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20 マナ結晶と魔石。

 ☆

「それで、兄さんは明日、どうするの?」

 昨日エイジの輸送は頼んでおいたが、なぜか今日は塔からの襲撃は一回だけ。小物だけだったので、出撃せずに終わったそうだ。

「今日のことも聞かないとだけど、正直めんどくさい」

「もうすぐ夏休み終わっちゃうから、その前にちゃんと塔の中みてみたいなぁ、って」

 あー……そういえばもうそんな時期か。

「宿題……は終わってたか」

「ばっちり!」

 V(ブイ!)っとしながら胸を張るマリカ。



「えーと、新学期まで後一週間くらいか」

「ん、それくらい」

「でもなぁ、塔の強制マナ吸収をなんとかせんと行動不能になっちまうしなぁ」

「あ、そか」

 うーん、と2人で考えるが、特にいいアイデアも浮かばない。



「アドミニストレータ。先日、琵琶湖塔の中に飛ばしたドローンは中層までは問題なく持ったようですが、なぜでしょう?」

 セリカの問いかけにそのことを思い出す。そういえばそうだな。

「逆に、マナは補給されてた。だろう?」

「はい、マリカさんのように急激なマナ低下にも陥っていません」

「うーん。加工してたから?いや、マナ結晶もある意味加工品か?」

 空気中のマナを固めてるんだから加工品だよな。

 うーん。わからん。サンプルが少なすぎる。



「はーい、晩ごはんできましたー」

 あ、いつの間にかマリカが晩御飯作ってくれてた。

「ありがとさん。いただこう」

「いえいえー、全部兄さんの冷蔵庫の食材だから」

 ほほう?ろくなもんがなかったと思うんだけどな。

 出てきたのはビーフカレー。肉なんか有ったかな?



「牛肉が有ったから使ったけど良かった?」

「ああ、そういえば有ったな。そのまま焼こうと思って買ったんだけどな」

「あ、ごめーん。ステーキのほうが良かった?」

「かまわんよ」



 大きめの牛肉がうまい。

「しかし、料理部ってのはホントだったんだな」

 はふはふとカレーを頬張る。なかなかどうして。うまい。

「家庭科部、ね。流石に今日は市販のレトルトだけど、ちょっと隠し味を工夫してるからおいしいでしょ?」

「ん、うまい」

 まぁ、大体カレーは誰が作ってもうまいもんだが。レトルトとは思えないくらいには美味い。



「牛肉が程よく熟成してていい感じだ」

「えへへー」

 パクパクとカレーを口に運びながらも、どうやって塔に侵入するか。それを考えていた。

「マナ結晶……ドローン……魔石……」

「兄さん。食事中に考え事しない。消化悪くなるよ」

「お、すまん」

 カシャカシャとカレーをかき込む。

「ごちそうさま。うまかったよ」

「はい、ごちそうさま」



 マリカが片付けしてる間に部屋に戻って魔石弾頭を取り出す。薬莢は付いていない。

「アドミニストレータ?」

「マナ結晶と魔石の違いってなんだと思う?」

 CGセリカがモニタの中で、うーんと悩むようなリアクション。

「生成される方法……大気から抽出されるか体内で生成されるか、でしょうか?」

「それだ。だが魔石を持つモンスターはマナを吸い取られすぎて行動不能にはならない。その理由は?」

「塔はマナを吸収していました。内部と外部両方からです。それよりもマナ結晶が効率が良かったからでは?」

「魔石にもマナは含まれるぞ?」

 指先で弾丸加工された魔石を転がす。

「なのにモンスターの体内魔石からはマナを吸収しようとしなかった」







「仮説ですが、召喚したモンスターとは別に、ポップしたモンスターはこの世界で実体化するにはマナが必要なのかもしれません」

「まあ、あり得るだろうな」

「しかし、塔のマナ吸収機構により、モンスターのマナも吸ってしまう。そこで、マナを吸わない目印として魔石化させている、のではないでしょうか」

「魔石を目印にしてるなら、マナドローンが補給されてた理由が分からん」

「一定以上のマナ量だとイケニエ候補として猶予される、などでは?」

 あー……かもしれん。

「だとしたら、塔のシステムはかなりフレキシブル……っていうか、自由度が半端じゃない」

「そうですね。海中塔、桜島塔、琵琶湖塔。どれも管理が違いすぎます」

「こうなったら北海道も確認する必要があるな」

 またマリカに頼むことになるが、その前に。

「箒の改修とマナ吸収対策だな」

 現在一八時。時間はまだ大丈夫か。



「マリカ」

「ん?なーにー?」

 キッチンで後片付けをしていたマリカが返事をする。

「明日、北海道の塔を確認してきてほしいんだが」

「あーい」

「……返事が気楽だな。今日みたいにデカイのに襲われるかもしれんぞ?」

「んー、なんかねぇ、もっとでっかいのでも倒せそうな気分なの」

「ほえ?」

「今日、ワイバーンは倒せたじゃない?でも絶好調ってわけじゃなかった。なら、兄さんがそうならないように対策してくれたら、ね?」

「まあ、そうする気だが」

「なら、大丈夫」

「ふぅ……あの魔石を加工をするから(おくじょう)まで俺を上げてくれ」

「はーい。ちょっとまってねー」

 かちゃかちゃと片付ける。





「んじゃいくよー」

「ゆっくりな」

 光学迷彩をかけ、箒にまたがるマリカ。変身はしていない。ひよひよとキャミも浮かぶ。

 そして、その箒からたらされ、輪っかにしたロープにブランコに座るようにぶら下がる俺。二人乗りは出来ないから苦肉の策だ。

 ふよふよと四階のベランダからゆっくり上昇する。屋上は十二階に当たるからちょっとかかる。

「ばーん、っていったらすぐなのに」

「俺が死ぬわ」

 まだ明るいが夕暮れの空を見上げる……あ、私服だから見えちゃうな。

 俺は見てない。絶対見てない。第一お子様パンツなんか見ても何も感じん。

「マリー。コウジロウがパンツ見てる」

「ちょ!キャミ!何言ってんだ!」

「……兄さん?」

「はぃ」

「みた?」

「……白かったです」

「むー……見たいなら言ってくれればいいのに」

「はい?」

「なんでもなーい」

 ぐいっと若干スピードを上げて上昇する。ナニかまずいところに触れただろうか?



「はい、とーちゃく」

「うい、おつかれ」

「何するの?」

 光学迷彩を解除された巨大魔石を前に俺はしゃがむ。改めて見てもでかい。

「塔の管理システムはモンスターとそれ以外を区別している」

「うん」

「どこでそれを区別してると思う?」

「魔石の有無?」

「多分そう。でもマナ結晶のドローンは吸収されなかった」

「そうなの?」

「逆に補給されてた」

「ほえー」

「で、一定度以上のマナ保有量だと、吸収されないのかと、思ったが」

「私は吸われた」

「そう。で、違いはマナ単体で可動しているか、マナを保有する生物か、だな」

「でも、私のもってた結晶も吸われたよ?」

「それは多分、生物ではなくマナ結晶だと認識してるからだと思う」

「マナを持つモンスターは、大きければイケニエにキープして、小さいと外への防衛に使われる、って事?」

「そう思う。なら、お前の装備に魔石を使えば」

「塔は私をモンスターだと誤認する?」

「多分。バカみたいな量のマナをもっていて魔石を認識したら、イケニエとしてキープされるはず、なんだがどうだろう?」

 正直、仮説に仮説を積み重ねてるから、なんの確証もないんだけどな。



「兄さんとセリカがそう結論したなら、私が口を挟む余地は無いと思わない?」

「でも、実際突っ込むのはお前だぞ?」

「大丈夫。いざとなったら塔の壁をぶちぬいてでも帰ってくるよ」

 ぶち破れるのかなぁ。

 マリカがスチャッとステッキを構える。お前はどこの大リーガーだ。





 マリカを箒から下ろして、左手で飛行箒を握る。右手は巨大魔石。

「こいつを……フレームの中と外に……」

 俺は意識を集中する。魔石がフレームにまとわりつくようなイメージ……。

「あ、溶けた」

 後ろから見ていたマリカが声を上げる。

「マリー、しー。ね?」

 キャミがそう言うとマリカの声が消える。背後で「しー」とでもしてるんだろう。



「……こいつを……」

 右手の溶けた魔石を自転車フレームに触れさせる。にゅるっと液状魔石が動く。目算で二ミリ位の厚さで広がっていく。あ、足りない。もうちょっと。にゅるにゅると魔石がフレーム全体に広がる。ただのアルミフレームから若干有機的な近代的な感じのフレームになった。



「ふぅ」

「ん、できたの?」

「ま、試してくれ」

「はーい」

 ひょいと魔石コーティングされた箒にまたがると、タン、とハンドルポストのマナ結晶を叩く。

「あ、発進シークエンスしてない」

「テストだからよし」

「あいあい」

 ふわっとゆるやかに浮かぶ箒。



「どうだ?」

「なんていうか、すごく……扱いやすい?……んーん、レスポンスがとてもいい……かな?」

 ぴくぴくとハンドルやペダルを動かすと、全くタイムラグなしに反応する。

「セリカ、そっちはどうだ?」

「問題なしです」

 箒の端末結晶が返事をする。こっちも問題なしと。



 思ったよりは魔石が減らなかった。

 大はしゃぎでぐるぐる回るマリカをよそに、魔石の処理を考えていた。

 ……俺も空飛べたら楽なんだが。羽でも生やすか……。いや、無理だな。航空力学は専門外だ。墜落するのがオチだ。



「兄さん!」

「んー?」

 見上げるといつの間にか変身したのか、魔法少女スタイルのマリカが箒に乗ったままで止まってる。

「さっきみたいに引っ張ってあげようか?」

 くいくいと指で上を指差す。

「だから生身でマッハを付き合わせるなよ。死ぬわ」

「それでグライダーでも作れば?だめ?」

 魔石を指さして聞いてくる。グライダーねぇ。マッハの乗り物とは対極の飛行機だな。



「ま、それは追々考えるか。マリカ、お願いがあるんだが」

「うい」

 ゆるーんと降りてくる箒。

「こいつを大津駐屯地まで運んでくれないか」

「……えー」

 うわ、すごい嫌な顔してる。

「まぁ、そうだよな」

 スピード狂のマリカに、あのペースで運んでくれってのも酷か。



「コウジロウ?」

 キャミがひょいと俺の肩にすわる。

「なんだ?」

「アレ、私いじってもいい?」

 巨大魔石を小さな指で示す。

「いじるって……なにするんだ?」

「んー……いろいろ?」

「いろいろって」

『セリカ、ナニする気だ?』

『難度十の術式に空間移動があります。それの部材に最適と思われます』

 視界に当該術式が表示される。日本語に変換された呪文と魔法陣。それと文様の刻まれた門の絵。なんだか禍々しくて地獄門みたいだ。

『できると思う?』

『初回の起動は消費魔力量の関係で、マリカさんにしてもらうしか無いでしょうけど。可能です』

 どこで◯ドアか……便利だな。

「よし。許可」

「ありがと。コウジロウ」

 キャミが小さな唇を頬にあてる。うむ、小さすぎてナニも感じないな。



「あー!キャミが兄さんとキスしてる!」

 しゅわ!っとマリカが降りてくる。

「えへへー」

「キャミ……兄さんが好みなの?」

「え?まさか~」

 ブンブンと手を振って否定するキャミ。

「お願い聞いてくれたお礼。ね?」

 ふわっと浮いてマリカにも頬にキスするキャミ。



「むー。お願いってナニ?」

「ああ、こいつでどこで◯ドアを作ろうかと」

「へ?」

 マリカが固まる。それそうだわな。

「マリカさん。難度十の術式です」

 セリカが端末から声を掛ける。

「起動の際にはマリカさんのお力を借りることになりますが、よろしいですか?」

「それはいいけど……どことつなぐの?」

「んー、とりあえず駐屯地かな」

 今の所、一番下道で通いたくないところだ。

「そか、ならしかたないね」

 ほっとした感じのマリカ。

「どことつなぐと思ってたんだ?」

「え?たま~に来るスーツの女の人のところとか?」

「……ああ、山田さんか。あの人は仕事の仲介役だから。別に頻繁に会う人でもないしな」

「でもビデオチャットとかでお話してるよね?」

「そら、仕事の状況とかの報告はいるだろ?」

「むー」

 なんだ?



「コウジロウ……もうちょっと女の子の機微ってやつを感じようよ」

「へ?」

「むー!いい!」

 ばひゅん!と箒で急上昇して飛び去っていったマリカ。

「おいてかれちゃった……」

 キャミが呆然としている。アレには追いつけんよ。諦めろ。





 ★

 勢い任せで文字通り飛び出した私。

「むー。兄さんの鈍感め」

 気がつけばずいぶん高高度まで登っていた。ちょっとスピード落として水平飛行。

「セラ。位置確認」

「高度三〇〇〇〇メートル。ベース(自宅)より二〇キロ北。時速二五〇キロ」

 あらら。

 こんな高いのは高高度試験以来かな?

「あはは、ココまで登るとまだお日様出てる。すごい」

 地上ではすでに沈んで見えないはずの太陽が見えた。



 ゆるゆると飛びながら日が沈むのを見る。

「ふー……ちょっと気が晴れた……かな?」

「帰りますか?」

「ん……ついでだから北海道の塔見てから帰ろうかな」

「了解」

 視界にセラのナビゲーションが見える。

 マナの吸収と消費が釣り合う速度(マッハ1.5)で北海道へ。

「くまさん居るかな?」

「見かけても近づいてはダメですよ?」

「はーい」

 セラもなんだかセリカさんみたいになってきたなぁ。まぁ元は同じ、姉妹みたいなものらしいから似てくるのかなぁ。





「アレかな?」

「アレですね」

 遠くにライトアップされた塔が見えた。速度を緩めて観察。

「うわ、戦車と大砲だらけ。すごーい」

 ぐるりと塔を囲むように配置された戦車。

 それよりも遠くに配置された大砲群。ちょっと壮観。



「自衛隊の然別(しかりべつ)演習場のど真ん中です。戦車も大砲も売るほどあります」

 塔の入り口にはコンクリート?で固められた大扉らしき跡がある。あれは出てこれないよねぇ。

「屋上にも「蓋」がしてあるはずです」

「ありゃ、そうなの?」

 ついー、と屋上へ。



 そこには大きなコンテナが三個。階下への口があったであろう場所に置かれていた。周りにはいくつかのライトとカメラが据えられて、無人の屋上を映している。

「んー」

「コンテナの中はコンクリートで埋められてるそうです」

「あらら。厳重だねぇ」

「伊達に自衛隊が守ってはいませんね」

 これなら出てこないよね。

 ストンと着地する。

「マナは?吸われてる?」

「いいえ。現在順調に回復中です」

 それなら安心。



「ふいー。ちょっと休憩」

 屋上は地上からの照明の影になっているのでライトが付いていても暗い。ちょっとくらいなら大丈夫でしょう。

「あ、セラ」

「はい」

「この塔の溜まってるマナの状況ってわかる?」

「……海中塔ほどではありませんが、ホドホドに溜まっているようです」

「んー。バーン、て」

「ダメですよ」

「あい」

 怒られた。邪魔なら壊しちゃえばいいのに。



「さて、休憩終わり」

 周辺にも特にモンスターはいない。

「入れないと意味ないしなぁ。帰ろうか」

「……」

「セラ?」

 視界にピコンと赤い円が浮かぶ。

「ん?」

「マナが集積しています。何か、ポップします」

 え?

 マナが屋上のコンテナの上辺りに溜まっていくのが見える。



「マズイ……かな?」

「離脱を」

 ガン、とペダルを踏んで急上昇。

「なに?」



 コンテナの上に赤いマナ溜り。



 ソレは、次第にヒト型をとりだした。

「まさか……天使?」

 にしてはサイズが小さい。以前見た天使の半分くらい。身長五メートルくらい?

 そう思ってる間に赤いヒト型は羽をはやし、あからさまに天使の形をとった。



「四枚羽?」

「旧約聖書、エゼキエル書には四つの顔と四つの羽を持つ、智天使(ケルビム)とあります」

「ケルビム……」

 そう言ってる間にヒト型は輪郭をはっきりとさせ、実体化し、ゆっくりと空中で回りだした。



 その姿は美しくも、異形だった。

 正面にはヒトの顔を持つが左右に獣の顔を付け、後ろにはくちばしの顔がみえる。

 ゆっくりと動かす羽で体を覆うようにしている。

 そして、その目には光がなかった。



「まだ実体化が不完全なのかな?」

「離脱するのなら今のうちに」

「うい」

 ゆっくりと後退上昇。

「うう、以前の記憶がよみがえる」

「静かに」

 セラにたしなめられる。だって、以前もこんな感じで離脱中に攻撃されたじゃない。



 地上の自衛隊も気がついたのか、ざわざわとした気配を感じる。

「いけるか、な?」

 塔から十分に距離をとれた、ような気がするけど正直分からない。

 高度五〇〇でゆっくりと後退。

 屋上の仮称ケルビムはコンテナの上で浮かびながらゆるゆると回る。

「対象距離四〇〇メートル」

 まだ近い。

「対術シールド……あ、キャミいないんだった」

「代行します。操縦に専念してください」

 セラが魔法代行している。その間にアレを刺激しないようにゆっくりと遠ざかる。



「ん?」

 眼下の大砲が、ぐーんと上を照準する。

「え、撃つの?」

 屋上のケルビムはまだ覚醒していない。だが、砲撃で目覚めるかもしれない。

「どうしよう?」

「砲撃を止めたほうがいいかと思います」

「だよね」

 カッとペダルを踏んで急下降。



「私の声を無線に流せる?」

「この距離ならいけます。どうぞ」

『自衛隊のかた!聞こえますか?』

 大砲の周りで準備をしている隊員の一人がキョロキョロしてる。長いアンテナの生えた無線機を背負っている。

『砲撃は待って。天使はまだ覚醒していません。刺激しないでください』

 無線機を背負っている人が一人の自衛官に受話器みたいな物を渡す。ザッっと無線の入る音が聞こえる。

『こちらは陸上自衛隊北部方面隊。第二師団特別編成隊です。これは自衛隊使用周波数である。直ちに停波せよ』

『そんなことは分かってるの!あの天使を刺激したらだめ!』

『……あー、お嬢さん?イタズラならやめてね。どうぞ』

 ダメだ。全然話を聞いてくれない。

「当然ですね。軍隊としては正しいです」

「むー……あ、そうだ」



 ぐいっと上昇する。視界にはほぼすべての大砲や戦車が見える。

「弾が天使に当たらなきゃいいんじゃない」

「どうします?」

「大砲と戦車の弾を発射直後にはじく。設定。物理障壁。直径五メートル。砲の五〇メートル前方、下向き、斜めに反射するように設置。目標は全部の大砲と戦車」

「……設定しました」

 ステッキの先に付いた結晶が光る。ぐっとステッキを握って振り下ろす。

「実行!」

 ぎゅー、と視界内のマナゲージが減る。半分くらい減った。

「正常に終了」

 私の視界には大砲の前に浮かぶ光の壁が見える。



 ザッと無線が聞こえる。

『目標、塔上空の「天使」、87AW(八七式自走高射機関砲)99式SP(99式自走榴弾砲)、攻撃準備よし。おくれ』



 準備完了の報告が聞こえる。

『攻撃、はじめ』

 その発令とともに大砲が発射される。

 が。

 発射直後。すべての弾が空中で爆発した。

「え?爆発?はじくつもりだったんだけど」

「榴弾、爆発する弾だったのでしょう」

 無線からは異常を伝える声が聞こえる。



「ああん!どうすれば!」

 砲撃音に反応したのか、天使の回転が止まる。

 すー、っとコンテナ上から塔屋上のフチへ。

 ぎろっと眼下の戦車を睨む。

 その瞬間、なにもない空中から大音響と共に稲妻が戦車めがけて落ちる。



「……え?」

「74式戦車。エンジン停止」

 黒い煙を上げる戦車。どう見ても致命傷だ。

 頭の中が真っ白になった。

「し……しんだ、の?」

「……」



 セラはなにも答えてはくれなかった。

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