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01 マリカ、フェレットを拾う。

短編「誘拐したら魔法少女」の前日譚ですが、書き始めたのはこっちが先です。

いろいろ矛盾があるかもしれませんが「誘拐したら~」は、いわゆるスピンオフだと思っていただけると助かります。

 コンコン。



 午後九時。窓をノックする音が響く。


 自宅で仕事中だった俺は、音のした窓の方へ視線だけ向ける。 窓の外のベランダにはTシャツにダボダボのカーゴパンツ姿のポニーテール少女が手を降っている。 ガラッっとベランダの扉を開ける。


「またベランダの仕切り外して越えてきたな。やめれ」

 むわっと暑い熱帯夜の熱気と共に少女が入ってくる。

「大丈夫。慣れたもの」


 少女は胸にタオルの掛かった籐カゴを抱えて部屋に入ってきた。器用に足でガラス・サッシを閉める。

「ふ~、涼しい。兄さんの部屋はエアコン入ってて涼しい~」

「お前の家にもあるだろ、エアコン」

「リビングにしかついてないし。お母さんがすぐ消しちゃうんだもん。暑くてたまんない」



 少女の名はマリカ。斉藤茉莉花。

 マンションの隣に住む一家の一人娘だ。歳は十三。中学二年。年齢の割にと言うか、小さく、薄く、軽い。どう見ても小学生。


 夏休みに入った所でウロウロと落ち着きが無い。度々ベランダの仕切りを外してこっちに越境してくる。隣の親とも俺が小さい頃からの知り合いだから、気にはされてないようだが外聞がわるい。止めてほしい。


「で、今日はどしたん?」

「あのね。兄さんにお願いがあるの」

「またなんか拾ってきたな。今回はなんだ?」

「この子なんだけど、しばらく預かってくれないかな」


 マリカは抱えたカゴの上に掛けられたのタオルをそっとめくる。中には真っ白な小動物が寝ていた。


「なんだ?オコジョ?」

 その小動物はひどくぐったりしていた。

「多分フェレット。ちょっと体が大きいから。白いのはそういう個体じゃないかな」

「アルビノではなさそうだし、白化個体かな。で、こいつはどうした?」

「今日の夕方、塾の帰りに拾ったの」

 またか。

「ホイホイ拾ってくるなよ……ずいぶんぐったりしてるな。餌は?」

「猫ミルクをちょっと飲んだ。それからずっと寝てるの」

「ならそのままで様子見だな」

「ちょっと預かっててもらっていい?」

「駄目っつたらどうする気だよ」

「うーん、鳴かないから大丈夫だとは思うけど、お母さんが動物嫌いだからなぁ。うちじゃちょっと無理かも」

「いっつも言ってるが飼えねぇもんを拾ってくるな。あほう」

 マリカはプーと頬を膨らませてむくれる。



「飼える子探すからそれまで預かっててお願い!」

「一週間」

「え?」

「一週間なら預かる」

「ありがと。兄さん」

「毎度まいど厄介ごと持ち込みやがって。もうちょっとは感謝してほしいもんだね」

 犬猫はいざしらず、鳩や雀や子カラスまで拾ってくる。

「感謝してますわ。お に い さ ま」

「そんな薄い体でシナ作られても」

 マリカの謎セクシーポーズを無視しながらPCに向かう。



「イタチの飼い方なんか知らんからちょっと調べる」

「イタチじゃないよ。フェレットだよ」

「フェレットもイタチ科だし元はヨーロッパのイタチだ。えーと……」

 仕事用のデスクトップとは別のノートPCでフェレットを調べる。


「もしかして、こいつ暑くてダウンしてんじゃね?」

 ググる先生曰く、フェレットは暑さに弱い。らしい。

「あー……昼間暑いしねぇ。うちの部屋も夜でも暑いしねぇ」

「取りあえず氷枕でもひいとくか」

 俺は冷凍庫から冷凍されてた氷枕を取り出してタオルでくるむ。



 下手に暴れられても困るので、度々動物を持ち込むマリカ用に、蓋を網に改造した衣装ケースにフェレットと一緒に入れる。

「大活躍だね衣装ケース」

「だいたいお前のせいだ」

「ぶー」

 マリカは頬をふくらませながらフェレットを指先で撫でるように触る。

「大丈夫かなこの子」

「小動物は体力ないからな。今晩は祈るだけだ。明日動物病院に連れて行こう。お前も来いよ」

「うん、朝にまた来る。お願いね。兄さん」

「あいよ。仕切り板戻しとけよ。そっち側からしかネジ止められないんだから」

「あいあい」

 マリカは来た時よりも軽快に、しゅぴっっと敬礼のように手を上げて自室へ戻っていく。



 さて、こいつをどうしようかね。

 フェレットのことをポチポチ調べながら、時折寝返りをうたせる。


 ふーむ、サイズ的に幼体ってことはないか。さすがイタチ科。主食は肉か。それを3~4時間毎にちょっとずつ、と。確か冷蔵庫にパックのササミが残ってたな。あれでいいか。


 さすがにぐったりしてるので固形物は食わんな。子猫用のスポイトを取り出して水を口元にチョンとつける。薄目を開けてぺろっと小さな舌でなめとるフェレット。よしよし、水分はちゃんと取れよ。などとフェレットの世話をしていたが仕事も続ける。



 オレは八尾 光路郎。歳はもうすぐ三〇。な、二九歳。

 仕事はフリーのプログラマー。趣味は電子工作。収入はそれなり。 隣の一家とはオレが小さい頃からの付き合いだ。

 マリカは隣夫婦の間に遅くに生まれた一人娘。猫かわいがりされるかとおもいきや、案外厳しいらしい。兄弟替わりなのか俺のことを「兄さん」と呼ぶ。



 時折、振り返ってフェレットの様子を見ながら仕事を進める。 お、自力で寝返りしてるな。これなら朝までは問題ないだろう。



 仕事に集中する。


 ふと、キーボードを叩く手が止まっているのに気づいて、グリグリと肩を回す。

「三時か」

 PCの隅の時計表示を見ると午前三時を少し過ぎたところ。

「……寝るか……その前に風呂だな」

 キリの良い所なのを確認してPCを落とす。


 風呂でシャワーを軽く浴び、部屋に入ったところでフェレットを見る。

「具合はどうかな?」

「きゅ」

 お、起きてる。

「水飲むかな?」

「きゅ」


 スポイトから水を飲むフェレット。

「大分元気になったな。一応朝になったら医者行こうな」

「きゅー」

 意味がわかってるのかあまり嬉しそうではない声が出た。

「ま、今晩はこの中で我慢してくれ」

 改造衣装ケース蓋を閉めて明かりを消す。

「きゅー」

「はいはい、おやすみ」

「きゅ」

 暗闇から聞こえるフェレットの声を確認して寝室へ。

 寝よう。



 朝。ジワジワとやかましいセミの声に紛れるように枕元から声がする

「おはよ、兄さん」

 む、マリカか。薄目を開けて声の主を確認する。髪はふたつ分けサイドテールで、肩の空いたTシャツに裾の広い長めのショートパンツ。 実に涼しそうだ。肩から掛けられたポシェットが可愛らしい。


「今、何時?」

「九時前」

 はえーよ。

「寝たの四時前なんだがな」

「また、夜更かしして仕事?いい加減体壊すよ」

 規則正しいプログラマーもいるかも知れないが俺は見たことがない。


 マリカがコピー用紙をピラッとみせる。

「一応、フェレット見てくれる動物病院調べてみたんだけど」

「ん」


 プリントアウトされた病院一覧。いくつか赤いボールペンで印がついている。あくびをしながらリストを眺める。

「案外少ないな」

 そうつぶやきながら病院の名前を検索する。検索結果をいくつか読んで評判などを確かめる。フェレットは比較的メジャーな小動物なのでどれも評判はたいして変わらなかった。

「ここにしよう。近いし」

「近さで決めるの?」

「どこも大して変わらんようだしな」



 暑いから格好はラフだがかまわんだろう。俺は車のキーを引っ掛けて玄関へ。マリカも玄関についてくる。

「お、今朝は玄関から来たのか」

「んーん、靴持って裏から」

「ベランダは裏口じゃねぇよ」

 など言いながら駐車場の我が愛車へ。といっても軽自動車なのだが。



 ピピ!軽快な電子音を出して車から解錠のバックアンサー音がする。 フェレットを入れた猫運搬カゴを持ったマリカが、するっとドアを開けて乗り込んだ。

 開口一番こう言った。

「日陰でもすでに暑い。さすが夏」

 エアコンを全開にしながら俺はカーナビに目的地住所を入力する。

「おや、脳内地図は使わないの?」

「行ったこと無い場所はカーナビに方向案内させるもんだ」

「でも、曲がる指示は従わないよね」

「そんなことはないぞ。意見が一致したら従うことも有る。無駄に遠回りすることは無いわな」

『ルート案内を開始します』

 カーナビが道案内を開始する。



「通勤時間の終わりとかち合ったからチョットかかるが、三〇分もかからんだろう」

「うん。すぐつくからね。ちょっとガマンしてね」

 マリカは膝の上に載せられたカゴの中のフェレットに声をかける。

「きゅ」

 喋る内容がわかってるのかフェレットは短く答える。

 程なく動物病院に到着した。診断結果は、初期の熱中症。冷やして水分補給を欠かさない。くらいしかないそうだ。

 診察料を払って猫カゴを抱えるマリカに声をかける。

「こいつ飼うの案外めんどくさいぞ」

「頑張って探してみる」



 帰る途中にペットショップに寄って、フェレット用にリードなど色々揃える。

「兄さん、この子飼うの?」

「預かるだけだ。それでもずっとかごの中ってわけにもいくまい。リードつけてたら部屋ん中でウロウロできて多少はストレス解消にもなるだろ」

「そっか。ごめんね色々」

「今更だ。そのうちなんかで返してもらう」

「うん!またお仕事手伝うよ!」

「勘弁してくれ」

マリカに手伝ってもらうと仕事が増える。実証済みだ。


「ただいまー!」

「おかえりー、ってお前んちじゃねえよ」

「ぶー」

 恒例のやりとりをして昼御飯の準備をする。

「マリカも食べるか?」

「うん、どうせ帰っても一人だし。あ、お昼代もらってるから。はい」

 そう言いながらポシェットから千円札を出した。

「いらんよ。代わりに手伝いよろしく」

「あいあい。ありがと兄さん」



 程なく俺の茹でたそうめんとマリカの切ったハムやきゅうりが皿に守られて並ぶ。

「いただきます」

 ずぞーと、そうめんをすする音が二つ響く。


「で、飼える友達は見つかったか」

 ずぞー

「昨夜、何人か連絡してみたけど、みんないまいちだね」

 ずぞー

「んむ、まぁすぐには見つからんだろうさ」

 ずぞー

「うん。頑張ってさがす」

 ずぞー



 度々マリカが小動物を拾ってくるので、マリカ周辺で動物を飼える知り合いはほぼ居ない。すでにマリカの拾得動物を引き取ってくれているのだ。

「俺もちょっと知り合いをあたってみるよ」

「うん。お願い」


 食事を終えて片付けもやってくれたマリカ。

「フェレット大丈夫かな」

 そう言いながら猫カゴから改造衣装ケースに移されたフェレットに近づいていく。

「きゅ」

「あら、元気になってるみたい?」

 フェレットは衣装ケースの中をグルグルと回りながらマリカの顔を見る。

「兄さん、この子出していい?」

「あー、ハーネスとリードつけてくれよ」

「あいあい」


 マリカは買ってきたばかりのリードとフェレット用ハーネスを取り出して。

「さあ!準備はいいかい!フェレット君!」

 ビシッとフェレットに問いかけた。

「何ビビらせてんだ」

 ポコン。軽く丸めた新聞で頭を叩く。

「いや、勢いで」

 てへ、っと首をすくめるマリカ。かわいいが相変わらずリアクションが大きい。


「ほれ、抑えてるからハーネスつけて」

「あいあい」

 俺がケースからフェレットを出して両手で膝の上に固定する。すかさずマリカがハーネスを胴に装着する。細いリードも着ける。

「はぁい、できたー」


 俺はフェレットから手を離す。

 フェレットはダッとマリカの肩まで駆け上がる。

「んふー。かわいい」

「あんまり懐かせるなよ」

「やっぱり兄さんの所で飼えない?」

「無理。誰も飼えないなら病院で飼い主探してもらうか。野生のフェレットなんかいないからな。どっかから脱走してきたんだろうし」

「むー、そうかあ。元の飼い主がいるよね」

 などと、フェレットと遊びながらもどこか寂しそうな顔をするマリカ。フェレットも慰めるように頬をスリスリする。


 夕方、隣のマリカの家のドアが開閉する音が聞こえた。

「おばさん帰ってきたんじゃないか?」

「そうみたい。一旦帰るね。ご飯食べたらまた来るよ」

 マリカはそう言いながら珍しく玄関から出て行った。

「さて、お前さんは風呂だ」

 俺はフェレットを抱えて風呂場へ。ノミは駆除された。ついでに俺もシャワーを浴び、フェレットをエアコンを効かせたリビングにリードを付けたまま放して、仕事の続きを始めた。



 ふと、仕事用のメインPCの隅でアイコンがチラチラしてるのに気づいた。ローカルネットワークの動作アイコンだ。

 ん?どっかのバカが無線LANに不正アクセスしてきたか?と、詳細を見る。アクセス元はローカルPC。リビングに置きっぱなしだったノートPCだな。たまにマリカが遊びに来た時にいじってるのは知ってるが、今は居ない。だれだ?外部からのアクセスで踏み台にされてる可能性もあるな。俺はそっと仕事部屋からリビングに向かう。開けっ放しだったリビングのドアからそっと室内を覗く。一応、マリカがアヤシイサイトなんかを見てたら気まずいので静かに。



 俺は視界に映るものを五秒ほど理解できなかった。

 こちらへ画面を向けたノートPCの画面にはウィ◯ペディアが映されていて、ゆるやかにスクロールしていた。背中を向けてPCを操作しているのは、フェレット。


 その小さな手でキーボードを器用にポチポチして、エンターキーを尻尾でターン!とする操作っぷり。


 何だこいつ?イタチのくせにPCを使う?つか、何調べてんだ?ぐるぐると思考が脳を滑る。後ろから覗かれてるとは知らないフェレットは、次々にページを開いては高速で読み取っているようだった。

 どうやら地球の歴史を調べているようだった。地球史ヨーロッパ史アジア史アメリカ史と次々と読破している。ホントに読めてるのかこいつ?見る見る間にページは進み、今は技術関係へ移動している。それも次々読み取るフェレット。



 どれほど時間が経っただろう。疲れたのかフェレットが、んーーと腕を上にあげて伸びをした。実に人間ぽい。それを見た俺はそっと付けられたままのリードを掴む。

 はっ!と振り向くフェレット。俺はそのままリードを釣り上げて胴をがっしり掴む。

「お前は何者だ!PCで何を調べてる。ただのフェレットじゃないのは見た。答えろ、お前は何者だ!」

「きゅーーーー」

「今更小動物の真似をしても騙されん。喋れないならPCをタイプしてみろ。検索してたんならできるはずだ」

 俺はノートPCのメモ帳を立ち上げてフェレットを下ろす。もちろんリードは握ったまま。フェレットは観念したのかPCに向かいタイピングを開始した。



『私の名前はイルマ

 イルマ・ステイングレイといいます

 こことは別の地球から来た次元転移者です

 今のこの体は借り物です

 本体は元の世界

 いわゆる異世界に有るはずです』



 そこまでタイプすると「きゅ」と鳴いてこちらを見た。

 取り敢えず内容をちゃんと理解するのは後だ。

「続けろ。お前は何をしにここへ来た」


『私の使命は他の次元世界の調査です

 元の私の世界では謎の異次元生物による侵略が行われています

 規模は小さいですが被害もでていました

 そこで今のうちに他の世界の状況を調べて万が一に備えようとしていたのです』

「万が一とは?」

『元の世界が侵略されきった時』

「その時は?」

『別の世界への移住を検討していました』

「それは移住と言う名の侵略だ。そうは思わなかったのか?」


『そうですね

 私もそう思います

 ですが上層部はそうは思わなかったようです

 私の世界には魔法が存在していました

 ここへも魔法の力で転移してきましたが

 魂しか転移できませんでした』

「元は人間だと?」


『はい

 私はアルビオン王国 第二魔法宮 第三研究室所属 イルマ・スティングレイ

 魔法が使える以外はこの世界の人間と同じだと思われます』

「……ちょっと待て」


 俺はいきなりな展開に頭を抱えそうになった。異世界?別次元?魔法?なんだかラノベチックな中二病的なワードを処理するのに時間を要した。


「ふー、よし、では俺達に危害を加える気はないと思っていいんだな?イルマ……さん?」

『そうです

 調査が進めば帰れるはずでした

 敬称は無しでいいですよコウジロウさん』

「わかった。でイルマ。帰れるはず『でした』?今は違うのか?」


『本来なら元の体のまま転移するはずが

 魂だけこちらへ来てしまいました

 そのままではいずれ魂が霧散して意味消失すると思いまして

 最初はこちらの人間に取り付けないかと試したのですが無理でした

 とっさに一番近くに居たこの動物の中に入ったのですが

 思いのほか魂の定着が良くそのまま行動していたのです』

「なぜマリカに拾われた?」



『恥ずかしながら

 この体の生態は知らなかったので暑さに弱いとは思いもよらず』

「それで熱中症か」

『はい』

 フェレットが恥ずかしそうに頭を下げている。どうしたものか。


「それでこれからどうする。イルマさんや」

『取りあえず死にたくはないのでこのままここに居させていただければ幸いです』

「他所じゃダメなのか?」

『イレギュラーとはいえこちらの住民とコンタクトを取るのが困難な状況になってしまいました

 そこであなたに協力をお願いしたい』

「協力ねぇ」


 しばし考え。

「まだお前さんがやたらと頭のいいフェレットの中二病患者ではないと断言はできん。なにか証拠を見せてくれ」

『何を見せればいいでしょうか?』

「なにか向こう側にしか無い物とか?」

『この状態で何か持ってるとでも思いますか?』

「では、お前さんどうやって向こうに帰るつもりだった?」

『魔法で』

「魔法……じゃあ、魔法を見せてくれ。それなら納得するかもしれん」


『では、この体では呪文の詠唱が出来ませんので

 無詠唱でできる一番簡単な種火の魔法を』

「よし、何かいるか?」

『ろうそくかランタンが有ればお願いします』

「よし」


 俺はリビングの隅の物入れから、以前マリカが俺の誕生日にバースデーケーキに挿して持ってきたカラフルなろうそくを持ってきた。さすがにオイルランタンは無い。LEDランタンならあるが。



「ろうそくだが、これでいいか?」

 フェレットはこっくりと頷く。俺は小皿の上に消しゴムを置いてその上にろうそくを刺す。

 フェレットのイルマはろうそくの前で後ろ足で立ち、右手を伸ばす。

 そのまま数秒ろうそくの芯先を見つめる。


 それはまるでろうそくの芯から自然に火が湧き上がるように、ポッと明かりが灯った。


 イルマはクルッとこちらへ顔を向け、「きゅ」っと鳴いた。

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