玄武編
今、世界から注目されている最高に暑いスポーツとは!?
それは縄跳びだった!!
これは縄跳びに命をかける爆熱なアスリートたちによる戦いの記録である!!刮目せよ、伝説は今この瞬間に生まれているのだ!!
レディィファイアァァーーーッッ!!!
ここは東京ドームの隣に作られた東京コロシアム。
今この東京コロシアムでは二人の競技選手による爆熱な縄跳びバトルが繰り広げられていた。
弾ける肉体ッ!飛び散る汗ッ!
これはもうただの縄跳びではない。己の存在意義をかけた戦争だった。競技が始まって以来、もう10分もの間、二人のジャンパーたちは地面に足をつけていなかった。
現時点における世界記録がフランスのジャンパー、ピエール・ド・ボンジュール選手の9分9秒である。今この時、既に世界記録は更新されていたのだ。そのうちの一人のアスリートの名前を紹介しよう。彼の名は道頓堀大武、大阪では名の知れたジャンパーだった。
「やるやないけ、坊主。せやけどな、これは真剣勝負や。ワイにもプライドちゅうもんがある。ゆえに負けられへんのや!」
道頓堀大武は地面に足をつけることなくさらに高く飛んだ。
そもそも縄跳びバトルとはどちらの滞空時間を競う戦いである。道頓堀は少しでも長く空中を飛ぶ為にこうして高度を稼いでいるのだ。後は出来るだけ素早く、力強く縄跳びを回して相手よりも一秒でも長く空中に浮いていなければならない。
「僕にだって負けられない理由がある。だから僕は誰よりも高く飛ぶんだ」
道頓堀の勢いに当てられたせいか、競走相手の少年はがらにもなく啖呵を切った。
彼こそは今大会の台風の目、破竹の勢いで強豪を破り決勝まで駒を進めてきた噂の新人である名和鳶益だった!
道頓堀は鳶益の返事を聞いてニヤリと笑った。
「そうや。それでもこそワイが生涯唯一のライバルと見込んだ男、名和鳶益くんや!ええよ、ワイはいつでもスタンバイ、オーケーや!」
その直後に道頓堀の貌から笑顔が消える。
彼曰く、スイッチを入れたのだ。
道頓堀は縄の回転速度をを上げて、さらに内部で自身もまた回転したのだ。
球となった道頓堀は砂ぼこりをまき散らしやがて放電現象まで引き起こす。
この技は道頓堀が準決勝で今大会の優勝候補の一角とされるイギリスのジャンパー、アンディ・ユニオンジャックを破ったものである。
「ノォォォォォーンンッッ!!!!アノ、ワザワァァァァーーーーッ!!!」
アンディ・ユニオンジャックは絶叫した。
彼の中であの時の悪夢が再生される。無理も無い。
彼は圧倒的なテクニックとスピードで道頓堀に差をつけていたはずが、途中からいとも容易く試合がひっくり返されてしまったのだから。雷光をまとうこの必殺技で。
「見さらせ!これがわいの隠し玉大阪名物たこ焼きサンダーボルトじゃいぃぃぃッ!!」
縄が高速回転することによって生み出されたプラズマ放電が速度を無限大にまで引き上げて、音速の壁を打ち破る!
さながら今の道頓堀大武は成形しながら焼かれる一個のたこ焼きだった!
しかし、ライバルの絶技を見ても名和鳶益の態度は冷静なものだった。
鳶益の中では、あの男ならこれくらいのことはやって見せるというある種の信頼があったからである。その時、蛍光色のプラズマ光を浴びた鳶益のグリップを握る手に力がこもった。
「流石です、道頓堀さん。僕も奥の手を出しますよ!」
名和鳶益はストン、と着地した。
世界記録を諦めたのか?
勝負を捨てたのか?
観衆は名和の動向を見守るしかなかった。
縄跳びバトルのルールに着地してはいけない、という規則は存在しない。誰の力も借りずに二時間飛び続けるのが唯一のルールだ。
しかし、制限時間内に何回飛ぶことが出来たのかという記録はスコアになって残るのだ。仮に二時間きっちり飛ぶことが出来たとしてもスコアが敵に劣れば、勝利を逃がしてしまう。ゆえに昨今のジャンパーは試合中に着地することを何よりも嫌う傾向があった。
さらに公式ルールでは、着地から三十秒経過すればジャンプ中断と見なされてしまう。
名和は己の手に持つロープのグリップを逆に持ち替える。
その姿を見たブラジルのジャンパー、シシマール・レオンハルトは思わず叫んでしまっだ。
あの姿こそは名和が地区大会の決勝戦で見せた最強スタイルではないか!忘れもしない。今から一か月ほど前までシシマールは留学生として名和鳶益と同じ私立亀甲縛高校に通学していたのだ。当時シシマールは正規の縄跳び部の部員ではなかった為に良きアドバイザーとして名和たちに協力していた。
シシマールは高校に入学してから競技縄跳びを始めた名和の面倒を見たことは今でも記憶に新しい。本来ならば大会に参加するほどの実力を持っていなかった名和が地区大会の団体戦に正規メンバーとして参戦したのは理由がある。
こともあろうか大会前日に亀甲縛高校の三年生エースジャンパー、細霧木谷別が何者かの襲撃によって全身骨折の重傷で入院してしまったのだ。
細霧は病室で自分の代わりに大会のメンバーとしてど素人の名和を指名した直後に全身サイボーグ手術を受けることになった。ちなみに今、応援席にいる「ロボっ子ビートン」みたいなやつが細霧だ。
地区大会でハイパージャンパーとして覚醒した名和は次々と競合チームを破り、ついに細霧を殺害一歩手前まで追い込んだ宿敵雷王学園と戦うことになる。
そして三対三の戦いで、一勝一敗という激闘の末に名和は雷王キャプテン浦見肉蔵と戦うことになる。
浦見はクレイモア対地地雷や火炎放射器などを使って名和を妨害するが、覚醒した名和にはどれも通用しなかった。そしえ、ついに浦見は隠された秘密兵器でを使かう決意をした。
「勝利を譲れ、底辺高校のクズどもが。お前らはおとなしく家でパワプロでもやってりゃあいいんだよ!広島で!!!」
暴言とともにユニフォームの上着を脱ぎ捨てる浦見。彼の鍛え抜かれた胸筋左側にはギザギザの外科手術痕が残されていたのである。
おそるべし、浦見肉蔵。
あろうことか彼は自分の心臓に地球破壊爆弾を仕掛けていたのだ。
「もしも俺様が試合で敗北すれば、爆弾は自動的に爆発する。俺様が夜なべしてこさえた地球破壊爆弾の威力をもってすれば、日本はおろかこの惑星に逃げ場などないのだ。どの道お前たちには全国大会に出場することは出来ぬのだ!さあ、泣き叫んで悔しがるがいい!うひゃーっひゃっひゃっひゃ!!」
それでは自分も死ぬことになるぞというツッコミはさておき浦見は残忍な笑みを浮かべながらどや顔で語った。たちまち会場はパニック状態となってしまった。
「何という卑劣な作戦。浦見さん、貴方はすでに悪魔に魂を売ってしまったのか。だが勝つことだけが全てというわけじゃない。縄跳びを愛する僕はいちジャンパーとして負けるわけにはいかないんだ!それにパワプロなら北海道日本ハムファイターズをやるべきなんだ!!!」
正義が悪に屈する道理は無い、と言わんばかりに試合に臨む名和。
「おのれ神の手先め。そもその俺がこんな身体になってしまったのは全部お前のせいだ。こうなったら地球の命運を賭けた最終戦争だ。聖戦士名和鳶益!!」
絶望(自業自得)と怒りに身をまかせ浦見もまた試合に挑んだ。
聖戦士対悪魔の使徒、世界の命運は一体どうなってしまうのか。チャンネルはそのままでお願いしたい。
「エル・エスカルゴ・アヒージョ……ッッ!!(ポルトガル語で「信じられない」という意味。レストランでこの言葉を使用するとエスカルゴの壺焼きとかきのアヒージョが出てくるかもしれないので要注意だ)」
普段は流ちょうな日本語を操るシシマールもこの時ばかりは母国語で叫ばずにはいられなかった。果たして自分にこれほど爆熱な縄跳びという競技に対する愛情があるのか。
名和のそれは初心者特有の青臭い意見ではない。周囲100kmは軽く吹き飛ばす核爆弾を使った脅しさえ名和鳶益にとっては彼の縄跳び愛の障害にすらならないと豪語しているのだ。
この時、シシマールは覚悟を決めた。
たとえ核爆弾の直撃を受けて炭クズになったとしてもこの戦いの結末を見守ろうと。近い将来、帰国してブラジル代表である自分のライバルになる男の勇姿を何としても見ておかなければならないのだ。
「行くぞ、浦見さん。これが僕の編み出した真空無限逆十字跳びだッッ!!!」
名和は持ち手の左右を逆に換えてジャンプした。もはや迷いは無い。この先は負けて悔しい思いをするか、勝って周囲百キロが黒焦げになるかのどちらかしかないのだ。
浦見もまた得意のダークジェノサイドフロムディスティニーで跳んだ。音速に近い速度でジャンプしてソニックブームを引き起こし、敵を切り裂く危険極まりない技である。
悲しいかな浦見にとって縄跳びとは他者を圧倒的な実力で凌駕する手段でしかなかったのだ。それでも信じるべき明日はある。
「心悪しき者どもよ、今すぐ立ち去るがいい!色即是空、無、天、幻、破、光、聖ッッ!!!」
名和がジャンプをすると背中から光がさした。そのまま名和は背中から左右合わせて十枚の翼を生やし、空中で縄跳びを続ける。
「あれは伝説のゴッドフェニックス形態ッ!名和君、君はやはり縄跳び聖人の生まれ変わりだったのか!!」
その後、名和の放つ浄化の光によって邪心を打ち砕かれた浦見は友情に目覚め正気を取り戻したという。ちなみに今、細霧と一緒に応援している人の好さそうな糸目の男が浦見だ。デッサン段階からして別人だが、この業界ではよくあることなので許してほしい。




