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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第8話:剣の練習②

ダミアンは今、笑いをこらえるのに必死だった。


智香子に剣を教えることになり、まずは基礎知識体力をつけるため走り、剣を振ることを繰り返した。

そこからカロラスとベネッタが帰ってきて簡単な昼食を済ませ、再び剣の稽古を再開する。


ここでダミアンは思うことがあったのだが、後のことを考えて面白そうだからと稽古を続行したのだ。


そして現在、夜を間近に控える夕方。

智香子はダミアンの腕の中におさまっている。


なぜなら。


全身筋肉痛で動けなくなったからである。

当然と言えば当然だ。

前にも体育2のくせに狼から逃げるため走っただけで筋肉痛に陥ったのだから。

それが今回素振りも加わって、全身筋肉痛に。


腕の中で自己嫌悪に項垂れる智香子の考えていることが、ダミアンには簡単に分かった。


「ククッ……………。」


思わず漏れた声。それに敏感に反応する智香子。


「っ、ダミアン!貴方、こうなることが分かってて止めなかったのね!」


きっと睨み付けてくるが、怖くもなんともなく、逆に可愛らしい。

ダミアンは答えず、笑みを浮かべただけだ。

「答えるのよ!ダミアン!」腕の中で騒ぐ智香子に、


「さぁ、もうすぐ夕飯ができるころだ。家に帰ろう。」


彼は笑みを崩すことなく告げた。


そして、


「っ、わぁあ!!」


目の前に広がる豪華な料理に目を輝かせる智香子。

今はダミアンの腕の中ではなく、定位置となりつつある、カロラスとベネッタの間だ。

そんな智香子は、アリシスが主となって四人で作った、ということを知り驚いている。


「すごい…………。」


そんな顔が一層二十歳に見えなくしているのを、智香子は知らない。

クリストフが、ワインを片手に立ち上がる。


「それでは、チカコとの出会いに感謝して、乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


「………………………え?!」


実は今晩は、智香子のお祝いパーティーなのだ。

そのことに気づいた智香子は、驚き、照れている。


「えっ、ちょ、こ、こんなことされてもうれしくないのよ!まったく!」


でも、嬉しそうだ。


ダミアンはワインを一口飲んだ。

すると智香子が「あれ、自己紹介してないのに、なんで名前を………。」と首を傾げている。


「ベネッタやカロラスが名前を読んでいたのを聞いてな。」


というクリストフの言葉に納得した。

それから改めて自己紹介を始めた。


「遅くなってしまったけど、智香子と言うわ。こんな見た目だけど、二十歳よ!あと、は、その…異世界から、来たの。」


恐る恐る、という風に話す智香子。

だが驚くことも恐怖の感情を浮かべることもしないクリストフたちに安心したようだ。


「しばらくここに置いていただきたいのだけど…………。」


その感情は、不安。

そんな智香子を安心させるため、横にいるカロラスとベネッタが彼女に抱き付いた。

目を白黒させる智香子に、クリストフとアリシスが優しく微笑む。


「勿論、大歓迎さ。」


「逆にいて頂戴~。ご飯を作る甲斐があるというものだわ~。」


その言葉に、ほっと息を吐いた智香子。

だが、クリストフとアリシスはその微笑みをにやりとした笑みに変えた。


「それにしても、二十歳、つまり立派な成人だ。」


「ということは~、お酒、もちろん飲めるわよね~。」


「え?」


あぁ、とダミアンは思った。

クリストフとアリシスは智香子に酒を飲ませようとしている。

そして彼らは相当酒に強いから、きっと付き合わせられたが最後、つぶれるだろう、と。


(ご愁傷さま。)


同じく酒には強いダミアンは、強くないだろう智香子のその後を想い、心の中でつぶやいた。



       *



「あぁ~あ~、チカ、寝ちゃってるじゃん。」


ダミアンの予想通り、クリストフとアリシスにつぶされてしまった智香子は、机に突っ伏して眠りについている。

カロラスは非難の声を上げ、ベネッタは毛布を智香子にかけてやる。


そこでカロラスは自身の兄を睨み付ける。


「で、兄さん。なんでチカに剣を教えたの?」


ダミアンはグラスに入っているワインを回し、爽やかな笑顔で言った。


「面白そうだったから、だよ。」


その答えに、うげっと顔をしかめるカロラスとベネッタ。


「まぁ、本当に教える気はなかったんだけど、あんな顔されちゃぁね。」


思い浮かべるのは、眩しいまでの笑顔と。

純粋で、まっすぐで、芯が通っている瞳。


(あんな顔で見られたら、誰だって許可出すだろう………。)


手元にあるワインをのどに流し込む。

だが、まだまだ酔う気配はしない。

そのことに自然とため息がこぼれた。こんな体質ではなく、簡単に酔えたら、もっと好き勝手にいろんなことを吐き出せただろうに。


「チカコの部屋、どこ?」


「アタシの部屋の隣。」


「わかった。」と呟いたダミアンは、眠る智香子をそっと抱き上げた。


「……………変なこと、したら許さない。」


そこでベネッタから強めの睨みが飛んでくる。

苦笑しながら「わかってる」と答え、ダミアンは二階へと足を運んだ。


トントンと軽く階段を登る。

ふと腕の中で眠る智香子が起きないかが心配になり、動きを少し遅らせる。

そして智香子の部屋につく。

中はもともと客間だったからか、綺麗に整頓されていた。


ダミアンは寝室へ続く扉を開け、ベッドに智香子を横たわらせる。


スースーと呑気に眠る智香子。

ダミアンは彼女のほっぺを指でつつく。


プニプニとした感触がし、次いで彼女は嫌そうに顔をそむけた。


それだけで、なんでか自然と笑顔になる。


肌寒い夜。

寝ている智香子の上にそっと布団をかけ、ダミアンは息を吐いた。


この見た目と年齢が大きく異なる少女は、とても変わっている。

だから、自分たちのことを受け入れてくれるかもしれない。

もし、受け入れてくれるのなら――――


そこで首を振った。


(あまり期待はしないほうがいい。いつだって、大きく期待をして信じた分だけ裏切られた。)


裏切る。

その行為を犯してしまうのは、どうしようもないことだと思う。

畏怖の対象が目の前にあれば、尚更だ。


再び息を吐きだし、ダミアンは部屋を出ようと腰を浮かせる。


ふと思い出したのは、智香子になついているカロラスとベネッタのこと。

彼らだって自分と同じはずなのに、ずいぶんとこの少女に肩入れしている。


裏切られる、ことを知らないわけでもないのに…………。


しかし、


(……………信じられたら、どれだけ楽だろうか。)


心の底から。

疑うことなど一切せずに、ただただ信じられたら。


そんなのは夢物語だと思いつつも、なかなかその考えが頭から離れない。



あぁ、この少女が、心の底から信じられる人物だったなら――――――――――――――



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