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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第14話:誘拐③

智香子が誘拐され、目を覚ましてから約一時間後。


さすがに誘拐されてすぐに眠れる神経を持っていなかったため、眠っている人たちの体調とかを見て回っていたとき、ドタドタと足音が近づいてきた。


(やばい!)


ばっとその場に寝転んで寝たふりを決め込む。

すると、


「ぅおい!!お前ら!仕事の時間だぞ!働け!!」


というけたたましいまでの声とともに、男がずかずかと寝床に入ってきて、寝ている人たちを蹴っていく。

近くにいる子供が蹴られそうになったため、気づかれないように自分の背中で守ると、


ガッ


「っ~~~~~!!」


(こんのくそ野郎!幼気な子供相手にこんな力で蹴ろうとしてたの?!)


ダミアンから剣を弾き飛ばされた時くらいの痛さである。

思わず涙がでそうになるのを気合で止める。

信じられない!いつか倍返しだ!


そうして目を覚ました彼らと一緒に外に出た智香子は、息をのむ。

そこは、何メートルもある土壁によって覆われた場所だったからだ。


ぐるりとあたりを見渡しても、壁。壁。壁。

地面となり歩く面積は狭くはない。逆に広い。東京ドーム一個なら軽々入るくらいのスペースがある。

でも、それを覆すほどの高さ。


驚いている智香子に「ちんたらしてんな!」と怒号が飛んできたため、慌てて彼らに付いて行く。


智香子たち誘拐されてきた人間の仕事内容は様々だ。


大人の男ならあの高い壁を削って掘って、地面を広くしていく。

大人の女なら掘ったことによって生まれた土をどかしたり、食事を作ったりする。

子どもはみんな同じで、荷物運搬。

どかした土とか、掘るのに使う道具とかを運ぶ。


智香子は言うまでもなく子供扱いをされ、十二歳以下の十人の子どもたちと一緒に働かされている。

加えて子どもたちの中でも一番背が低く細いため、子どもたちからも子ども扱いをされるのだ。


「ほら、無理すんな。俺が代わりに持つから。」


「うん。見たところ、十歳くらいでしょ?任せて!私の方がお姉さんだもん!」


そして減らされていく荷物。

なんだろう、確かに楽にはなるのだが、日本人精神だろうか?働きたい…………。


(っ、我慢……我慢よ、智香子…………。ここは十歳になるのよ!)


しかし、子ども扱いされてよかったこともある。

それはあちこちを荷物運搬で移動するため、いろんなところを見れることだ。


建物は全部で四つ。

一つは智香子たち誘拐された人たちが眠る場所。

二つ目は誘拐してきた奴らが寝る場所。この建物は、誘拐された人たちの様子を見ることができるようにと、見晴らしのいい場所にあり、しっかりした造りのようだ。

三つ目は掘る削るなどに使われる道具だけでなく、毛布や着替えなどもある資材置き場。

四つ目は食糧庫。こちらは食べ物が入っている。


それぞれの場所に見張りが置かれていて、ちなみに壁の上に行けそうな階段を見つけたが、そこにもゴリゴリ強そうな見張りがいた。


加えて()()()なので、甘く見られている。

とはいっても、もちろん誘拐をするような奴等である。

仕事をさぼっていたり怪しい動きを見せれば簡単に暴力を振るうが、多少子どもがキョロキョロしたところで「見知らぬ土地に来て不安なんだろ。」くらいにしか思われない。


現在は昼食中。


パンと少量の具材を一口大に切って煮込んだスープ。これは女性陣により作られた料理だ。

朝は抜きの昼と夜のみご飯を食べることができる。背中とお腹がくっつきそう!と思っていたので、たとえ質素でも天の料理に感じられた。


そうして幸せそうに食べるから、子どもから大人にかけてたくさんの人間が「もっと太らなきゃ」とかなんとか言って料理を食べさせにかかる。


「いや!もともと量少ないんだから、自分の分は自分で食べなさい!」


そこではっとするが、気づいた時にはもう遅い。

喋ったら変だと、子どもなのにこんな喋るのか?と思われるかもしれない、そう思って喋らないようにしてたのに、つい喋ってしまった…………。


どうしよう、どうしよう……と慌てる智香子の耳に入ったのは、疑いの声ではなく、笑い声。


「あははは!!嬢ちゃん可愛いな!!」


「しかもアタシらの心配までしてくれてるよ!」


あははははっ!と腹から笑う彼らと、心配しすぎたことが恥ずかしくて顔を赤くする智香子。

誘拐犯たちが「なに笑ってる!そんな元気があんなら仕事しろ!」と乗り込んでくるまで、彼らは笑っていた。


そうして働きだした時。

智香子は一人の少女に目が向いた。


子供組には入っていないが十三歳そこらに見える。

顔は赤らみ、フラフラと足元がおぼつかない様子で、それでも懸命に働こうとしている彼女。

ちょっと、と呼びかけようとした次の瞬間、


バタッ


「!!」


少女は倒れた。

慌てて駆け寄る前に、誘拐犯の一人が近づき、「あ~ぁ、こりゃだめだ。」


「病にかかってやがる。」


少女の首根っこを無造作に持ち上げた。

まるで、汚いものを触るかのように。


「はぁ…………ガキ、か…………。薬代が持ったいねぇからな………………。」


そして近くで働いていた男性に「こいつ、地下室に連れて行け」と命令をする。


息をのむ人たちと、地下室?と首をかしげる智香子。

だが彼女には今、そんなことよりも優先しなければならないことがある。


ためらう男の人に「早くしろよぉ!!」と怒鳴る誘拐犯の一人。

智香子は近づき、汚らしく触るかのような手から、ぐったりとした少女を強引に奪った。

少女の体の方が大きいためうまく抱えることができずにそのまま少女を抱き込むようにして座り込む。


「あ?」


ぎろっと、音がしそうな目で睨んでくる男。


だが、しかし。


「は?」


こちらも負けてはいない。

怒りをあらわにして、智香子は男に言う。


「何よ、なんか文句でもあんの?病気の女の子を乱暴に扱う男から取り上げたら何か悪いことでもあるのかしら?悪いって言うんなら、貴方常識学んだ方が良いわよ。じゃなきゃ女の子どころか人としてアウトだから大勢に嫌われるわ。」


つらつらと言い切った彼女。

そっと少女の額に手を置けば、かなりの熱がある。


対して男は、小さな子供に馬鹿にされたのがよっぽど気に障ったのか、顔を真っ赤にさせ、叫ぶ。


「っ、ガキが!出しゃばりやがって!いいぜ、お前もそいつと一緒に地下室に連れて行ってやるよ!死ぬしかない、地獄になぁあ!!」


そこで何か思いついたかのように顔をゆがませ、


「まぁ、俺は寛大な心の持ち主だから!お前が今ここで俺にはいつくばって許しを請えば、許してやらんこともな」


「いいわ、別に。」


「は?」


言葉を途中でさえぎられたからか、首を傾げる男に、よっこらせと自分より少し大きい少女をおんぶした智香子。


(お、おぉ…………すごい。)


稽古のおかげか、はたまた少女が不十分な食事により軽くなってしまったおかげか、足がプルプルしない!

と喜んでいたのだが、呆けた顔の男を見て、逆に首を傾げた。


「何よ?聞こえなかったのかしら?連れて行ってって言ってんの、その地下室とやらに。第一貴方に寛大な心なんてあるわけないでしょ。何寝ぼけたこと言ってんのよ。寝言は夢の中で言うものよ。さぁ、連れて行きなさい。」


開いた口がふさがらない男に、ため息をつく智香子。


「はぁ、使えない男ね。ちょっと、そこの貴方。」


近くにいた、先ほど声をかけられていた男の人に声をかける。


「連れて行ってくれる?その地下室に。」


「え?ちょ、ちょっと待って。いくら何でも、あそこに連れて行くわけには…………。」


だが、彼は次には口を閉ざす。

理由は簡単だ。


イライラ度マックスに近い智香子に睨まれたからである。


「ごたごた言ってないで連れて行けって言ってんのよ。そこに近づきたくないのなら、示すだけでもいいわ。とにかく急いでんの。」


子どもとは思えない威圧感。

思わず「っ、はい!」と返事をしてしまう。


慌てて、少女をおぶる智香子を地下室に連れて行った男の人は、十六歳。

身長は二メートルまであと少し、195。まだまだ若造である。

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