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25 魔族襲来。

 ☆

 井崎山指揮所の琵琶湖側。俺は急な下り坂を歩く。

 まともに整地されてないので歩き辛い。昼飯後の散歩にはハードだ。



「よう、エイジ」

 湖畔に座る巨大甲冑に声を掛ける。ちらりと顔を向けるエイジ。

「コウジロウ……暇だ」

 どこから調達したのか、長大な釣り竿を手にしたエイジがつぶやく。

「そうだな。この一週間、世界的にモンスターが出てこない。ポップもしない」

 理由は分からないが、どこの塔からもモンスターは現れていない。マスコミや政府機関でも騒動の終結か?と気の早いことを言っている連中がいる。



 ん?よく見れば釣り竿じゃなくて枝落とした竹そのままだな。先端から釣り糸が垂れているが、ウキは半分空気の抜けたゴムボールだ。エイジの手作りか?器用だな。ゴツい手なのに。

「状況だけ見ればいいことなんだが……な、っと」

 微妙に動いたゴムボール(うき)に反応して釣り竿を上げる。お、デカイのがかかってる。

「この分じゃ今晩も晩飯は魚だな」

「俺は食べれないけどな」



 エイジの左肩のハードポイントを確認する。取り付けた魔石に掛けた魔法が発動してるのが確認できる。

「光学シールドはちゃんと動いてるみたいだな」

「ああ、完璧だ。警邏の水上警察も気づかない」

「そら結構」



 ひょいと餌を付けた仕掛けを投げ入れるエイジ。本気で暇みたいだな。

「だが、気をつけろ」

「なにに?」

 エイジがくいっと顎で塔を示す。

「ここで観測してると、塔のマナ吸収が増大してるのを感じる」

「ほう?どれくらいだ?」

「ざっくり五割増し」

 ただでさえマナ吸収の激しい塔が五割増し?なにかの前兆か?

 意識を塔に集中してマナの動きを見てみる。

 確かに、塔の周辺が赤く染まっている。



「んー、イルマにも確認してもらったほうがいいかなぁ」

「そうだな。一度呼んでみるほうが……」

「来ましたよ」

 不意に背後から声が聞こえる。



「おやイルマ。千林さんはどうした?」

「ナオヤさんにも本業があります。私も流石に四六時中襟巻きにはなってませんよ?エイジさんの顔を見に来ただけです」

 そうだったか?結構みるぞ?襟巻き状態。

「ま、聞いてたなら話が早い。どう見る?」

「そうですねぇ……」

 後ろ足で立ち上がり、んー、と塔を睨む。

「確かにマナの集積度が高いですけど、今の処なにかが起こるようには見えませんね」

「そうか。ま、専門家がそう言うなら」

「あ」

 おい、変なこと言うなよエイジ。絶対なんかだめなもの見つけた声だろ。

「おい、コウジロウ」

 エイジが釣り竿を引き上げて傍らに置き、水平線を凝視している。

「どうした?」

「俺の索敵になんか引っかかった」

「どこだ?」

 エイジが塔の南側を指差す。

「距離五〇キロ。時速二〇〇キロで接近中。小型なれど魔力高し」



『緊急警戒!塔の南方五〇キロに接近する魔力反応有り!MU隊は井崎山指揮所に集合!』

 俺は渡されているハンディ無線に吠える。

『こちらCP。だれだ!?通信は明確に!』

 あ、そういえば無線の作法を忘れてたな。

『失礼。繰り返す。ウィザードよりCP(指揮所)。緊急警戒。南方距離五〇キロ、時速二〇〇キロで近づく小型の魔力反応あり。MU隊は井崎山へ集合。送れ』

『ウィザード。CP。了解。MU隊は甲装備で井崎山へ向かった。送れ』

『CP。ウィザード。了解。終わり』

 むー。念話に慣れてると無線交信は疲れるなぁ。



「エイジはここで戦闘態勢で待機」

「あいよ」

「イルマ、上まで戻るぞ」

「はい!」

 ひょいと俺の肩に駆け上がるイルマ。そのまま俺は坂道を駆け上がる。





「コロナ!げふぅ……ぜぇ……ぜぇ」

「あー……大丈夫ですか?ウィザード」

 氷室さんがやや呆れ気味に声を掛けてくれる。

「ふふ、運動不足ですね。一緒にやりますか?訓練」

「無理。死ぬ」

 この人ら気がついたら運動してる。ただでさえハードなのに。

「で、索敵状況は?」

「はい。一報の後、コロナが検知できました」

 正面モニタにデータが表示される。うわ、全然わからん。速度と方位しか判別できん。

「……イルマ。専門家の見解は?」

「はい。単騎、サイズは大きくても馬程度でしょうか。飛んでますね。高度は一〇〇メートル位。速度は……マリカさんと比べるのが間違ってますが、遅い。ですが」

「魔力量が大きい」

「はい」

 これは……何が来てるんだ?

 塔から出てきたわけじゃないからモンスターじゃないのか?天使ってこともなさそうだし。



 にゅっと、大津駐屯地のハンガーと繋がっている扉から、石動ら士官が現れた。

「全隊に通達。アンノウンをストレンジャーと想定。S(シエラ)1と呼称する。各科対害獣戦闘装備で待機。」

「「了解」」

 無線手が各科に連絡を入れる。

「S1 、会敵予想時刻1335(ヒトサンサンゴ)

 コロナが状況報告をデーター無線に流している。この状況は各科の現場にも共有されているはずだ。

 士官たちの後に続いてMU隊もぞろぞろと現れてテントの外に出てゆく。



「で、何が来たと思う?専門家」

 石動は余裕の表情で俺の顔を見る。

「俺は専門家じゃねーすよ。イルマ?」

「わっかりませーん」

 肩の上でお手上げポーズをするイルマ。

「ま、この情報量だとそうだな。もうすぐ光学観測範囲に入る。それを見てからでも遅くない」

 石動は顎ヒゲをジョリジョリ撫でながらモニタを見る。



「遅くなりました!」

 千林さんが指揮所テントに入ってくる。

「ナオヤさん!」

 ぴょいとイルマが俺の肩から千林の肩へと飛び移る。

「おっと」

 危うく落ちそうになるイルマ。

「危ないですよ」

「え?ええ、すいません。千林さん」

 ニコッとする千林。そっとイルマを机の上に乗せる。



「S1の光学映像、でます」

 氷室さんがコロナに指示している。だいぶ慣れた様子だな。

 正面モニタに荒いノイズの映像が映る。ブレ補正が効いているのか、ノイズ以外は綺麗なもんだ。

「最大望遠です。相対距離約一五キロ。速度低下。現在時速一〇〇キロで接近中。会敵予想時刻修正、1337」

 コロナの声が指揮所に響く。ノイズの中に動くものが有る。

「んー?」

 リアルタイムにコロナがノイズ除去と映像補正をしてる。

「うむ。わからん」

 石動が唸る。諦めが早いなあんた。



 そうしてる間にも距離は近づいてきて、映像は鮮明になってきた。

「……馬?」

 俺はそうとしか見えないものが理解できなかった。

「騎馬ですね。槍っぽいものを持ってます」

「青いな」

「飛んでますね。馬なのに」

「天使ではなさそうだ」

「ペガサスでもなさそうですね」

「アレなら87AW(高射機関砲)で落とせそうですな」

 士官達も口々に所感を言う。



 映像もだいぶくっきりしてきた。やっぱ青い馬だ。全身鎧の騎士風の騎手が乗っている。

「……まさか」

「ん?どうしたイルマ」

 机の上でイルマが首をひねる。

「いえ、昔の文献で見たことの有るような風体だったもので」

 ほほう?やっぱりイルマ世界の関係者か?

「だが、味方ってわけじゃなさそうだな?」

「はい。アレは……悪魔です」

「「……は?」」

 俺と石動の声がかぶる。

「悪魔って、魔界に住んでる?」

「それ。正確には魔族、でしょうか」

「角とか生えてる?」

「多分」

「コウモリ羽とか生えてる?」

「アレには生えてませんが、そういうのもいます」

「「ほー」」

 俺と石動を含む士官たちが異口同音に声を上げる。

「……余裕ですね。みなさん」

「だってなぁ」

「悪魔っても、天使の後だし、それくらい居るだろう?ってもんだよな」

「「そうそう」」

 イルマが頭を抱える。

「で、アレはただの野良悪魔なのか?」

「いえ、青い馬に乗った騎兵……確か「騎士フォルカス」だったと思います」

「騎士?悪魔にも爵位が有るのか?」

「自称、ですけど。実際のところ爵位制なのかはわかりません」

 なにはともあれ、味方ではなさそうだ。





 ★

「やはり直接こちらに転移するべきだったか。常歩だと思いのほか遠かったな」

 フォルカスは愚痴をこぼすが、その顔に疲労はない。

「しかしダンタリオンめ。援護とか言ってた割についても来れんか」

 遠くに湖が見える。そこに立つ塔が目的地だ。



 ガガガッ!と蹄を鳴らして塔から少し離れた空中で停止する青い馬とフォルカス。

「ふむ……現地の軍隊か。それなりに数はいるようだが」

 塔の周辺に見えるマダラ服の兵士達。

「少ないな。余裕か?」

 再び歩を進め、塔の上に駆け上る。



 塔の(へり)に降り立つグラニ。

 眼下に展開される兵士。だがその数はせいぜい数十。

 魔族を相手にするにはあまりにも少ない。

「もしや、単騎と見て舐められているのか?」

 翻訳と念話魔法を広範囲でかける。



『聞け!』

 フォルカスは槍の石突を塔に打ち付ける。甲高い金属音が響く。

 眼下の兵が声の主を探しているのか、キョロキョロと周囲を見回している。



『聞け!異界の人間どもよ!我が名はフォルカス!魔界の騎士にして魔王バエル・ゼブル様の忠実なる尖兵である!』

 周囲の人間から動揺が感じられる。だが一筋の魔力も感じられない。

「魔法も使えぬ猿どもめ。アルビオンの騎士の方がまだマシだ」

 くるっと槍を脇に構え、眼下の兵士に向ける。



『この塔は我が主、ゼブル様のものだ。如何に現地人であろうと手出しは許さぬ!』

 ゆっくりと周囲を見る。変化はない。

「威力偵察にも手出し無し、か。ここの軍はお飾りか?」

 あまりの反応の無さに逆に不安になる。



『あーあー、フォルカスさんと言ったかな?聞こえるか』

 どこからか男の声が聞こえる。地上を見るが変化はない。

『こっちだ。頭の上』

 ゆっくりと頭上を見る。

「なんだ?……魔道具?」

 マナの塊のようなナニかが浮いている。ヴーーーーーと、羽音のようなものが僅かに聞こえる。

『ああ、聞こえてるみたいだな。こちらは日本国、陸上自衛隊だ。私は現場責任者イスルギ三等陸佐……少佐の方がわかるかな?』

「ふむ。多少は魔法の心得の有るものも居るようだ。だが」

 フォルカスはクルと槍を赤い魔道具に向ける。

「爵位も持たぬ一介の軍人風情が、いささか()が高いのではないか?」

 ヒュン、と軽く槍を振ると、二つになった赤い魔道具は唸るのを止め、霧散する。



『このような魔道具でなく、眼前にて相対せい』

『わかった』

 その念話と共に、巨大な鎧が塔に降り立った。





 ☆

「よう。フォルカスと言ったか?出てきてやったぜ」

「……アルビオンの魔導鎧……なぜこんなところに」

 エイジが塔の上に仁王立ちでフォルカスを見下ろす。

「”何故”はこっちのセリフだ。魔王の手先が何故こんなところにいる?」

 腰の直刀に左手を置く。



「ふむ。キミとは気が合いそうだ。名を聞こう」

 フォルカスは塔の縁から屋上に降り立つ。

 右手を直刀の柄に掛け、ゆっくりと足を開く。

「エイジ・オーギュスト。アルビオン王国、第五騎士団、遊撃隊、隊長」

「やはりアルビオンの騎士か。では……ゼブル王が臣下、騎士フォルカス」

 すっとフォルカスが槍を構える。

「参る!!」

 掛け声とともに青い騎馬が突進する。



 ガシン!

 エイジの直刀が槍を横殴りに止める。

「ふ!やるな!」

「なめるな!」

 エイジの刃が横薙ぎに振り抜く。だがその軌道は空を切る。

「ふはははは!良いぞ!魔導鎧をこれほどまでに動かせるとは!」

 ガガガ!と空中へと駆け上がるフォルカス。



「どうした!魔界の騎士!もう”逃げ”か!」

「吠えるな。一合で貴様の技量は判断できた。青いな」

「ナニ!?」

「魔導鎧か大型魔獣くらいしか相手にしたことがないのであろう?騎兵の相手は不得手と見える」

「くっ!」

 図星なのかエイジが直刀を構え直す。



「武力はそこそこ。こちらはどうかな?」

 フォルカスが槍をエイジに向ける。

「ふん!」

 気合一閃、槍の先から「黒い光」の塊が高速で発射される。

「ぬるい!」

 その黒い塊を魔力を纏った直刀で両断する。ポシュ、と霧散する魔力の塊。

「ほほう」

 馬上の騎士は楽しそうに笑みを浮かべる。



「ここで引くわけにもいかないんでな」

 話しながら高度を上げたフォルカスに向かって右手を突き出す。直刀は右手に添わせ左手で弓でも引くように構える。

「ほう?変わった構えだな」

「流石にこれは見たことねえだろ?」

 ぐっと腰を下げ、斜め上空に居るフォルカスに視線を向ける。

「避けてみな?」

 ふっとエイジの姿が消える。



「む?!」

 眼下の巨大甲冑がフォルカスの記憶に無い速度で消えた。とっさにグラニの腹を蹴り、空中を全力で駆け出す。

 その瞬間、ズザ!っと直刀が直下から突き出される。

「ぬお!?」

 グラニの尾の毛が数十本宙を舞う。ガガッガガ!と蹄の音が響く。



「ふっ、これはなかなか」

「くそっ!」

 ズン!っと屋上へ着地するエイジ。

「ふははは!見事なり!まさか魔導鎧が縮地を使うとは思わなんだわ!」



 表情の変わらないエイジの面鎧が悔しさに歪んだ気がした。



 ☆

 井崎山指揮所でエイジの戦いを見ていた俺たち。

「「……牙◯?」」

 士官達が異口同音にその技の名前を口にする。

「対空の参式ですな」

 なぜ知ってる。

「エイジ君もなぜ知ってるんだ?◯突」

 そういえばそうだな。

「まあ、技名は言ってないけど」

「似たような技が異世界にもあるのかもしれないし」

 俺はマナドローンの操作に集中してるので会話に突っ込めない。



「エイジと言ったか。すまぬが目的はお前ではない」

 ん?塔の保全が目的じゃないのか。

「どういうことだ」

 ジャンプしても届かない位置にまで浮かんだフォルカス。ゆっくりとなにかを探しているようだ。

「おぬしに天使は屠れまい」

「なに?」

「空飛ぶ魔道具に乗った少女が居るはずだ」

 もしかしてマリカが目的か?



 その言葉に反応したのは指揮所の士官達。

「マリーを探してる?」

「なんのために?」

「魔王の嫁……いやなんでもない」

「単純にスカウトとか?」

「ああ、対天使用に?」

 そういえば、今のところ天使を撃退したのはマリカだけだしな。そういう可能性もあるのか。



「マリー?」

 千林が横の隊員に問う。

「え?マリカちゃんだろ?昨日も会ったじゃないか」

「そうか……今日も来るかな」

「学校終われば来るだろうけど。どうした?具合悪いのか?」

「いや……」

 薄目でその光景を見ていた俺は、なにか違和感を覚えた。





「さあ!天使をも一撃で屠るあの少女、渡してもらおうか!」



 空中のフォルカスが青い馬からさっと飛び降りる。槍を構えゆっくりとエイジに迫る。次第にその体が大きく巨大になっていく。魔法か、もしくはこっちが本性か。エイジと同じくらいの全高になったフォルカス。

「断る!」

 音もなく抜き放たれた直刀と槍が空中で激突する。

「お前を倒した後にゆっくり探しても良いぞ?」

 猛烈なフォルカスの突きを、同じく高速にさばいていくエイジ。

 ギリギリと金属の擦れる音が響き、鍔迫り合いが続く。

「くっ!」



FH70(155ミリ榴弾砲)用意よし!」

「目標、塔屋上のS1。エイジに当てるなよ。攻撃開始」

『F隊。A1。了解。攻撃開始』

 その無線が終わると同時に腹に響く砲撃音が聞こえた。



「む、なんだ?」

『エイジ、観測手の合図で後退』

 俺の念話に無言のエイジ。

「どうした?臆したか?」

 フォルカスは薄く笑みを浮かべながら挑発する。





『五、四、三』

 俺の中継する念話にエイジが一足飛びに後方へジャンプする。

『だんちゃーく、今!』

 指揮所に観測員の無線が響く。山なりに飛来した榴弾が塔の屋上で爆発するのを俺のマナドローンと、観測機オメガ1(OH-1)のカメラが捉える。



 榴弾の直撃を食らったフォルカスは声も無く屋上に倒れる。

『エイジ!確保!』

『応よ!』

 もうもうと立ち込める煙と砂埃に突っ込んで、転がるフォルカスの首を握りしめるエイジ。

『確保!』

「ぐう!」

 力任せに握られた巨大な手の中でフォルカスが顔をしかめる。

「今のは……なんだ?魔法?いや、魔力反応は、なかった」

「こっちの軍もやるだろう?」

「ふ、なかなか……だ」

 口から血を流しながらフォルカスは意識を失う。



「確保したが、どうする?」

 ドローンに向かってエイジが問う。

「そのままだと死にそうか?」

「魔族がこれくらいで死ぬもんか。衝撃で気絶してるだけだ、よっと」

 左手の直刀を軽く振り、器用にそのまま納刀する。

「イルマに抗魔結界を用意してもらってくれ。このままじゃ握りつぶしちまう」

「了解」

 俺はひとまずドローンをエイジに追従させて、意識を指揮所に戻す。



「だとさ。イルマ……ん?」

 さっきまでテーブルの上に居たイルマの姿がない。

「どこいった?」

 ふと千林を探す。

「千林も居ない?」

 士官が周囲を見渡す。狭くはないが隠れるほど広くはない指揮所のテント。だが二人の姿は見つからない。

『イルマ?』

 念話を飛ばす。……返事がない。



『セリカ、モニターしてるか?』

『はい。ですがイルマさんの所在は不明です』

『セリカが見失うとは珍しい』

『いえ、フォルカスが確保された瞬間にロストしました』

 消えた?瞬間移動なんてできたのか?



「コロナ!指揮所内(ここ)の映像ログは有るか?!」

「はい。現在チェック中です」

「五分前から五倍速でメインモニタに」

「了解」

 あ、氷室さんすっ飛ばしてコロナに指示しちゃった。いかんな。

「氷室さん、すまん。オペレーターすっ飛ばした」

「いえいえ。ウィザードなら問題ありません」

「ありがとう」

 正面モニタに映像が流れる。テント内の録画だ。



「五分前には居る。四分……三分……あ」

 ちょうどエイジがフォルカスを確保した位のタイミングでイルマが消えた。

 まるで不出来な合成のようにパッと消えた。

「コロナ、二分二〇秒から定速で再生」

 氷室さんの指示で消える直前から流れる。やはり瞬間で居なくなっている。

「千林も同じタイミングで消えてますね」

 巻き戻してコマ送りで再生。

「うわ、六〇フレームの一コマで消えてる。本当に瞬間だ」

 士官の誰かがつぶやく。

「魔法……か?」

 くるっと全員の目が俺に向く。

「多分そう、かな?」



『アドミニストレータ』

 目の前に仮想モニタが浮かぶ。

『イルマさんの消滅時間とちょうど同じ時間に、塔のマナ吸収が止まっています』

『関連した事象だと?』

『同時刻に塔の内部に強力なマナ反応が現れています。マナパターンはイルマさんです』

 空間転移?そんな魔法有ったかな?

『転移門も魔法陣も無しで直接空間を移動する魔法は、今の処存在しません。ですが』

『ああ、あからさま過ぎる。多分それだ』



「エイジ、イルマが消えた」

 ドローンから俺の声が流れる。

「どういうことだ?」

「多分、千林さんも一緒だ」

「イマイチわからんが、居場所はわかってるんだな?」

「おそらく、塔の中。中層の巨大魔法陣の場所だ」

「おいおい……どうする気だ?」

 正直、二人を塔に取り込んでどうするのか予想もつかない。

「わからん。ただ、放置はできない」

「当然だな」

 エイジがボディの各所に有るハードポイントのマナ結晶を確認する。

「使えそうか?ブースター」

「ああ、無ければ縮地は使えなかった」

「そうか。マナはまだ持ちそうか?」

 ギュッと手を握るエイジ。

「大丈夫。あんたの作ったマナ吸収術は優秀だ」

 正確には作ったのはセリカだけどな。



「準備よし。行ってくる」

 エイジはフォルカスを屋上に自身の槍で縫い止める。焼けた背中が痛々しい。

「エイジ!増援を待て!」

 石動の声がドローンから響く。

「待てん!」

 ダシダシと屋上の下り階段へと駆ける。



 うわ、全速のドローンが追いつけない。とりあえず追従にしとこう。

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