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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第28話:不思議なこと③

前半はとある人物視点になっています。後半は誘拐された一人のアイザック視点です。

ガチャ

了承を取ることなく鍵が開けられ、誰かが中に入ってくる。

彼はココでは常識のある人間だ。だから、僕を世話することになっているのだろうけど。


「ほら、飯。持ってきたぞ。」


そう言って床に食事を置いてくれる。

無精ひげを生やした彼は、もう何か月も続けていることだというのに未だになれないのか、その眉間にしわを寄せて僕を見た。

言いたいことは分かる。

だがもう慣れたことだ。

声は出せないから、頭だけを下げる。


その時、手と足と首に巻き付いている鎖がジャラッと音を立てた。


扉が閉まる。彼が出ていった証拠だ。

僕は、持ってきてもらった食事に手を付けることなく、意識を外に向ける。


屋敷の廊下、外で働いている人々、そんな彼らを責める人々、どんどん視野を広げていく。

砂漠が広がるここで遠くを見渡す行為はなかなかに難しいことだった。

昼も夜も砂嵐が吹き荒れ、()()()()を奪うからだ。

しかしそんなことなど関係ない。

全てをクリアに、遠く、広く。


そして見えたのは、やはり大国アドリオンの軍。

燃えるような赤の国旗を翻し、約百という少人数の騎士によって作られた軍。

少数精鋭のようで、個々の能力が高い。

そしてその先頭に立っているのは、かの国の国王だ。

国旗同様、いや、それ以上に激しく燃える赤い瞳。



次の瞬間、彼の瞳が()をとらえた。



「!」


慌てて魔法を切る。まさか、見つかるとは。

だが確かに、かの国の王族は不思議な力を持ち、その瞳は全てを見透かすと言われている。

僕のくだらない魔法を解くことなど簡単だろう。


それにしても軍を出したということは、やはりシルナリヤスと連絡をすでに取ったということだろうか。

そうでなければ基本軍は動かせないが、早すぎやしないか?などと考えても意味はない。


はあ、と息を吐いたところで、急激に腹がすく。

魔法を使うために張っていた緊張が解けたせいだ。

僕は床に置かれたままだった食事に手を付けた。

いつも通りのそれは僕になんの感情も与えることはない。ただ、”死なないようにするためのモノ”だ。


ふと、昨晩のことを考えた。

大国アドリオンが進軍してきていると伝えた時だ。

聞かれたことについて全て話さなければならない僕は、全てを話した。

そう、聞かれたことについて。

あのとき主様は、「誰か内通者がいる。」とおっしゃっていた。

今からその内通者を探すのは、アドリオンに対して強い牽制を与えるため。

こちらにはお前たちにとって重要な人質がいることを知り、攻撃してくるのなら始末するぞ、という意思を示すため。


直ぐに部屋を出ていったから、聞かれなかったから僕は何も言わなかった。

事実は違う。

彼らは内通者によってここの存在を知ったわけでも場所を探り当てたわけでもない。

そもそもアドリオンの内通者などいない。

彼らの目的は、もちろん連れてこられた人たちの救出だろう。

だがそれと同時に、一人の人間を探している。この場所に連れてこられた、一人を。


アドリオンの軍に所属している人間の耳をちょっと拝借して聞いたから。


ここに内通者なんていない。ならどうやってここを探り当てた?と聞かれても、方法は………さすがにわからない。

彼らの中に、そういう魔法が得意な人間がいるのだろう。

だからいない内通者をどれだけ探しても無意味なのだ。


皿の上が空になる。

空腹が埋まったことで暇が僕を襲う。かといって何かすることがあるわけでもない。

ゴロンと外気よりも冷たい床に寝転び、眠れない体であるにもかかわらず目を閉じた。


そして使いたくない魔法が勝手に発動しているのか、いろんな声やにおい、感覚が僕に伝わる。

強制的に制御をしているはずなのに。

力が強まっているからだろうか?

感覚を流しながら、そう言えば、と僕は思う。

一昨日ごろから、変わった気配の人間がいるのだ。


強く、暖かく、優しい気配の人間が。


不思議だった。こんなところに連れてこられた人は、始めは逃げようとする。数日もたてば逃げることを諦め、絶望する。

その人もそうだ、と思いたいのに、なぜかそう思えない。

二日や三日たてば、きっと僕が感じているような気配はしなくなって、他の人と同じようになる。

そう思うのに、僕がそれを否定しようとする。


主様の命令で基本的に決められた時間の決められた場所しか視れないから、僕はいまだにその人の気配以外、顔も何も知らない。

でもなんだか無性に、その人に会いたいと思う。



(まぁ、無理ですけど……………。)



重い重い僕に絡みつく鎖が、ジャリ、と音を立てた。



       *



アイザックは突然現れた誘拐犯たちに困惑していた。

それは周りにいる自分と同じように連れてこられた彼らにも同じことが言えるだろう。

見張りの男だけではない。自分たちをここに連れてきた黒いローブを身に着けた者から、偉そうな態度で踏ん反りがえっている男までいる。

それがここの主であることを知っているアイザックは、警戒心を高めた。

主である男は前にもこうして皆の前に現れたことがあるのだが、その時のことを思い出せば当たり前と言える。

その時彼は、気まぐれに、人々を消させたのだ。黒いローブの男たちに。


高ぶりそうになる感情を抑えていると、小さな声だが聞こえた。


「地下室は―――今夜———調査を―――」


とぎれとぎれの単語だけだ。

だが地下室、という言葉を聞き、アイザックは青ざめる。


(っ、チカコさん!)


なんとか伝えなければならない。彼女には恩があるからだ。

ばれないように、ひそかに隠して持っていた紙とインクを使って智香子への連絡を書く。

慌てて書いたから汚いだろうが、何とか解読してほしい。


そしてそれを地下室へ続く穴へと入れに走って行く。

後ろから追ってくる音や詠唱の声が聞こえるが、気にせず走った。

投げ入れた、とこで視界が暗くなり、一瞬で元の場所へ戻される。

目の前には誘拐犯たちが。


「この男………どうしてくれましょうか?」


そう問われた男は、ニヤッと下卑た笑みを浮かべた。




チカコさん、どうか、逃げてください。





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