜひとも最後に礼を言いたい。
それに、他にも聞きたいことがあったのだ。
しかし誰もニコッと笑っただけで、教えてはくれなかった。
ちなみにアイザックはこの国の民らしく、その内助けてくれたことを含めてお礼を言いに行こうと思っている。
「まぁ、いいわ。いつか必ず会えるはずだもの。」
そろそろ出発だと馬車に乗り始める人たち。
ダミアンに抱えられている智香子に「体には気を付けて」「よく食べてよく寝るんだぞ!」「寂しくても泣いちゃだめだよ」などと律義に声をかけていく人たち。
ふと智香子は思った。
(これって、子ども扱いされてる…?)
よっこらせ、と馬車に全員が乗り込んだタイミングで智香子は彼らに訪ねた。
「ね、ねぇ、もしかして、私のこと、子供だと思ってる?」
まさか。そんな思いを込めていたが、彼らは大きく頷いた。
「こんな小さいのに凄い決断力だ!」
「きっと貴方は大物になるわよ~!」
「おれも負けないぞ!一緒に大きくなろうな!」
盛大な勘違いをしている人々の誉め言葉や激励にガクリと智香子は肩を落とす。
本当に勘違いされていたとは。
始め以外はもう子供のフリを、と言っても話さないようにしていただけだが、それ以降はどう考えても子供は言いそうもないことを言っていたはずなのに、なぜ気づかれないのか。
次第に体がブルブルと震えだす智香子。
不安そうに「チカコ?」と顔を覗き込んでくるダミアンに大丈夫と伝えて、全員に聞こえるように言う。
「私は、20歳よ!」
きっと実年齢を聞けば、驚きはするものの「確かに!」と言ってくれるはず。
そんな希望もすぐに打ち砕かれた。
「「「「え~~~~~うそ~~~~~!!!!」」」」
響く声に、智香子は耐えきれないと叫んだ。
「見下すな~~~~!!」
*
落ち着きを取り戻して、馬車が動き出す。
彼らは手を振りながら言った。
「「「「一か月後~~~~~~~!!」」」」
「元気で~~………………ん?一か月後?」
どういうことだ?何か祭りでもあるのか?
そんな疑問を智香子の頭に残して、彼らは帰って行った。
その後智香子はダミアンたちに一か月後の祭り等について尋ねてみるも、「知らないよ」と言われてしまい、もやもやが増えただけだった。




