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9.5 対策本部。

 時間は少し戻る。



 その日。世界は驚愕と恐怖に包まれた。

 なんの前触れも無く、世界中で「塔」が出現した。

 ソレは高さ三〇〇mほどで、直径は六〇m位。多少の違いは合っても平均してその辺りだった。

 当初、各国は古代遺跡か宇宙人の落し物か、と調査をしていた。

 そして、塔出現から三日ほど経った時、一斉に塔の最下部に有る大扉が開いた。

 その大きな扉から多種多様なモンスターが続々と現れた。


 彼らは手当たり次第に壊し、喰らい、蹂躙した。

「塔」は様々な地点に出現した。そのため都市部から極地まであらゆる場所が災禍に見舞われた。日本も例外ではなかった。


 日本のEEZ内には一五本の塔が出現した。

 その殆どが広大な太平洋と日本海に出現したので、衝突した不幸な船舶以外に被害は出なかった。

 陸地には、北海道のほぼ中央・琵琶湖湖中島・九州桜島。この三本が出現。


 北海道は塔出現時に通報を受けた道警が周囲を封鎖。モンスター氾濫時にも素早く警察が対処できた。当初から自衛隊も待機していたことによりほぼ被害はなかった。


 桜島は火口の中に出現したからか、モンスターが出現と同時に火山性ガスで行動不能に陥ってしまい、その間に警察、自衛隊により封鎖に成功。


 琵琶湖の湖中島に出現した塔は、警察により住民の避難が完了していたこともあり、氾濫時の被害はなし。だが、島はモンスターに占拠されてしまった。まだ元の住人は帰っていない。






『報告を』

 プレハブの仮設会議室にスピーカー越しの声が響く。

声の主はモニタに映る男。警視庁長官「不明高層建築物対策本部」のトップである。

「琵琶湖の被害報告です」

 会議室にいるのは滋賀県警の対策本部長。他には誰もいない。

「現在、沖島を中心に、半径一〇キロを封鎖。進入禁止を継続中。沖島の害獣は、県警と自衛隊の狙撃班があらかた片付けました。周辺に自然発生する小型害獣も発見次第『駆除』しております」

『肝心の塔はどうだね』

「今の所、害獣の流出は止まったままです。奴らが「外は危ない」と認識してくれてたら良いんですが」

『希望的観測だな。アメリカでは塔の最上階からドラゴンが出てきたとの話もある。真偽は不明だが無視もできん』

「こちらでもアメリカの話は聞いております。それを受け、ヘリにて確認をしましたが『今の所変化なし』とのことで、現在は東側対岸の井崎山山頂に観測点を構築、水上隊と連携して常時監視体制をしております」

『よし。そのまま監視を継続。自衛隊はどうしてる?』

「塔出現後、災害派遣で駐留していた陸自ですが、即応部隊を残し近郊駐屯地にて部隊再編中とのことです。なにせ「災害派遣」の状態のままでしたから。再配置は翌朝以降になると連絡を受けております」

『わかった。明朝、政府発表があると思うが本件は大規模自然災害扱いになる。進入禁止措置を厳密に頼む』

「了解しました。定時報告終了」

 モニターに向かって敬礼する本部長。



 長官が手元のスイッチをオフにする。記録用の録画が止まる。

『定年間際だってのにお互いエライときに当たっちまったな』

 モニターの中の長官が苦笑いする。

「まったくだ。あと半年で退官だってのにこの大騒動だ。頭が痛いよ」

 本部長も苦笑いで返す。

『まぁ、遠からず本庁で専門チームが編成されるはずだ。それまでは頑張ってくれ』

「ああ、精々二階級特進にはならんように気をつけるよ」



「では、長官。これにて定時報告終了しま……」

 バン!

 本部長が言い終わる寸前に唐突に開かれるドア。

「緊急報告!塔上空に飛行生物が出現しました!」

『「ナニ!」』

 二人の声が被る。

「二分前に塔最上部からヒト型でハネの生えた生物が出現!現在、自衛隊が警戒態勢で待機しています!」

「どうします?長官」

『手は出すな。警戒待機』

「聞いたな!手は出すな。警戒態勢を維持。攻撃されたら退避してよし。攻撃は自衛隊に任せろ」

「了解!」

 走っていく警官。

「出ちゃったよ。ドラゴン……ではなさそうだが。二階級特進も見えたな」

『まだ早い。今、総理に連絡を取ってる。自衛隊の攻撃許可は総理の仕事だ』

「それまでに体勢を整える」



『お前も出るのか?」

「ああ」

『アメリカの州軍でも手こずったそうだ。気をつけろ」

 ビッと敬礼して部屋を去る本部長。

 誰もいない会議室に点きっぱなしのモニター。

 長官がゆっくり席を立つのが映し出されている。ゆっくりと長官がフレームアウトした。

『死ぬなよ……』

 小さく聞こえるその祈りは、誰の耳にも届かなかった。







「何だ?……アレは」

 井崎山観測点。

 警察と自衛隊の合同観測所に到着した本部長は双眼鏡を覗きながら固まった。

「四分前に突如出現。塔上空に浮いたまま停止。以降そのままです」

 空中に翼を展開したまま停止する生物。

「ドラゴン……じゃないな?天使?……まさかな」

 それは翼開長三〇mを超える翼を展開し、悠々と空中に浮いている。

 本体はヒト型だがサイズはでかい。身長でいえば一〇メートルを遥かに超えている。



「羽ばたいていない。どういう原理だ?」

「不明です。およそ一分で一回転のペースで時計回りに自転しています。現在、城南大学の協力班が観測中です」

 警察官の中から迷彩服がヌッと顔を覗かせる。

「ナニが何やらさっぱり分かりませんなぁ」

 本部長より頭一つ大きい、身長一九〇センチはあろうと思われる大男が顔を出した。



 本部長は双眼鏡から目を外し、自衛隊の現場指揮官に黙礼する。

「お疲れ様です。自衛隊の方の準備は?」

「万全……とはいきませんが、できる限りの配置は完了しています」

「ご存知でしょうが、アメリカでもドラゴンが出たそうです。目標がそれよりも強いのかマシなのかは分かりませんが、正直警察の装備でアレをどうこうできるとは思えません」

「我々も同じですよ。アメリカの州軍は普通に軍隊だ。それが苦戦するレベルだと聞いております。現状の我々の装備レベルはそれより低い。足止めすらになるかどうか」

「それでも、攻撃は自衛隊の領分です。我々は住民避難に全力を上げてます。湖東はここを中心に一〇キロ以内は避難完了見込み。湖西側も間もなくの予定。これで全力が出せるでしょう?」

 それを聞いた迷彩服の大男は迅速な避難にやや驚いた表情を浮かべ言った。

「ご安心を、とは言えませんが、全力で国民を守るのが我々です」



 しばらくは目視による観測が続いた。


「目標に変化あり!」

 さっと双眼鏡を除く隊員たち。日が落ちてほぼ光の無くなった空に浮かぶ目標を見る。

「……特にナニも変わらんが?」

「サーモグラフ画像です」

 大学の観測班のサーモカメラが周囲より温かい人影を映し出していた。

「三〇秒前から中心温度が上がっています。毎秒約二〇度で上昇。現在六〇〇度を超えました」

 大学の研究者が報告する。別の研究者が声を上げる。

「目標の回転が減速しました。一〇秒前からこちらに向いたままです」



 自衛隊指揮官が無線機を手にする。

「こちらCP。目標に変化あり。各隊防御態勢で警戒。送れ」

『アルファ、了解』

 無線機から各班の応答が聞こえる。

「準備よし。さて、あちらさんはどう出るか」

「目標、右腕で何かを狙ってます。回転再開」

「ドローンはどうか?」

 自衛隊中隊長が確認をする。

「一分前に観測ドローンが塔の二〇〇メートルまで接近。リアルタイム映像です」

 渡されたタブレットには塔の上でなにかを探すように腕を伸ばして回転する『天使』が映っていた。



 天使が回転を止める。

 その時、画像が揺れる。

「なんだ?」

「原因不明。電波障害のようです」

「ふむ……」

 揺れる画面から光学望遠映像モニタに視線を移す。

 と、その瞬間、天使が地面に向けて光を放った。

「なに?!」

 天使が放ったその光は地面を焼く。

「熱線!?」

 天使が腕を向けると光が放たれ地面を焼く。まるででたらめに撃っているように見える。

「こちらではないようだが……何をねらってるんだ?」

「わかりません。照射点には何も見えません」

 中隊長は部下の報告に首をひねる。



「見えない……。サーモは?」

「変化なし。熱線の影響でかなり曖昧ですが」

 大学研究員の眼前のサーモモニターを見る。ピコンとサークルが表示され「何か有る」ことを示している。

「いや、なにか……飛んでる……これは」

 温度の低いことを表す青い空間にわずかに赤い点が動いている。



「対空特科!準備よし!」

「目標。塔上空の飛翔体。攻撃、はじめ!」



 87式自走高射機関砲が火を噴く。バンバンバンバンバンと音と共に曳光弾が暗闇に線を描く。

 全弾寸分違わず天使に吸い込まれていく。

「全弾命中!……効果……確認できません!」

「徹甲榴弾が効かんとは」

 それからも砲撃を続けるがどれもあまり効果は無い。万事休すかと、その場の全員が覚悟を決めたとき、突然、天使の前にすさまじい光の球が現れ、苦しげに声を上げて天使が消えた。



「目標……ロスト。消えました」

「わけがわからん。これは撃退したと見ていいのか?」

 県警本部長が帽子を取り、汗を拭いながらつぶやく。

「見逃された、と言ったところですな」

「我々よりも優先される何かが、あそこにいたと」

「かもしれません」

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