09 マリカ、特訓。
「おかえりなさい。イルマさん」
『ただいま帰りました』
セリカとイルマが会話する。
……人間が少ないなこの部屋。
『マリカさんはどうです?』
「今寝てる。ちょっと見てやってくれ」
『はい』
ちょろっと走ってマリカの元へ。ぺたっとおでこをマリカのおでこに付けて目を閉じる。
『んー、だいぶオドも回復してますね。このまま寝かせときましょう。朝には回復するでしょうし』
「まぁ、どうにもできんしな。今日は寝るか」
「私はこのままマリカさんのモニターをしていても良いでしょうか」
セリカが問う。
「必要?」
「必須ではありませんが、マナの回復の経過を確認したいです」
「わかった。状態悪化があれば呼んでくれ」
「了解」
仕事部屋に戻ってメインPCを起動させる。
ボチボチ仕事を片付けんとなとカタカタとキーボードを叩く。
「……なんか、これくらいならセリカができそうな気がする」
出来るかもしれんが、そうすると俺は受注納品の窓口になるな。
「私、やりましょうか?」
セリカが声をかける。
「お前ならできそうな気がする……やってみる?」
「了解。どれをしましょう」
「あー、いちばん納期の遅いヤツ。ちょっと大規模だからめんどくさい」
「……確認しました。でもこれ動作ハードウェアがバラバラですね」
「そ、だからめんどくさい」
「動作確認用ハードは有りますか?」
「ない」
「……ふざけてますね」
「だろう?」
「わかりました。ハードウェアのエミュレーターを構築してテストします」
「まかせた。俺はこっちを片付ける」
午前六時。
ジワジワと蝉がうるさい。
「……寝落ちしてたか」
「おはようございます。マリカさんが起きました」
「わかった」
変な姿勢で寝たから腰が痛い。腰を揉みながらリビングへ。
「マリカ、起きたか」
「あ、兄さん」
なにかスッキリしたような顔でマリカが立ち上がる。
「昨日はごめんね」
「かまわんよ。それよりも体調はどうだ?」
「全然平気。普段より調子がいいくらいだよ」
「ほう?」
『おはよーございまーす』
テーブルの上でトグロを巻いていたイルマがムクッと起きた。
「イルマ、魔力欠乏ってのは回復したら具合が良くなるものなのか?」
『病気とは違うので、オドが戻ったら調子も回復しますよー』
まだ眠たそうな念話が聞こえる。
「あの、昨日はどうなったの?」
「あー、時速五〇〇キロ以上で飛んだら体内のオドを使いきって落ちてきた」
「え」
「非常用のクリスタルが一個溶けたくらいだから気にするな」
「じゃぁ、使っちゃったクリスタルを作っとくね!」
ダッと風呂場へ走るマリカ。
「ご飯食べてからでいいんだぞ?」
「だいじょーぶ!」
朝御飯の用意をするかと冷蔵庫を漁っていると、風呂場から「ザバーーーーーー」っと水音が響いた。
ひょっと、覗くとバスタブの中に赤い雨が降っていた。マリカがマナ溶液を作っているようだ。
しかし一向にマナ溶液が貯まる様子がない。
「なんだ?」
バスタブの中を見るとテニスボール位のマナ結晶が大量に出来ていた。
「ちょっと多くないかい?」
「えへへ、ちょっと加減間違っちゃった。最初は溶液だったんだけど溢れそうだったから、全部結晶にしてみました」
「相変わらずのバカ魔力だな」
俺はマリカの頭をクシャッとなでてグリグリする。
「取りあえずほっといても大丈夫だろう。ご飯にしよう」
「うん」
トーストとスクランブルエッグとミルク。
「それと、こないだおじさんからもらったモモ」
「またでた。モモ」
「いっぱいもらったから」
「それを差上げた家の人間に出しますか」
「俺一人じゃ食いきれん」
「ぶー。家でもいっぱい出てくるのにー」
マリカの調子も悪くなさそうだ。
「今日はどうするの?」
「マリカのオドを増やさんとエイジを運ぶのがしんどそうなんでな。ちょっと考えてる」
「では、最高速ではなく、荷重を増やすことでマナを消費するのはいかがでしょう」
セリカの3Dモデルが不意にタブレットに現れた。
「わ、セリカさん?かわいい」
「どこかおかしいところは有りませんか?」
画面の中で羽根の生えた青い髪の少女がクルンと回る。
「だいじょうぶ、すっごくカワイイから」
「ありがとうございます」
「で、荷重を増やすって?」
「箒のフックに大きめの結晶を付けて、私がそれを制御して下方向の重力をかけます。それを引っ張り上げることでもマナは消費できます。それに夜じゃなくてもここでできます」
「どゆこと?」
「つまり、普通じゃ無理な荷重を魔法で生み出してトレーニングってことか?」
「そうです。いいですか?マリカさん」
「わかった。すぐに?」
「そうですね。今からだと、仮に途中で魔力欠乏を起こしても夜には回復しますし」
「うん」
「マリカ」
「何?兄さん」
朝食の後、スタンドの上の箒にまたがったマリカに声をかける。
「昨日あんな思いをした後だが、大丈夫か?」
「兄さん、気にしすぎ。それにエイジさんも元に戻してあげたいしね」
「……わかった」
俺はバスタブいっぱいに溜まったマナ結晶から持ちだした手の平大の一つを、箒の下に取り付けたフックに近づける。
「形状変更……よし」
球体だったマナ結晶が分銅のように吊り下げ穴の有る塊になった。
カチャッとフックに引っ掛けてちょっと揺らしてみる。いい感じにフックごと揺れるので落ちない。
「準備よし。マリカ」
「ん」
マリカが足元のペダルを軽く踏んで浮き上がる。
「いいよ」
「セリカ。荷重開始。一〇キロまでは五秒で一キロステップ。一〇〇キロまでは五キロステップ。それ以上は一〇キロステップ。良いか?」
「了解しました。荷重開始。一キロ」
セリカの声とともに箒が、クッと沈む。
「一キロでもわかるもんだね」
「……現在三キロ……五キロ……八キロ……一〇キロ……二〇キロ……四〇キロ……」
秒速で荷重がきつくなっていく。
「おお、重い」
「一〇〇キロまでは毎日やってたから平気だろ?」
「あれは、ふん!って持ち上げてたから。こんな段々と重くなっていくのはまた新鮮だね」
「楽しんでいただけて何よりです。現在一二〇キロ……一四〇キロ……」
「ペダル出力いっぱいで一旦荷重停止」
「了解。現在荷重一八〇キロ。ペダル出力八〇パーセント」
「まだいけるよー」
「荷重二〇〇キロ、ペダル出力いっぱいです」
「よし。マリカ、どうだ?」
「んー、ペダルをいっぱいに踏んでたらずーと維持できそう」
不意に動くと危ないのでハンドルは持っていない。さながら坂道を手放しで進む自転車のように、サドルの後ろに手をおいている。
「ん、訓練はこれからだな。セリカ荷重再開。一〇キロステップだ」
「了解」
傍らのモニタに映る荷重値がトントンと跳ね上がる。
「軽い軽い」
マリカも三〇〇キロ辺りまでは平気な顔だった。
「三四〇キロ……三六〇キロ……」
マリカの額に汗が浮かぶ。
「どうよ?」
「ちょっと……」
荷重が四〇〇キロを超えた。マリカが歯を食いしばる。モニタのマリカのオド値は凄まじい勢いで減っていく。
「セリカ、このオド値は正確なのか?」
「誤差±一〇パーセントです」
「割とガバガバだな」
『誤差一割ならよく出来てる方です。あっちでもこれ位正確な計測器が出来れば……はぁ~』
イルマが腕を組んでため息をつく。
「あっちでなんか有ったのか?」
『いえ、魔力限界は把握していても、どうしても倒れるまで使ってしまうのが魔術師のサガってもので』
「そんなもんかね」
「荷重五〇〇キロ……五一〇キロ……」
マリカは箒にがっしりとしがみついている。頭からは滝のような汗が噴き出している。
「おいおい、大丈夫か?」
モニタのオド値は残り一万を切った。
「荷重ステップを一キロに変更」
「了解。現在六〇一キロ……六一〇キロ……六一五キロ……」
「残りオド値一〇〇で終了。箒も停止」
「了解」
モニタに映るマリカのオド値は九九で止まっている。最終荷重は六五二キロ。
「大丈夫か?」
ぐったりとクッションに横になるマリカ。
「んー、しんどいけど……昨日みたいに目の前が暗くなるってことはないかな?体力的には学校でマラソン練習した時のほうがキツイよ」
そう言いながらもモニタのオド値は秒速で回復していく。
「ちょっとこれを吸収してみ」
俺はテニスボール大のマナ結晶をわたす。
「吸収って、どうやるの?」
『結晶を手に持って「我が手のマナよ、我が身のうちに」と唱えてください』
イルマが説明する。
「ん、わが手のマナよ。わが身のうちに」
何の集中も無い詠唱、だがマナ結晶はまるでフライパンの上のバターのように融けだした。
「うわ!溶けた」
『そのまま、ゆっくり深呼吸』
すーーーー、と深呼吸するマリカ。
それに合わせるように溶けたマナ結晶は霧となってマリカの胸に吸い込まれていく。
「うおぉ……治った……」
モニタのオド値は十万を超えている。
「あれ一個で十万マナってところかな。もう三個位吸収しとけ」
「うん」
バケツに入れられたマナ結晶を次々吸収していくマリカ。
「吸収が止まりました」
表示されるオド値は四十三万……昨夜まで三〇万だと思ったが。
「予想より増加が多いな?」
「いえ、昨夜の増加で三十六万まで増えていましたので、それの二〇パーセント増で四十三万。誤差二パーセントです」
セリカのドヤ顔が見えた気がした。
「……マリカ」
「ん?元気になったよ?」
「もう二回くらいこれやったら多分、今晩中にエイジの吊り下げできるぞ?」
「え、じゃぁやる」
ガバっとクッションから起き上がって箒にまたがるマリカ。
「セリカさん、やって」
「了解しました。三〇〇キロまでの荷重ステップを一〇キロで開始します」
「はいはーい」
「現在六六〇キロ……六八〇キロ……七〇〇キロ……」
「さっきの記録を余裕で超えて、まだオドが十万残ってる。成長すげぇな」
『あ、昨夜待ってる間にエイジさんの体重を測ってたのを忘れてました』
「いきなりの報告。ホウ・レン・ソウってしってる?」
「アドミニストレータ。こっちのビジネス疑念を異世界人に言ってもわからないと思いますが」
「そうだな。で、エイジの体重はどれくらいだったんだ?」
『大体一四〇〇キロでした』
「どうやって計測したんだ?」
『んー、説明がめんどくさいので後で自分で見てください』
「だんだん怠惰になってきたな。こいつ」
『怠惰とは失礼な。省力化と言ってください』
「……荷重九五〇キロで停止」
再びぐったりしているマリカ。
「ほい。大丈夫か?」
「わが手のマナよ……わが身のうちに」
しゅわーっとマナ結晶が次々と霧になって吸収されていく。
「よーし、もう一回!」
「ちょっと休憩しろ。だいぶ汗かいてるだろ」
「あ、そうだね」
昨夜のままで着替えてなかったマリカは今更ながらにそれに気づいた。
「兄さん……臭わない?私」
「ん?いつもどおり。石鹸の匂いだぞ?」
ふんふんと鼻を鳴らす俺。
「んーー、もう一回やったらちょっとシャワー浴びてくるね」
「ま、昨夜も入ってないしな」
「そうだった……」
顔を赤くするマリカ。今さら気にする仲でもあるまいに。
その後、もう二度、荷重訓練をして、マリカのオドは六〇万を超えた。
最大荷重も二トン近い。
「おまちー」
暗闇に浮かぶ箒からマリカの元気な声が聞こえる。
空間認識で既に到着を把握していたエイジが顔を向ける。
「よう、昨日は大丈夫だったか?マリカ」
「だーいじょうぶ。私には凄い兄さんとセリカさんがついてるから!」
「大絶賛だな、コウジロウ」
エイジが呆れたように言う。
「さて、エイジ。取りあえずお前さんを釣り上げるわけなんだが」
「おう」
「正直どこを吊ったらいいか判らん。下手に吊ったら壊れるかもしれんし」
「まぁ、そうだろうな」
マリカはフックに吊った巨大な袋をエイジに渡す。
「その中のヒモは重量物用の吊り下げロープだ。スマンが自分で懸けてくれ」
「わははは、わかった。マリカ、上で端っこ受け取ってくれ」
「はーい」
その巨体に似合わず細かい作業の出来るエイジはサクサクと自分の肩と腰に有るアンカーベースにロープの端っこをつけていく。
「こんなもんかな?」
「できたか?」
「一応、大丈夫なはずだか」
「ちょっとテストがてらに吊ってみるか。マリカ」
「あい」
「テストだ。ゆっくり釣り上げてみてくれ」
「あいあい」
上空待機していたマリカがゆっくりとロープごと上昇する。
徐々に緊張を増しギシッと軋むロープ。
「お、浮いてきた」
エイジが誰と無く喋る。
「マリカ、どうだ?」
「余裕」
「すげえな!マリカ!」
「えへへー」
「エイジ。ロープの状態はどうだ?」
「んー、問題なし。まだ余裕が有るようにも見える」
「ちょっと過剰だったか」
「余裕は多いほうがいいですよ」
セリカが言う。そういえば荷重計算したのセリカだ。
「なぁ、セリカ。荷重計算したの、β?」
「……正解です。何故分かりましたか?」
「ロープのマージンがデカすぎ」
「失礼しました」
「悪いこっちゃない。でも、まぁちょっと過剰かな、と」
「修正します」
「そのへんは自己診断の領分だな。期待してるよ」
「はい」
「兄さん。どう?」
「一度下ろして、フックの状態を見て、マナを補給しておいてくれ」
「あいあーい」
ゆっくり降ろされるエイジ。
「フックはどう?エイジさん」
「見る限り損傷なし。大丈夫じゃないかな?」
「ロープもフックも一応3トンまでは大丈夫なヤツだからいけるとは思うがね。マナ補給出来次第、出発ってことで」
「おー!」
「……元気だな、マリカ」
エイジが手の平にマリカを載せてつぶやく。
「だってこれでエイジさんが元の世界に帰れるでしょ?」
「そうだな」
「だったら、嬉しくなるし、元気にもなるよ。ね?」
「ならいいんだがな」
ロープの具合を見て、念の為、エイジの両肩に予備のロープをつける。
「ま、これで大丈夫だろ」
「いつもみたいには速度は出せませんしね」
「準備できたよー」
マリカの声が聞こえる。送られてくる映像でも特に疲れた様子もない。
「あいよ。方向はスマホで指示する。迷うことはないだろうが、デカブツ釣ってるんだから建物に当てないようにな」
「はいはーい」
なんかマリカがハイだな。
「んじゃ、いくよー」
「よろしく。お嬢さん」
マリカがエイジの上空で静止する。ピンと伸びるロープ。
「んんーーーーーーー」
マリカの気合とともにズルンと穴から出てくるエイジ。
「おぉ、余裕だな」
ゆっくりと上昇する箒。
「兄さん。どのくらいまで上がればいいの?」
「ちょっと待て」
開いたままの地図画面を見る。特に高層ビルも山もなさそうだが。
「障害物はなさそうだが、下から見られても何だから1500位まで上がれるか?」
「あいあーい」
モニターの高度計がゆるゆるとカウントアップされていく。
「セリカ、一応周辺の航空機はモニターしておいてくれ」
「了解。現在目視範囲に機影なし。旅客機の航路からは外れてるので大丈夫かと」
「ん、この時間だから有視界前提のヘリや小型機もいないだろう。マリカ。邪魔者はいないようだ。存分に飛んでくれ」
「おもいー」
「まだ高度は半分くらいだ。がんばれ」
「コウジロウ、俺の方でも風よけの防壁貼っといたほうが良くないか?」
「ん?ああ、そうしてくれるとありがたい」
「あいよ」
程なく目標高度へ到達。実際には斜めに上昇していたので既に眼下に廃団地はない。
「予定高度へ到達。進路問題なーし」
「マリカ、矢印の方向へ」
「あいあい」
ゆっくりと前進する箒。少し揺れ、横向きに釣られるエイジ。
「俺の防壁もちゃんと機能してるようだ」
「うん。ちょっと楽だよ」
マリカとエイジが会話しながら飛んでいる。
「ま、無理せずゆっくりとな。お嬢ちゃん」
「ま・り・か!」
「おっと、失礼。マリカ」
「もう、ちゃんとマリーって呼んでくれなきゃダメじゃない」
「はい?」
「この箒に乗ってる時はマリカじゃなくてマリーなの」
「……コールサインか?いいだろう。わかった、マリー」
「にゅふふふ」
「なぁセリカ」
「はい」
俺は妙にハイなマリカを見ながら、マリカに聞こえないようにオフラインでセリカに聞く。
「魔法の使いすぎで酔っ払うことって有ると思うか?」
「現状のマリカさんですか?そうですね。無いとはいえませんね」
「理由は?」
パッとメインモニタにグラフが出てくる。
「これは?」
「マリカさんのオド値とマナ吸収量の増加です。回復するオドよりもやや多いマナを吸収しています。吸収される時のコストのようなものかと思っていましたが、それ以外にも肉体的または精神的にも影響はあるものと思われます」
グラフにはほぼ同じくらいのカーブを描いた線が書かれている。だがマナの方が少し多い。
回復量が多くなるとその割合も多くなっている。
「んー、仮に肉体に吸収されているとすると影響はどんなもんだろう?」
「推測ですが、現時点でアレルギーのような異物反応が出ていないので、目立って影響はないと思われます。今の状態はおそらく微量のマナが直接肉体に入ったことによる麻酔……のようにも見えます」
「麻酔?」
「笑気ガスのような」
「ああ、なるほど」
マナって大量に短時間に摂取するとマズイのかもしれない。
「……要観察だな」
「そうですね。私の端末をマリカさんに常時持たせるようにしてください。万が一は対処します」
「そうしよう。帰ってくるまでになんかウェアラブルなものをでっち上げるか」
「ネックレスとか、ブレスレットなどのアクセサリーではどうでしょう?」
「既にいくつかつけてるからなぁ。あんまり大きなのは付けれないぞ?」
「チェーンやリングそのものもマナクリスタルで作れば総量は大きくなります」
首をひねる。
「俺はそのへんのセンスがないからなぁ」
「デザインはお任せください」
「丸パク禁止。おーけー?」
「承知しました」
メインモニタの隅っこでデフォルメされた天使がお辞儀する。
マリカのモニターを再開しよう。
「現在地……案外早いな」
「平均時速二〇キロです。早いですね」
「マナ使用量はどうだ?」
パッとウインドウが開く。線グラフが表示されている。
「ほぼリアルタイム……タイムラグ三秒の数値です。現在残存マナ八〇パーセントです」
「残り三五キロ。持つかな?」
「ギリギリ、といったところですね」
「予備のマナ結晶も持たせてあるし、大丈夫だろう」
空の行程は順調だった。
「マリカ、下の様子はどうだ?」
「エイジさん?」
下を覗き込むマリカ。下方でゆらゆらと揺れる巨体。
「おお!すごい夜景だな!ここは大都会か?!」
「地方都市です。これでも辺鄙なとこです」
セリカが相手をしている。マメなやつだ。
「これで!地方都市!ここはすごいな!」
「ずーーと、大騒ぎですよ。兄さん」
異世界がどれほどのものかわからないが、まぁ、大抵のところよりは夜景はすごいだろうな。
「問題はない……かな?」
「そのようですね」
SNSや掲示板などもチェックしているが特に騒動になっているような気配はない。
「残り距離一〇キロです。残存マナ、二〇パーセントです。マナの補給をおすすめします」
「ギリギリすぎるのもナニだしな。補給は空中停止でできるのか?」
『普通は飛行中の魔法行使はできませんけどね』
「実質飛行制御は私がしてますから。問題ありません」
『私の常識が……崩れていく……』
イルマが頭を抱えている。よし、無視しよう。
「マリカ、一旦停止。マナ補給をしよう」
「ん、ん?マナ足りない?」
モニタの速度がゼロになる。
「今の所は大丈夫なんだが、ギリギリっぽい」
「あいあーい。二個位?」
結晶一個一〇万マナ位だから……。
「せっかくだから全回復しとこう。ナニが有るか分からんしな』
「あーい」
モニタのマナ数値がグイグイ回復していく。
今更ながらチートな光景だ。