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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
112/150

第109話:1ページ目に刻まれた瞬間②

まとめて飛んで行った教会連中を見ながら、やはり魔法の力は凄いと思う智香子。

人一人でも重いのに、成人した人間を、それも多数を一気に遠くへ飛ばすことができるのだから。

魔法を使うことができたなら、もっといろんなことができたのになと思わずにはいられなかった。


しょんぼりする智香子の元へ、ダミアンたちが集まってくる。

その顔はなんだか神妙だ。


「どうしたの?」


無事を確認されているのか、何か聞きたいことがあるけど話し出せないのか、両手を揉まれる。

好きにさせていると、意を決したらしい。揉まれていた手が強く握りしめられる。


「チカコ…。俺たちは、君に、話さなきゃいけないことがあるんだ。…それは、きっと君を驚かせるし、君はもしかしたら俺たちのことを、嫌いになるかもしれない。それが怖くて、今までずっと言えなかった。でも、もう、ちゃんと君に、伝えなきゃいけない」


正面に立つダミアンはいつものように、智香子の首を考えて屈んでくれている。

しかしその顔は俯かれて、表情も、赤い瞳さえ見えない。

智香子の手を握るベネッタとカロラスも、俯いて眉をぎゅっと寄せて、これから起こる何かに備えているようだった。

ダミアンが息を吐き、吸うのが聞こえた。


「…俺たちは、人の心が視えるんだ」


静寂が辺りを包む。

智香子が息を吸う。

つられて、智香子の両手に入る力がさらに強まった。


「知ってたわよ?」


「「「………へ?」」」


三人の思考が止まる。

まさか、心を視ることを知られていて、受け入れられていたということなのか?

ありえない!とカロラスが叫んだ。


(チカは知らないはずだ!オレたちの今までの会話から気づいてたとしても、それなら心を視たときに分かる…!でもオレたちは気づかなかった!)

(アタシたちが気づかなかったってこと?深層心理までは読み取れないから、そこで感じ取っていたなら、あり得ない話じゃない)

(いや、深層心理ってその人本人でも気づかない心の動きだから、そもそも気づけないよ)


ならばどういうことなんだ?!

三人の視線を一気に受けて智香子は怯むも、この状況への疑問が勝って首を傾げる。

何もおかしいことはない。


「心を読んでいる、と思われるほど相手の考えが分かるんでしょ?」


「「「…………ん?」」」


今度はダミアンたちが首を曲げる番だ。

不思議そうな顔をする彼らに、なぜ逆に気づかれていないと思っていたのかが謎な智香子。


「一緒にいれば流石に気づくわよ。話さなくても、物を取ってくれるし、会話ができるし、配慮をしてくれるし。まさに心を読んでいるかのような言動がいくつもあったわ。これで気づくなという方が難しいわよ」


冷静さを取り戻した三人は思った。

勘違いをされている、と。


(え、逆になんでそこまで分かってて気づかない?!)

(チカの世界には魔法がないから、心を視られるかもしれないってのが始めから頭にないんだと思う)


心を視ることを、受け入れられると、受け入れられていると思ったが、違った。

勘違いされているだけだった。

受け入れられたわけではない。

三人の体が震えたかと思えば、突然笑いだしたことに智香子は目を白黒させた。

「ど、どうしたの?!」と急に笑い出した三人に向けられる感情は、心配。今回の反乱による疲れで狂ったのか?と考えているのが分かって、また笑ってしまう。

受け入れられたわけではない。

受け入れられたわけではないが、


「あはは!最っ高!本当にチカコはかわいいね!」


きっと智香子は、本当に心が視えると分かっても、受け入れてくれると思った。

かつて首を振った夢物語の願望を思い出す。

受け入れてくれるのなら。期待しても良いのだろうか。信じても良いのだろうか。

いや、期待したい。信じたい。

心の底から、疑うことなど一切せずに、ただただ信じたい。


彼女になら、裏切られても良い。

智香子から与えられるなら、それさえも喜んで受け入れたいと思った。


(離したくない。ずっと一緒にいたい。この人を、守りたい)


ダミアンが抱き上げれば、近くなった顔に智香子の頬が染まる。

ベネッタとカロラスが手を握り、「チカ、かわいい!」と元気よく言う。

ダミアンが耳元に口を近づけた。


「可愛いよ、チカコ」


突然の可愛いコールに、赤面しながら智香子は叫ぶ。


「見下すな~~~~!!!」


『チカコさ~~ん!』


叫んでいた智香子は、背中からの突然の衝撃にダミアンの腕から落ちる。

地面に顔面ダイブを決める前に、抱えられる。


「あ、ありがとう…」


支えてくれた腕をたどれば、とても嫌そうな顔をした火の妖精王カルパトであった。

ぺいっと放り出される。

ダミアンたちから睨まれても何食わぬ顔をしていたが、妖精女王であるエフィエルシーが『カルパトァ』と地の這う声で名を呼べば、途端に顔を青くして慌てだす。

弁明空しく、カルパトは離れたところで待機させられることになった。

結果は分かっているのだから余計なことをしなければいいのに、と智香子は思ったが、彼らの魔力無しは魅力無しは随分と徹底しているということだろう。本能には抗えまい。


智香子は一番気になったことを目の前でニコニコ笑うエフィエルシーに訪ねた。


「貴方、その体は一体どういうこと?」


エフィエルシーの体は、最後に見たときの妖精王たちと同じくらいの背丈から、始めに会った時の智香子と同じくらいの背丈へと変化していた。


『どうやら自力を使い過ぎてしまったみたいで、防衛のために体が小さくなったようです』


妖精女王の記憶が完璧に戻っていないエフィエルシーは、妖精女王でありながら完全体ではない。また今まで使っていなかった自力を急に使ったことで、身体に大きな負担を強いることになった。

これ以上無理に自力を使わないように、自力の循環が良い大きさに体が縮んだ、というのがエフィエルシーの見解だった。


『そんなことより!チカコさん無事ですか?!お渡ししたお守りが消えたので、チカコさんに何かあったのかなって慌てて飛んで来たんです!』


「問題ないわ。世界に飲み込まれた時、元の場所に帰してもらう代償に使った、だけ、よ、」


言葉が途切れ途切れになり、智香子の瞼は閉じていく。

慌ててダミアンが支えたことで倒れることはなかったが、意識がない。

何か問題が起きたのか、と緊迫した空気が流れる中、聞こえたのは規則正しい呼吸。

智香子は眠りについているだけだった。呼吸に合わせて動く胸の動きからも間違いはない。


「ここ連日、妖精国で動き回り、戻ってきてすぐ反乱に巻き込まれたんだ。疲れが溜まっても無理はない」


よくここまで意識を保ち、動けていたのかも不思議なほどだ。

軽い彼女を腕に抱える。


クルクルと智香子を確認するエフィエルシー。

確かに怪我は見受けられない。


『無事みたいですね…って、え?!世界に飲み込まれて、も、戻ってきたんですか?!』


驚くエフィエルシー。近くの人を見れば、ベネッタやカロラスは頷いてくれたので、自分の認識がおかしくないことに気づく。

言いたいことは沢山あるけれど、まぁ命があるなら良いだろうと思う。


『妖精女王。簡略ではあるが、無事の復活お祝い申し上げる。して、貴殿は王。人間界に降りてきてもよろしいのか?』


『赤の王よ、祝いの言葉感謝する。我らは人の言葉は理解できる故、無理に妖精の言葉で話す必要はない。今回は一応のお目付け役がいる。問題はあるまい』


本当は妖精王全員が来ようとしていたが、今は妖精女王の誕生や妖精殺しの件で国内が安定していない。全員が不在にするわけにはいかなかった。

結果、火の妖精王カルパトだけが付いてきたのだ。

しかし今も智香子に睨み飛ばすカルパトに、やはり連れてこなければ良かったと思ってしまうエフィエルシー。


「たかが妖精王が、チカコに嫌悪を向けるか?」


連れてこなければ、赤の王を含めた王族を怒らせることもなかったのだから。

空が常の妖精が、魔法により空に無理やりとどめられている。

苦し気に喉を掻くカルパトに、エフィエルシーはため息を吐いた。


『赤の王よ。我が同種の無礼、許していただけないだろうか』


頼めば僅かの間が空いて、「………次はない」と放してくれた。

この王は優しいのだな。

咳き込むカルパトが縋るようにエフィエルシーを見てくる。


『もちろん、次などない』


カルパトが何かを発する前に、エフィエルシーはカルパトの存在を消した。

消滅しても、どうせ記憶を持って転生するのだ。大した罰ではない。


しかし、智香子を睨んだ個体がいることが、エフィエルシーは許せなかった。


『改めて感謝申し上げる』


可能なことなら、このことは智香子には伝えないで欲しいところである。

彼女は人の死に敏感なようだから。

そのことを分かっているようで、ダミアンは一つ頷いた。


神殿の端。


「…なんだ?これは」


近づいた大和は、それが先程教会の信徒の一人が手に持っていた魔道具だと思い出す。

どのようなものかは分からないが、まだ起動しているようだ。

嫌な感じがするからと、踏みつぶす。


とある国。届いていた映像が、ビスウィトの登場により途絶えたことでその場にいた人間は息を吐いた。


「なんだ、あれは…。ビスウィトか…?あれほどの強さを持つ個体など存在するのか?しかも!妖精女王がいたぞ!」

「彼の女王は千年ほど眠りについていたはずだが、ついに目を覚ましたのか」

「ビスウィトが大した影響を持つことはないだろうが…。女王が目覚めたことで、この千年の間に落ち着いてきた世界の均衡が、また揺らぐであろうなぁ」


「問題はそうではないだろう」


騒がしかった場が静まり返る。

その人物には強い発言力があった。


「あの少女。第三皇女チカ。王族であり、ビスウィトを従え、妖精女王とも親し気であった、娘」


「女王が眠りについていたことで赤と緑の縁は薄れていた。それが再び戻るとなれば、アドリオンに力が偏ってしまう!ただでさえ大国として各国の経済や産業の中心にいるというのに…」

「今、こうして世に出てきたのも気になりますな。タイミングが良すぎる」

「偶然か、はたまた、我らの計画を見越して、か」


「妨げになり得るならば、排除せねばならぬ」



この日、映像を見た者だけではなく、智香子の声を聞いた国民により、智香子の存在は人々に知られることになる。

新聞の記事にも大々的に取り上げられ、国内外問わずその名は広まっていく。

「第三皇女 チカ」という人物がこの世界の歴史の一ページに刻まれた瞬間であった。


ダミアンの腕の中にいる智香子には知る由もなく、穏やかな顔で眠りについていた。

これにて第一章が終わりです!

明日から第二章が始まります。第二章は、聖女編からスタートです!

今後も「転移小人の奮闘記」をどうぞよろしくお願いします(*^^*)

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