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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第26話:不思議なこと

パンを食べ終えた智香子が始めに行ったのは、寝ている皆を起こし、食糧庫から運んできたご飯を皆に配ること。

智香子とウィリアムを抜いて十四人。

パンと、そして果物をいくつか持ってきたが、何とか人数分足りたようだ。

そうして半分こにする、など工夫をして朝食を食べ終えた彼らに、智香子は言う。


「良い?今からここを移動するわ。場所はウィリアムが立ってるとこにある穴の奥よ。そこはね、ここよりも広く、水もキレイ。それにもし、この地下室に誘拐犯たちが乗り込んできても、そこにいれば早々に気づかれないはず。」


そこまで言って彼らがこの提案を渋るかもしれないという考えが浮かぶ。だが、彼らは反抗など一切しなかった。素直に穴の中に入っていく。驚いた。一日もこの場にいない見た目八歳の自分の言葉を簡単に信じてくれたのだ。

すると、近くにいた片方の足を負傷している女性が、優しく言った。


「フフフ、チカコちゃん。私たちはあなたを疑いはしないわ。だって、あなた、私達の体を拭ってくれたでしょ?」


「こんなに醜くて、汚い私たちの体を。」と口にした女性は、細くて、骨が浮き上がってしまっている。

しかし、それだけで簡単に信じてくれるものだろうか?穴の奥、そこに何があるかわからない状況で。

きっと顔にその言葉が出ていた。だから女性はまた笑い声をもらし、自分も穴の奥へ向かうべく立ち上がる。


「それだけでいいの。あなたを信じることに他の理由はいらない。」


それだけ言って、彼女は智香子から離れてしまう。

正直、まだわからない。自分は本当に彼らに信頼してもらえることをしたのか、理解できていない。

だが、彼女が言うこと、智香子を信じている、ということが本当ならば、それにふさわしい人間にならなければならないのだ。

智香子は言う。


「動ける人から穴に入ってちょうだい!動けない人は、私やウィリアムが手を貸すわ!」


そして荷物や人を大移動させ終えた後。

服がボロボロの人間には新しい服を。体がまだ汚れている人間は体を洗う、など。

それぞれがあわただしく動き、気が付けば昼をとっくに過ぎてしまっていた。


端っこの方で休憩をとっていた智香子のもとへ、同じく休憩を取りに来たウィリアムがやって来る。

彼はそのまま智香子の隣に腰を下ろした。

ちなみに昼食は、子どもや栄養不足だと思われる者以外にはない。

量がそもそも少ないのだ。仕方のないことだが、智香子には気に食わないことがある。

それは、智香子が昼食をとらないと言った時、全員が「だめだ!」と言ったことである。

智香子は病気でもなければどこか負傷をしているわけでもない。

加えて誘拐されたのが日中だったため、正確には二日しか誘拐されていない。

それに昨日、地下室に来る前に一度食べている。

つまり元気いっぱいだ。

なのに彼らは智香子にもっと食えと強要してくる。

まぁ最終的には「たくさん食べられないのよ!」と叫んだ(というかその時の智香子の必死な顔に彼らが負けた)ため、食べずに済んだのだが………。


(まったく…………。)


隣に座るウィリアムも、昼食抜きのメンバーだ。


特に何かを話すわけでもなく、ぼんやりと皆を見る。

やはりここに移動してきてよかった。地下室と呼ばれていた場所よりも明るいから、精神面にもきっといいはずだ。

ふと智香子は気になったことを、隣で同じように皆を見ているウィリアムにたずねる。


「ねぇウィリアム。気になることがあるのだけど、聞いてもいいかしら?」


「何ですか?」


「地下室に入れられた人たちの中にはもちろん、亡くなってしまった人がいるでしょ?その人たちはどうしたの?」


ずっと不思議だったのだ。

もし死体がそのままならば腐敗臭などがするはずだし、埋めているのかと思ったが、どこにも膨らみはなかった。

死体を誰かが回収しにくる、なんてもっと考えられない。

するとウィリアムは言った。


「あぁ。実は僕もわからなくて。」


「?分からない?」


どういうことだ?


「僕が地下室にいる期間は、前にも言いましたが長くはありません。ですが一度だけ見たことがあるんです。」


「人が死ぬのを?」


「はい。その時、彼は重い病気でして。僕が来た時にはすでにどうすることもできなく、その日の夜が最後と言われていました。そして本当にその日の夜、彼は息を引き取ったんです。」


その瞬間を思い出すように、ウィリアムは遠い目をしている。


「次の瞬間、地面に吸い込まれるかのように、消えてしまいましたが。」


「っ、消え?!」


まさか、と思うが、シルナリヤス国の捜索隊が突如消えたということもある。

だが、死んだ人間特定に発動する魔法、か。

地下室に誘拐犯たちが来て魔法をかけるわけじゃない。だから設置できる魔法陣かな?と思ったが、転移以外の魔法陣は聞いたことがない。

ウィリアムもそう言っている。


「でも、考えても仕方がない、わね。」


とりあえず死んだ人間を消す魔法があるかもしれないが、ここにいる人間に害があるわけではない。

安全、とは言い切れない状況だ。しかし、安全ではないと言い切れるわけでもない。

そのことに神経をとがらせていても意味はないのだ。


よいしょ、と腰を上げた智香子。その足が向うのは、泉の近くで休んでいる彼らの元。


「先に行くわ。今は貴方にやるべきことなんてないんだから、そこに黙って座ってなさい。」


「それって休んでろ、ってことですか。優しいですね。」と笑って茶化そうとしてくるウィリアムを無視していく。

ひとまず、彼らに外へ逃げる道について教えておかなければならない。

また一緒に地下室へ来た風邪を引いていた子。

軽度だったから何とかなっているが、完全に治ったわけではない。

全治全能の力が使えたらな、などと考える。

歩いていく智香子を見ながら、ウィリアムは「でも」ポツリとこぼす。


「…………………禁忌魔法なら、あるかもしれないな……………………。」


残念ながら、智香子との距離が遠かったためにその言葉は届かなかった。





それからゆっくりと時間を過ごした彼らのもとへ。

地下室の様子を見に行ってくれたウィリアムが帰ってきた。

その手に一枚の紙を持って。

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