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08 エイジに補給。イルマを拾いに廃団地へドライブ。

「んじゃ、行ってくるねー」

「おーう、落とすなよー」

 宵闇にギュイーンと上昇していくマリカ。



 エイジを保護して三日。

 今日もマリカは二〇リットルのポリタンクを一〇個ぶら下げて飛ぶ。

「おーもーいー!」

「まぁ、一〇〇キロほど下げてたら重いだろうさ」

「ふにゅーー!」

「がんばれよーー」



 あれから毎日、マリカは廃団地へマナ溶液を運んでいる。

 イルマが調べたところ、エイジの機体内のマナ溶液はかなり劣化が進んでいることがわかった。

『全交換するのが手っ取り早いですね』

「なぁ……魔導甲冑ってのはこれを毎回やるのか?」

『いえ、普通は戦闘機動をしても一週間くらいは余裕で持ちますよ』



 通常は待機中などに自力で空間のマナを溶液化して入れ替えをするので、大規模な戦争時以外は補給部隊などは人間の食事や装備などを運ぶくらいだそうだ。



 イルマが言うには、魔導甲冑にとってマナ溶液は血液であり燃料であり腕や足に動きを伝える神経でもある。

 動くたびに溶液中からマナが消費され、劣化が一定値を超えると精霊回路の保護を優先して動作不能に陥る。

 そうなるとわずかな時間の緊急駆動しかできなくなる。



 屋上の穴の下で発見した時のエイジがまさにそうだったようだ。

『おそらく腕を動かすのが精一杯、ってところでしたでしょうね』

「まぁ、あの場合は仕方ない。まさか自分が鎧と一体化してるなんて思いもしないだろうしな」



「とーちゃーく!」

 廃団地のいつもの屋上。

「所要時間は二二分二〇秒です」

「あら、測ってたんだ。流石に一〇〇キロぶら下げてたらそれくらいかかるよねー」

「それでも時速一八〇キロ近く出てるんだがな」

 俺は呆れ声で念話する。



「はーい、今日の分だよ」

「ありがとう。いつもすまない」

 エイジが受け取ったポリタンクの蓋を巨大な手で器用に開ける。

 兜の面覆いをガシャンと開けて口に相当する部分に持っていく。

 ポリタンクの注ぎ口から霧になったマナが吸い込まれる。



『これでマナ溶液の入れ替えは終了しました』

「じゃぁ、エイジさんも自由に動けるんだね」

 マリカにくっついて廃団地に降り立ったイルマが魔導甲冑の操縦席で空中に浮かぶ半透明ウインドウを触っている。

「さてエイジ」

「ん?なんだいコウジロウ」

「これで自由に動けるはずなんだが、どうだ?」

 魔導甲冑ことエイジは右腕をぐっと持ち上げる。にぎにぎと感触を確かめるように手の平を動かす。

「動作には問題はなさそうだ」

「そいつは、結構」

「上半身を起こしてみる。マリカ、離れていてくれ」

「はーい」

 箒に乗って屋上から離脱するマリカ。

 直径三メートルの穴から巨大鎧がニュッと顔を出す。

「ここの床は案外丈夫だな」

 穴の縁に腕を組みもたれる。まさに温泉状態。



「それでも、これだけの大穴開ける位だからそれなりの高さから落ちてきたんだろうな」

「……およそ一五〇メートル」

「はい?」

「一五〇メートルくらいの高さから落ちた……と思う」

「なぜそう思う?」



 エイジは階下の床に手をつき、ゆっくりと腰を浮かす。瓦礫がこぼれ落ちる。

 穴から出たエイジは屋上に腰掛け、空に浮かぶ月を見る。足湯状態である。



「オレが魔法に巻き込まれた、ってのは言ったと思うが」

「ああ、魔法使いが逃げ込んだ古代遺跡だっけ?」

「正確には魔術師、な。で、その遺跡なんだが……『塔』なんだよ」

「へ?」

 今、塔と言えば各地に出没して大騒ぎの塔しか思い浮かばないが。

「塔、といったか?」

「そう、高さが三〇〇メートルくらいで、一番下に大きな入口があって、そこから上へ上へと逃げていった目標を追って、俺達も上がっていったんだが、ちょうど真ん中くらいの階がフロア全体がひとつの魔法陣だったんだ。そこでそいつが何かの魔法を使った。何かは判らん」

「で、魔法陣が発動して飛ばされた?」

「そうだな」

 イルマが首をひねる。

『普通は転送魔法陣だとしても、呼応する魔法陣が有るところへしか転送できません』

「だが、オレはここへ飛ばされた。事故か?」

『もしくは元からランダムだったか、ですね。しかし……』

 うーん、とひねる角度がますます急角度になるイルマの首。

『異世界への転送となると、相当大きな魔法陣でしかできません』



「……直径六〇メートルなら?」

『え?』

「ちょっと前からこっちにも謎の塔がにょきにょき生えてる。そいつが直径六〇メートル高さ三〇〇メートル……偶然か?」

『六〇メートルあれば異世界への転送も可能です。私の使った魔法陣もそれくらいです』



「イルマはこっちに魔法陣を設置したのか?」

『いえ、私の場合は絶対座標を決めて直接来ました』

 んー?

「こっちの座標ってどうやってわかったんだ?」

 絶対座標、ってことはこっちを観測してなかったらわからんよな。

『えーと、私のいたところと、ここは星としては同じものなんです』

「え」

 なにやらすごいことを言われたような気がする。

「こっちとそっちの世界が同じ?」

『いえ。世界としては全く別です。んー』

 イルマが首をひねる。

『例えば、アニメの絵のような世界を想像してください』

「うん?」

 イルマはあれから順調にアニメマニアの道を進んでいる。

『アニメは複数のレイヤーから出来てますね。そのように違う世界が同じ背景に重なり合っている……ような状態、でしょうか?』

「うん、わからん。ようは平行世界なんだな?」



「同じ星をベースにしているから座標……地点データは同じだけれどその上の構造物や生物はそれぞれ別に存在してる……ってことか?」

 エイジが足湯状態で声をかけてきた。

『そうですそうです』

 イルマが首から下げたスマートウォッチに肉球を置きセリカを呼び出す。

『セリカさん。ファイルの表示をお願いします。魔法陣の二五のBです』

「表示先はどこに?」

『全員が見れるように』

「了解しました」



 数秒の間の後、俺のPCのモニタに複雑な魔法陣が表示された。

 サブモニタにはマリカの前、エイジの前、イルマの前に浮遊するモニタが現れた。

 これはイルマが魔法陣表示のために幻影魔法をセリカに使ってもらっている。

『これの外周に座標を設定する項目が有るんです』

 イルマがタブレットのように画面を両手で拡大する。

 魔法陣の一部がグイッと拡大される。



『ここを変更したらその座標に移動するんですが、数字の頭から四桁は世界線の座標です。

 示された数値は2753,259160。

「この小数点より前がそうなのか?」

 俺はモニタに映る魔法陣の表示を見つめる。

『はい、この2753が世界の同一世界線座標です。コンマ以下は個別の世界線の座標です』

「じゃぁ、これを使えばオレも元の世界に帰れるのか?」

 エイジが身を乗り出して聞く。

『理屈はそうなんですけど、現実的にはこの魔方陣を起動させられるマナが足りません』

「ちなみにどれくらいのマナを消費するんだ?」

 なんとなく俺は聞いてみた。



「そうですね……私がこっちにきたときは魔術師が一五人必要でした。一人で山を平らにできるようなレベルの魔術師が、一五人です」

「……とんでもない大魔術だな」

 エイジがため息を付いた。



「ねぇイルマさん」

 マリカが不意に問う。

『はい?』

「マナ……が足りないんだよね」

『そうですね。セリカさん本体サイズのマナ結晶が二〇個位必要な量のマナです。普通は魔術師にマナ溶液をたらふく飲ませてマナとオドを底上げしてから使うような魔法なんです」



「じゃぁさ」

 マリカが何かを思いついたようだが、荒唐無稽なのは目に見えている。

「エイジさんを『塔』に連れて行ったら使えないかな?」

 ……なんですと?

「なぜそう思った?」

 マリカに問う。



「だって、こっちにきた原因が塔なら、塔には効率良くマナを集める手段か有るんじゃない?もしくはでっかいタンクがあるとか?」

 ポンポンとポリタンクを叩きながらマリカが発案する。

『それは……そうかも知れませんが』

「よし、オレを『塔』へ連れて行ってくれないか」

 エイジがマリカの方を見て言う。もちろん表情はわからないが真剣な声だった。



「塔……か」

 俺は地図を表示させ、廃団地から琵琶湖の塔までの直線距離を測る。

 直線で約五〇キロ。

「さすがに五〇キロをいきなりは無理がないか?」

 俺はつぶやく。誰に向けてと言うわけではない。

「この体で五〇キロも歩いて目立たないわけはないしな」

 エイジが答える。一応現状は理解しているようだ。

「飛んでったらだめなの?」

「魔導甲冑は重すぎてな。ごく短距離、ジャンプするくらいならなら飛べるが、長距離は難しいな」

「んー、私が運んじゃだめなの?」



「まて、マリカ。一〇〇キロ吊るして重いと言ってる時点で無理があるだろう」

「速度出さなきゃ吊るせると思うよ?」

「……マジか?」

「大マジ」

 マリカは軽い調子で答える。

「計算上は可能です」

 セリカが計算式を表示する。

「質量一〇〇キロを吊り下げ、時速一八〇キロで巡航出来ると仮定して見ました。エイジさんが外観から予想される最大重量が約二トン」

「そんなに重くなかったはずだぜ?たしか一トンちょっと」

「では、一,五トンと仮定してみます。その場合巡航速度は時速一二キロ。一般の自転車の巡航速度位です。直線距離五〇キロでしたら、所要時間は4時間10分です。十分到達できます」



 スラスラと計算される。

「ちょーっとまて、4時間以上も重量物吊ったまま飛べってのか?マリカが倒れっちまうわ」

「マリカさんの現在のオドと放出可能マナ量も加味した計算です」

「……そんな測定したか?」

「この二週間の飛行訓練の数値から推測しました」

「つか、オド量とかどうやってわかった?」

「タイムアタック時の疲労具合などで判断しました」



『そういえば飛行速度も開始当初よりずいぶん早くなりましたよね』

「初日を除く、一五日間でマナ放出量は三倍になってます」

「だから、それをどうやって観測したんだって」

「目視で。私の場合は箒の端末の映像ですが」

『え?もしかしてセリカさんってマナが見えてます?』

「見えます。数値化も可能です。おそらくは私のボディがマナクリスタルであることが関係有るのかもしれません」



 さらっと凄いこと言ってきた。

『ちなみにマリカさんのオド量はいくつです?』

「アクアを使ってバスタブいっぱい貯めるのに使うマナを『一〇』として、マリカさんの現在のオド量は二五三,〇〇〇。最大で三〇〇,〇〇〇です」

『標準のファイアボール一発はどれだけの使用量です?』

「おおよそ二〇です」

『では私のオド量は二〇〇〇位……ですか?』

「正確には二一〇〇ほどです」



「ん?イルマは何故そう思った?」

 特に自分の事を聞いていない状態で何故わかる。

『いえ、私が連続でファイアボールを打てるのが一〇〇発くらいですから」

「あぁ、なるほど。じゃぁ、俺は?」

「アドミニストレータのオド量はおよそ六〇です」

「くっ、桁違いに少ない」

『まぁ、風呂桶五杯ですからねぇ』



「それで、マリカが吊ったまま四時間飛べる根拠ってのは?」

「飛行訓練開始時は一分間に六〇のオドを消費していました。現在は一分で一五くらいです。約四分の一。一,五トン吊って時速一二キロで飛んでもオド切れにはなりません」

「……わかった。だが、長時間の飛行はまだテストしてない。それをクリアしてからだ」

「うん、わかった。何回かここから塔まで往復してみるね」

「はい?」

「魔力切れをしたら保有総量も増えるんでしょ?じゃぁ訓練がてらに、魔力を使い切るまで全力で飛んでみる」

「理屈はそうだが……大丈夫か?」

「大丈夫ですよ、いざとなれば私の予備端末をマナ化させてでも飛ばせます」

「スパルタか」



「そういや、前面の防風って全体に球状に貼れるんだよな?」

『そうですね。フルカバーだとマナの消費も激しいのでオド切れも起こしやすいですけど』

「いいんだ、それと幻影術で透明化もさせとこう」

「そこまでしなくてもいいんじゃない?兄さん」

「あくまで訓練だからな。セリカ、現時点のマリカのオド量で全速で飛べる距離は?」

「約二〇〇キロです」



「マリカ」

「はい」

「防風フルカバー、光学迷彩、フルスピードで俺のところから一〇〇キロ先、そこから五〇キロくらい先の塔まで行って俺のところまで帰ってくる。出来るか?」

「やる。余裕はなさそうだけど」

「……わかった。イルマ」

『はい』

「そこで念話の中継してくれ。多分一〇〇キロ先だと効果範囲外だ」

『わかりました』



「いくよー」

「セリカがお前のオドを計測してる。無理だと判断したら強制的に止める。いいな?」

「ぶー」

「返事は?」

「了解、兄さん」

 いつもの口調に戻ってる。



「防御フルカバー。幻影展開。完了。いつでもどうぞ」

 セリカが魔法の発動を確認する。

 ガッとペダルを踏み、レバーを握る、斜めにすごいスピードで飛んで行く箒。



「相変わらずクソはぇな」

 エイジが飛んでいった先を見る。

『見えてるんですか?』

「一応、戦術機だからな。パッシブで幻影透過がかかってる。でも、そろそろ望遠が限界だな」



「現在、高度三〇〇〇メートル、時速三八〇キロ……まだ伸びてます」

「どこまで成長するんだろうな。アイツは」

 俺は部屋でモニターを見ながらセリカの声を聞く。

「オド使用量。分間一〇で安定。放出量は今日はこの辺りで止まりますね」

「セリカ、放出量とオド量は相関なのか?」



「いえ、あまり関係はないようです。放出量はどれだけ絞ることが出来るかに成長していきます。保有量はどれだけ大きくなるか、です。マリカさんはオドを貯めるタンクも大きくて蛇口も大きくて細かく調整ができるようです。アドミニストレータはタンクは小さいのに蛇口だけが大きくて調整も開けるか締めるかしかできません」

「ぐ、分かってたけど、そう言われるとなんか悔しい」



「現在時速五〇〇キロを突破しました。予想到達時刻残り五分」

「そういや、折り返しのとき減速するのって減速Gってまともにかかるんかな?」

『ある程度は耐圧魔法で緩和されますよ』

「じゃぁ、大丈夫だろう。アイツのことだからいきなり停止とかしかねんからな」

「時速五〇〇キロから五秒で停止した時の減速Gは9.8Gです」

「え」

「吹っ飛びますね。前に」



「ちょ、だいじょうぶなのか?」

「フルカバー防御中は念話が通じません。マリカさんの操作技術を信じましょう」

「GPSは通じるし、スマホの電波は届くのにな」

「電波と魔力は性質が違うのでしょう。スマホに接続して呼びかけてみますか?」

「……スマホ回線で状態モニタだけしてくれ」

「Bluetoothで端末結晶に接続すれば箒の制御も可能ですが」

「いや、後々を思うと多少は自力で対処できるようになってほしい……ってのは強欲か」

「成長可能性を期待することは悪ではありません」



「成長……ねぇ。そういえばセリカ」

「はい」

「おまえの基礎は俺が作った。今もそうか?」

「はい。現在のコアプログラムはアドミニストレータ・コウジロウが作ったものを使用してます」

「おれはそこまで高性能に作れたようには思わないんだか。なぜお前はそこまで人間の思考に近い応答ができる?」

「……わかりません。ですが私の現状はアドミニストレータのコアを元にボトムアップされてます。間違いなく、私はあなたの被造物ですよ」

「そう言って貰えればありがたいね」

「いっそパパとお呼びしましょうか?」

「断固拒否する」

「パパ」

「やめて」

「おとうさま」

「おぉう。ゾクッとする」



「やはりアドミニストレータは特殊ですね」

「特殊性癖だとでも言いたいか」

「フェチは誰にでも有るものです。恥じることはありません」

「フェチって、何フェチだよ」

「フェチと言うよりはおそらくピグマリオン・コンプレックスかフランケンシュタイン・コンプレックスに該当すると思われます」

「人形も人造生命も萌えないねぇ」

「それとメサイア・コンプレックス」

「そんな大層なもんじゃないよ……けど」

 メサイア・コンプレックス。救世主願望とも呼ばれる心理学の分類の一つ。

 正確にはメサイア・コンプレックスってのは困ってる人を助けずにはいられないとか、そんなことのようだが。

 俺は別に世界を救いたいんじゃない。

 俺の目に見える世界を救えればそれでいいと思っている。

「俺はそれでもいいと思ってる」



「マリカさんが減速を開始」

「どうだ?」

「現在約8Gで減速中……1Gで回頭しました。無事に高機動減速をしたようです」

「さすがマリカ。杞憂だったか」

「再加速中……時速五二〇キロで安定しました」

「ここへの到着予定は?」

「およそ八分です」

「一〇〇キロ先から一〇分切るとか。本気で大戦機並だな」



「間もなく上空に到達します」

「ん」

 箒からの映像を写すサブモニタを見つめる。

『とー……ちゃ……く』

 上空に着いて、フルカバー防御を切ったからか念話で報告が入る。モニタにも停止した映像が映る。

「よし、誰も居ないからゆっくり入ってこい」

「……むり」

「え」

「緊急!自由落下中!」

 オド切れで気を失ったか!

「セリカ!飛行制御!落とすな!」

「了解。……成功。飛行制御……確認しました。現在毎秒二メートルで落下中」

 俺はベランダに飛び出して上空を見る。



「現在高度二〇〇メートル……一五〇メートル……一〇〇メートル」

 セリカのカウントが聞こえる。

「……見えた」

 暗闇にゆっくりと降りてくる箒が見えた。辛うじてサドルに座ってるような状態に見える。

「セリカ。箒の制御は完璧か?」

「大丈夫です。このまま着陸させます」

 地上に近づいてさらにゆっくりと速度を下げる箒。

 俺はベランダから両腕を出して箒の上でぐったりとハンドルにつっぷするマリカを箒ごと回収した。

「よっこいせ……と」

 箒から下ろし、マリカが良くゴロゴロしてるクッションの塊に寝かせた。

「セリカ、バイタルチェック」

「……軽度の魔力欠乏と思われます」

 ぐったりと横になるマリカに声を掛ける。

「マーリーカー」

「兄さん……どうだった?」

「上等」

「……よかった」

『どんな具合です』

 念話でイルマが問いかけてきた。



「魔力欠乏でダウンしたが。大丈夫」

『よかった。さっき上空を通過したのは確認したんですが、すごいスピードだったので心配しました』

「でも、これでオドの最大値も上がることだろうさ」

「コウジロウ」

 エイジがちょっと低いトーンで聞いたきた。

「俺は別に急いでないぜ?あまりお嬢ちゃんに無理させなくてもいいんじゃないか?」

「そう、なんだが。マリカはほっといても無茶するからな。目の届く範囲で無茶させたい」

「……優しいんだか厳しいんだか」



「で、セリカ、飛行後のマリカのオド量は変化は有ったのか?」

「はい。ほぼ全量を使い切っているようですので最大値の増加が見込まれます。今までの観測から予想される増加量は二〇パーセント増です」

「最大値三〇万の二〇パーセントだから、三十六万位か」

「後、三回繰り返したらオド量は現在の倍を超えます」

「セリカがスパルタなんだが……」



「コウジロウさんの娘ですから」

「誰が娘か」

「違うんですか?おとうさま」

 セリカがサブモニタに泣きそうな少女の3Dモデルを表示する。

「やめて、どっから拾ってきたんなもん」

「作りました。夜に暇だったので」



 AIが暇を持て余して二次元作家になってしまった。

「いっそ三コアとも擬人化してマギシステムとでも名乗らせようか」

「外部侵入されて自爆しそうですね」

「……お前もアニメ見てるのか?」

「マリカさんおすすめのアニメをイルマさんと共に」



「ホント、AIと異世界人まで虜にするとは。日本のアニメは大したもんだな」

「いつか、私も作ってみたいですね」

『その時は魔法で空中に投影してみんなで見ましょうね』

 イルマとセリカがアニメマニアの会話と同じになってきた。



 二人を放置してマリカの親に寝ちゃったのでこのまま寝かせとくとメールを入れる。

『よろしく』

 と、簡素な返事が来た。信用されてるのは嬉しい事だが。年頃の娘をおっさんの家に預けていいもんか。

 追加でメールが来た。

『明日は朝から夫婦で出て泊まりになるから。明々後日までよろしく』

 と、託児されてしまった。



 ……親から信用を得ている事を喜ぶべきだろうが。タダの託児所扱いされている気もしなくはない。

 まぁ、いいけどな。



『所でコウジロウさん?』

「なんぞ」

 イルマに呼ばれた。

『私はどうすればいいんでしょう』

 そういえば廃団地に放置中だったな。



「すまん、俺じゃ箒は乗れん。車で迎えに行くから二時間ほどまっててくれ」

『そんなにかかりますか……』

「マリカの飛行ペースに慣れてると地上移動が嫌になるよな」

『わかりました。おやつをかじりながら待ってます。近所に来たら呼んでください』

「おーう」



「ってことで、ちょっとお迎え行ってくる。マリカが気づいたら説明よろしく」

「了解しました」

 セリカに留守番を任せて駐車場へ。

 カーナビに廃団地をマークして案内開始。

 空中を直線だとあっという間の五〇キロだが、地道に行くと一時間半ほどかかる。



『目的地周辺です。案内を終了します。お疲れ様でした』

「この辺……あれか?」

 カーナビが案内を終了して、路肩にハザードを付けて道を確認する。

「イルマ。着いたけど。敷地に入れない。俺の居る所がわかるか?」

 念話で問いかける。

『あ、着きましたか。ちょっと待ってください』

『コウジロウ、もしかして青い車か?』

「お?見えるのか?エイジ」

『ああ、周囲の探索はパッシブなんでな。普段誰も来ない所に車が来たから遠視で確認しただけだ。ちょっと顔出してみてくれないか』

 俺は車を降りると団地の方を見た。

『確認した。今、イルマがそっちに行ったぞ』

「おう、ありがとさん。そっちには変化はないか?」

『問題無し。イルマとアニメ見てたよ』

「……アニメ汚染がひどい」



『お待たせしました!』

「はいはい、帰ろうな」

 帰りの車の中で、モシャモシャとササミを食べるイルマが居た。

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