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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第11話:ファイア・ルドタウンへ

「ん?何て言ったの?ベネッタ。」


朝食の片づけの手伝いをしていた智香子は、同じように片づけをしていたベネッタの言葉に首をかしげた。

再度、ベネッタが言葉を繰り返す。


「街に、行こう。」


machi、マチ、まち……………あぁ、街ね!

智香子はようやく街という単語を思い出した。

異世界に来て約一週間。

一度も使わず聞かなかったから忘れてしまっていたようだ。


というか、


「街、あるのね…………。」


魔法があるこの世界。

食べ物から家具まで魔法で作ることはできないと決まっているのに、作れると思っていたようだ。

なにせこのレッドフィールド家の家の裏にも畑があり、家畜がおり、自給自足しているのだから。


「何をしに行くの?」


そう問えば、ベネッタは食い気味で言った。


「服を買いに!」


その赤い瞳をキラキラと光らせて。

智香子は思わず笑みをこぼす。いくら自分より身長が高かろうと、まだまだ幼い少女だ。


(可愛い………………。)


台に乗っているためベネッタよりも目線が高い現在、ベネッタの頭をゆっくりとなでながらダミアンを見る。

今までの話を聞いていたダミアンは優しく微笑み、頷いた。


要するに、街に行って買い物してもいいよ、ということ。

今日の稽古は、お休みだ。


忙しいのは嫌いじゃない。毛持ち無沙汰な状態よりも大分ましだ。

でも、休みがあるのは素直にうれしい。

ウキウキと心が弾む。


「それじゃぁ、お昼にでも行くわよ!」


久しぶりの買い物。

無駄な物を極力買わないように生活をしていた、というよりも必要なもの以外は買わないという考えの智香子だが、買い物が嫌いというわけではない。

むしろ好きな方だ。

綺麗なものや可愛いものを眺めるのは楽しい。まぁ買わないけど。

それって買い物って言わないのでは?という言葉は黙殺させていただく。


そしてクリストフからお小遣いを貰い、昼食は街でとることになった。


「それでは行ってきます!夕刻までには帰ってきますから!」


「いってらっしゃ~い!楽しんできてね~!」


アリシスとクリストフに見送られ、智香子たちは出発した。

が、智香子はどうしても言わずにはいられなかった。


「……………貴方たちも付いてくるとは思わなかったのだけど。」


そう、見送る側にいなかった、ダミアンとカロラスだ。

二人は当然という顔をして言う。


「せっかく稽古がお休みだからね。それに俺、街は久しぶりなんだ。」


「オレは暇だから!」


ベネッタと二人だと思っていたが………まぁ、いいか。


「それじゃ、道案内をしてちょうだい。」


腕を組みながら言い放った智香子に、三人は嫌な顔など一つもせずに頷いた。

ちなみに智香子の服装は、白いワンピースのところどころに花が付いているものに、ヒールのない靴、そしてつばの広い帽子だ。


コーディネイトはアリシスとベネッタがしてくれました。

キャッ!可愛い!お肌すべすべ~!とはしゃぎながら。

その時の智香子の心境は、無。

何を言われても、何をされても、何も感じないように努めた。

元の世界でも家族や友人たちから同じようなことをされていたから、慣れたものだ。


ベネッタも同じようにワンピースだが、青をベースとしており、胸元に赤いバラが咲いている、しかし目を引かれるコーデだ。

そこで智香子は自分の体に目を戻し、再びベネッタを見る。


そしてくっと息を漏らした。


足の長さから細さまで、何もかもが違う!と。


このまま順調に育って行けば、おそらくアリシスのようなスタイル抜群の超絶美女になるに違いない。

よく育ってほしい気持ちと身長をこれ以上広げられたくないがゆえに、そのままでいて欲しい気持ちが入り乱れる智香子である。


ちなみにカロラスは長ズボンに上はジャケットというきっちりとしている服だ。

日頃の元気少年なカロラスを見ているからか、見た目だけは儚げな印象を与えてくる一種の詐欺だなと思った。

するとなぜかダミアンとベネッタは笑い、カロラスは不機嫌そうにそっぽを向いた。


ダミアンは、ザ・色男である。色の落ち着いた服を着て、ボタンを一番上まで閉めているのに、あふれ出てしまう色気。


「不思議~…………。」


「ん?何が?」


考えていたことが口に出てしまっていたようで、慌てて「なんでもないわ!」と首を振った。

ふぅ、危なかった、と息を吐く。

今度は三人で笑いをこらえているが、どうしたのだろうか?


するとダミアンたちが立ち止まる。


「?」


どうしたの?とたずねようとしたとき。

突然足元に四人を包むくらいの魔法陣が浮かび上がる。


この一週間で、智香子は魔力がない中でも魔法について教えてもらっていた。

そのうちの一つが、この魔法陣。

ある場所とある場所をつなげる役目のある魔法陣は、ただ書くだけでも魔力を消費するわ使うでも消費するわで、一般には使われない。


よく使われるのは、やはり国交を行う場所だ。

移動は便利だし、狙われにくい。

その分人数に合わせて使う魔力量も大きく変わるという欠点も持つため、持っている国は少ない。


ちなみに智香子がいる国は世界の国々の中でも上位を争うほど大きい国で、魔法陣はもちろんある。


だが、智香子はいまだにこの国の名前を教えてもらえていないのだ。

周囲の国々は大小関係なく、国に所属していない部族の名前まで教えてくれるのに。

不思議でたまらないが、ただたんに自分の国の名前くらい教えなくても分かるだろう、と思っているのかもしれない。


それに智香子も気にしてはいない。いや、気にはなるのだが、どうせすぐにわかるだろうと思っている。

商品の名前にその国特有の何かを付けるのは定番だ。


しかし今一番気になるのは、なぜこんな森の中にこんな大きな、それこそ国交で使用しそうなサイズの魔法陣があるのか、である。


いくら考えても答えは出ず、時間も待ってはくれない。

転移魔法発動特有の緑色の光が辺りを包みだす。


(っ、どこかに捕まらなくてもいいの?!)


存在を知っているが、転移方法は知らない。

あたふたとする智香子に、三人は手を伸ばし、ダミアンが智香子の肩を引き寄せ、左手をベネッタ、右手をカロラスが握ってくれる。


そして


「っ!!」


視界を覆うほどの眩しい光があふれ、ぎゅっと瞼を閉じた。

それから数秒後。


「チカコ。もう着いたよ。」


優しいダミアンの声にそっと目を開く。


「ぅわぁあああああああ!!」


美しく活気あふれる街並みに、智香子は歓喜の声を上げた。


耳を澄まさずとも聞こえる人々の楽し気で陽気な声。


「さぁさぁこれからの時期に欠かせないものをそろえてあるよ!買った買った!」


「ねぇ知ってるかい?明後日、サーカス団が来るんだと!」


「魚屋のタークがまた振られちまったらしい!まぁ、あの美人さんに振られるのは決まってたことだがなぁ!ハハッ!」


休むことを知らないかのように動き回る馬たち。

そこかしこに植えられた花々。


上を見上げてみれば、青空に対するように赤い旗―――この国の象徴である色が目に映る範囲にずらーっとつけられている。


新しいものを見つけて興奮した子供のように頬を赤くしている智香子。

ハハハッと自然に笑みをこぼしたダミアンは言った。


「ようこそ。ここがこの国一番の街、”ファイア・ルドタウン”だよ。」

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