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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第105話:正義のフワフワ②

教会の信徒が持つ箱。

それは映す景色や音を遠くに届ける魔法道具である。

対となる魔法道具は今、アドリオン中央都市ファイア・ルドタウンにある国立広場にて、現場の様子を投影していた。

突如現れた映像に民はテロかと慌てる。

近場の派出所に在中する騎士を呼びに行く。

到着した騎士が魔法道具に触れようとするも、弾き返される。道具そのものに触れられないよう魔法が施されていた。また役目を終えた場合、自動的に消滅するような仕組みも付けられている。

騎士は周辺住民への注意喚起を行うが、一定距離を開けた場所からでも映像は見えるし音も聞こえる。


やがて彼らは映像にのめりこむ。

神殿の屋根の上に立ち、ビスウィトを隣に侍らせ不思議な服を着た少女。


「私の大事な家族を、傷つけるようなこと言ってんじゃないわよ!このボケナスども!」


彼女の姿に、言葉に、意識を向けずにはいられなかった。


智香子の叫びに、貴族の一人は唇を強く噛みしめる。

くそ、と心の中で悪態を付くほどに、今の状況は良くない。


教会と貴族。

2つが手を取り、王位を覆すべく反乱を起こした。

目的は違えど利害の一致から手を組み、途中までは上手くいっていたのだ。

第二皇女であるベネッタが世界に取り込まれた瞬間、計画の失敗に落胆した。まぁ世界の乙女などまだ他にもいる。最悪王族でなくても良いだろうと思っていたが、ベネッタは奇跡的に帰還した。

しかし厄介な獣、ビスウィトに妨害されたことで、世界との同一化も、彼女の創生神としての復活も叶わなかった。


だから計画を変更した。

国民からの賛同と協力を得ることにし、魔法道具を使って、まずは王族への反感を煽る。例えベネッタを王位につかせられなくとも、国民から王族に対する印象を操作できれば、反乱は必要なことだったと国民が支持をする。大きな権力も、大勢の声には膝を折るしかない。アドリオンの王家は代々、心を視る能力を持つ。この国でも周辺諸国でも当たり前のことではあるが、強い力に抑えつけられている圧迫感は、誰かが、どこかで、持っているはずだ。火の粉さえ煽れば、炎は簡単に燃え広がってくれる。

そうして我々貴族の行いが正しいと思わせる。願うなら、王家の失脚を。しかしそう上手くは行かないことは分かっている。ともかくこの反乱が国民にとって、不必要なことではないのではないか?と思わせることが大事なのだ。

最後に500年前の事件から避けられている、教会へのイメージ払拭および仲が良好であることを示す。教会の悪事は、この500年語り継がれてきた。しかし時間は事件の重さを軽くする。500年前の教会が大量虐殺を行ったとしても、今の教会がそうとは限らないと思わせることが出来れば、教会は心を改めていると思わせられれば、今後手を組む際に今回以上に動きやすくなる。


途中までは上手くいっていたのだ。上手くいっていた、のに!


(あの小娘が来てから、風向きが変わった!)


操られていた庶民も、私利私欲じゃなく本当に国と民を案じた貴族連中も、小娘の言葉に、存在に、吸い寄せられている。


(まずい。まずい。まずい!せっかく、お任せいただいたのに、私が失敗したとなれば…。)


期待しているよ、と肩に置かれた手の重み。

責任を負う辛さはあったが、重大なことを任されたことに嬉しさを感じた。


(ディバル公爵のご期待に添わねば…!)


一先ず小娘をこれ以上話させるのはまずい。


教会陣営に助けを求めたいが、司祭は未だに魔法道具を使い続けていた。

意図が分からない。使用をやめさせたいところではあるが、ここで国民の支持を下げかねない行動は悪手だ。

であれば、利用するのみ。

貴族は智香子を見上げる。


「何を言うかと思えば…。私はただ、事実を述べたに過ぎない。この国の現状を、王族の行動を。何の間違いもないだろう?貧困で飢える民がいる。それを王族は見ないふりをし続ける。皆様もそう思うだろう?我々はただ、声を上げているだけだ。不当なこの現状に異議申し立てる権利さえ、我々にはないというのか!いいや!我々はこの国で、地に足を付け、日々一歩一歩生きている!我々自身の幸福、豊かさ、そういったもののために声を上げ、立ち上がる権利を、我々は持っている!そのことを忘れてはならないのです!」


視線が貴族に集まる。

魔法道具の向こう側にいる民の視線も感じる。


「そもそも、疑問に思いませんか?なぜ、我々の王は、恐怖により支配をするのか?心を読む力を代々受け継ぎ、我々を支配する…。それはまるで、我々を監視しているようではありませんか?本心さえ全て見据えて、何か意に反することをすればすぐに我々はその命を散らしてしまう。なぜ?何もしていないのに。ただ彼らの考えとそぐわぬことを考えただけなのに、なぜ、我々の命はこうも容易く扱われてしまうのですか?そんなことは可笑しいでしょう。正当な扱いではないでしょう。他の国ではそのような統治はされていないのですよ?皆が心を読まれることなく、心穏やかに暮らしているのです。であれば、当然我々も恐怖による統治から、抜け出せるはずだ。皆様、共に声を上げましょう!我々が生まれながらに持つ、正当な権利を主張するのです!この手に自由を掴むのです!声を上げましょう!共に!幸せを得るために!」


人から注目を向けられているという事実に、酔い痴れる。

周りにいた貴族たちが、共に声を上げる。

声はどんどん大きくなっていく。

こうなれば、もう貴族がすることは特にない。共感を煽りまくればいいだけ。

焦ったが、なんと簡単なことか。

手に入るのは、今以上に豪華絢爛な生活。爵位向上も見込める。

つい笑みが零れる。


「ハハハ…。心を読み、人々を支配する化け物なんぞ、消えてしまえば良いのだ。」


小さい言葉は、周囲の貴族や教会の信徒にさえ届かない。

魔法道具でももちろん音は拾えない。

でも、魔法により音を届けられていた智香子の耳にはしっかりと届いていた。


「誰が、化け物だって」


一歩、智香子は更に前に出る。

屋根の縁にかけられた足。その体はもう一歩進めば、すぐにでも下へ落ちていく。

ダミアンたちの静止の声よりも、智香子が口を開く方が早かった。


「誰が!化け物だって?ほんとアンタたち、何にも見えてないのね。」


貴族は嫌な予感がした。


「皆様!あのようなどこの誰とも分からぬ子供の言葉に耳を傾けてはなりません!得体のしれぬ者が何を言ったところで、その言葉には一切の信憑性も、真実性も、ないのです!」


言葉を重ねても、周りの貴族から「そうだ!」と共感されても、胸の内がざわめく。

魔法道具の向こう側が、小さな少女に注目をしているのが分かってしまう。

ただ息を吸い込む。吐く。

彼女の一挙手一投足に、視線が集まる。


「よく見て見なさいよ。街の人々の顔、見たことないの?すっごい楽しそうなのよ。すっごい活き活きとしているわ。新鮮で新しい物が沢山あったわ。きっと、買ってくれる人のこと考えて選ばれたものだったのよ。だって見ているだけで楽しくなっちゃうものばかりだったもの。サーカスも来てたわ。大きい国だからってのもあるでしょうけど、楽しませたい人がいて、それを見たいって人がいるから成り立つものよ。恋をしている人もいたわ。誰かが誰かを当たり前に大切にすること、しようと思うこと。それは当たりまえのことなんかじゃないのよ。彼らが、この国で楽しそうで、活き活きとして、幸せな顔が出来ているのは、ダミアンたちが、今の王様や王族の人たちや役所の人たちが、国の人を守って、より良い生活を送れるようにしている何よりの証拠でしょ!」


言葉を遮りたくても、いくら貴族が叫んでも、少女の声は魔法が使われていて良く響いた。

魔法道具なんかで音を拾わなくても、遠い国立広場に風で飛ばされるほど。


「そりゃ私が行ったことあるのは、この国一番の街と1個の領地だけだから、表面しか見てないってのは私にも当てはまるでしょうね。でも自分の私利私欲のことだけを考えて、そのために他の人の気持ちや命を利用しようとするアンタたちなんかよりもよっぽど見えてるわ。表面ばかり見て、本質を見ない。いいえ、見ようとさえしない。空っぽの言葉で人を惑わす!アンタたちの方がよっぽど化け物よ!」


教会の信徒たちは、唐突に500年前の事件のことを思い出す。

忘れぬようにと語り継がれてきたこと。

約500年前、消えてしまわれた創生神を見つけだし、この世界を正しい方向へ導く。

褪せない目的のため、彼らはついに創生神の復活、女神の誕生を成功させる、その直前までたどり着いたのだ。

しかし失敗に終わってしまう。

話の中で必ず憎々しく現れる人物。


英雄クリスタ。


彼女さえいなければ、創生神は復活を果たし、この世界は正しい方へと向かえたのに。

憎い。憎い。恨めしい。

その言葉とともに、もうこの世にいない怨敵の話を聞く。


なぜなのだろうか。

なぜ、英雄と呼ばれる、我々教会にとっては怨敵を思い出すのか。


なぜ、そんな見たこともない英雄と、あの少女が、重なって見えるのだろう。


魔法道具を持つ信徒はちらりと横の司祭を見た。

顔の見えないはずの彼の目が食い入るように智香子を見ているだけなのだが、ぞわりと寒気が体を包んだ。

派出所:交番の古い呼び方

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