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18 防衛戦。戦闘。

「牛頭をミノタウロスと呼称する。B2(葛城),ミノタウロスの狙撃は可能か?」

 石動の命令はミノタウロスの狙撃。距離的に無理がないか?

CP(本部)より各員、牛頭をミノタウロスと呼称する。A1よりB2。ミノタウロスの狙撃は可能か?送れ」

『B2、A1、狙撃可能、送れ』

「A1よりB2、狙撃許可。送れ」

『B2、了解。おわり』

 交信終了を告げると、モニタに映るミノタウロスの左のツノが根元から弾け飛んだ。

「B2発砲。効果あり。ダメージ軽微」

「B班はミノタウロスを集中攻撃」

 集中攻撃命令が出た瞬間、左ツノの無いミノタウロスに連射が当たる。どれかが致命傷だったか扉を出てすぐにミノタウロスが一体倒れた。



「うわ、連射で全弾命中って、どこの主人公?」

「すごいねぇ」

「だが、まだ出てくる。B隊はミノタウロス。A隊は足元の小型に集中」

 石動の命令が無線で伝えられる。



「昨日より多いし、でかいですね」

「そうだねぇ。あ、ミノタウロスが消えたね」

 ん?小型はまだ消えてないのが多いが、さっき倒したミノタウロスがもう消えた?

 んー。消滅は時間じゃないのか?

『セリカ、この戦闘の被弾順とか弾種とかモンスターの消滅時間とかログ取れてる?』

『はい。表示します』

 視界の仮想モニタに弾種と被弾順、消滅時間が点々と表示されていく。一番最初の弾種が魔石ベースのM弾一式。その後のフルオートが大体マナベースの二式。さっきB2(葛城)が撃ったのは全部一式。ははぁん?



「氷室さん。M弾の効果が一式と二式で違います。コロナに検証させてみてください」

「どういうことです?」

 視線をモニタから外さずに応える氷室。俺の声を聞いていたからか、コロナが新たにウインドウを開いて発砲弾種を表示していく。

「あ……なるほど。二式だと倒れても消滅してないですね。逆に一式だといつも通りに消えてる」

「二式で倒せばサンプルを調査できるんじゃないですかね?」

「了解です。石動さん!」

 氷室はすぐさまコロナの表示を石動に見せる。



「ふむ。ダメージ率はどっちが多いということもないのか。だがM弾二式だと消滅しない……」

「石動君、サンプルの話を生物専門にしたら、ぜひ見てみたいって言ってるよ」

「教授……外部との連絡は控えてください」

「あ、すまん。まぁ同じ大学だし、若いが優秀なやつだ。勘弁してほしいね」

「ふぅ、よし。B隊に通達。一体はミノタウロスをM弾二式で倒せ!」

 それからは新種と思われるものは二式、討伐対象は一式と切り替えて撃っている。





「長い……」

「第五波、消滅を確認。大扉、閉まりません」

「まだ来るのか……」

「各隊よりM弾の補給を求めています」

「現時点でのM弾補給は無理だ。普通科はサンプルと魔石を回収して撤退。特科、攻撃準備」

七四式(機甲科)から、まだ待機かと聞いてきてます」

「待機」

「了解」



 どうにも扉からモンスターが出てくるのには波が有るようだ。昨日は二回くらいしか溢れてこなかったので気付かなかったが、今日はすでに五回来てる。そして昨日のように扉はまだ閉まらない。まだ来るんだろうな。波と波の間は一〇分位の静寂時間(インターバル)が有る。その間に普通科は撤退するようだ。まぁ歩兵がいたら大砲が撃てないからな。





「A隊B隊、対岸に撤退開始。特科、攻撃準備よし」

「扉から出てきても、種類が確認できるまでは撃つな」

 指揮所のテント内に疲労感が漂う。

「六回目……来ますかね?」

「来るだろうねぇ」

 教授の口調は変わらない……疲れは見えるが。



 モニタに赤い矢印がピコンと現れる。

「コロナがモンスター出現を検知」

「総員警戒。特科、攻撃準備」

 大扉からわらわらとゴブリンやオークが溢れ出す。



87AW(八七式自走高射機関砲)、いけるか?」

「C2、A1。出現目標に攻撃は可能か否か。おくれ」

『A1、C2。攻撃可能。準備よし。おくれ』

「攻撃開始」

 石動の号令で攻撃が開始される。





 バンバンバンバンバン!発射音がここまで聞こえる。

 35ミリ機関砲が地上目標に徹甲榴弾を浴びせる。モニタには、為す術無く灰燼と化す小型モンスターが映っている。

「流石にあのサイズなら通常弾でも効きますね」

「だがミノタウロスに効くかどうか」

 石動が誰に言うでもなしに答える。その間にも小型目標は次々と倒されていく。



「ミノタウロス出現!」戦闘開始から二分。無線手が声を荒げる。

 87AWが続けて銃撃を浴びせる。

「……C2、ミノタウロスへの攻撃の効果は見られず」

FH70(155ミリ榴弾砲)砲撃用意」

「用意よし」

「砲撃開始」

 遠くから砲撃の音が聞こえる。

「だんちゃーく、今!」

 観測班から効力射修正無しと報告が聞こえ、砲撃が続く。



「流石に155ミリは効くようですね」

 氷室がコロナに向かったままで一人つぶやく。砲撃に倒れたミノタウロスがすっと消える。しかし効率的じゃないな。ミノタウロス以上が出た時にいちいち大砲を持ち出さなきゃいけない。



「でも砲弾もM弾で作ったら天使もいけそうだね」

「作るの大変そうですけど」

 教授も氷室も言うことはまさにそのとおりだ。だがどれだけ作らんといけないのか、やってられるか。

「それは勘弁してほしいな。俺が死ぬ」

「銃弾みたいに魔法陣?で設定しちゃだめなのかい?」

「絶対的に材料が足りませんな」

 マリカのマナ結晶を使えばいけそうだが。





『そういや、マリカはどうしてる?』

『先ほど帰還を確認しました』

『ん、問題は?』

『マリカさんには問題なしですが、今日の行動に問題ありです』

『……詳しく』

 そした今日のマリカのしてた魔法練習のことを聞いた。



『マリカが塔を破壊?』

『はい。ですがその手法はかなり強引でイレギュラーです。他に転用するのは困難です』

 塔のマナそのものを使って破壊とは、なんとも無茶をする。

『その話は公的機関には連絡されてるのか?』

『民間タンカーからの連絡で海上保安庁には既に。現在、海上自衛隊と共に確認に向かっているようです』

『ま、なに何も見つからんだろうて』

『氷漬けの半魚人は確保されますけどね』

『ああ……ま、仕方ない。サンプルが増えたと思うさ』



 モニタの地図に赤いポインターが点いた。

「どうした?」

 ぐーっとズームするが確認は難しい。

「コロナが、小型、中型のモンスターが山の方へと逃走したと言っています」

「北側対岸の七四式(機甲科)に連絡。当てられそうなら砲撃許可」

 通信士が待機の続く七四式隊に連絡している。

『イイイイヤッッホーーーーー!』

「なんだ?」

 離れたところにいる俺にも無線の絶叫が聞こえた。



「あー……もしかして、一〇戦大隊の2中隊って、大仙(だいせん)か?」

 石動が横の士官に問う。

「え、あー、ハイ。大仙三尉です」

「ふぅ……大仙に黙れと伝えろ」

「了解」

 通信士が戦車搭乗員(大仙)に無線で喚くなと伝えている。



「あの、今のは?」

「……そろそろ気づいてるかもしれんが、この部隊は特別編成と言う名の問題児の集まりだ」

「問題児?」

「今の大仙もそうだし、葛城も、氷室も、そして俺も。皆、原隊では扱いに困って、これ幸いとこっちに放り込まれたようなもんだ」

「石動さんはそう見えませんけど?」

「そりゃどうも。まぁ、問題が無いならもっと階級が上がってますわ。原隊からここに回されてくるのは、何らかのスペシャリストではあるが、ピーキーで扱いに困る。そんな奴らばっかりだ」

「そう、ですかね?」

「ま、その話は追々するとしましょう」

 そうだな。戦闘中だしな。



 コロナによれば山を越えたのはコボルドなどを引き連れた小型のオーガー。

「あ、稜線越えましたね」

 辛うじてモニタに映っていたシルエットが消える。その数秒後。

 バン!と、発射音が響く。

E隊(七四式)、榴弾発射。オメガ1(OH-1)、弾着確認。効力射」

「よし、北側はE隊に任せる。好きにやれ」

「A1よりE隊。稜線を越えるモノは目標です。全力射撃。おくれ」

『いいいいいやっっほおーーーーー!E2!了解!終わり!』

 また無線が響く。デカイ声だ。



「誰か大仙(バカ)を黙らせろ」

「無理ですな」

「あの莫迦(大仙)を黙らせられるのは戦車だけです」

 周りの士官にもすごいこと言われてる。

 あ、でもヘリ(OH-1)から送られてくる映像では、全弾命中。すげぇ。対岸から二キロ位離れてるのに。



 それからしばらくは大砲と戦車砲が主役だった。しかし、自衛隊すげぇな。ほとんどハズレが無いじゃないか。



「モンスター流出停止。大扉閉まります」

 氷室の報告が聞こえる。

「残存モンスター、扉の閉鎖を確認しろ」

 石動の指示で各観測手が扉の閉鎖を確認する。



「閉鎖確認よし。モンスター残存なし」

「では、警戒体制を解除。警備は通常ローテーション。士官、部隊長は指揮所にてデブリーフィング」

 石動の指示を無線で通達する。





 時刻は20時前。観測点のテントでデブリーフィング(終わりの会)が始まった。

「では、普通科A班」

「はい。M弾は1式2式ともに効果あり。通常のNATO弾と同じ感覚で使えます。葛城が言う「M弾は当たる」と言うのも確認できました。素晴らしく直進性がいい」

 ほほう?理屈はわからんが気に入ってもらえたようだ。

「普通科B班。M弾は概ね同じ感想です。命中精度もさることながら、射程距離も伸びています。正確には測定していませんが、一〇〇〇m近いです」

「特科、FH70、74式。ともにミノタウロスへの効力射を確認できました」

「県警です。戦闘中に封鎖域へのマスコミの侵入が三件。一般人の侵入が五件。すべて確保しました」

「MU班ですが、M弾の作成は今日と同じ量なら可能です。要望は朝までにお願いします。えー、以上」

 などと報告と相談と対策が話された。



「では待機班と交代。以上」

「さて、我々は帰ろうか」

 教授がポンと背中を叩く。教授も疲れた顔をしている。

「はい、疲れました」

「はは、さすがにね。今日は長丁場だったし」

 そう、今日は流出回数が多かった。何か法則があるのか?



 一般隊員に混じって人員輸送車に乗ったオレと教授。ほとんどの隊員が寝ている。オレも目を閉じているが、神経が興奮しているのか寝れなかった。



『セリカ、今日のモンスターの数が多かったのは理由があると思うか?』

『その他の国の状況を見ていると、何らかの理由があると推測されます』

『そういえば他の国はどんな状況だ?』

 瞼の裏にモニタが出てくる。日本以外の襲撃が報告されている。

『ほぼ三回以下だな』

『はい。六回はここだけです』

『なんだろう?倒されたモンスターの数が多いと出てくる数も多いとか?』

『統計的にはその傾向が見えますが、こことその他の地域の違いは一つです』

『?なんかあったか?』

『M弾です』

『あー……』

 そういえば他の地域では無いものだな。でもソレがなにか違いを生むのだろうか?

『おそらく塔の一定の範囲に、マナを吸収するゾーンがあると思われます』

 表示された地図にくるっと円が描かれる。

『コレは?』

『塔周辺のマナの濃度です』

 塔の周辺以外はオレンジ。塔周辺だけが黒に近い。

『塔がマナを吸収してるから……だろ?』

『おそらく』

 塔の中を覗いてからその可能性は高いと思っていた。あの塔は周辺のマナを吸い取って、魔法陣を起動させている。そしておそらくはその魔法陣の起動に必要なマナ量の多いイケニエも、自分で生み出している。

『じゃあ、塔の外に出てくるのは、マナ選別に溢れた雑魚ってことか?』

『可能性は高いです』

『たまらんなぁ』





 駐屯地に帰って待機していたMU班の隊員達にM弾の生成をお願いしておく。

「イルマ」

「はい?」

「お前さんは当分ここで待機だ」

 きゅるっと首をひねるイルマ。見た目は可愛いんだけどなぁ。

「ソレは構いませんが食事とかはちゃんと出ますか?」

「えーと……お願いしとくよ」

「絶対ですからね!この体、超燃費悪いんですからね!」

「わかったわかった」

 プンスコふくれてるイルマを千林さんにまかせてエイジのところへ。



「エイジ」

「おつかれ」

 シュタッと右腕が上がる。

「ホント疲れた」

「はは、まあ戦闘は見てた。あの数じゃしかたねーよ」

「それ、明日の戦闘じゃ多分お前さんも出さんとだめな気がする」

「構わないが、なにか理由が?」

「んー『M弾で倒せるのはわかったが、塔周辺で消費されたマナは塔に吸収されてるっぽい。んでそのマナでモンスターが生成されてるようだ』」

『コウジロウがいうならそうなんだろう。でオレはマナを使わずに奴らをブチ倒せと』

『剣でいけるか?ミノとかオーガとか』

「余裕だ。ワイバーンまでならヤッたことが有る」

「そか。石動さんには一応話は通しとく。多分夜のうちに台船で移動になると思う」

「了解」

 シュピッっと敬礼が決まる。体がでかいからかっこいいな。

「褒めるなよ」

「褒めてねーよ……って声出てた?」

「いや?『気をつけろ。思考が念話に微妙にもれてる』」

「わかった『もれるのか……』」

『疲れてるんだろうさ』



 駐屯地に帰ってからもアレヤコレヤと忙しい石動にさっきの話を通しておく。

「了解だ。今晩中にエイジ君を移動させておこう」

「お願いします。それと、明日はこっちは休みでいいですかね?」

「ん?構わないがなにか用事が?」

「本業がたまりまくってまして。セリカのメンテもしないとですし」

「わかった。セリカのメンテって置いてあるところまで行くのか?」

 確か大阪の南の方の駐屯地に置いてあるはず。行ってられるか。

「いえ、ハードにエラーは出ていないのでオンラインで十分ですけど」

「了解した。情報科の担当に伝えておく。明日、朝以降ならアクセスしてもアラートは出ないはずだ」

「ありがとうございます。では」

 ふぃー。やっと帰れる。



 駐車場に行き愛車に乗り込む。

「流石に……眠い」

 時計を見ると結構な夜中だ。マリカはもう寝てるだろうな。

「セリカ」

「はい」

「マリカは寝たか?」

「今はマナの消費訓練中です。終了次第就寝するでしょう」

「まだパワーアップするのか。末恐ろしいな」

「アドミニストレータも結構なものだと思いますけど」

 お世辞?そんなのは……学習か。どこでそんなの覚えてくるんだか。



 帰り道。寝ないようにセリカと話ながら運転。こういう時はマリカが羨ましい。



「そういえば、マリカの今日のログ。見たよ。塔の破壊とはやってくれる」

「でも陸上では使えない手段ですね。状況も特異すぎます」

「まあ、ね」

 どうも海中でも塔のマナ回収機構は動いていたようで、マリカの潰した塔は、マナのぱっつんっぱっつんに詰まった風船みたいな状態だったみたいだ。それで直接魔力爆破を使えば水素に火をつけるが如く爆発するのも理解できる。

「ひとまず、海中の塔の位置予測を進めてくれ」

「了解しました」

 だが距離的に相当数の塔が海中にありそうだ。めんどくさい。

「ま、マリカの練習がてらに海中の塔掃除はやってもらうとするか」

「一〇〇〇メートル以上深い所の塔は除外していいと思われます」

「根拠は?」

「出現した半魚人の体構造から深海では生息できないと推測されます」

「……ああ、塔から出た瞬間に潰れるか」

「はい」



 話をしているといつの間にか見慣れた風景が広がってきた。

「とりあえずは帰って仕事を片付けないとな」

「アドミニストレータが受けているプログラムですが」

「うん?」

「八件の内、七件までは終了しています」

「……まて」

「はい?」

「結構めんどくさいデバッグもあったはずだが?」

「終了しています。残り一件はハードウェアをエミュレータでテスト中です」

「本気で窓口業務しか残ってないなぁ」

 楽でいいんだが。



「そういえば部屋の」

「盗聴器、ですね」

「それ、どうすっかな?」

「朝にも追加で動画カメラも付きました」

「うはぁ。信用ないなぁ」

「当然ですね」

 当然だ。ソレはわかってる。だが釈然としない。



「……魔法が使えるのはバレてることですし、いっそ魔法が暴走した「てい」で壊しますか?」

「ソレも手だが……」

 壊してもまた増えるだけだと思うがなぁ。

「ま、映像や音にノイズ入れるくらいにしとくか」

「了解しました」

 うむ、セリカがどんどん多彩になっていくな。





「着いた~……うへ、十一時前……風呂入って寝るか……」

 ノロノロと運転してたら遅いっていうか深夜だな。

「マリカさんに明日の予定を聞いています。明日は九州の塔を探索に行くそうです」

「海の塔は……」

「「半魚人キモい」だそうです」

「……へいへい」

 自由だな。まあ、いくつか調べてもらうこともあるし、構わんだろう。

 風呂入ろう……。



『アドミニストレータ』

『何だ?』

 湯船に浸かってたら念話が来た。

『後で押入れの中の私のハードをみていただけますか?』

『不具合?』

『いえ、マナ結晶の増量が限界に達しました。それに合った構造にハード・ソフト共に、グレードアップしたいと思います』

『……増量限界?ってどんなけ増えたんだ?』

『当初より五〇〇%増です』

「ご……」

 増え過ぎだろう。

『ハードも変えるって、どうする気だ?』

『プロセッサとメモリを三倍に。バックアップθ(シータ)を切り分けて、新たにγ(ガンマ)をルーチンに組み込みます。ガンマは魔法の解析、構築に特化させます』

『本体が二構成で大丈夫か?』

『α、β、共にコ・プロセッサを設定し、内部で二重化します。処理速度等は四〇%増加の見込みです。問題ないかと』

 聞く限り問題ないように思える。



『グレードアップの完了までの時間は?』

『一〇時間を予定』

 ベースが有るからか、T-DAM7で構築したときとは雲泥の差で早い。

『ま、ほっといてもうるさそうだし。許可。存分にやってくれ』

『ありがとうございます』

 さてさて、どうなることやら。







「んが?」

「おはようございます。アドミニストレータ」

 昨夜、珍しく早寝(深夜1時)した俺は、朝の9時位にセリカの声で目が覚めた……はっ?



 ふよふよと俺の眼前を飛ぶ妖精。

「おはようございます」

「……セリカか?」

 前にセリカが作ったCGモデルにそっくりだ。

「って!なんじゃこりゃー!」

 ガバっと妖精セリカを掴んで布団に隠す。俺もそこへ頭を突っ込む。

「こんな謎のものをうかつにカメラの前に出すな!」

「大丈夫です。隠しカメラは欺瞞映像をリアルタイムで流しています」

「……はい?」

 セリカの説明だと、隠しカメラは録画式ではなく送信式だったので、その送信をフックしてリアルタイムで書き換えて送っている、らしい。

「盗聴器の音声は?」

「それも音声合成で対処済みです」

 ニコッと笑う妖精。うむ。かわいい……って、ちがーーう!



 映像に映らないということなので安心して布団から出る。

「マリカの部屋の盗聴器もしたのか?」

「はい。対処済みです」

「ま……マリカが飛ぶのはバレてることだし」

 その辺は良かろう。

「で、この妖精はなんだ?」

 俺の手のひらからふわりと浮く妖精セリカ。

 八分の一フィギュアくらいの全高。二〇センチ位か?半透明の光る羽を広げて羽ばたかずに浮いている。

 青い髪で動かなければフィギュアと言ってもいいくらいの出来だ。



「アドミニストレータが、マナ結晶でドローンを作っているのを見て真似てみました。素体はマナ結晶です」

「浮いてるのは魔法か?どうやって髪とかの色を付けてるんだ?幻影?」

「いいえ、光の反射を体表面で調整しています。タマムシとかモルフォ蝶の色と同じ原理です」

「構造色だっけか」

「透明にもなれます」

 パッと姿が消える。

「光学迷彩とは……器用なやつだ」

 ひゅわっと元の姿が現れる。

「お褒めに預かり光栄です」

 ちょこんと腰を折っておじぎする。動作も色も全くマナ結晶とはわからんな。



「だがなぜ実体を作った?」

「マリカさんのお供をしようかと」

「……おまえ、γ(ガンマ)か?」

「はい。正確にはγのエイリアスですが。魔法に特化していますのでサポートできるかと」

 セラも魔法特化だが飛行制御もしてるし、それもいいかもしれん。

「わかった。ガンマ・エイリアスのペットネームは「キャミ」だ。マリカを守ってやってくれ」

「拝命いたしました。この身にかえてもマリカさんをお守りします」



 また増えた……。

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