第24話:四等分したパン
翌朝目を覚ました智香子がまず始めに見たもの。
それは、誰かの服だった。
寝ぼけた頭で、「あれ?ベネッタとカロラス?」と思うも、その大きさが違うと告げる。
徐々にはっきりしていく意識。
そして智香子は理解した。
自分がウィリアムに抱きしめられていることに。
(なるほど、だから気持ちよく寝れたのね………。)
ここの気温は夜でもそれほど低くはないが、智香子は大変寒がりである。
彼女にとってウィリアムの高い体温はとても気持ちよく感じられた。
それにしても、と思う。
(皆、私を子供や兄弟と勘違いしすぎよ。)
トイヤッグもそうであった。まぁ、彼に年齢を言っていなかったから仕方がないが、ウィリアムにはすでに教えてある。
(まぁ、寝ぼけてただけでしょうけど。)
それか抱き枕と勘違いしたか。
なんにせよ、少し動いてみたが抜け出せそうもない。これはウィリアムに起きてもらう以外に立ち上がる手段はなさそうだ。
智香子はうっすらと暗い地下室の中、まだ寝ている人たちを起こさないように小さな声で呼びかける。
「ウィリアムー。ウィリアム―。起きて頂戴ー。」
何度も何度も呼びかける。
が、起きる気配なし。
気持ちよさそうな顔でスヤスヤと眠っている。
その顔を見て、智香子はギリッと歯を食いしばった。
(~~~!気持ちよく寝ちゃって~~~!!)
起こせなくなってしまうじゃないか!
そしてはぁ、と息を吐き、力を抜く。起こす気がなくなってしまった。
まぁこんなにも気持ちよさげに眠る者を起こすのは罪悪感がわくし、無理に起こすのもかわいそうだ。
智香子は再度眠りにつくため、目を閉じる。
すぐにやってきた睡魔に身を任せたが、意識が完全に消える直前、
「…………………お休み、チカコ。」
ウィリアムがそう言った気がした。
智香子が次に目を覚ましたのは、それから約三時間後。
時間的には八時ごろの事であった。
よだれを垂らしながら目を開けると、そこには、
「おはようございます、チカコ。」
なんともキレイに笑うウィリアムがいた。
その瞳や声はとても甘い。
いつか見たとある映画のワンシーン、早朝のベッドの上で恋人同士が醸し出す雰囲気に似ていた。
経緯は分からないが一緒に見ていた晴馬は凝視し、智香子は赤面して目をそらしたという割とどうでもいい過去を思い出してしまった智香子。
「うわぁ………………。」
思わず声が漏れてしまう。
「どうかしましたか?」と聞いてくる彼に、「大丈夫、うん。」と赤くなる頬を何とか収めながら返し、朝の挨拶を伝える。
「おはよう。」
「おはようございます。」
ブワッと、花をまき散らすかのように笑うウィリアム。
同様に笑っていただろう智香子は、あまりの眩しさに遠い目をしていた。
それから体を起こした(なぜか智香子はウィリアムに抱えられたままだが)二人は、今後について話し合う。
手にはそれぞれ食糧庫から拝借して持ってきたパンが。ただ、持ってきた量は多くなく、智香子の両手サイズ、ウィリアムの片手サイズのパンを半分にして食べている。
パンは固いかと重いきやそれほど固くなく、確かに日本のものやレッドフィールド家で食べたものに比べれば固いが、食べれないことはない。
歯を突き立てかぶりつく。
「これからのことだけど、なにもしないようにしましょう。するにしても、あの食糧庫や資材庫から物を皆に配るくらい。助けが来ない限り、私達は動かない方が良いわ。」
トイヤッグから聞いた話によれば、高い高い壁に囲まれているこの場所の周囲には何もなく、それこそ長い距離進まなければシルナリヤス国にも大国アドリオンにもたどり着かないそうだ。加えて敵は”物を消す、もしくはどこかへ転移させる魔法”を使える可能性がある。
そんな状況で行動をしても、命の保証はないに等しい。
そう話すと、ウィリアムも「確かにそうですね。」とうなずいた。
「助け、ですが、来る確率はどれほどでしょうか?」
「必ず、ね。」
驚いたように首を傾げるウィリアム。
「必ず、ですか?」
「えぇ。私の知り合いが騎士をしているの。その人がね、誘拐事件について追っていたわ。」
あの日、と言っても約二日前。
異世界に来た智香子が初めて街へ行ったとき、話をした。まさか自分がまきこまれることになるとは露にも思っていなかったが、幸か不幸か今ここにいるのは確かだ。
「いつになるかはわからない。明日かもしれないし、一週間後かもしれないし、一か月後、一年後かもしれない。それでも、あの人は必ず来る。」
智香子は思う。彼なら、ダミアンなら、きっと助けに来てくれる。
なんせ約束したのだ。
必ず、誘拐された人たちを助ける、と。
「だから、信じて待つだけよ。彼らが来るのを、ちゃんと生きてね。」
首を後ろに向けて、ウィリアムにそう言えば、
「そうですね。僕たちにできるのはそれだけです。」
うん、とうなずき返し、智香子は手に持ていた齧りかけのパンのまだ齧っていない部分をちぎり、ウィリアムの口に持って行く。当の昔に食べ終えていたウィリアムは、智香子の行動に首を傾げた。
「食べきれないから食べて頂戴。」
気遣いかな?とも思ったが、確かに、体の大きさを考えれば、智香子とウィリアムが同じ量というのもおかしいかもしれない。
ウィリアムは智香子が差し出したパンを己の手に取ることなくそのまま口に含む。
咀嚼し、飲み込み、
「ありがとうございます。」
とお礼を言った。
智香子も残りのパンを食べ終え、起き始めた人々に食べ物を配るべく動き始めるのだった。




