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24 無限収納。

 ☆

「で、どう使うの?」

 マリカは手の上で直径六センチほどの結晶を転がしている。ひょいと俺はそれを持ち上げる。

「結晶に接触したままで、収納物を見ながら念じる、と」

 テーブルの上のコショウ瓶が、音もなく消える。

「おぉ……」

 マリカがプルプルと震えている。

「で、出すときは、視界のインベントリから指定して念じる」

 パッとコショウ瓶が現れる。

「うわ……」

 ほい、とマリカに次元収納結晶を渡す。



「まあ、試作品だ。容量は少ないし、オドは食うし、一瞬で出し入れするのも難しいし」

「ん。どれだけ入るの?」

「水換算で一.三リットル弱。オド消費は時間一〇〇位」

「むぅ、二リットルペットボトルも入らないとか。半端だね」

 そう言いながらもマリカはテーブルの上のコショウや塩を入れては出して遊んでいる。

「マリカならオド消費は問題じゃないんだが、容量がなぁ、結晶のサイズに比例するんで、なかなか難しい」

「……ねぇ」

「ん?」

「これにマナ結晶は入るの?」

「もちろん」

 部屋の隅に固めて置いてある、バケツ入りの砂サイズマナ結晶を収納していくマリカ。なにしてんだ?



「これの最大容量ってこれくらい?」

 ポンと塊で出てきた砂サイズのマナ結晶の塊。マリカの魔法で球状に固まって浮いている。直径で言えば十三センチくらいか。

「ソレくらいだな。インベントリの端っこに残り容量出てないか?」

「え?あ、あった。残りがほぼ無いからこれで最大だね」

 むふーと息が荒いマリカ。なんだ?

「こんなサイズの次元収納を作ったら容量は?」

「セリカ」

「……直径十三センチの次元収納を作った場合は六一リットル強、ですね」

「マリカくらいなら入りそうだな」

 きょとんとしたマリカを見る。数秒後、プーっと膨れる。

「そんなに重く無いですぅ~!」

「だろうな。ちっこいしな」

「ぶー!」



「で、仮にこのサイズのを作ったところでこんなの邪魔だぞ?」

「ん、大きいのを、小さいのに収納したら、容量は大丈夫じゃない?」

「へ?」

「アドミニストレータ、マトリョーシカの逆です」

「……ああ!」

 俺は砂粒マナ結晶に手を当てる。



「セリカ、次元収納構築。次元数は五。直径は一三センチ。構築開始」

 キュと高速呪文が聞こえる。

 マリカが保持していた砂粒マナ結晶の塊がドロっと溶け、一塊になる。

 しばらくぼんやりと光っていたが、一分ほどで収まった。

「よし、マリカこいつを収納」

「あい」

 パッと消える一三センチ結晶。

「セリカ、俺にもインベントリを見せてくれ」

「はい」

 視界に仮想ウインドウが浮かぶ。

プライマリ(一段目)に結晶が一個、で、残り容量がほぼゼロ」

 ツンとウインドウの結晶をタップ。ぺろっと新たなウインドウが開く。

セカンダリ(二段目)は……空。残り容量六一リットルちょっと。ふ、ふは、ふはははははははははは!」



「兄さんが壊れた?!」

「アドミニストレータ?」

「セリカ!セカンダリの最大容量直径の次元収納を構築!」

「……直径二四センチの次元収納を構築開始……」

「兄さん?」

 マリカを見る。不思議なものを見るような顔をしてる。

「直径二四センチの最大容量、判るか?」

「え?一三センチで六〇リットル以上だから……二〇〇リットルくらい?」

 セリカは魔法行使中なので自力で計算しよう。関数電卓をパチパチする。

「大体一四二〇リットル。水換算で一.四トンちょっと」

「トン」

「俺の車が二台入る」

「……えぅ?」

 文字通り目を丸くしているマリカ。

「ちょ、なんで六〇キロがいきなりトン超えになるの?!」

 わたわたしてるマリカ。まあ当然だな。



「マリカは四次元ってわかる?」

「猫型ロボットのポケット?」

「まあ、アレだ。で、マナスーツの時にも言ったが、こいつは五次元で」

「まって、まず「次元」てのがわからないんだけど」

 マリカがシュタッと手で遮るように話を止める。



「……この世界は三次元、ってのはわかるな?」

「なんとなく」

 俺は空中に指を動かし、仮想モニタに図を書く。

「点が〇次元、線が一次元、その線に直角に広がる線が伸びて平面の二次元、その二本に直角に交わるように、高さ方向へ広がってるのが立体の三次元の立方体」

「うん、ソレは理解できる」

「俺達の認識できる空間としての次元は三次元まで」

「ふんふん」



「で、その三本の線に直角に交わる様に広がるのが四次元の立方体」

 斜めに線を引く。もちろん直角には交わらない。

「直角じゃないよ?」

「うん、これはオレ達が三次元までしか認識できないから仕方ない」

「私は認識できてます」

 セリカが俺の書いた図を清書する。

「……直角に……なってるのかなぁ?」

 どう見ても歪んだ立方体に見える。

「三次元認識ではこんな感じですから」

 しゃーなしだ。



「で、これに更に直角に線を引いて広げたのが五次元」

「……もう玉だねこれ」

「三次元的に見ればな。だが、これが五次元の立方体だ。それを五次元球にしたのがこれ」

「わかったような、よくわかんないような」

「まあ、仕組みはわからなくても使えるからよしだ」

 そうこうしてる間に直径二四センチの収納結晶ができた。



「これをセカンダリに入れて、と」

 シュンと消える結晶。

ターシャリ(三段目)を起点に設定」

「設定しました」

「よし。マリカ」

 ほいっとマリカに直径六センチの次元収納球を渡す。

「ん……うわ」

 マリカの顔が驚きの顔とも苦笑いにも見える。残り容量を見たんだろう。

「こんなにナニ入れるの?」



 さて、なにいれようか?って決まってる。



「これだ」

 トン、とテーブルに置いたのはマナポーション。

「……そういえばこれってどうやって作ってるの?」

 ポーションの瓶をまじまじと見ながら聞いてくる。

「んー、マナ溶液を固めたのがマナ結晶」

「ん」

「で、結晶を一旦粉末にして」

「ん?」

「別のマナ溶液に溶かして」

「んん?」

「もっかい結晶にして」

「んんん?」

「というのを五回繰り返してできたのがマナポーション」

「案外手間かかってるんだ」

「おかげで単結晶をマナ化して吸収するよりは密度が濃い分、マナは多い」

「これ以上は飽和してしまいます。このあたりが限界と思われます」

 マナポーションの瓶を次元収納に出し入れしていたマリカがくるっと俺の顔を見る。



「これ、液体のママ収納できないの?」

「はい?」

 何いってんだ?

「だーかーらー。いちいち瓶から飲むんじゃなくて、液体のママ収納してたら、直接口の中にでも取り出せるじゃない?」

「……んな無茶な」

 俺は次元収納結晶を右手に取り、マナポーションの中身をコップに移し、左手に持つ。



「左のコップ……中身だけを、収納」

 パッとコップの中の赤い液体が消えた。

「おお!?」

 嬉しそうな声を上げるマリカ。

「インベントリに……有るな」

 収納一覧に「マナポーション(120ml)」と、表示された欄がある。



「んで……口の中に、取り出し」

 トン、とインベントリを突く。その瞬間口の中に甘い味が広がる。

「ん、ぐっ!」

「兄さん?大丈夫?」

 いきなりだから飲み込むのに気合がいる。

「あー……まあ、成功した、ようだ」

 息も荒く俺は成功を伝える。が。

「こいつは、手順をなんとかしないと、危ないな」

「ん?なんで?」

「溺れる」

「あー……」



「アドミニストレータ」

 ログ取りのためか、静観していたセリカが手を挙げる。

「なんだ?」

「マリカさんのステッキに、多次元収納を組み込む許可を」

「……」

「はい?」

 また変なこといい出した。

「何でステッキに?」

「魔法を使う時はステッキを持っています。基本的な魔法操作にはマリカさんのオドを使い、大出力魔法の行使時には直接多次元収納からマナを使用します」



 なるほど。マリカのオドは魔法の起動に使って、現象そのもののマナ消費は次元収納から引き出すと。

「スーツのマナ吸収モジュールも組み込めば、常時多次元収納にマナを貯蓄できます」

「大出力魔法打ち放題ってこと?」

「はい。オドの増加成長も限界が近いようですので、外部タンクとして設定してはどうかと」

 増槽か。

「よし。許可。マリカ、ステッキを」

「あいあい」

 ヒョイと何もない空間からステッキを取り出すマリカ。



「……客観的に見るとすげー光景だな」

「かっこいいでしょ?」

「まあな」

 ステッキを受け取り、セリカを見る。



「何段までいける?」

「現時点では五段(クワイナリ)まで可能です」

「よし、次元収納設定、次元数は五。プライマリは直径二センチ。五段まで積層。場所は柄尻。構築開始」

 キュキュキュと高速呪文が響く。ただのグリップだった持ち手の尻に赤いマナ結晶が生える。



 ふわっと光っていたソレの輝きは五分ほどで消える。

「構築終了」

 俺は手の中のステッキに意識を向ける。ふわっとインベントリが浮かび上がる。

 一段目が二センチ、二段目が六センチ、三段目が一三センチ、四段目が二四センチ、五段目が四九センチ。

「容量は、あ……」

「どしたの?」

 インベントリの空き容量を見て少し後悔した。

「やりすぎた……かな」

「え?」

 マリカもインベントリを覗く。

「んー……ん?桁が多くて」

「九〇〇〇……」

「はい?」

「九〇〇〇トン。流石にやりすぎだったか」

「……えーと、例えば?」



 セリカが仮想モニタに船の映像を出す。

「全長一二〇メートル級フェリーがそれくらいですね」

 セリカが近い容積に例えるがでかすぎて分からん。

「……フェリー」

「船か……」

「詰め放題だね」



 結局、元に戻すのもナニなので、少々予定より大きな倉庫が出来たと思うことにした。

「後はこれにマナ吸収と精製術式を組み込む、と」

「あ、ちょっとは荷物入れれるスペース空けといてね」

「はいはい」

 フリースペースは一〇トン位でいいだろうか。あ、これじゃ戦車は入らんか。千トン位は空けとこう。



 ん?戦車って五〇トン位?戦車二〇台って考えると、あんまり大きいように思えないから不思議。いや、でかいんだけどな。



「んふふ~」

 新しくなったステッキを持ってごきげんなマリカを見ながら、ふと思い出した。

「そういえば、来週帰ってくる」

「ほえ?」

「だから、俺の親たちが帰ってくる。メールが来てた」

「あ、やっと帰ってくるんだね。長かったねー」

「そしてお前の夏休みも終わる」

「あ……」

 どんよりと俺を見るマリカ。

「魔法でなんとかならない?」

「ならん。宿題は終わってるんだろ?」

「一応」

「なら、いいじゃないか」

「うー」

 割と本気で嫌そうな顔のマリカ。こんな思いはしばらくしてないなぁ。夏休みがないからな。





 翌日、大津駐屯地から井崎山までの転移門を作りに来た俺とマリカ。

 転移門を通りシュタッと手を上げるマリカ。

「おはよーございまーす!」

 その場にはそぐわない、元気なマリカの挨拶に隊員の野太い挨拶が帰ってくる。



「あはは、なんか場違いだね」

 迷彩の隊員たちに敬礼されて、敬礼していいやらお辞儀していいやら、わたわたのマリカ。ま、中学生だしな。

「いや、フェレットや巨大ロボよりは普通だ」

 ひとまず石動に顔を見せに行く。



「おはよう。早速だが開通作業を始めてくれるか?」

「はーい」

 元気な返事のマリカを千林が肩にイルマを載せて案内していく。馴染んでるなぁイルマ。

「八尾君はこっちだ」

 石動にガッシリと肩を捕まれ、士官円陣に引き込まれた。

「なんです?」

「一応、MU班の班長だからな」

「うへぇ……」

 大変そうだなぁ。



「井崎山への門は後でやるとして、訊き忘れたことが有ってな」

「はい?」

 ついっと差し出されたのは……なんの表だ?

「然別演習場での砲弾使用数」

 ああ、そういや戦車がバカスカ撃ってたな。

「アレ、効いたのか?」

「ああ、着弾観測評価は効果あり」

 ほほう、思いつきでやった割に効いたようで良かった。

「なにやったかは知らんが、キミの作った何かが効果を発揮したようだ」

「そら結構」



「で、だ」

 にやっと笑う石動。

「あー……これもこっちで装備できるように?」

「いい読みだ。任せた」

「あれ、かなり適当に作ったやつなんで、ちゃんと作るなら詳細なサイズとか聞きますけど?」



「大丈夫」

 情報科士官が書類を差し出してくる。

「キミの情報アクセスはクラス3。通常配備品なら閲覧は可能だ」

「手回しのいいことだな。これも含めての三尉相当か?」

 返事はなく、フッと息を吐く情報科。



「ってことなんだが。砲弾にナニをしたんだ?」

 石動がぐっと前のめりになる。

「砲弾にはナニも。そんな時間もなかったし。砲身の先にマナ結晶をくっつけただけ」

「それであの威力か。すごいな」

 感心する石動。すっと俺の後ろからファイルが差し出される。あ、相模原さん。

「MU人員の昨日時点での記録です」



「あー……はい。人員振り分けしましょうかね」

「ダイジョブですよ」

 いつの間に戻ってきたのか、イルマが千林の肩から顔を出す。襟巻き状態だな。千林さん暑くないのか?

「隊員の魔法制御は十分です。優秀ですね」

「これはこれは。イルマ先生にほめられるとは」

 そういう千林さんの顔を見てテレテレしてるイルマ。んー?

「ま、こっちはやっとくからイルマはマリカの転移門構築を見てやってくれ。セリカがサポートしてるから大丈夫だろうが、な」

「はいはい。では」

 きゅ、と千林を見るイルマ。

「はい、では」

 ピシッと敬礼する千林。



「じゃぁ……どうしました?」

 石動や他の士官達が苦笑いとも言えない微妙な顔をしている。

「千林……嬉しそうだな」

「あいつケモナーですからね」

「それも重度の」

「こないだ飲みに行ったらイルマさんの話ばっかりでしたよ」

 そうか。重度のケモナーか。そらしゃべるフェレットなんか理想だわな。



「それはそれとして。ナニ要ります?」

 砲撃用アタッチメントの仕様決めんとな。

「あー、とりあえず七四式と、87AW(八七式自走高射機関砲)と、FH70(155ミリ榴弾砲)。小銃はM弾……いや、89式用を員数分揃えられるか?」

 また無茶いい出したよこの人。

「多分出来ますけど、M弾はいいんですか?両方はできませんよ?」

「むぅ……サンプル採取用にM弾二式をいくつか揃えるだけでもいいんだが」

「いくつか?」

「一人ワンマグ」

「一〇〇個超えるじゃないすか……」

「わははは、大丈夫。なんとかなる!」

 もうやだこのひと(脳筋)



 しかし、その日から一週間。世界中の塔からモンスターは現れなかった。







 ★

「あはは、転移陣の起動魔力を貯めるのに、七日もかかるとは思わなかったですねー」

 だるんだるんのワンピースを着たダンタリオンが巨大な魔法陣の上に立ち笑う。

「私だけなら三日で行けたんだがな。なぜ貴様がいる。ダンタリオン」

 武装一式をつけたフォルカスが腕組みでダンタリオンを見下ろす。その顔はかなり嫌そうだ。



「やだなー。もちろんゼブル王の命令ですよ~?援護しますよ~?」

「ふん、私に援軍は不要だ」

「そりゃそうでしょうけど、わたしも王の命令無視して帰れませんからね~」

「では、おとなしくしていろ。戦場でウロウロされてはたまらん」

「安心してくださいな。もとよりそのつもりですから~」

 ニョッと笑うダンタリオン。



 ぼんやりと足元の魔法陣が光る。

「お、いよいよですね~」

「だまれ」

「はいはい」

 そうこう言ってる間に魔法陣の光が最高潮に達した。

 ぐにゃりと歪む視界。前を向いているのに自分の背中が見える。

「おお……これは」

「おや?フォルカスさんは転移は初めてですか?」

 ダンタリオンがフォルカスの顔を見上げる。

「戦場での短距離転移は常套手段だ。だが世界を超える転移は初めてだ」

「まあ、私も初めてなんですけどね」

 視界一面に光が満ちる。



 パリン!

 ガラスの割れるような音が響く。音と同時に光が消える。

「……着いたのか?」

「そのようですが?」

 キョロキョロと辺りを見渡す二人。特に風景は変わっていない。塔の中、転移陣の上。



「ああ、この濃いマナは……転移は成功していますね~」

 ダンタリオンが深呼吸する。

 フォルカスは両手をニギニギして力を確かめる。

「この濃度のマナなら楽に目標を捕らえられそうだ」

「……目標、コロコロしちゃだめですよ?」

「わかっておる。貴様はおとなしく見物しておれ」

 フォルカスがどこからともなく大きな槍を出す。ブンと振った槍の後に、馬が出現していた。全身が青く、長いたてがみを揺らしている。



「グラニ。この異世界でも共に駆けようぞ」

 グラニとよばれたその青い馬は嬉しそうにフォルカスに擦り寄る。

「ほほう。それがスレイプニールの血統と名高い軍馬グラニですか~」

「さよう。こいつとともに一〇〇〇の戦場を駆けたものよ」

 フォルカスはふわっと音もなくグラニにまたがる。

「ダンタリオン、貴様は自前で移動しろ」

「あら、わたしは載せてくれないんで?」

 そう言いながらもダンタリオンはニヨニヨと笑みを浮かべている。

「当然だ。足の確保も武人の心得だ。何とかしろ」

「はいはい。りょーかい」

 ピシッと敬礼する。それは騎士や貴族のものとは違う。額の横に手を当てる、見慣れないものだった。

「何だソレは?」

「やだな~、報告書に有ったこっちの軍人の敬礼ですよ~」

「しらぬ。知る気もない」

 ダンタリオンの行動を位にも介さず、フォルカスは壁に向かって槍を突き出す。

「ふん!」

 気合一閃、槍から放たれた魔力の塊は、壁を崩し外の風景を見せる。

 フォルカスはダンタリオンを一瞥もせず、その壁の穴からグラニと共に駈け出した。



「はっ!」

 海上に立つ塔。その中ほどの穴から騎馬が駆け出す。

 ガガッ!ガガッ!と空中を蹴る蹄。落下せずそのまま空へと登っていく。

「さすが伝説の軍馬。空も駆けるか」

 ダンタリオンはその姿を眺めながら呟く。その顔に先ほどまでの笑顔はない。

「ま、わたしは勝手にヤラせてもらいますよ」

 塔が緩やかに穴を自己修復する。

「ほっ」

 ダンタリオンもその穴から空中に飛び出した。自由落下。秒速九メートルで加速する。



 海面が目前に迫った瞬間、ダンタリオンは刹那の間に姿を変えた。

 それは巨大な鷲。翼端長三〇メートルは超える大鷲だった。その姿は伝承に出てくるロック鳥にも見えた。

「ま、ここから目標まで一万キロ以上ある。これくらいじゃないと」

 バサッっと大きく羽ばたくと高空へと舞い上がる。

 しばらく飛ぶと、はるか眼下に海上を走るフォルカスが見えた。

「お先に失礼」



 旅客機もめったに飛ばない高空を巨大な鷲が飛ぶ。

 船も通らない海上を青い馬が駆ける。



 目指すは極東。

 目標は空飛ぶ少女。



 確保か、殲滅か。



 二つの思惑が、南洋から日本へと迫る。

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