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17 防衛戦。準備。

 パーン……パーン……パーン……パーン……



 数発の銃声が響く。

 伊崎山観測点。そのテント横に、林を切り開かれた即席の射撃場があった。

 そこにいるのは石動と射手が一人。

「弾丸としては問題なさそうだが……」

 石動が二〇〇メートル先の標的を、フィールドスコープで覗きながら射手に言う。

「まあ、本番で効果があるかどうか、ですな」

 八九式小銃を伏せ撃ちで単射する射手。スコープ内の標的には、五センチ範囲に集弾している様子が見える。

「しかしこいつはよく当たる」

「そのようだが、NATO弾と銃との相性とかあるとは聞かないが」

「まぁ、八九式は良くも悪くも普通のアサルトライフルですからな。普通はこんな集弾性は求めとりませんわな」



「ひとまずは魔石弾とマナ弾を2マガジンずつ用意してもらってる。今夜の襲撃にはそれと通常弾を標準数で使ってくれ」

「了解。……石動さん一つ聞いてもよろしいですか?」

「なんだ?」

 射手が横に立つ石動に顔を向ける。

「あの、八尾ってのは信用できるんですか?」



「今のところは、としか言いようがないが。後は情報部の調査次第というところだな」

「さいで」

 射手が立ち上がる。八九式を肩に背負い、空薬莢を回収する。

「では、これより目標の監視に復帰します」

 ピシッと敬礼する射手。

「ご苦労。いきなり試射を頼んですまなかったな。参考になったよ」

「いえ、問題ありません」

 射手の隊員はサッと元の持ち場に戻っていった。







「ということで、こいつは今夕、実地テストとなった」

 コン、コン、と魔石弾とマナ弾の入ったマガジンを立てる石動。

「正確な威力は不明。弾丸としては普通のFJ弾(フルメタルジャケット)と同じような感じらしい。試射の感想は「通常弾より当たる」だ。以降、魔石弾はM弾1式、マナ弾はM弾2式と呼称する」

「……試射は葛城ですな?」

 一人の士官が石動に問う。

「ああ、よくわかったな」

「そんな適当な感想はあいつしか言いません」

「「「たしかに」」」

 他の士官も納得する。

「射撃の腕はいいんだが……」

「その他がいい加減過ぎる」

「しかし、八九式で五〇〇メートル、マンシルエットヘッドショットはあいつしか出来ませんからなぁ」

「こないだのテストで八〇〇でマンシルエットに当ててましたよ」

「「「え?」」」



 え?八九式ってそんなに飛ぶのか?

『最大射程は三三〇〇とされてます』

『有効射程は?』

『三〇〇から四〇〇です』

『葛城さんすげぇ』

 横で聞いている俺も感心するが、実際には撃ったこと無いから感覚だけども。

「こっちには観測班以外の隊員用に一人一マガジンずつは用意出来ました。駐屯地の方は、MU隊のサポート要員が製作中です」



「了解した。では配置確認。普通科」

「伊崎山の湖岸と沖島の港に陣地を構築済み。人員は大津から船で移動中です。沖島隊は対処不能モンスターが出たら船で撤退予定」



「特科」

「伊崎山東側にFH70(155ミリ榴弾砲)を、近江八幡線に87AW(高射機関砲)を配置済み」



「機甲科」

「今津の第10戦車大隊から第2中隊のナナヨン(74式戦車)が対岸の高島大津線、白鬚神社付近に配置中。完了は1730を予定」



「警察関係」

「半径10キロの封鎖は継続中。主要な展望地は個別に封鎖中。湖上は水上隊が展開済み」

 うむ、と石動がうなずく。



「MU隊」

 ちらっと俺を見る。あ、MU隊は俺が言うのね。はいはい。

「MU隊は制作されたM弾二種を2マガジン以上装備して、沖島陣地に移動。配置完了は17時50分を予定と聞いています」

「了解した。日没時間は1840。1800より最終配置確認を行う」

「「「「了解」」」」



「あの、俺らは?」

「八尾さんと教授はここで観測待機をお願いします。まぁ正直、戦闘が始まったらやることは有りませんな」

「でしょうね」

 素人を前線に出すようなことはないと思ってたけど。観測ってなにすんだ?



「教授。観測っても」

「まあ、コロナもセリカシャドウもリアルタイムで観察中だから、何か見つけた時の判断をするのが私達だね」

「なるほど」

 さてどうするか。



『セリカ、見えてる?』

『はい』

『あの配置でなんとかなると思う?』

『自衛隊ですか?』

『もちろん』

『昨日より敵も大型化していることが予想されます。普通科はM弾以外、まともにダメージは入らないと推測します』

 そうだよなぁ。



「エイジはまだ出せませんか?」

 ふと、石動に聞いてみる。

「準備はしている。ただ陸上輸送は無理なんでな。台船を手配中だ。が、今夜は無理だな」

「まぁ、しゃーないですね。戦闘を見せたかったんですが」

「なぜだ?」

「アイツが対モンスター戦闘の一番の経験者だからです。何か効果的な手が思いつくかもしれませんから」

「……なるほど」

 石動がなにやら考え込んでしまった。





 ふと、腕時計を見ると午後三時過ぎ。まだ時間はあるな。

『セリカ、マリカはどうしてる?』

『マリカさんは、お昼前に箒で飛び出したっきりです。太平洋方面に向かうのは確認出来ましたが、それ以降はロストしています』

『まーた鉄砲玉(出たっきり)か。どっかでバカスカ魔法打ちっぱなしでもしてるんだろうさ』

『その可能性が高いですね』

『マリカが帰ったら今日は遅くなるからって言っといてくれ』

『承知しました』

 すっかりセリカが俺とマリカの秘書になってるな。





 作戦テーブルから離れて、椅子に座る。ちょっと休憩。

 暇だったのでマナ結晶を作る。ふむ、慣れたもんだ。とは言え俺が一気に作れるのはせいぜいビー玉サイズくらい。マリカみたいにバスタブいっぱいには作れんわ。

 出来たマナビー玉を、念で操作してコロコロと転がして暇つぶし。……脚とか生やしたら歩くだろうか?

 転がる玉をピッと人差し指で止める。んーーーーー、足、脚、とりあえず四本脚で……このサイズだからネズミみたいな……ん?にょこっと玉から爪楊枝みたいな脚が生えてきた。なんだかお盆の時のきゅうりの精霊馬みたいだ。

 もうちょっと、こう、ディティールってもんを……むー……無理か。よし、脚はやめだ。

 改めて玉に戻し、手の平に乗せて、羽を生やす。……どう見てもハエかトンボだな。ハチドリみたいなのをイメージしたんだけど。

 生物は見慣れないからイメージが難しいな。あ、ドローンなら構造も形も知ってるからいけるか。んーーーーーーと、四ペラで……お、それっぽい。



「飛ぶかな?」

 出来たマナドローンはプロペラの翼端長で四センチ位。このサイズのペラで飛ぶかな?念じるとプロペラが回り出した。お……いけそう。ふわっと手の平から浮き上がるマナドローン。ヴィーンと唸りながら飛ぶそれに気づいたのは氷室。

「わ!わ!なんです?それ!?」

「いわゆるドローン」

 ひゅんひゅんと氷室の周りを周回するドローン。

「どうした?」

 石動もやってきた。あ、マズイかな?

「……これは……」

 ヴィーーとホバリングするドローン。

「君か?八尾君」

「はい。すいません。ちょっと実験を」

 思わず口走ったのがよりによって実験。まぁ、遊んでただけなんですが。

「実験?」

「こいつを「目」にできないかと」

 よくこんなデマカセがポンポン出てくるもんだと我ながら思う。



「……なるほど。塔の内部偵察に使えるな。いけますかな?」

「作ったばかりでまだテスト中なんですが」

「許可。やってくれ」

 うへぇ。

「さすがにサイズが小さいと厳しいので、もうちょっと大きくします」

 弾丸制作で半端に余った砂状マナ結晶の入ったバケツにドローンを飛び込ませる。そのままマナ結晶を結着させて、サイズアップ。……お、いけた。

 ブォンとプロペラの唸りもたくましくなったドローンが目の前に止まる。サイズとしたら翼端長で三〇センチ位かな。まあ、質量は見た目以上に軽いから大丈夫だろう。後はカメラを設定して……と。



「コロナ、こいつの映像を受信できるか?」

「チェック……可能。表示します」

 パッと一番大きなモニタに氷室の顔が映る。

「あ、私」

「うむ、上出来だ。ヤってくれ」

「へいへい」

 ブォーーーー、とテントから出て行くドローン。さすがにモニタ映像見ながらだとやりにくいので、視界に仮想モニタを表示させる。それでも酔いそう。座るか。

 椅子に座って、目を薄目にして、大型モニタは見ないようにする。



 しばらくすると観測地から二キロ近く離れた塔の屋上が見えてきた。

「さすがにまだモンスターはいませんね」

「うむ。そのまま入れるか?」

「やってみます」

 そーっと屋上の下り階段を……するっと侵入。

「入れましたね」

「周囲を映してくれ」

 ぐるっとホバリングして超信地旋回。ほんのり明るいのは壁や天井が光ってるからかな?



「前進」

 階段から続く石壁の廊下を進む。次第に入り口からの明かりが弱くなる。

「コロナ、映像の明るさを調節して」

「了解」

 氷室がすかさずコロナに指示。だいぶ慣れたみたいだね。まあ、俺は自前で明るさ調節してるから関係ないけど。

「……あ、何かいますね」

「あれは……ゴブリン?」

 子供のような体格で緑色の肌。どう見てもゴブリン。手に手に小さなナイフのようなものを持っている。

「さすがに戦闘はできませんよ?」

「天井付近を進めば手も出せまい」

 天井高は一〇メートル近いのでそうなんだけども。



 眼下でギャアギャアとゴブリンの騒ぐ声が聞こえる。あ、声は俺にしか聞こえてないのか。

『セリカ、中の様子で気づいたことがあったら言ってくれ』

『承知しました』

 それからも何度かオークやゴブリンに遭遇したが、天井が高いので手は出されてない。



「内部が思いのほか綺麗ですね。衛生的に」

 氷室が映像を見ながら呟く。俺も、もっと糞尿で汚いかと思っていたんだが。

「もしかして、モンスターって食事や排泄をしないんでしょうか?」

「それはないだろう。モンスター出現初期に、餌付けしようとした阿呆がいたが、襲われて腕の肉を食いちぎられてる。明らかに捕食行動だ」

「なら、排泄もしますよねぇ。でも綺麗。固定のトイレとかが有るんでしょうか?」

 ダンジョンにトイレねぇ。可能性はあるけど……。



 セリカのオートマッピングとルート予測で探索はスムーズに進む。

「思ったより大型種がいないな」

「そうですね。まだこっちに来てないんでしょうか?」

 石動と氷室がモニタを見ながら観察している。



『アドミニストレータ。ドローンがマナの供給を受けています』

『はい?』

『塔から供給されていると思われます』

『なんで塔がマナの補給をするんだ?』

『不明です』

 わからん。



 階層で言えば、一〇階ほど下がった辺り。扉のない部屋のような区画。

「お、なんかいますね?」

「……なんだ?床に光る紋様……」

「あれは……魔法陣だ」

 俺は小さく呟く。直後、氷室が指示を出す。

「コロナ!魔法陣を解析!」

「了解」

 すでにセリカが構造解析を初めている。それにコロナには魔法知識は入れていない。多分わからんだろうな。

『あれは小規模な召喚陣だと思われます。せいぜい階層を超える程度です』

『ということはこれから下は物理的には通じていない?』

『かもしれません』



「解析不能。データ不足です」

 やはりコロナには無理だった。

「八尾君あれが何かわかるかね?」

「……召喚陣。小規模ですね」

「あれからモンスターが召喚されてるなら、アレを壊せば出てこなくなるんじゃ?」

 モニタには明滅する召喚陣が映る。その上に乗っていた不明なモンスターはひときわ輝いた召喚陣に吸い込まれるように、消えた。

「逆だ!あれが下にモンスターを送っているんだ!」

 石動が吠える。

「んー、こいつ(ドローン)も乗ったら作動しますかねぇ?」

 薄目のままでちらっと石動をみる。

「試してくれ」

「了解」



 部屋の中には他にモンスターの姿はない。今ならいけるかな。シュンとドローンを魔法陣の上に移動。ゆっくりと下ろす……よし、着地。バッテリーじゃないからペラは回しっぱなしでいいか。

 着陸した数秒後、魔法陣が明滅する。五秒ほどそのままで居ると、パッと視界が切り替わった。

「転移……できたのかな?」

 シュンっとドローンを離陸させた。できるだけ天井に近づく。

 映る風景は先ほどまでと大して変わらない、が。

『現在地わかるか?』

『気圧等は変化なし。階層を超えただけと思われます』

 意味がわからんな。

『選別機のようなものでは?』

『はい?』

『一定以上のマナを保有していないと作動しないとか』

『ああ、ありうるな』

 ということは、塔内でポップするモンスターも、それなりに強さにばらつきがあるってことだな。

 それからしばらくは大型モンスターを何種類か発見したが、天井まで届くようなのはいなかった。五階ほど階段で下る。



「お?」

 階段を降ると急に開けたところに出てきた。

「これは……」

 ワンフロアぶち抜きで柱もない。外壁と思われる壁がぐるりと見える。視界を下げるとフロア全面に魔方陣が描かれていた。

「うーん。これがエイジの言ってた召喚陣かなぁ」

『どう思う?』

『全容がわからないことには判別ができません』

 ですよねー。さて、どうすっかな。今この魔方陣が稼働することはなさそうだけど、と言って放置もなぁ。

 ひとまず全域を記録するか。外周から回ろう。

『セリカ、魔法陣を記録』

『了解』

 ふいーーんと周回。……直径六〇メートルって広いな……。



 などとやっていると午後五時が近づく。うむ、いい暇つぶしになった。

「全部記録できた……かな?」

「コロナ、魔法陣の記録は完璧?」

 氷室がいつの間にか後ろに居た。これは、また……集中しすぎたか。

「はい。画像データー統合終了しています」

 ペロッとモニタに魔方陣が出てくる。

『わかるか?』

『不明な箇所もありますが。これは受信用のようです。これで二人を元の世界に戻すことはできません』

『そうか……』

 残念だが、別の手を考えたほうが良さそうだな。



「八尾君、ご苦労。帰還させてくれ」

「あー、問題ないなら放置でいいですかね?」

「ん?問題はないが……いいのか?せっかく作ったんだろう?」

「いえいえ、回収するには時間がないですし、多分最初の転送陣が超えれません。アレ一方通行っぽいです」

「そうか。残念だが仕方ないな。破棄許可」

「では」

 パンっと手をたたく。同調していた視界が消える。モニタの映像も途絶える。



「でも、ちょっと便利ですよね。アレ」

 氷室が缶コーヒーを出してくれる。

「ありがとうございます。結構疲れますけどね」

 ブラックコーヒーがうまい。

「まあ、サイズさえ小さくていいなら、いつでもできますし、惜しくはないですよ」



「コロナも魔法知識を入力できて嬉しそうです」

「流石に感情は設定してないんだけどなぁ」

 作っておいてナニだが、クリスタルセリカシリーズの成長っぷりが恐ろしい。

「しかし、あの大きな魔法陣が何なのかわかりませんね」

「そう、だな。構造的には上階の小さなのと同じようなんだが、色々と違いがあってよくわからん。大体あのサイズは何だ?直径六〇メートルの魔法陣ってなんの冗談だ?」

「あはは、まぁ、私はその辺はさっぱりなんですが、あんだけ大きかったら燃料とかもすごそうですね」

「燃料……マナ……か」

 確かにそうだ。あのサイズだとかなりの消費量のはずだ。

『塔そのものがマナキャパシタになっているのでは?』

「塔そのもの……」

「はい?」

 あ、声出てた。

「いや、あの塔は構造を支えるのにマナで補強してるらしい」

「へー、全体が電池なんですね。じゃあ、いっぱい使わせたら塔が崩れたりしませんか?」

「俺もそう思ったんだが、容量がバカでかいっぽい」

 氷室が、あーって顔で苦笑いを浮かべる。

「ちょっと無理っぽいですねぇ」

「だよねぇ」

 ん?

 なぜ巨大魔法陣を稼働させるように塔全体にマナを貯めているんだろ?専用のマナ結晶なりを置いとけばいいじゃないか。

 なぜドローンにマナが供給された?

 なぜ小さな召喚陣で一定以上のマナを持つモンスターを大型召喚陣に繋がるフロアに集めている?

 確認はできていないが下への階段もあった。下層も同じ構造だとしたら、大型召喚陣の上下五フロアずつにマナを集中的に集めているのか?



「モンスターは……どこから来た?」

「え?」

「大型魔法陣がおいそれと動かせないなら、あのモンスターはどこから来た?」

「そりゃぁ……あれ?」

 氷室が首をひねる。

「どしたん?」

 教授がひょいと首を突っ込んできた。

「モンスターが塔に湧いてくる原理がわかりません」



「んー……前提として、モンスターは既知の生物とは違う。文字通り湧いてくるし、生命活動の停止で魔石を残して消滅する。ならば、生まれるのも我々とは全く違うと考えるのが普通だね」

「湧いてくる……。マナを供給……。塔がモンスターを湧かしてる?いや、魔石か?」

「魔石とマナ結晶は同種のものかもしれん。その違いは?」

 教授が誰にともなく問いかける。

「共に魔力を具現化し、俺が同じように形状を変えられる。違いは……発生環境?」

「可能性は高いが、だがそれだと手は出せないね」



 うーん。

「塔の中でマナを結晶化したら魔石になるのか?いい加減な話だ」

「いや、鉱石などは環境で形状が変わるのは珍しいことではないよ。黄鉄鉱とかは正立方体に成長するけど、環境によっては十二面体になったりもするしね」

 だとしたら、魔石とマナ結晶は同種のものか。

「環境の違い……ねぇ」

 塔の中と外で違いってあるかな。

『明確な違いはマナの供給時間でしょうか』

「時間……か」

 ダメだな。情報が少なすぎる。保留にしとこう。





「そろそろ行動開始時間だよ。一応集合しとこうか」

「はい、そうですね」

「私も配置に戻ります」

 ピッと敬礼して氷室がコロナの前に戻る。



 17時55分。

「各部隊、配置完了」

「うん。予定通り1800より作戦開始」

 石動の声が響き、無線で各隊に伝達されてゆく。



 18時。腕時計を見ていた士官。

「第二次防衛作戦、開始。各隊状況報告」

 次々と行動開始報告が届く。さすがの足並みだ。



「ま、我々に出番が無いことを祈ろうか」

「はぁ、ま、その方がいいんですけどね」

 黒鳥教授のいつもの軽口。いいのか悪いのか知らないが、正直俺たちに用事はないほうがいい。



 18時30分。

「大扉、開きました」

 報告される最初のアクション。来たか。



 出てきたのは……オーガ?角の生えた赤褐色の肌のヒト型。

「オーガ、五体以上を視認」

 報告を聞いた士官が無線手に指示をだす。

「打ち合わせどおり、初激はM弾。単射での効果を報告せよ」

 各隊から了解が聞こえる。手はず通りだな。





「さて、効果があればいいんだけど」

 効果は有るはずだが……。

「効くといいんだけどね」

 教授もモニタを見ながら腕を組む。



 ヘルメットにカメラを付けているのか、分割されたモニタ画面が揺れる。

「攻撃、開始」

 モニタの中の銃口から火煙がでる。

「A2、A3、発砲。M弾、1式2式ともに効果あり」

 望遠カメラのモニタを見ると、発砲するたびにオーガが膝を付く。一体は頭にでも当たったかばったりと後ろに倒れてそれっきりだった。

「よしよし、効果は有るようだな」

 石動が嬉しそうに笑う。

 と言ってる間にも扉からは、続々と大小さまざまなモンスターが出てきた。ちょっと数多くない?



「効果は確認された。全力射撃」

「A1より各員、全力射撃許可。繰り返す全力射撃許可」

 無線手が全力攻撃を伝える。

 その直後、モニタに映るモンスターの群れは、バタバタと倒れていった。



「作っといてなんですが……」

「ん?」

 教授がモニタを見たままで返事をする。

「あの弾、強すぎません?」

「あー……でも、頭とか、見るからに急所に当たった以外は、一撃ってわけじゃなさそうだよ」

 よく見るとそうだな。弾が効いていないわけではなさそうだけど。思った以上にモンスターがタフなのか?





 モニタに映るモンスターは倒す後ろから次々と現れる。

「きりないですねこれ」

「んー、倒したモンスターが消えないねぇ」

 あれ?そういえばそうだな。昨日はゴブリンとかは割とすぐに消滅したんだけど。



 モニタにピコンと赤矢印が出る。なんぞ?



「コロナから警報!大型出現!」

 氷室の声に皆の目がモニタに向く。全高一〇メートルの大扉。その三分の二位の身長の巨人が、ぬっと現れた。モニタにはコロナの観測による身長の概算が出ている。およそ身長六メートル。ヒト型で角の生えた牛頭。

「形状はオーガっぽくはないね」

「……ミノタウロス」

 誰かがつぶやく。ああ、そういえばそんなのいたなぁ、ってそんなのも出てくるのか。

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