表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
12/150

第9話:今後のこと

翌朝。

もぞっと起きた智香子を襲ったのは、ひどい頭痛だ。

思わず頭を押さえる。


(こ、これが世に言う二日酔い、ね…………。)


丁度二十歳になった時にこちらの世界に来てしまったので、お酒を少々なめていた。

父と母が強く、兄も強かった。だから彼らは二日酔いなど起きず、翌朝もケロッとしていた。

ということもあり、同じく自分も二日酔いは起きないだろうと思っていたのだ。


だがこの痛さ。


それに昨日、お酒を一口飲んだあたりからの記憶がない。


「っ、お酒、弱かったのね………私…………。」


次からは飲まないようにしよう。

ズキズキする頭を押さえ、智香子はあたりを見渡す。

ふと、ここはどこだ?という疑問が起きた。見慣れない部屋だ。


まぁ、もう常識になりつつあるカロラスとベネッタが隣で寝ていることから、レッドフィールド家の一室であることはうかがえるのだが。


「ん……………。」


「……………………。」


良いタイミングで目を覚ました二人。

背伸びをして、あくびをして、ベネッタが「『流せ』」と魔法を使って、爽快感が体を包んで。


「「おはよう、チカ。」」


「……………おはよう。」


今日も双子のようだ。


「ところで、ここは誰の部屋?あなたたちの部屋かしら?」


ベッドのサイズは初めて目を覚ました場所よりも少し小さく(それでも元の世界からしてみれば異常と言えるほどでかい)、窓は二つで小さな机と椅子と言った家具(これらも大きい)が置かれていて、扉がある。

一人部屋のような場所。


「いや、オレたちの部屋はここの隣。」


隣、か。じゃあ、客間とか?


「ここはチカの部屋。」


こういう落ち着いた雰囲気の部屋、好きだなぁ……読書とかしたい。


なんて思ってた智香子はベネッタの一言に目を丸くした。


「わ、たしの部屋…?」


同時にうなずくふたり。

慌ててベッドから降り、一つしかない扉を開けた。

そこにあったのは、先ほど寝ていた部屋………寝室よりも大きく、たくさんの家具が置かれていた部屋だった。


呆然と口を開けたまま、固まった智香子。


こんな広い部屋を、一人で………。

なんだか申し訳ない。というか、使うのが恐れ多い。


そりゃ、金がふんだんに使われていて豪華だ!という見た目ではない。

木がベースとなって作られている。

絨毯からソファに至るまで、同じ柄がいい感じに施されていて、理想と言える部屋。


それが逆に恐れ多いと言うか………。

整いすぎていて、品が良すぎて、肩がこわばると言うか………。


カロラスとベネッタも近くに来た。

しかし固まってしまった智香子を見て、


「あぁ、小さかったか?悪い。これ以上大きな部屋だと、父さんや母さんのしかなくて………。」


「………拡張する?」


何か大きな勘違いをしてしまったらしい。


いやいやいや!これ以上大きな部屋はやめて!

そんな部屋もらったら、安心して眠れなくなって、不眠症になるから!


必死の形相で頼み込んでくる智香子に、二人は不思議な顔をしつつ頷いた。



どうやら智香子の部屋は二階にあったようで、三人仲良く一階に降りて行った。

そこにはすでにアリシスとクリストフ、そしてダミアンがいた。


おはようと朝の挨拶を交わした後、智香子は先ほどから耐えられなかったことをアリシスにたずねる。


「っ、あの、アリシスさん!今日の朝ごはんって、もしかして………………。」


するとアリシスは、それはそれは妖艶な笑みで言ったのだ。


「ふふっ。えぇ、クロワッサンよ~。」


二階の、自分の部屋から出た時。

漂ってきたおいしそうな匂いに、智香子はずっとそわそわしていた。

それもそのはず、無類のクロワッサン好きだったのだ。


あの匂いに、あの美味しさ。

甘いし、確かにバターの量は多いが、それでもやめられない魅力がある。


アリシスの言葉を聞いた智香子はパアッと笑顔になり、アリシスの料理の手伝いを始めた。

と言ってもほとんど終わりに近い状態だったため、皿やフォーク、ナイフなどの準備をした。


「ありがとうね~チカちゃん~。助かったわ~。」


「ふんっ。早く食べたくて手伝ったまでよ。」


という言葉も、クロワッサンを前にしたキラキラ笑顔じゃ「あぁ、本当にたべたいんだなぁ………。」くらいにしか思えないが。


「それじゃ、いただこう。」


口に入れた瞬間、広がる甘味。

智香子があまりの美味しさに崩れおちたのは、言うまでもない。



       *



そうしてクロワッサンを堪能した後、智香子はダミアンと剣の稽古&基礎体力作りを始めた。


トレーニングの内容はダミアンが昨晩考えてくれた。

一週間もすれば、二十分は剣を振れるようになるだろうとのことだった。


たった二十分、されど二十分。

そもそも五分間振れるようになればいいと思っていた智香子は、そんなに!と驚いたものだ。


そうして始まった剣の稽古。

の休憩時間。


汗だくな智香子と涼しい顔のダミアン。

今回もダミアンの魔法で汚れを流してもらった。


「ありがとう………。」


だからと言って疲れが取れるわけではない。

地面に仰向けに寝転んだ智香子は、ゼエゼエと息切れを整える。

隣にいるダミアンは、本を取り出して読んでいた。


(そう言えば、本、読めるのかしら…………。)


唐突にそんな疑問が頭によぎる。

この世界の人間に対して言葉が通じるなら、大丈夫だと思うが………。

なんせ智香子は、魔力なしである。

もしも、の可能性も、考えられる。


「……………何の本を読んでるの?」


恐る恐る訊ねれば、ダミアンは良い笑顔で「見て見る?」と差し出してくれた。

ドクン、ドクン、と心臓が緊張で鳴る。

ごくりと唾を飲み込み、覚悟を決めて見ると。



文字、読めなかった……………。



何これ、ナニコレ。

魔力ないだけじゃなくて、文字も読めないとか!

会話できるだけいいけどさ!

そのことをダミアンに伝えると、


「なら、勉強も必要だね。」


早朝体を動かし、朝ごはんを食べてから勉強、昼ご飯を食べて体を動かし、夜ご飯を食べて勉強。

という日程になった。


智香子はとんでもないスケジュールだと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ