第25話:四等分したパン②
智香子たちがパンを食べている時間よりも少しさかのぼった約六時間前。
国を一望できるとある場所で、ダミアンは眼下に広がる街を見ていた。
夜も大分更けている時間だ。
家の明かりはほとんど消えており、星が空に瞬いている。
「兄上。」
すると、突然何もない所からベネッタが現れた。
だがダミアンは驚くことはなく「どうした。」と訊ねる。
その間には、レッドフィールド家で流れるような気安い雰囲気は一切なく、真剣で、張り詰めるような空気だけだ。
ベネッタは言う。
「ルバートから報告。シルナリヤス国でも三か月前から多数の行方不明者あり。捜索隊を出すもその捜索隊も行方不明、対策に悩んでる。カンタノワールはこのこと自体知らないって。」
そこでベネッタは一度言葉を止めて、再度口を開く。
「一番関わってるの、やっぱりパールス国らしい。」
「でも証拠が何もないって。」ダミアンはその言葉を聞いて、少し考えた後、「わかった。」とうなずいた。
「ありがとう、ベル。あと二つ、伝言を頼んでもいいか?」
彼自身に、電話のように遠くの者と会話ができる魔法が使えないわけではない。
それでもベネッタに使いを頼むのは、彼女の方がそれを得てとしているからだ。
「まず、母さん達に今日から数日開けることを伝えてくれ。俺の代わりを頼む、と。もう一つだが、」
ふと、眼下に並ぶ街の一つ、ファイア・ルドタウンに目が行った。
あそこの街は海が近いこともあり貿易がとても盛んで、国内一活気あふれる場所だ。
そう、智香子と訪れた場所。
異世界から来たという彼女がダミアンたちの元に現れてから一週間がたち、家周辺以外に足を運んだことがない智香子の為にベネッタが誘ったのが始まりだった。
彼女が行方不明となってから約一日が過ぎた。
たった一日。
だが、この一週間、いつも一緒にいた存在が消えたことでダミアンの胸に虚無感が生まれていた。
このことに彼は驚く。
でも腑に落ちなかったわけではない。
それにベネッタやカロラスも、目に見えて雰囲気が暗い。
わずか一週間。その間に、あの小さな小人に、ずいぶん肩入れしてしまっていたらしい。
(必ず、取り戻さなければ。)
その時は正直に話そう。自分のことを、全て。
たとえ受け入れてもらえなかったとしても。
目を閉じて、次に開いた時にはただのダミアンではなくなっていた。
「ルバート達に、出発の準備をするよう言ってくれ。」
人々を従え、導き、その頂点に君臨する。
まさしく、”王”と呼ぶにふさわしい覇気が、彼からあふれている。
ベネッタは了解の意を示すようにうなずき、頼まれたことを遂行するためすぐに帰ろうとしたが、もう一つの役目を思い出す。
カバンの中からあるものを取り出して、兄に投げた。
「母さんから。「きちんと食べなさい」だって。」
それは四等分にカットされているパン。
別に一日食べなくても体に支障はないのだが………。
苦笑をこぼし、「ありがとう」とダミアンが礼を言ったのを聞き、彼女は現れた時と同様すぐに消えた。
息を吐きだしたダミアンも、ベネッタから受け取ったパンを持って自身の用意をすべく移動を始める。
智香子たちがとらわれる、シルナリヤスとアドリオンの国境へと。




