表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第2章
119/150

第116話:礼儀知らずな子供

「なにこれおしゃれ!」


 机の上に置かれた料理を見て智香子は目を輝かせる。

 色とりどりの野菜とお肉が並べられている。


「野菜切って、お肉焼いただけ。そこのレタスで具財巻いて、食べる」


 ベネッタの口元を見てるとレタスとは言っていないが、智香子にはレタスと聞こえた。なるほど、これが言語能力の履修済みか。後で本当はなんと言うのか聞こうと智香子が思っているところで、クラリッサとカロラスが入ってくる。

 智香子達が楽しくお昼を食べていた頃


 アドリオン、王城。

 城の中を歩くダミアンは先程遠隔通信用の魔道具で、クリストフとアリシスとの会話を思い出す。


『カタールは現在、表面上は平穏を保っている。しかし不穏な点がいくつか見られる』


 有力な聖女候補、クラリッサ・コリンズの追放により、新しい聖女が急遽前倒しで決まった。これにより国はお祭り騒ぎ。その裏できな臭い動きがみられるという。

 カタール王が表に現れなくなったこと。国民には体調不良と知らされているが、治癒の専門家である聖女がいるこの国でなぜ、国王が体調不良で倒れているのか。

 またカタール国内で魔物の出現が増えているようで、地方の領民は王都へと集まっているらしい。


「カタールは聖女によって、聖なる結界が国を包んでいるはずでは?」


 魔物の侵入を許さない結界。それに包まれ、聖女を抱える国として、カタールは聖国ともよばれている。


『うーん。確かな情報じゃないんだけどね、その結界が今、弱まってるんじゃないか~って。ほら、本当の聖女様じゃない人が聖女様になっちゃってるでしょ?そうじゃない人に、国を守れるほどの結界は張れないわ~。前聖女様のお力が弱まってるから、ってことで、今回代替わりに備えた試験を実施してたんだし~』


 アドリオン国内のごたごたを解決するために残っていたダミアンの代わりに、聖女へ挨拶を済ませたクリストフとアリシス。その時はまだ代替わりをする前だったのだが、聖女の力は確かに衰えていた。

 カタール全土を包む聖なる結界、それを常時発動させ続けるのだ。聖女に選ばれてからずっと。それに合わせて人々の治癒も行うのだから、聖女の疲労は尋常なものではない。

 常人にはできないこと。

 現代の人々の多くは、この事実を知らない。とある先代聖女が、当時このことに心を痛めた民を想い、一部の人間にしか伝えぬように情報制限をかけたからだ。


 聖女は生まれた時から決められた存在だ。そうとは知らない国民に気づかれないために、聖女試験が設けられた。知っているのは王族含めた上位貴族だけ。


『ただ私たちを陰から監視する者がいるようでな、こちらも好きには動けん。他国の王族に対して、まさか手荒な真似はしないだろうが、情報を集めるのに時間がかかる』


 互いに何か新しいことが分かれば報告すると、通信を切った。

 カロラスから届いた情報と合わせて見ると、クラリッサに伝えられたカタール王の回復は嘘ということになる。クラリッサ追放の指示を国王は出していない。未だ体調不良で床に臥せているからだ。


「いや、それ以前に、体調不良が嘘か?」


「大いに考えられることかと思われます」


 そばに控えていたガトーが頷く。


 国王の名を騙り、本物の聖女を追放した人間がいる。


 執務室の扉が叩かれる。入ってきたのは侍従だ。


「陛下、カタールから使者が来られています」


 カタールから、事前の手紙も連絡も何もない。

 侍従の顔も強張っている。簡単に追い返せる相手ではないということか。


「…なんと礼儀知らずな子供が来たものだ」


「如何なさいますか」


「如何も何も、行くしかないだろう。一応、相手は王族だからな」


 父と母との情報交換だけを済ませて帰ろうと思っていたのに、ガトーに掴まって仕事をさせられ。次はこうして厄介な相手が来た。

 早く智香子に会いたいなぁと思いながら、ダミアンは重い腰を上げて執務室を出た。


「兄さん、結局昨日帰ってこなかったな」


 翌日。それもお昼時。

 ご飯当番になったカロラスは今、昼ご飯終わりの皿洗いをしている最中だった。本来なら智香子だったが、クラリッサの精神状態がもっともよくなるのは智香子と一緒にいる間だと判断し、しばらくベネッタとカロラスが智香子の当番を代わることになった。

 始め「わざわざ当番を代わることじゃない」と反対していた智香子だったが、どの当番を代わるか細かく決めるよりも、クラリッサが元気になるまでの間代わってしまった方が分かりやすい。クラリッサが元気になれば人手が増えるのだから、第一に考えるべき。後でどうせ代わった分の当番をすることになるんだから、結局労働は一緒。という二人の言葉に押されて頷くことになる。


 本音を言うと、クラリッサに対して、カロラスもベネッタもつい聖女候補だと気を使い過ぎてしまうのだ。それはクラリッサも同様。互いに気楽な方を選んだに過ぎない。


 兄であるダミアンがクリストフとアリシスへの連絡だけですぐに帰ってくると思っていたが、急な訪問者があったという報告以降、昼時になっても帰らない。どうしたのかな?とカロラスが洗い終わった皿を拭いていると、突然家のドアが開かれる。


「ラス!」


 そこには息を切らしたベネッタの姿。何事かと皿を置いて近づく。


「どうした、ベル」


「兄上からさっき連絡があって、」


「っ、はぁ?!カタールの第二王子が、アドリオン(うち)に来てる?!」


 カタールの第三王子が昨日急に城に訪ねてきたのは知っている。急な訪問だったが対処しないわけにもいかないと、兄が対応していた。しかし第二王子まで来ているのは知らない。

 お忍びで来ていたとのことで、分かったのがついさっきらしい。

 クラリッサが国外追放されて数日。このタイミングで王族が二人も来ている、ということが怪しすぎる。


「兄上もそう判断した。一先ず第三王子は城に。でも第二王子、まだ見つからないみたい」


「ぅえ~なんかいよいよめんどくさくなってきたじゃん…。でも、クラリッサ様の場所はバレてないもんな」


 クラリッサの存在がバレるとまずい。

 責められるべきはアドリオンではない。そもそも国外追放をしたのはカタールの方だ。その後、クラリッサが別の国で暮らすことにケチをつけることは出来ないし、クラリッサを自国に入れた国を責める権利もカタールにはない。


 問題は、クラリッサがカタールに連れ戻されることだ。

 始めて会った時のクラリッサを見ていれば、国でどんな目に合っていたか分かる。連れ戻された先でより酷い目に合わされないとも限らない。決められた聖女が、もし死ぬようなことになればどうなるか。


 それにクラリッサにもしもがあれば、親しくなった智香子が悲しむだろう。


 一応昨日の侵入者のこともあり、現在レッドフィールド家周辺には結界が張られている。許された者しか入れない特殊な結界だ。探知の魔法も効かない。クラリッサの居場所を突き止められる前に、他の対策も考えた方が良いとカロラスと話していたベネッタは、何かに気づいて二階へと駆けていく。


「ベル?!」


 客間の一つをクラリッサに貸した。彼女が元々着ていた服は、洗濯をして汚れは落ちたが破れたところはもちろん直らない。捨てるかたずねると、自分が唯一持っているカタールのものだから、残しておきたいと言われた。直すには時間がかかるから、そのまま部屋に置いたのだ。

 ボロボロの服を広げて、ポケットの中を探るが何も出てこない。自分の思い過ごしか…?と服をぎゅっと握った時、何か固い感触があった。

 恐る恐る襟の後ろに触れてみると、簡単には取れないように服の中に縫い込まれた、小型の魔道具を見つけた。


「ラス!探知器!」


 昨日家にやって来たカタールからの密偵。偶然、辿り着いたものだと思っていた。偶々見つけたのだと。あの広い森の中から、運よくこの家を見つけたことを疑うべきだった。大した情報も持たない下っ端だと甘く見て、ちゃんと尋問をしなかった自分を責めるベネッタ。


 部屋の前に来たカロラスも「くそ」と息を吐く。


 しかし今、この家周辺には結界が張られている。ダミアンお手製の結界だ。智香子とクラリッサは現在、薬草を取りに出かけている。もちろん結界範囲内。


「…なぁ、ベル。オレ、すっごく嫌な予感がするんだけど」


「気が合う。アタシも」


 事件にいつも巻き込まれる智香子のことだ。大人しくしていてくれと願い、二人は家を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ