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16 マリーの冒険。

 私がヘリにぶつかりそうになった次の日の朝。

 誰も居ない兄さんの部屋を軽く掃除する。

 ふむ。コレくらいでいいかな。



「兄さんはまた自衛隊に行っちゃったし……『セリカさん?』」

 まだ盗聴器の対処が終わったとは聞いてないので念話。



『はい』

『魔法の練習に行こうと思うんだけど、兄さんから何か聞いて』

『ません』

『んじゃ、ちょっと行ってくるね』

『はい。今日はアドミニストレータは遅くなるようです。新兵器の実験とか』

『新兵器。なにそれかっこいい!』

 く~、兄さんたらそんな楽しそうなことを一人でしてるなんて!

 いいもん!私は一人で魔法を堪能するから。



 フンフンと鼻息荒く私は兄さんの部屋へと向かう。

 ささっと装備をつけて変身しようとステッキを手に持つ。

『マリカさん。先ほど新たに隠しカメラが設置されました。変身は上空でお願いします』

『うわ、自衛隊?』

『アドミニストレータが出発してすぐに、情報部と思われる作業服の男性が設置していきました。もちろん無断侵入です。まだアドミニストレータを信用しきれていないようですね』

『んー、じゃあ発進ルーチンはそのままで、鍵だけお願いね』

『承知しました』





「風090から3メートル。低空に航空機なし。離陸可能です」

「いってきまーす!」

 びゅわっと飛び出して一気に上昇。二〇〇〇メートル位でステッキを取り出して。

「セットアップ!ストライクマリー!」

 シュパッと変身。むふ。

 そのまま一気に高度を上げる。

「高度一〇〇〇〇……一二〇〇〇……一四〇〇〇……」

 高度をカウントしてくれるセラ。うん、ちゃんと周辺の飛行機も表示されてる。速度は……上昇だからかそんなに早くないなぁ。

「高度二〇〇〇〇に到達」

 この辺りでいいかな。

「セラ」

「はい」

(ダンジョン)って地上の三つ以外にもあったよね?」

「はい。日本海に三本以上。太平洋、EEZ内に一〇本以上存在しています」

「ふえぇ~いっぱいあるんだねぇ」

 視界内に映る日本地図にマーカーが点々と灯る。

「未確認の物もあると思います」

 んー……ん?日本海側の塔と琵琶湖、桜島の塔が三角形を作ってる?

「ねぇ?この塔の位置って……」

「はい。若干誤差はありますが、おおよそ六〇〇キロから七〇〇キロの間隔で並んでます」

「じゃあ、この空白地帯にも塔があるかも?」

「しれません」

 ふふふ。琵琶湖の塔へ連れて行ってくれないなら勝手に探して調べるまで!

「セラ、塔の並びパターンを予測できる?」

「お待ち下さい……塔間距離六五〇キロ、角度六〇度で表示しています」

 地図に大きめの円が表示される。うわ、いっぱいある。

「一番近いのは……」

「四国沖、室戸岬から五〇〇キロくらい。現在位置からだと五六〇キロくらいです」

「えーと、距離割る時間だから……」

「時速一〇〇〇キロで五六分です」

「余裕!」

 ガッと加速レバーを握る。一気に加速してゆく箒。視界の速度計は時速一〇〇〇キロを超える辺りでフラフラする。む、加速が鈍い。

「もっとスピード出せない?」

 セラに聞いてみる。

「現状では空気抵抗でこの辺りが限界かと」

「空気抵抗……なにか対策できない?」

「お待ち下さい」

 セラが考えているようだ。あれ?私そんな難しいこと言ってる?



「おまたせしました。術式の構築に時間がかかりました。防風シールドの形状を変えます。一旦、停止してください」

「あいあい」

 私はハンドルを右に切ると、くるっと反転して加速全開にする。ふっふっふ。昨日のことで学習したのよ。

「では、一時的にシールドを解除します」

 セラがそう言うと、静かだった箒の周りで結構な強さの風が吹いている事に気づく。

「うわ、この高さだとすごい風吹いてるんだね」

「新形状防風シールド、展開します」

 キュキュと箒のクリスタルが鳴く。すっ、と風が緩くなる。

「もしかして、箒全体の風を遮断してたの?」

「初期形状では球状で、前面に厚く、その他は薄く全周シールドされていました」

「その形を変えたの?」

「はい。前方に鋭く空気を切り裂く楔形にしました。見えませんが」

 ほほう。新幹線か戦闘機みたいだね。

「計算上はマッハ2まで可能です」

「マ……ッハ」

 例えが現実になりそうだね。マッハって。

「セラ、目標までの距離」

「約五三〇キロ」

「最高速での到達予想時刻」

「現在の高度と仮定した場合マッハ1は時速一〇〇〇キロ程度ですので、最大速をマッハ2とした場合で二八分です」

 よーし、試しにアタックだ!

「計測よーい」

「スタンバイ」

「レディ?」

「セット」

「GO!!」



 いつものように全開にしたはずなのに、加速が違う!すごい滑らかに、しゅぱーーって飛んでる気がする!

「時速七〇〇……八〇〇……」

 すごい勢いで速度計の数字が跳ね上がっていく。

「一〇〇〇……当該高度の音速を超えました」

「超音速ーーーーー!!!」

「一二〇〇……一三〇〇……」

 まだ加速は止まらない。

「セラ、出力もいじった?」

「いいえ、マリーの出力が増えたのではないでしょうか」

「昨日の魔法射撃のおかげかな?」

「大出力放出に適応したのかもしれません」

「かもね!」



 高度二〇〇〇〇メートル。旅客機も飛ばない高空で生身の私が音速で飛んでる!

「コレはもう……」

 口が自然に笑う。

「笑うしか無いよ!」

「存分に」

「わはははははは!」





 などと言ってるうちに予想海域へ到着。

「とーーーちゃく!何分?」

「二七分三〇秒。最高速度は時速二一〇〇キロです」

「最高記録ー!」

「おめでとうございます」

「兄さんとセリカには内緒ね?」

「承知しました」



 流石に高度が高いので少しずつ降りる。

「んー……特にナニも……っていうか海が光ってよく見えないなぁ」

「シールドを偏光します」

「変更?」

「偏光です。反射光を選択的にカットします」

「あいあい、よろしく」

 すっと海のギラギラ反射が消える。おお、よく見える。



「っても、特にそれっぽいのは見えない……かな?」

「私の方でも観測していますが、特に異常は見られません」

 んー。

「潜水艦みたいにピコーンってできたらわかるかもね」

「ソナーですか。いいアイデアです。マリー、予備のマナ結晶を一つ出してください」

「ナニするの?」

 ポーチからピンポン玉サイズのマナ結晶を一つだす。

「ん」

 セラがキュキュと鳴く。

「海に落としてください」

「良いの?」

「はい、沈むまでの使い捨てですが、ソナープローブ化しました」

「ふにゅ?まぁいいや」

 ぽいっとマナ結晶を海に落とす。今高度が一〇〇〇メートルくらい。着水まではちょっとあるかな。



「ところでマリー」

「うにゅ?」

「塔を発見したらどうします?」

「とりあえず、入れるなら探検」

「それから?」

「かわいいモンスターを探して飼うとか?」

「かわいいの、いますか?」

「いたらいいなぁ」



「プローブが着水しました。探査開始します」

「よろー」

 ふわふわと箒に乗ったままでちょっと休憩。流石にマッハ2はオド消費がすごかった。回復しないとなにも魔法使えないや。まぁ、こう言ってる間にもグイグイ回復してんだけど。



「どうかな?」

「思いのほかナニもありません。魚群も見当たりません」

「この辺って黒潮?とか流れてなかった?」

「確かに。黒潮海域なら貧栄養で回遊魚以外は少ないかも知れません」

 視界にも海の中の映像が映る。レーダーみたいなものじゃないの?

「ソナーデータを見せても理解できませんから」

「さいですか」

 はっきり言われると腹もたたない。

「しかし、ほんとにナニもいないね……ん?」

「魚群を探知しました」

 映像にも何かの集団が映る。魚群……魚?が集団で泳ぐのが見える。



「セラ、これ……魚じゃない」

「特徴は魚類です」

「普通、魚に腕は生えてない」

「……確認しました。前面からのシルエットは魚ですが、腕と足があります」

「どう見てもモンスターだよねぇ」

 映像に映るのは上半身が魚で胸から下がヒト型の……なんだこれ?

「どうしますか?」

「……かわいくないなぁ。どう見ても人魚……いや、魚人かな?」

「半魚人とかでしょうか?」

「ダゴンかな?」

「ダゴン?」

 ちょっと高度を下げる。



 海中で魚人たちが一方向へ集団で泳いでいる。時折、数匹が群れから離れることがあっても弾かれるように元へ戻っていく。

「何してるのあれ?」

「不明です。何かを探しているようにも見えます」

 捜し物?こんな海の真ん中で?



「ねぇ、アレの移動ルートとか辿れる?」

「少々お待ちください」

 そのまま待つこと数十秒。

「目標の航跡を観測しました。黒潮沿いに泳いでいるようです」

「て、ことは黒潮をたどればアレの来た場所がわかる?」

「かも知れません」

 すいーっと移動開始。魚人の上を飛んだ時に少し隊列が乱れるのが見えた。あっちからも私が見えてるのかな?

「この高さだし手は出してこないでしょう」

「だといいんだけど」

 視界に黒潮の流れが見える。



「しかし、黒潮ってほんとに黒いんだね」

「周囲に比べて貧栄養でプランクトンなどがいないため水中で光が反射しないため青黒く見えるようです」

「へー」

 ゆっくりと(時速100キロ)黒潮の流れを逆に進む。

「海中に構造物が見えます」

「ん……どこ?」

 ピコンと視界に矢印がでる。あ、あれか。

 薄黒い海中に何かが有るのが見えた。



「えーと……どう見ても塔、だよね」

「そう見えます」

 その構造物の上で停止して観察。海中に丸い物があるのが判る。真ん中辺りに丸く穴が開いていて、階段が下へと続いているのが見える。

「あれどのくらいの深さかな?」

「……映像からの測定では正確にはわかりませんが、海面から一〇〇メートルは無いでしょう。せいぜい五~六〇メートルでしょうか」

「潜れる?」

「難しいですね。水圧や酸素はフルカバーシールドで対処できますが浮力に対抗して潜るのはかなりの魔力を消費します」

「んー……氷結魔法ってなかったっけ」

「あります」

「上の水を凍らせちゃえば、後は入り口まで砕けば普通に入れるかなって」

「……いっそ塔全域を凍らせてしまえばいいのでは?」

「魔力足りるかな?」

「オドは十分に。永続させるならマナ結晶ひとつで六時間位は持ちます」

「じゃあそれでいこう」

「ではマナ結晶をひとつ、落としてください」

「あいあい」

 取り出したマナ結晶をぽいっと入り口の上に落とす。着水と同時にキュキュキュとセラが魔法を唱える。その瞬間、マナ結晶を中心にビシッと凍りつく海面。直径七〇メートルの円盤が出来た。

「おお、すごい」

「コレが塔全域へと下がっていきます」

 すいーと側面が見える位置に移動する。ビシビシと下へ向かって氷が伸びていっている。

「ほえー、全部凍りつくのに何分位?」

「4分と予想します」

「降りても大丈夫かな?」

「上面は既に魔法効果外ですので大丈夫です」

 とん、と氷の上に降りる。緩やかな波の形に凍りついた透明の塊。全く白くなく、塔の姿が見える。



「んー、コレをほじくるのは大変そうだねぇ」

「物体移動を使えばすぐです」

「そんなのあったっけ?」

「先程、アドミニストレータが共有ストレージにパッケージを追加されました」

「ごめん、判るように」

「……アドミニストレータが、私達の使用する共有ストレージに、構築済みの魔法式一式を追加しました」

「……まぁ、兄さんがまた何か魔法を追加したんだなってのは判った。で、それはそのまま使えそう?」

「いえ、特定作業用でしたので、現在、展開してカスタム中です。少々お待ちください」

 AI達のこういう言い方が、ああ兄さんが作ったんだな、って感じる。



「お待たせしました。発動ワードはポジションチェンジ。発動ワード、移動元、範囲指定、移動先、発動ワードの順です」

「おーけー。ポジションチェンジ起動、足元の氷、塔の入り口を中心に半径一〇メートル高さは塔まで、二〇〇メートル北へ移動。ポジション・チェンジ!」

 キュキュキュキュとクリスタルが鳴く。ふわん、と氷に魔法陣が浮かぶ。その瞬間、後ろでざばーーーーと水音がする。

「な?」

「移動した氷が水を押し上げた音ですね」

 振り返った私が見たのは、海中からズボッ!と突き出している氷の塔だった。

「うひょーーーーー!」

「壮観ですね」

 さすがにセラは落ち着いたものだね。

 突き出た氷はぐらりと傾き海面に倒れる。その波は氷の上に立つ私にザバー!と迫る。

「あわわわわ」

「大丈夫です」

 セラの落ち着いた声。いやいや、さっさと逃げないと。

 と、言ってる間に波が目前に。

「ああああ!」

 ザバッと波が氷面に触れる、と、ピシピシピシと瞬時に凍っていく。

「およ?」

 氷結魔法が効果を発揮した。すばらしい。

「いやぁ、すごいねぇ」



 波が落ち着いた氷の平面は静かだった。

「さて、入り口は?」

 箒に乗ってふわっと上空へ。お、入り口見える。

「何か反応有る?」

「ネガティブ。ですが緊急上昇姿勢をお願いします」

「あいあい」

 ゆっくりと下降する。直径一〇メートルはちょっと狭かったかな?案外圧迫感が凄い。

「あれ?」

 入り口がしっかり見えるくらいの距離で気づいた。入り口の中が凍っていないし、濡れてない。

「もしかして、外からは入れないとか?」

 スチャッと箒に固定していたステッキを外して構える。



「マリー、マナ結晶を投げ込んでみてください」

 ひょいと入口に向かってマナ結晶を投げる。跳ね返ってくるかと思ったらそのまま通過、階段にあたって奥へと飛んでしまった。

「あら、入っちゃった」

「大丈夫。塔内の映像です」

 ぽわっとぼんやり光る壁が映る。

 コレが塔の中。案外明るいって言うか壁が光ってる。



「んー……どうしよう?」

「見える範囲にモンスターはいません」

 これじゃぁ入っても意味ないなぁ。

「壊しちゃう?」

「その方が良いと思われます」

 えーと、一番威力の有るのって……はて?



「セラ、どの魔法がいいだろうね?」

「残りのマナ結晶を全部使って良いのなら、直接魔力爆発が良いかと思われます」

 あー、なんだっけ。効果範囲内のマナが全部なくなるまでマナそのものが爆発し続ける……だったかな?

「結構、諸刃の剣よねぇこの魔法って」

「準備出来ました。マナ結晶をひとつスリーブにします。用意を」

「あいあい」

 マナ結晶を手のひらに乗せる。にゅるんと形が変わる。薄く筒状に伸びていく。数秒で先端が尖った空洞のミサイルみたいになった。

「で、中にマナ結晶をいれる、と」

 コン、コン、とその筒の中に残りの結晶四つを入れる。

「じゅんびよーし」

「位置エネルギーを使います。上空一〇〇〇メートルまで上がってください」

 ペダルを踏んで垂直上昇。



「うわ、塔の入り口なんか見えないじゃない。狙える?」

「余裕、です」

 一応、塔の入り口を狙って……変わんないな。ぱっと手を離す。

 シュン!と堕ちてゆくマナ結晶爆弾。



「落下中……5・4・3・2・1・ゼロ」

 バン!と赤い爆発が起きる。が、そのまま何も起こらない。

「……お?失敗?」

「いえ、現在各階層を通過中です」

「はい?」

 説明によると、落下スピードと、爆弾化したマナ結晶自体の効果で、塔の床をぶちぬいて行ってるらしい。なるべく真ん中で爆発させたほうが効果的だから、だって。

 などと言っていると、入り口に開いた穴から赤い光が見えた。

「無事起爆しました」

「お、おお?」

 それは最初、穴の中の小さな光だったが、数秒としないうちに強さを増し、轟音が聞こえてきた。



 空中にいても空気が震える圧力が凄い。まるで真下で見る打ち上げ花火のよう。

 10秒もしないうちに塔全体が真っ赤に光りだした。

「あれ?塔自体が爆発してない?」

「……エイジさんが塔の強度をマナで保っていると言っていたのを失念していました。上空退避を」

「セラーーー!」

 がっとアクセルを握りペダルを踏み、全速で斜め上空へと飛ぶ。

「背後から衝撃波、来ます」

「ちょ、衝撃波って、ひやぁ!」

 後ろから凄い勢いの風に押されたようにクルクルと回る。衝撃波ってマッハで飛ぶ私に追いつくの?すごい。



 なんとか上空一〇〇〇メートルまで上がって後ろを振り向く。

「うわぉ……」

「大惨事ですね」

 そこにはモクモクと水蒸気のキノコ雲が見えた。なんか授業のビデオでこんなの見たこと有る。

「昔の海中核実験ですね」

「うわ……あの魔法、殲滅兵器並ってこと?」

「いえ、一定以上の爆発だとああなりますよ」

「それにしても……やり過ぎちゃったかな?」

 ちょっと使いドコロが難しくなっちゃうな。



「残っていたマナ結晶のログの解析が終わりました」

 ああ、そういえば一個落としたっきりだったね。

「どんな感じ?」

「結論から言うと、今の爆発規模はイレギュラーです」

「はい?」

「観測結晶にマナの供給が記録されていました。そして塔内にモンスターは不在。おそらくあの塔は内在するモンスターなどにマナを供給する、もしくは自らモンスターなどをマナで生み出していると考えられます」

「え、それじゃマナそのものはどこから……あ」

「そう、周囲のマナを吸収していると思われます。使いドコロの無いマナが塔全体に溜まっていたのではないかと推測します。通常だとそれを元にモンスターなどを維持しているのでしょう。ですが出現位置が海中だったので、作った陸上型モンスターは水没。それで先ほどの半魚人を作った」

「でも、半魚人が作れるなら、それをいっぱい作っとけばいいのに」

「おそらくカスタムもしくは新造に時間がかかっていたのではないでしょうか。あの半魚人がファーストロットと考えると、周囲を探索しながら泳いでいることにも納得できます」



「……ん?じゃあ、あの半魚人達はここへ帰ってくるってこと?」

「おそらく。もしくはそのまま地上へ上陸するかもしれません」

「半魚人達の予想位置を出して!」

「了解」

 数秒でピコッと矢印が出る。



 黒潮に乗っているからか案外速度が早い。

「あんなのが地上に出たら」

「ダメですね」

 箒を矢印の方へと飛ばす。探しながらだとスピード出せないな。



「いました。距離五〇〇。深度一〇。数一二〇」

「一気にいくよ!氷結で固める!範囲そのまま!」

「了解」

「ブレスオブフリーズ!シュート!」

 ブン!と振られたステッキから放たれた氷の息吹は、半魚人の群れに襲いかかる。海面が凍ったと思った瞬間、海中まで一気に凍る。



「はぁ……はぁ……」

 うわ、さすがにアレだけの範囲を一気にやるとオド消費が凄い。くらくらする。

「凍結確認、半魚人残存……無し」

「いよっし!」

 海上に四〇メートルほど突き出して、横倒しになった氷の塊がぷかっと浮いている。透明な氷の中には半魚人が凍りづけになっているのが見える。

「んー……よく見たらかわいくないなぁ。深海魚みたい」

「その辺りを参考にしたのか、それそのものをサンプルにしたのか、といったところでは?」

「だろうねぇ」



 さて、これをどうするか。んー。

「どうしよう?」

「先程、民間船から海上保安庁への海上爆発の通報を傍受しました」

「あらあら。あ、無線ってこっちから出せる?」

「発信はちょっとむずかしいです」

「そっか、今の無線の発信元って判る?」

「はい」

 ピコンと海面に矢印が浮かぶ。なるほど確かに小さく船が見える。

「その人達に追加で通報してもらえばいいんだ。ここのGPS座標マークしといて」

「了解」

 私は、きゅ!っと海上の矢印が示す船に向かって飛ぶ。









「何だったんだ?あの爆発は」

「さて、海底火山でも出来たかな?」

 大型タンカーのブリッジで船長と航海士が双眼鏡を眺めながら話しているのが見える。



「あ、なんか偉いさんっぽい人がいる」

「四本線。船長ですね」

「じゃあこのひとでいいや」

 ブリッジの外で船内を眺める少女が見えた。船長はありえない光景に何も声が出なかった。

「船長?」

「あ、あ、そ、外に」

「外?」

 航海士が船長の指差すブリッジの右横を見る。そこには箒のようなものに乗った、金髪の少女がいた。



「あーけーてー」

 棒でコンコンと窓を叩く少女。

「な、なんだ!きみは!」

 ドアを開けてブリッジからウイングデッキに出る航海士。

「あ、そこ開いたんだ。あのね、さっきの爆発は私が海中の(ダンジョン)を壊したせいなの。海上保安庁の人にそう言っといてくれないかなぁって」

 航海士は上から下までマリーを見る。だがどこにも、つり線も棒も生えていないことを確認して、固まった。

「あらら。船長さーん」

 開いたドアから船長に声をかける。

「ふぁ!わしか?」

「そうそう、お願いがあるんですけど」

 すーっと赤い宝石の付いた棒が飛んでくる。

「あの、メモ帳とか有りますか?」

「あ、ああ」

 胸ポケットから手帳を出す。

「ありがと」

 じゅわ!っと赤い宝石からレーザーのような光が出た。

「うわ」

「そこの座標に氷が浮いてるの。その中に水中型のモンスターが閉じ込めてあるから、回収するなり破壊するなりしてって海上保安庁に伝えてくれませんか?」

「……わかった。君の名前は?」

 帰ってきた宝石付きの棒をパシっと握る少女。

「私?私はマリー。魔法少女ストライクマリー!じゃあ、おねがいしますね、船長さん!」

 そう言った途端に少女はグワッと加速して空へと消えた。

「……何だったんでしょう?」

「わからん。ただ、この座標には何かが有るんだろう。一応海保に通報だけ入れとこう」

「少女のことは?」

「……正気を疑われる。問われてからでいい」

「できれば言いたく有りませんね」

「そう願いたいね」







 あー思いほか大出力魔法を使っちゃったなぁ。ゆっくり(時速三〇〇キロ)と帰ってきたら夜だった。兄さんはまだ帰っていない。両親もまだだね。

『セリカさん?』

 軽く一人で食事を済ませ、ベッドに転ぶ。

『はい、マリカさん』

『兄さんは?』

『先程、今日の殲滅戦が終わったので現在はデブリーフィング中です』

『今日は遅くなりそうね』

『そうですね』

 一応、海の塔のことは言っとこうと思ったんだけど。あ、そうだ。



『セラ?』

『はい』

『今日のことを簡単にまとめておいてくれる?』

『……構いませんが……どの程度まで?』

『私が兄さんに怒られない程度』

『不可能です……』

『え』

『セラ、マリカさん。今日は何をしていたか報告を』

 あ、しまった。セリカさんは兄さんに嘘はつかないから絶対言っちゃう。でもごまかせないしなぁ。

『セラ、いいよ、言って』

『……』

 キュっと数秒で話が通じる。このへんはAIの利点かなぁ。

『わかりました。このことは私からアドミニストレータに報告しておきます』



『兄さんにはないしょに……』

『できません。……大丈夫ですよ。怒られませんから』



 いやいや、絶対怒られるでしょ。

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