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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第102話:ぶつけられた言葉③

なにやってるんだよチカは!と思いながらも、カロラスはそれ以上動くことは出来ない。ダミアンの魔力が充満しているからだ。

部屋の中にいるだけで精一杯。

奥の二人の様子を、ただ固唾を呑んで見守るだけ。


ダミアンは、智香子の言葉が飲み込めなかった。

頭が急に動かなくなるのと同時に、身体も動かなくなる。拒否されたことに、先程まで浮かんでいたのが途端地の底へ落とされたような絶望を感じていた。

ダミアンの様子に智香子は気づかない。


「君さえいてくれれば幸せって…。何言ってんのかしらこの寝坊助は。頭湧いてるんじゃないの?私が貴方と会ってまだ一か月も経ってないのよ?過ごした時間なんてそれ以下。その程度の関りで、アンタの幸せ全部私が元になるとでも?馬鹿言ってんじゃないわよ。今までのアンタを育てたのは誰?今までのアンタに愛情を注いでくれたのは誰?私と出会う前に、アンタと一緒にいてくれて、アンタとご飯食べてくれたのは誰よ!」


「ぅえ、ぁ、えっと、」


「家族や友達でしょうが!!!」


「はい」


胸倉を掴まれて、二人の顔が近くなる。

ダミアンの視界には智香子しか映らない。


「今までずっと一人だったなら話は別だけどね、アンタはちゃんと愛されてきたんでしょ。アリシアさんやクリストフさん、ベネッタやカロラスはアンタに冷たくするような人たちじゃないでしょ。」


「でも、君が現れてから、俺はご飯が食べられるようになったし、夜も前より眠れるようになった!」


「確かに空腹が満たされれば幸せを感じるわ。睡眠不足は身心に影響を及ぼすから、とても危険なことよ。ただ、ダミアン、アンタ忘れてるわ。私だけとご飯食べた?私だけが睡眠に影響を及ぼした?違うわ。貴方が一緒にご飯を食べたのは、私を含めたレッドフィールド家の皆さんだし、よく眠れるようになったのはお風呂を整えてくれる人や家の中を綺麗にしてくれる人たちによって、眠れる環境がちゃんとしていること。それが影響を及ぼしているの。」


智香子の言葉はダミアンの考えを否定するものだ。

しかしダミアンに自然と、一緒にご飯を食べている家族や、各々が家事を分担している様子を思い出させた。


「私がこの世界に来て、何かしらの影響は及ぼしたのかもしれない。でもそれはきっかけに過ぎないわ。」


智香子がぽつりと「…一体私がどんな影響を及ぼしたのかは全く見当もつかないけど。」と呟く。


「まぁ、だから、君さえいてくれれば幸せだって言葉が私は気に食わないわ。そんなわけないもの。貴方が幸せになるには私だけじゃ駄目。他の人たちも必要よ!それを貴方が理解していないことに、腹が立つ!ダミアン!」


「はい!」


「理解するのよ!誰か一人がいれば幸せに、なんてこと不可能よ!人間は、互いに助け合いながら、お互いの不足分を補い合いながら生きていくものだから!私さえいてくれれば幸せ~なんてふざけたこと言うんじゃないわよ!もし次そんな気持ち悪いこと言ったら、その口縫い付けてやるわ!良いわね!」


視界に入るのは、智香子だけ。

彼女は否定した。

「君さえいてくれれば幸せだ」というダミアンの言葉を、否定した。

かつて恋人たちが望んだ、ダミアンの心からの言葉を。


嫌な思いはしない。いっそ清々しい。

「気持ち悪い」と言う言葉さえ、気持ちよく感じる。

正面から、自分よりも年下の女の子から、叱られるとは。


体が熱くなる。心臓が脈を打つ。顔に熱が溜まっていく。


「ちょっとダミアン!分かったの?!」


「…うん、ごめん、分かったよ。理解した。君さえいてくれれば幸せだなんて、そんなこと、もう二度と言わない。」


「分かったなら良いのよ!」と満足そうに笑う彼女に抱き着く。

急に胸に飛び込んできて抱きしめてくるダミアンを不思議に思いながら、ダミアンの頭を撫でる。

そこでようやく、智香子は扉の前にカロラスが立っていることに気づき声をかける。


(なんだ、これ)


ダミアンの全身が発火したように熱く、心臓が早鐘を打つ。

彼女に触れているからだ。彼女が触れているからだ。

でも、離れ難くて、手放せない。


君さえいれば幸せなんて、バカなことを言った。

幸せどころじゃない。

楽しい、面白い、腹が立つ、心配、悲しい、恋しい、驚き。

智香子が与えてくれた感情は色鮮やかにダミアンを染めていく。


幸せだけ、どころじゃない。


君は、俺にとって特別なんだ。


ダミアンの魔力が霧散していき、ようやく動けるようになったカロラス。

智香子に呼ばれて近づく。

しかし近づいたことで、ダミアンの顔が見えて足を止めた。


頬を染めて笑みを浮かべ、とろけた目で智香子だけを見つめる男の顔なんて見たら、誰だって思うはずだ。


(気持ちわるっ)


「カロラス?どうかした?」


当の本人が視線にすら気づいていないことが唯一の救いか、とカロラスはまた足を踏み出す。


「しっかし、酷い有様だな。」


辺りを見回せば、抉れたり燃えたりしている地面や壁が目に入る。

そりゃそうよ、と智香子が頷いた。

動きを止めるのはこの現状を作り出した男だ。

すぐさま智香子から目を離して場を見て、智香子の体を持ち上げる。

眼前には場の荒れ様と、智香子の傷。

そこから導かれた結果にダミアンは顔を青ざめさせた。


「ご、ごめん…!俺、おれ……。」


「もう済んだことよ。気にするだけ時間の無駄なんだから、気にすることはないわ。」


ダミアンから力が抜けたため、智香子は地面に降りる。

教会の信徒たちはどうしたのかとカロラスに問えば、大和が応戦してくれているらしい。

すると部屋の扉が開かれて、大和が入ってくる。


「奴ら突然姿を消したぞ。神殿がどうとか言っていた。」


「神殿…?何が起きてるんだ?」


「一先ず神殿へ向かうわよ。」


動き出そうとしたところで、大和の上で何かが動く。

眠りについていたベネッタがようやく目を覚ました。

体を起こしたベネッタは一度伸びをした後、部屋の中を見渡して「ここどこ…?」と呟く。

カロラスを見て理解したように「なるほど」とだけ頷いた。


「え、今ので理解できたの?!」


「詳しい話は後!行くぞ!チカ!」


「アタシ、乗ってていいの?…ビスウィト?…なんで?」


「我はヤマト。よろしく頼む。」


「………うわぁ。アタシ、知らない。」


皆が動く中、ダミアンだけはその場から動かない。いや、正確には動けなかった。

智香子が手を引くと、放心しながらも付いてはくる。


「チカコに傷…。治せるといっても、傷を…。傷をつけてしまった…。」


智香子がもういいと言ってもダミアンのぼやきは消えない。

智香子はため息を吐き、手を離す。離された手を縋るように見てくるダミアンに待て、と手を突きつけた。


「うじうじうじうじ煩いわ!私がもう良いって言ってんだから良いのよ!私の体の決定権は私にあるの!貴方がいくら傷をつけようが、私が良いと言えば無傷なのよ!」


「それは違うんじゃ」


「お黙り!それ以上ごたごた言うなら、ここに置いていくわ!」


「ぇ、いやだ!置いていかないで!そばにいて!」


突きつけた手にダミアンはしがみ付く。


「だったらさっさと行くわよ。そしてさっさと問題を解決するの!良いわね!」


「……はい」


良い返事に智香子は頷いて、ダミアンと手をつないだまま歩き出す。

一部始終を見ていたベネッタは「…まだ寝ぼけてる?」と呟いて頭を掻く。


「何、あの気持ち悪いの。」


「ベル。気持ちは分かるぞ。でも言うなよ。正直オレも、ここまで芽吹くとは思わなかったんだ。しかも、想定していた感じじゃない方向で。」


もっと暗くてドロドロしたのを想像していたのだが。

先程も、智香子にダミアンを託したものの、危険だからと部屋に入れば智香子がダミアンの言葉を否定していて。闇落ちした兄さんにチカが直々に爆弾投下したー!もう終わりだー!とか思っていたら、思ってもいない方に曲がり、落ち着いたのだ。


「魅せてくれるな。」


笑う大和にため息を吐き、カロラス達も智香子達を追って神殿へと向かった。

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