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21 後始末。

 ☆

 落雷を受けた戦車は動きを停め、煙を上げる。

「ああ……」

 眼の前で、人が死んでしまった。

 守ろうと思ったのに、守れなかった。



 箒がゆっくりと高度を下げる。



「セラ!」

 ステッキをケルビムに向けて構える。

 その声に反応したのか、醜悪な天使がギロリと私を見る。

「マリー、落ち着いて。直ちに離脱しましょう」

 セラが私をなだめようとしているのがわかる。

「いや!ミストルティン!(神殺しの槍)単発!最大!」

「……スタンバイ」

 桜島のときよりも太く長い光の槍が現れた。

「シュート!」



 ステッキを振り下ろす。光の槍が文字通り目にも留まらぬ速度で闇を切り裂く。

 ガン!と天使に当たる感触。だが。

「え?」

 天使は羽の下から腕を伸ばし、光の槍をがっしりと受け止めていた。



「そんな……」

「まー、光子の塊を掴むとは非常識な」

 ふいに声が聞こえる。その場には合わない可愛い声。

「キャミ?」

「はーい。キャミでーす」



「なんで?」

「ん?」

 キャミは置いてきたはず。さっきまでいなかったのに。

「あははー。ま、その話は後で。セラ!高速上昇離脱!」

「了解」

 グッと垂直に急上昇。

「セラ!戻って!」

「だめよー。今のマリーじゃアレには勝てないよ?」

「だって!」

「見て」

 ふいに視界にモニタが現れる。そこには自衛隊の大砲や戦車が天使に向かって全力砲撃している姿が映る。

「ああ……効かないのに」

「いいえ。よく見て?」



 映像が切り替わる。砲撃を一身に受ける天使。

 撃っているのはさっきの爆発する弾だろうか。当たると天使の体表で爆発が起きる。

「……効いてる?」

「ホドホドには、ね。全マナ弾とかよりは効いてないっぽいけど」

「なんで?」

「詳しくは落ち着いてから。今はマリーの回復が先。ポーション有る?」

 あ、そういえば持ってた。マナ回復ポーション。

 腰のポーチから取り出して一気に飲み干す。

 視界のオド残量がぐいっと回復。自衛隊相手のシールドと天使相手のミストルティンでほぼ空だった魔力が戻る。もう一本。



「ふぅ。やっぱコレすごいな」

「さて、マリーはアレ(天使)をどうしたい?」

「ほっといたら、ダメだよね?」

「たぶんね。エイジさんやイルマの言うことを信じるなら、多分自衛隊だけじゃない。周辺の民間人もやられるよね」

「じゃぁ、選択の余地はないよ」

 キャミがニコッと笑う。

「やっぱりコウジロウの言ったとおりね」

「え?」

「絶対むちゃするから、って」

「むー、兄さんったら」

「はい、これ」

 どこから取り出したのか、一本のガラスのような棒。いや、コレは槍の先っぽか。

「これは?」

 キャミがステッキの先の結晶に手を当て、魔法を追加してる。



「……インストール完了。マリー」

「ん」

「それはコウジロウが魔石から作った槍の穂先。多分天使にも効く」

「魔石の槍……どう使うの?」

 てしてしとステッキを叩くキャミ。

「ソレはまだ不完全なの。マリーの魔法で完全にして。術式は入れたから。発動ワードは、”ブリューナク”」

 私は左手で槍の穂先を握りしめ、右手でステッキを構える。

「ブリューナク」

 カッとステッキの結晶が光る。ほぼ全回復していたマナゲージがグイグイと減る。

 ソレに連れて左手の穂先がステッキと一体化する。柄が伸び、穂先自体も五つに分裂し、大きくなっていく。



「……これは……」

「ケルト神話の太陽神ルーが持っていたとされる最強の槍……をモデルにしてるけど、ブリューナク自体眉唾だから何でも良いよ」

「あはは……そのへんが兄さんっぽい」

 槍の成長は止まった。



 長い持ち手の先に槍先が見える。真ん中に一際長い刃先があり、その周りに四本の穂先が、まるで十手の鉤爪のように生えている。

「さて、マナポーション飲んで」

「あ、うん」

 残りのポーションを二本飲む。これで在庫はなし。

「現在高度、一〇〇〇〇メートル。天使との相対位置ゼロ。直上です」

 セラが位置を教えてくれる。

「槍を腰に抱えるように構えて」

 キャミがグッと構え見本をしてくれる。

「こう?」

 右の脇に挟むようにして構える。槍の全長は三メートル以上はありそう。

 全くしならない槍。真っ直ぐに私の前に伸びる。



「うん。ソレを全力加速で天使に突き刺すの。いける?」

 キャミが私の顔を見る。

「……なんのセリフだったかな」

「ん?」

「できるかどうかじゃない!やるんだよ!」

 私は箒を下に向ける。

「セラ!操縦お願い!合図で全力加速!目標天使!」

「了解」

「ゴー!」



 その言葉が言い終わると同時に箒は暴力的な加速で直下へ。

「八〇〇、一〇〇〇、一二〇〇……」

 セラの速度カウントが聞こえる。

 みるみるうちに地上が目前に迫る。

「キャミ!自衛隊に砲撃やめさせて!」

「わかった!」



 発進から数十秒。直前まで雨のように発射されていた砲撃が止まる。

 爆煙の中に天使の光輪が見える。



「目標まで五、四、三」

 セラのカウントダウン。グッと槍を持つ手を握り直す。



「はああああああーーーーー!!!!!」



 ギロッと天使が上を見る。

「一、インパクト」

 その瞬間。ガン!と天使が羽を持ち上げ、槍を防ぐ。硬い鉄壁にでもあたったかのように感じた。

「あああああ!」

 天使の羽が吹き飛ぶ。

 四面の顔の真ん中、頭の頂点に槍がずぶりと刺さる。



『AAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!』



 天使の悲鳴が響く。

 それは美しい声で、断末魔というよりは、まるでオペラのロングトーンのように、長く長く響いた。

 天使は槍の穂先をガッシリと細い両腕で掴む。

 ビシッと槍に亀裂が走る。

「こらえて!ブリューナク!!」

 その声に答えるかのように穂先が刺さったまま伸び、天使を串刺しにする。

 ガシン!と塔の屋上に刺さる気配。



『AAAAAAAA…………』



 天使の悲鳴が止まる。

 ズルリ、と穂先から天使の腕が外れ、力なく羽と共に垂れ下がる。

「……」

 数秒、私は刺さったままの穂先を見る。

 ピキン!と柄から穂先が折れ、取れる。

 柄はステッキに戻り、私はゆるりと水平に箒を立て直す。



「これで……終わり」

 もう箒を維持するので精一杯。今、天使に反撃されたらひとたまりもない。

「大丈夫。ほら」

 キャミが天使を指差す。

 そこにはゆっくりと羽先から消えていく天使が見えた。

「や……った」

 私の記憶は、そこで途切れた。





 ★

「マリカ」

 返事はない。

 俺は野戦救護所のベッドに横たわるマリカに声を掛ける。まだ魔法少女の装いのままだ。

「セ……キャミ、容態は?」

 マリカの頭の横で座るキャミに聞いてみる。

「アドミニストレータ……バイタルはほぼ平常。今はオド切れからの回復中です」

 口調がセリカのままだ。キャミを演じるのを忘れるくらいなのか。

 そっとマリカの頬をなぜるキャミ。

 俺は視界の仮想モニタでマリカのバイタルを確認する。生体的には正常に見える。



「ひとまずは安心、かな」

「安心したところで、ご説明願おうか」

 後ろから石動の声が響く。

「はい」

 俺はベッドから離れ、パイプ椅子に座る。正面には石動と相模原。二人共神妙な顔、というよりは、やや怒気をみせる。



「まずは助けていただいてありがとうございます」

 座ったままで二人にお礼を言う。

「まったくだ。キミがなにかしてるのは知っていたが、まさか独自に塔を攻略しようとしていたとは思わなかった」

「あー、正確にはエイジの帰還のついで、なんですが」

「それでも、なぜマリカ君のことを秘匿していた?」

「……中学生の女の子を切った張ったの世界に飛び込ませるとお思いで?」

「もちろん(いな)だ。だがその手法を自衛隊で使うことを検討することはできる」

「人材がいません」

 相模原がぐっと身を乗り出してくる。

「魔法的なことなら私でもなんとかなったのでは?」

「マリカとはオドの「桁」が違います」

「……ちなみにマリカさんのオドはいくつくらいです?」

「キャミ」

 呼ばれたキャミがふわりと飛んでくる。

「現在のマリカさんのオドは八〇〇万を超えています」

「は……はっぴゃくまん?」

 相模原が口をぽかんと開けて固まる。



「それは……多いのか?」

「相模原さんのオド量は約一〇〇〇〇。魔力成長期を越えた相模原さんに、これを増やす手段は、今の所ありません」

「……わかった。だが」

 石動は椅子を軋ませ、顔を近づける。

「天使を討伐できる戦力なら放置はできん」

「……できるなら避けたいんですけど」

 俺は蛇に睨まれた蛙のように脂汗を流す。

「それにこいつは報告されていないな」

 クイッとキャミを指差す。

「えーと」

 ごまかせんよなぁ。

「盗聴器はともかく、カメラとかどうやって欺瞞したんです?」

 相模原もにじり寄る。

「えーと」

 どうしよう。



「兄さん」

 マリカの声が聞こえる。

「あ、目が覚めたか?」

 立ち上がってマリカのもとへと駆け寄る。

「ん、ねぇ、どうして兄さんが居るの?ってか、ココどこ?」

「ココは然別(しかりべつ)演習場の救護所だ」

 石動が俺の後ろに立つ。いつのまに。この図体で素早すぎだろう。気配もないし。

「えーと、ごめんなさい」

 上半身を起こしたマリカがペコッと頭を下げる。

「ケルビムの攻撃で戦車の人が死んでしまって、ソレでカッとなってしまいました」

「ケルビム?」

 石動の声に相模原がタブレットで映像を出す。

「コレが北海道塔に現れた「天使」です」



 そこには四枚羽で空中に浮かぶ天使の姿があった。

「ん、それ」

 マリカが頷く。

「琵琶湖に出たのとは形が違うな」

 石動が首をひねる。

「四面四羽。キリスト教の天使の階級では最上級。別名「智天使(ケルビム)」全身に目を持ち、雷を操ると言われています」

 俺は補足を入れる。

「はい。天使からの攻撃はすべて落雷だったと報告が上がっています」

 相模原が紙のファイルをめくりながら言う。

「ふぅ……金属の箱の戦車や自走砲に雷が効くとは思えん」

 石動は呆れたようにため息をつく。

「え?効かないの?」

 マリカは驚いた顔を隠すこと無く聞く。

「ケルビムの雷撃で戦車が動かなくなって、煙も出てたし。死んじゃったのかなって」

「あー……避雷針、って知ってる?」

 石動が膝を折り、ベッドの上のマリカと目線を合わせる。

「はい、いちおう」

「戦車の車体って金属なんだよ。キャタピラまで金属だからとても電気が流れやすい」

「……あ」

「そう、カミナリは車体を伝って地面に流れたはずだ。乗員にはほとんど被害が出ることはない」

「でも煙が」

「そりゃあ、油やホコリに火が付くことは有るだろうさ。だがそれくらいで今時の戦車は止まらないし、乗員が負傷することもない」

「うん。無事だったと報告されているわね」

 そう言われた瞬間、ポロポロとマリカの目から大粒のナミダがこぼれだした。



「あ、石動さん、泣~かせた」

 相模原がニヤリと笑う。

「え?え?俺のせい?」

 わたわたとマリカをなだめようとしている石動。どう見てもあやしい踊りだ。

「よ”か”っ”た”~~」

 嬉し泣きか。

「ごめ”ん”な”さ”い”~」

「あーあ、もうグチャグチャじゃねぇか」

 タオルをマリカの顔に当てる。

「びぇーーー」

「あーあ……」





「えー……とりあえずマリカ君のしたことは不問にする」

 ひとしきり泣いて落ち着いたのか、赤い目のマリカが石動の前に座る。その横には俺。

「自衛隊に対してやったことって、攻撃の妨害くらいですしね」

 石動の隣に相模原。

「えーと……ひとつ聞いてもいいですか?」

 マリカが小さく手を上げて声をかける。

「ん?なにかな?」

 あまり見たことのない、子供を相手にする石動の顔が怖い。

 本人は精一杯笑ってるつもりらしいが、怖い。

「なんでここに兄さんたちが居るの?北海道なのに」

「それに関しては本人から言ってもらおうか」

 満面の笑みで石動が俺に振る。



「えーと、お前がすっ飛んでった後でな……」





 ☆

「おいてかれちゃった……」

「アレには追いつけんよ。諦めろ」

「はぁ……アドミニストレータ?先程も言いかけましたが、もうちょっと女の子の機微ってのを察しましょう?」

「無理。安易に察せられないから機微っていうんだよ」

「はぁ……まったく。この鈍感は……」

「ん?」

「なんでもありません」



 わけがわからん。

「とりあえずこいつをどうにかせんとな」

「ひとまず小型の門を作って試してみませんか?」

「……できるの?」

 あの図面じゃ結構なサイズだったと思うけど。

「いえ、あれは装飾付きの完成品ですので。機能的にはもっとシンプルです」

「あら、そうなのか」



 セリカが書き直した図面を見ながら魔石をこねくり回し、一時間かからずに、小さな祠みたいな門を作る。

「……どうみてもドールハウス……」

「私のサイズね!」

 キャミモードではしゃぐな。

「で、もう一つ作るのか?」

「いえ、一つで大丈夫です」

 ほう?

 セリカの説明によると、これ一つで入口と出口を兼ねているそうだ。

 入り口に現在地の座標を書き入れ、出口側にも目的地の座標を入れる。



「設置型か」

「基本設計はそうですね。ですがアドミニストレータは魔石を加工できます。その都度座標を書き換えれば、まさしく」

「どこで◯ドア、か」

 しかし、座標って何基準だ?

「経緯度でいいかと」

「もとは異世界の道具なのに地球の座標で大丈夫なのか?」

「イルマさん曰く”物理的には同じ星” らしいので大丈夫でしょう」

 ふむ。平行世界的なアレだろうか?

「ま、試運転と行くか」

 俺は門の柱にカリカリと爪で現在地の北緯東経を書き入れる。

「出口はどうしようか。あんまり近くてもナニだし」

「……」

 セリカが固まったように動かない。

「セリカ?」

「緊急、マリカさんが北海道塔で天使と遭遇。自衛隊が戦闘中です」

「おいおい、唐突だな」

 俺は慌てて屋上のドアへと駆け寄る。

 ガン!

 ……もちろん鍵がかかっている。

「セリカ!」

 しゅっとキャミが姿を消す。赤い霧がドアの隙間から中へと侵入する。

 カチン。

 程なくカギが外れ、ドアが開く。

「お急ぎください」

 俺は祠ゲートを小脇に抱え、自室へと走る。



 すでにセリカがPCの画面いっぱいに情報をまとめてくれていた。

「うわ……マジだ」

 画面には四枚羽の天使が絶賛落雷攻撃中だった。

「って、これどうやって撮ってんだ?」

「マリカさんの端末結晶からです」

「ん?範囲外じゃないのか?」

「先ほどマリカさんからの自衛隊無線への強制割り込みがありました。その残留魔力波をネット回線で拾ってきました」

「……わかったような、納得出来ないような」

「飲んでください。今はあの天使を撃退することが先決です」

「ゲート……は小さくて俺は入れん。お前だけ先行してマリカをサポート。アイツ絶対無茶するから」

「はい。それで天使対策は?」

「難度九に全魔力使用の「必中の槍」があっただろ?」

「ソレを?」

 俺は屋上の魔石の塊から持ち出した両掌大のソレをいじりだした。

「昔、本で見たのはこんな形……」

 ソレはどう見ても五本立ての燭台だった。



「ろうそく立てですか?」

「槍の穂先だ。名はブリューナク」

「なるほど」

「コレに”必中の槍”を掛ける。マリカの持ってるステッキと融合させたら十分持ちこたえられる」



「承知しました。私が先行します。アドミニストレータは……」

「自衛隊に頼る。北海道のことはしれてるだろうし」



 祠ゲートの前にバケツいっぱいのビー玉サイズマナ結晶を置く。

「では現地で」

 セリカの高速呪文が響くと同時に、キャミの姿が消える。マナ結晶も消える。

「……さて」

 俺は電話をかける。相手はもちろん石動。



『八尾君か?すまんが非常事態だ。手短に』

「こちらも緊急です。俺を北海道の天使出現地点へ送ってください」

『……ナニを言っとるのか』

「俺の幼馴染がそこで天使と戦っています」

『わかった。ちょっと待て』

 しばし電話口でなにか指示を出しているのが聞こえた。



『八尾駐屯地へ向かってくれ。話は通しておく。IDを見せれば通れる』

「了解」

 俺は取るものも取りあえず車で八尾空港へ。

 よく警察に捕まらなかったもんだと思う速度で駐屯地入口に到着。

「石動さんから連絡は受けています。このまま」

 門を入ったところで自衛官が助手席に座る。

「ヘリの所まで行ってください」

 自衛官の案内で陸自の敷地を青い軽自動車が突っ走る。



「アレです」

 案内されたところにはUH-1Jが待機していた。

「ありがとう!車は適当に!」

 しゅぴ、っと有ってるかどうかわからない敬礼をする俺。

 ビシッと敬礼し返してくれる。

 そして俺は機上の人となる。そのまま大津駐屯地へ行くかと思ったら、伊丹空港だった。



「え?」

「早かったな。こいつで北海道まで行く。乗れ」

 石動と相模原の後ろには、C-2輸送機が止まっていた。



 いろいろとすっ飛ばして伊丹から、一時間半ほどで然別演習場上空へ。

「さて、降りるぞ」

 テキパキと装備をつけられる俺と相模原さん。

「え?え?え?」

「ほーれ」

 ぽいと機外にほおり出された俺と相模原。

「「ひやああああーーーー」」

 勝手に開くパラシュート。

 なんとか風にも流されずに着地したがひどい目に有った。

 だが、そのかいあって北海道まで家から二時間で到着。

 すでに天使との戦闘は終わっていた。

 箒と共に回収されたマリカとキャミ。

 目立った外傷はないが、オド切れで気絶していたマリカを見た時は、気が遠くなりかけた。



 ☆

「そして今に至る、ってわけだが」

「兄さん……なんて無茶を」

「あほぅ。お前が先に無茶するからだ」

 にへ、と笑うマリカ。

 まあ、無事だったからよしとするか。





「こっちの始末はこれからだがな」

 石動が怖い笑顔で笑う。

「えーと」

「許可を出したとはいえ、いろいろと法令違反スレスレなことを関係各所にさせたんだ」

「飛行機代は分割で……」

「燃料代だけで車が買えるぞ?」

「……マジで?」

「大真面目ですよ?まぁ救難扱いですし、自衛隊は費用の請求はしませんから」

「すいません……」

 ぐんにょりする。

 そういえば燃料だけじゃないよな。人件費とかも有るしな。

 飛行機って……。



「すまないと思うなら、体で返してもらおうか」

 石動が俺の肩にゴツい手を置いて笑う。だから怖いって。

「体で!?……くぅ!」

「相模原さん?変な想像しないでもらえます?未成年も居ることだし」

「はぁはぁ……これは……イイ」

 うわぁ……腐ってる……。



「あー……アレは気にするな」

「はぁ、で、ナニさせる気で?」

「……キミの休みの間にいろいろと話が進んでな。正式に対不明害獣部隊が設立されることになった。そこの特殊技術(魔法関係)協力者になってもらう」

「……は?」

「決定事項だ。ちなみに今回のことでキミに拒否権はなくなった。よろしく」



「まぁ、ほとんどメンバーは今と変わりませんから」

 相模原が申し訳なさそうに声を掛けてくれるが。

「拒否権は……」

「ありませんね」



 その笑顔は冷たかった。

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