第23話:夜
ウィリアムに抱えられながら地下室への穴に入り、元の場所に帰る。
砂埃が上がったり大きな音が出てしまい、寝ている皆を起こさないか心配した智香子だったが、ウィリアムがうまく二人の周囲に防音の魔法をかけたようだ。
また、砂ぼこりが立たないように着地する直前でスピードを緩め、少し上がった砂ぼこりも防御魔法で包み込む。
智香子は思った。
(すご!)
今までに見た魔法は、手のひらで数える程度。
レッドフィールド家の皆は魔法をあまり使わなかったのだ。
勿論いろんなことを教えてもらったが、実際に見たのは生活魔法などの簡単なものばかり。
こんな風に一つの魔法の応用を見ることはなかったから、こんな風にも使えるのだと思わず感動した。
当のウィリアムにとっては当たり前のことのようで、眠っている皆を起こさないように持ってきた少ない荷物を端に置き、ちょっと離れているところに腰を下ろす。
そして抱えてた智香子をそっと地面に寝転がし、彼女の上に薄い毛布をかけてから皆にも毛布を掛けて回ろうと立ち上がる。智香子も手伝おうと体を動かしたが、その必要はなかった。
スイッと人差し指を動かしたウィリアム。
その指示に従うように毛布が浮き、寝ている皆の上にそっとかかっていく。
「な、なにそれ…………。」
思わずこぼれた質問に、「唯の風魔法ですよ。」と返される。
魔力が一切ない自分からしたら唯の、ではないのだが………。
そしてウィリアムも横になる。
彼が横に寝ると、まるで親子のようだと智香子は思った。
ベネッタやカロラスと寝ていても気にならなかったが、さすがに五十センチ以上差があるだけ気になる。
しかし、実際の年の差は姉弟。
「ウィリアム。」
自分にかけられていた毛布をウィリアムにもかける。体の大きな彼にはほとんど無意味だ。
「あ、りがとうございます・・・・・・。」
驚き、嬉しそうに目を細めるウィリアム。
そんな彼を見て智香子はふんっと鼻で笑う。
「別に特別なことじゃないわ。毛布が足りないのなら分け合うのが当たり前よ。誰かが犠牲になるなんて、非効率的なことだもの。」
しかしウィリアムの喜色満面な顔を見れて、智香子もまた嬉しそうである。
それにしても今日は疲れた。
無限に思われることをし続けたのだ。
全て生きてここから出るため。
いつ助かるかは分からない。
もしかしたら助からないかもしれない。
だがそんなことは関係ないと智香子は思う。
重要なのは、一日一日をちゃんと生きることなのだから。
(明日も生きなければ。)
智香子はウィリアムの暖かい体温にホッと息を吐き、すぐに夢の世界へ向かった。
*
時刻は深夜三時ごろ。
静まり返った地下室で目を覚ましたウィリアムは、ふとお腹のあたりに温もりを感じた。
そこにいたのは眠っている智香子。
こちらに顔を向けて安心しきったように寝息を吐いている。
そんな彼女を見て、ウィリアムは自然と笑顔になった。
初めて会った時から、智香子は変わっていた。
見た目の年齢は八歳にも満たないくらい。
突然この地下室に病気の少女と現れた。だから彼女自身も何かしら怪我を負っているのかと思いきや、元気に動き回り、妙なことをし始める。
思わず話しかけたらトントンと話が進んで行って手伝うことに。
その中で見たてきぱきとした手際の良さ、ハッキリとした指示出し。
見た目とのアンバランスに首を傾げた。
すると誰も見つけられなかった秘密の道を見つけ、入ろうと誘う姿は子供のよう。
それ以外にも、神秘的な場所に見惚れて落ちる。そのことに怒っているのに、理由に気づかない。
鈍さやうかつさから、やはり普通の子どもだな。そう思った。
なのに。
月の光を吸収するような泉の中心へ、彼女の頼み通りに言った時。
月の光に包まれる不思議な雰囲気に二人で魅入っていると、智香子が突然月に向かって手を伸ばしたのだ。
なんてことはない。
手が届きそうだ、というまさに子供のようなことを考えたのだろう。
しかし、止めなければならない。
自分の中の全神経が訴えた。
訳が分からなかった。
なんでそんなことを考えるのか、理解不能だった。ただ智香子が月に手を伸ばしただけなのに。
頭は混乱。それでも体は動く。
彼女の体を抱え込むように抱きしめ、月から少しでも離れるためにかがむ。
「どうしたの?ウィリアム?」
心配そうな智香子の声。そして自分の頭を撫でてくる優しい手。
ほっと息を吐いて、ウィリアムはさらに困惑する。
恐れて、いたのだ。
何に?
智香子がいなくなることに。
腕の中にいる彼女が、消えてしまいそうな気がした。
突然何かに盗られるように、スッと。
徐々に気持ちが落ち着き、別の所へ続く道を見つけた。
そこから外へ出ることができ、働かされている彼らに食糧や気づかれない程度の資材を渡して帰ってきた。
その間に、この少女がなぜ大人顔負けの判断力や行動力を持っているのだろうか?という疑問が浮かぶ。
疑問が納得に変わったのは、彼女から実年齢を教えてもらった時だ。
「………………二十歳……………………。」
驚愕した。自分よりも年上だったのだ。
だが、なるほど、その年ならばあの行動力もうなずける、と素直に受け入れている自分がいる。
彼女はすでに、ただの普通の少女ではない。
十歳のような見た目なのに二十歳という時点でそもそも普通ではないし、少女でもない。
だがそう言うことではなくて、なにかが、そう、彼女には何かがあると感じる。
自分の腹のあたりに眠っている彼女に。
「………………ま、関係ないですが。」
眠っている彼女を起こさないように、そっと小さな体に手を伸ばす。
そして抱きしめる。
優しく、優しく、包み込むように。
いつか、彼女が。自分の本当の姿を知った時。
彼女はどんな反応をするだろうか。
それが楽しみでもあり、不安でもある。
「……………ずっと、傍にいたいですね。」
太陽のように笑い、当然のことのように普通に接してくれる、このぬくもりの、傍に。




