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エピローグ そして僕らは日常に帰って行く

ごめんなさい。本当にこれで終わりです。

 あの戦いから三日後、道頓堀大武と名和鳶益と亀甲縛高校の仲間たちはホーマックで仲良く買い物をしていた。

 名和としては佐々木一花子以外の人間にはすぐに帰宅してもらいたいところだったが全国大会の優勝祝いを兼ねた集会でもあるので無下にすることはできない。

 部活動にこんな罠があるとは。今さらながらと思いつつも名和はがっくりと肩を落とす。


 「ところで名和君は、高校を卒業したら進路はどうするんや?」


 落ち込んでいる名和を心配して道頓堀が声をかけてきた。名和はTシャツにジーンズという少し雑な私服姿だったが、道頓堀の恰好は珍妙なものだった。

 まさか阪〇タイガースのユニフォームを着て来るとは夢にも思わなかった。

 道頓堀さん、まさかあれが私服とは言わないだろうな。

 名和はドキドキしていた。

 そんな質問をすれば「ええこと聞いてくれたな」と阪神タイガースへの愛を長々と語られる予感がしたので服のことには触れずに道頓堀の質問に答えることにしたのは言うまでもない。


 「進学後も縄跳びを続けたいと思っているので福岡のボーキサイト大学に行こうかと思っているんですけどね。どうも成績がよろしくないようで」


 ははっ。名和はとりあえず笑って誤魔化すことにした。

 実際のところ名和鳶益の成績は良くない。より正確に言うと最下位ではないが真ん中よりは確実に下だった。さらに言ってしまえば佐々木の希望する進路がボーキサイト大学だからというのが主な理由である。


 「ダメダメやで、名和君。ジャンパーたるもの文武両道でなくならんのや。今日は家に帰ったら猛勉強やな!」


 そういう自分はどうなんだと聞かれたら絶対に困りそうな男、道頓堀大武が先輩風を吹かせながら説教をする。

 彼の背後にいる霊体化した魔神デビルフレイムもうんうんと肯いていた。


 この前の試合で地球の四分の三を破壊した張本人とは思えない馴染みっぷりであった。実のところデビルフレイムはシャイニングロープと一緒に三日くらいで世界を修復したらしい。その時のおまけで死んだ連中も復活したという。一体あの戦いは何だったのだろうか、と考える名和鳶益だった。


 「ところでみんな聞いてくれよ。俺、今年の冬にバージョンアップすることになったんだよ。これからは細霧10から細霧10.1って呼んでくれよな」


 ガシャン!ガシャン!ガシャン!

 前回のバージョンアップで大型化した細霧はウォーマシンのような姿になっていた。

 細霧の後ろから現在殺人と誘拐の容疑で指名手配にされているはずの浦見が一緒に来ていた。

 浦見の尻ポケットからはみ出ている血まみれの軍手のことは聞かない方が身のためなのだろう。

 みんな意図して浦見から視線を外していた。


 「どうしよう。なんか疎外感を感じるよ。細霧君」


 メタリックブラックに輝く特殊鋼ビブラニウム製のボディをギラつかせながら細霧は浦見の肩を叩く。今の細霧ならば浦見を鼻息で圧殺することができるほどのパワーを持っていたが敢えてそうしないのは鋼鉄のボディに宿った友情ハートのせいだろう。


 「大丈夫っすよ、浦見君。ユー・エス・エージェント(ウィンターソルジャーのこと)だってスティーブ・ロジャース(キャプテンアメリカのこと)と和解できたんだからいずれ時間が解決してくれるっすから」


 ちなみにそういう事実は存在しないし会社の方もまだ版権で揉めている。

 そのままバンバン、と肩を叩く細霧。パワーを調節してあるので痛くはなかったが周囲の視線は以前よりも厳しいものになっていた。皆を代表して佐々木一花子が浦見に辛辣な意見をぶつける。


 「ちょっといいかしら浦見先輩!貴男、もしかして細霧キャプテンの頭脳をハッキングとかしていないでしょうね!」


 佐々木の迫力に一歩下がる浦見。勿論浦見はハッキングなどしていない。

 浦見程度のハッキング技術で細霧の超電子頭脳にアクセスしようものなら、浦見のバージョンアップに関わった世界を裏から牛耳る巨大コングロマリット「ユニヴァース」のエージェントがやってきてすぐにでも浦見を拉致してしまうからだ。


 「クソアマが。いつか細霧のリモコンを手に入れて世界を支配するのはこの浦見肉蔵様だ」


 佐々木は石炭の塊を両手で持ち上げるとそれを一気に押し潰しす。石炭は宇宙生誕に匹敵するGを受けてダイアモンドへと変わってしまった。この恐るべき光景を見て浦見は野望を捨てた。


 俺は細霧と友情ごっこをして平凡な一生を終えるのだ。それがいい、いいに決まっている。佐々木はダイアモンドをビー玉くらいの大きさに圧縮して指を使って浦見の方にぴっと弾き出した。これは指弾という暗器を扱う技術である。知らない人に当てると怒られるので要注意だ。


 「ぐはっ!?まさか拙者の妖気に気がついていたとは小癪な伊賀者めっ!!」


 佐々木のダイアモンド指弾が浦見のすぐ近くに当たった。弾丸は金属製のザルやボウルなどが置かれている棚には当たらずに近くに潜んでいた男の額に直撃したのだ。即死しなかったのは相手が縄跳びを持ったジャンパーだったからだろう。謎の人物はまとめてあった縄を解き、縄跳びをはじめた。


 「はっはっはっ。ほっほっほっ。普通のジャンパーならばいざ知らずこの獣魔流の忍ジャンパーである拙者はこの程度では死なぬ。見よ、必殺の天命滋養跳びを!」


 「て、天命滋養跳びに獣魔忍軍にしのびジャンパーやて!?そないなけったいなもんの使い手がまだおったんかっ!!!」


 落ち着け、道頓堀。まだ誰もそこまで言っていない。というツッコミはさておき突然ホーマックの金物コーナーに現れた妖しい格好をした男は縄跳びをはじめた。


 「戦国の世で生まれた常在戦場の縄跳び術に死角なしとはこのことよ。我が秘術天命滋養跳びの力をもってすればこんな傷すぐにでも治して見せる」


 忍ジャンパーを名乗るあやしい男は跳び続ける。


 するとどういうことだろうか。

 男の額をダイアモンド弾が貫通して出来た傷がみるみる塞がっていくことはなかった。数回ほど跳んだ後に頭の前後から滝のように血を流しそのまま白目を剥いて倒れてしまったのだ。


 「さ、佐々木さん。あなたという人はもう少し手加減するとかそういうことはできなかったのか!この人殺しっ!」


 以前細霧を抹殺しようとした過去を持つ浦見肉蔵は佐々木一花子の残虐なふるまいを非難した。

 佐々木は裏路地で残飯を漁るドブネズミを見るような目つきで浦見を一瞥し、ダイアモンド弾を発射した。

 だが浦見とて現役の縄跳びジャンパー、すぐにマイ縄跳びでジャンプしてこの窮地を凌いだ。まさに一進一退の攻防である。佐々木は空中に十数個ものダイアモンド弾を固定した。


 「私の攻撃を避けたアンタが悪いのよ、浦見。これから繰り出されるマッハ5のダイアモンド弾、あなたに躱せるかしら?」


 浦見は目を凝らしてダイアモンド弾を凝視する。違う。あれは空中に固定されているのではない。回転した状態で置かれているのだ。


 「まさか。これが君の実力だっていうのか!佐々木さんっ!」


 浦見肉蔵の佐々木一花子に対するジャンパーとしての評価は決して高いものではなかった。そもそも外見はバーバーパパに出てくるバーバーママのようで豊満すぎてタイプではなかったし、何より弱小校のたった一人の女性部員だったからだ。おそらくは友人のつきそいか興味本位で入って来た素人だろうと考えていたのだ。

 しかし蓋を開けてみれば石炭をピンチ力で圧縮しダイアモンドの弾丸を作成するほどの高校生離れしたパワーファイターではないか。


 この女、おそらくは道頓堀の言う忍ジャンパーなのだろうか。だとすれば丸腰で戦うのは賢明な行為ではない。

 額から流れ落ちる冷たい汗がやけに気になった。浦見は上着の中に隠し持ったサバイバルナイフを使うかどうか迷った。

 ここでナイフを使えばブラックジャンパーだった頃に逆戻りだ。やっと友達になった細霧にも嫌われてしまうだろう。


 「ダッッ……、シャアッッ!!!」


 佐々木はかけ声とともにジャンプすると空中で回転していたダイアモンド弾がいっせいに浦見に向かって発射された。

 

 万事休すか。

 

 浦見はバッテン跳び、二段跳びを連続して出すことで次元障壁を発生させる得意の縄跳び技「アンドロメダ陥落」を繰り出した。

 しかし、マッハ5で打ち出された佐々木のダイアモンド弾はバリヤーが作り出される前に浦見へと襲いかかったのだ。


 「キャプテン・ミサイル!」


 その時、浦見の前に頼もしい友の背中が現れる。

 マッハの速さで迫りくるダイアモンド弾を前にしても細霧は驚くどころか不敵に笑った。

 細霧は両肩から出現したミサイルポッドから小型ミサイルを発射する。本家のショルダーミサイルには及ばないが佐々木のダイアモンド弾くらいならば相殺可能なはずだ。

 一発、二発とオレンジ色の爆炎とともにミサイルとダイアモンド弾が衝突して姿を消していった。

 その予想外の結果に、佐々木は舌打ちした。

 細霧にこれほどのポテンシャルが秘められていたことは想定外だったのだ。


 「細霧さん、アンタどこまでお人よしなんだよ。そいつはアンタの献身なんてどうとも思っちゃあいない。浦見肉蔵は己の欲望の為なら殺人も厭わない正真正銘、冷血無情のモンスターさ」


 そう言ってから佐々木一花子は結ってあるマイ縄跳びのグリップを浦見に突きつける。

 だがそこまで言われても細霧は一歩も退かなかった。たとえ自分が弱腰、お人よし、型落ちの改造人間と馬鹿にされてもかまわない。悪の一本道を走り続けてきた浦見が改心して正義の友情パワーに目覚めたというのだ。このいつ消えるてもおかしくはないか弱い灯を自分が守らずして誰が守るというのだ。


 「佐々木さん、これは最初で最後の部長命令っすよ。浦見君を許してあげるっす。今まで僕たちは光と闇の使徒として血で血を洗うバトル・ロードを走り続けてきたっすよ。勝ち得たものより失ったものの方が多かったことも事実っす。けど誰かがどこかで涙と怒りを我慢して許してあげないと駄目っすよ。だからこうして僕はもう人間として縄跳びをすることは出来ないけど人間とロボとして一緒に縄跳びをする為に浦見君を許すっすよ。でも、それでもしも佐々木さんが浦見君を許さないというなら僕は佐々木さんと戦うっす」


 細霧は両目をバイザーで覆った。後ろに隠れている浦見にも閃光から目を守るサングラスを手渡す。


 「甘い。甘すぎる。俺たちには地球最強のジャンパー、阿修羅を倒す使命があるんだ。その為にはどんな小さな悪の存在だって許してはならない。そう言ったのはあんたじゃないか、細霧さん。残念ながら俺はこれ以上お前たちと一緒に歩むことは出来ない。これはさよならの挨拶代わりさ」


 佐々木は指をパチンと鳴らした。するとホーマックの天井に巨大なブラックホールが出現する。他のお客さんが何人か吸い込まれていったが魔神として覚醒した道頓堀が救出してくれたようだった。


 「それは闇縄跳び術奥義ダークディメンジョンネメシスクライシス跳びッッ!!!!佐々木一花子、やはり貴殿も拙者と同じ忍ジャンパーであったか!!」


 名和に助け起こされながら死んだはずの忍ジャンパーが叫んだ。

 仮死状態に陥った彼を救ったのは同行していた部の顧問、父島母男によるものだった。

 父島は場の空気を読んで死者が出ることを計算し、レジで奥さんから頼まれた「有料のゴミ袋」と一緒に「復活の薬」を購入していたのである。結果、父島は五キロと十キロのゴミ袋で四百円、復活の薬で百二十九円で合計五百二十九円を失うことになった。


 「あちゃー、領収書を書いてもらうんだったな」


 失敗の照れ隠しに頭をかく父島。後悔後先に立たずとはこのこと。

 結局、この時に買った復活の薬の代金は自分のお小遣いから使う羽目になってしまった。


 やれやれ教師は辛いよ、と肩をすくめる。


 「それにしてもあいつら本当、戦うのが好きなんだな」


 店内でタバコも吸うにもいかず、父島はポッケに両手を入れていつもの風景を見つめるばかりであった。


 「相変わらずぬる~~い、縄跳びをしているな。ええっ!?鳶益よお!」


 その時、ホーマックの店内をミュージックが歌詞の入ってない「レットイットビー」から「蛍の光」に変わった。疑うまでもなくそれは男の放った闘気によるものである。

 男は黒ジャージを脱ぎ捨てる。その筋骨隆々とした背中には「グレイズシルト(イオク・クジャン専用機)」をおとこプライヤーで真っ二つにしている「ガンダムグシオンリベイクフルシティー」のタトゥーが彫られていた。


 「お前はっ!覇志吾はしごッ!!またの名を地峡最強のジャンパー、阿修羅!!!そして俺の親父ッ!!!」


 名和は思わず説明くさいセリフを叫んでしまった。

 なぜならば目の前にいる男は、かつて道頓堀の父親を再起不能にした男であり己の縄跳び欲の為に家族を犠牲にした張本人だからである。


 「それじゃあ行くぜえっ!第二ラウンドォッ!!」


 名和と道頓堀はジャンプするッ!果たして二人は阿修羅に勝てるのか!

 続きが気になる人は感想欄に「続編キボンヌ」とでも書いて送ろう!!


 



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