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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第2章
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第139話:聞くに堪えない争い

 国王パトリックと王子ジェイミーの家族団らんを壊したのは、隣にいたセイディだった。

 ジェイミーの首に手をかけ、持ち上げていた国王の姿を理解できずに固まっていた。しかし昔のように優しい雰囲気で微笑む国王に先程の光景は何か間違いだと、見間違いだと判断して、再度キラキラとした瞳で恋しい人を見る。

 これほど近い距離に国王がいるのは、恋に落ちたあの時、頭を撫でられた時以来だ。


(ようやく、ようやく貴方に触れられる…!)


 念願叶うと近くにいる国王へ手を伸ばす。


「陛下!あの、私、ずっと貴方様のことを!」


「邪魔~」


 伸ばした手は届く前に、本人によって払われた。邪魔という言葉通り、近くを飛ぶ鬱陶しいハエでも払うような仕草に「え?」と小さな声が漏れる。一度セイディを見たきり、黄色い瞳はすぐに彼の後ろにいた智香子へと向けられる。


「かっこちゃーん。僕偉くない?ちゃんと親っぽいことできてて偉くない~?」


「それがなければもっと良かったわ。って持ち上げないで頂戴!」


「かこちゃんただでさえ小さいのに、この体じゃ前よりもっと身長差開いてさ、持ち上げないと聞こえないんだもん~」


「見下すな~~~~!!!」


 自身の髭を智香子へ擦りつけようとして、全力で抵抗されている国王。二人を見て、セイディは疑問に思った。なぜ、自分ではなく、醜い子供が彼の腕に抱かれているのか。なぜ、彼はこちらを一切見ようとしないのか。智香子に国王が向ける、情の込められた目も、声も、顔も、全てが、理解できなかった。


「どうして?だって、それは全部、私の物のはずでしょ…?だって私、そのために、好きでもない男とくっついて、嫌いな女蹴落として、お父様の言うこと聞いて、頑張ったのに…。どうして…?どうして…?どうして?!…そうよ、あんたが、あんたがいるから、駄目なのよ。あんたさえいなければ、陛下は私の物になるはずだったのに!許さない!許さないわ!私はあんたを許さない!そこを代わりなさいよ!」


 一貴は目線でセイディを下げるように配下へ支持する。音もなく現れた黒装束を身に纏った者たちによって、セイディの声は智香子の耳に入らない。好きな男への叶わぬ想いに嘆き、悲しみ、怒りに満ちた女の醜い顔など、到底智香子に見せられるものではないと判断したからだ。


「殺してやる…殺してやる…殺してやる…」


 呪詛を吐きながら連れていかれたセイディに気づかない智香子は、一貴から両手を抑えられてじょりじょり攻撃を無の表情で受け入れていた。


「…大宮先輩」


「なーにーかこちゃん」


「さっきの税金の話、嘘でしょ」


 ジェイミーには聞こえないように声を抑えた智香子。


「王室は独自の収入源を持っているはずよ。広大な領地を所有しているもの。土地の地代や不動産だけでも収入は十分ある。税金を生活費や活動費に充てるほど、収入がなく国庫も不足している、なんてことは、貴方たちの服や食事を見れば、ないと簡単に分かるわ」


 一貴はじょりじょりを止めて、ニヤッと笑う。


「…流石かこちゃん。なんでそんなこと知ってるの~?僕が昔あげた、異世界系の小説とか漫画から勉強した?」


「今お世話になってる人たちが教えてくれたのよ。十分すぎるほど、分かりやすくね」


 王族の裏事情など知っていいのかと始め思ったが、一般常識だからと言われて懇切丁寧に教えてもらった。実際裏事情もいくつか教えてもらっているのだが、智香子には何が裏で表かの判断は付かないし、外部に漏れても沙汰にならないものばかりであるので、例え智香子が誰かに話しても問題にはならない。


「バラしちゃう~?」


 智香子の髪を一房手に取り、口に持っていこうとする一貴の手を叩き落とす。


「いいえ。一般常識を学んでいなかった彼の責任よ。私はただカタールも同じなのか、事実を知りたかっただけ。まぁちょっと足りないけど、色々やらかした彼には良いお灸かしら」


 これから心を改めて学んでいけば、いつか知ることになる。それまでしっかり反省し、王族としての責務を果たしていけばいい。


「大丈夫、また別の罰も考えてるか・ら!」


「…ほどほどにするのよ」


 大学での嫌な思い出が蘇る。イケオジとなった一貴の信用ならない「勿論だよ~」に、智香子は未来のジェイミーに同情した。


 近くに来ていた大和の耳が動く。扉を見た大和の呟きは、智香子の耳に届いていた。


「来た」


 何が来たのかと入り口を見れば、ドンッと衝撃音と共に煙が立つ。「チカコ様!」と駆け寄るクラリッサ。魔物がまた現れたのかと緊張する智香子やクラリッサとは違い、一貴や大和は落ち着いていた。


「大丈夫?ラス」


「だい、じょうぶ…」


「妖精の言葉を信じて来たけど、本当にチカコいるの…いた!チカコー!」


 現れたのはベネッタ、カロラス、そしてダミアンの三人である。


「皆!どうしてここに!」


「突然消えたチカを探して飛んで来たんだよ。ほんと、探したぜ~」


「そこの甘獣とは違って、正面から。正規の手続きもバッチリ」


 降りようとした智香子を一貴は許さなかった。囲う腕は強くて、少し痛い。


「大宮先輩?」


 一貴は智香子を見ていなかった。視線を追った先には、いつの間にかダミアンの姿が。にこやかな笑みを浮かべるダミアンと一貴。しかしなぜだろう。智香子には二人の間に、火花が見える気がした。


「これはこれは!赤…アドリオンの国王陛下ではありませんか~!お初にお目にかかりますー」


「お初ではないのだが、貴殿はつい先日記憶を取り戻したのだったか。であれば記憶が混濁していても不思議ではない。貴殿が抱えておられる少女が、我が国の第三皇女だと知らないことも、仕方のないことであろう」


「第三、皇女…?」


 首を傾げてこちらを見てくる一貴に、智香子はなんと説明すれば良いのか迷った。そもそも第三皇女自体認めていないのだが、全部含めて話すには時間がかかる。


「…取り敢えず、ざっと話したこと以外にも色々あったとだけ、今は伝えておくわ」


「かこちゃんあの話以外にも色々あんの?!どんだけ~!」


 ウケる~とはしゃぐ一貴に、今度はダミアンが首を傾げる番だ。


「かこ、ちゃん…?」


 見てくるダミアンに、智香子はこれまたどこまで説明すれば良いのか迷った。元の世界の話を伝えなければならないのだが、全部話すには椅子と時間が足りない。


「なるほど、同郷だったんだね」


「えっ、なんで分かったの?!」


 そういえば彼らは心を視ているかと思うほど、相手の考えが理解できるんだったと智香子は思い出す。


「カコチャン呼び羨まし、じゃなくて。どうやらその呼び方、チカコ本人は認めていないようだが?」


「え~?でも最初以外止められてないし、ほぼ認められてるようなものでしょー。てかそっちこそ何?第三皇女とか、家族気取りですか?羨まし、とか全然思ってないけど。てかかこちゃん認めてない感じだけど、無理やり?それ犯罪じゃないのー?」


「家族気取りではない。家族だ。チカコがこちらの世界に来てからずっと一緒に生活をしているからな。起きて寝るまでずっと、一つ屋根の下でな」


 少し離れた場所で聞いていたベネッタとカロラスが自分たちも一緒だけどという言葉は、ヒートアップした二人には聞こえていない。


「はぁ?!何それ!じゃあ、寝起きのかこちゃんもお風呂上がりのかこちゃんも見てるってこと?!そんなの駄目でしょ!もう結婚してるようなもんじゃん!ずるいでしょー!」


「それだけじゃない!この間は、ほぼ裸を見た!」


「は、裸!?いや、まぁ僕だって、かこちゃんに命渡してるようなもんだし?それに、かこちゃんを食べた(齧った)ことだって、」


「ちょっと」


 男たちの盛り上がりは、一人の声でピタリと止まる。声の主は、腕に抱えられた智香子である。静かに発された「降ろして」に一貴は素直に従う。


「座りなさい」


 短い命令に、二人は素早く従った。

 その後始まった、小さな少女が国王二人を正座させて説教をする光景に、見慣れた双子や大和、クラリッサは「またか」という顔をし、見慣れぬ神父たちは驚きに目を見張ったのだった。

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