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Jailbreak  作者: 宮沢弘
第一章: 55年め
2/15

1−2: 限界2

 その年の十月、この年の五回めの放送がされた。四回めの放送は十五分の特集枠だった。この五回めの放送では、これまでは触れられていなかったことがらがあった。九十分の特番枠であり、三回めの放送と同じように七十分のドキュメントに続き、スタジオに映像が戻った。並んでいる面々は三回めのときと同じだった。ただ、工学部教授という席札が置かれた男が一人、文学部教授と席札が置かれた男が一人増えていた。

「このように、新興国、途上国における資源コストが問題になっているようです」

 司会の男は並んでいる何人かに目を移した。

「それが経済バランスというものではないですか?」

 経済学部教授との席札が置かれた男が応えた。

「そうです。それに……」

 環境問題評論家との席札が置かれた女性が応えた。

「仮に途上国などが経済発展したとしましょう。いったい環境問題はどうなりますか?」

「ちょっと待ってくれませんか?」

 工学部教授との席札が置かれた男性が声を挙げた。

「それなら、あなたがたは途上国、あるいは場合によっては未開国はそのままの状態でいろということですか?」

 政治問題評論家との席札が置かれた男性が手を挙げた。

「誰もそんなことは言っていませんよ。先程の石油換算トンの量を確認しましょう。またエネルギー以外の資源も、それに比例、ないしは相関しているとしましょう」

 そう言い、机の影からプロップを取り出した。

「先程のドキュメントにもありましたが、チュウカは三十億トンのエネルギーを消費しています。石炭が主要なものであるところは問題でしょう。ですが、数十年でここまで成長したのです。おわかりですか?」

「そのエネルギー源の割合も変化が見られ、再生可能エネルギーへの移行の傾向が見られます」

 環境問題評論家の女性が言葉を続けた。

「そういうことを問題にしているんじゃない。ちょっと待ってくれ。さっきのドキュメントからのメモがある」

 そう言い、工学部教授は手帳を見ながら、机に置かれたプロップにサインペンでなにごとかを書き始めた。

「さっきのドキュメントは、私が用意してきたデータと大きな齟齬はないようだが」

 そう言い、プロップを立てた。

「いいか? インドゥは7億トンだ。それもチュウカもインドゥも地域格差が大きい。地域格差を小さくするだけで、あとどれだけのエネルギーと資源が必要になる?」

 他の列席者は苦笑いを浮かべていた。

「それに、いいか、アベリカ、ジッポン、ヨーロッバあたりの先進26ヶ国のエネルギー使用量は56億トンだ。全体の44%をしめている」

「それが?」

 環境問題評論家が訊ねた。

「あんたがたはそれがどういうことか本当にわからないのか?」

「先生、今はそういう議論の場では……」

 そう言った経済学部教授の声を、司会が遮った。

「ひとまずお聞きしましょう」

「ありがとう」

 そう応え、工学部教授は別のプロップに書き始めた。

「いいか? この数を減らすには、全体の量を減らすしかない。国単位で195ヶ国あるとしよう。それをならしてみよう。すると一国あたり6,700万トンだ。ジッポンでさえ現在の15%の換算トンだ。どうやって、それでやっていけると言えるんだ? ぜひ教えて欲しいね」

 そこで工学部教授は一同を見渡した。

「ですから、再生可能エネルギーへの移行で可能でしょう?」

 環境問題評論家の女性が応えた。

「再生可能エネルギーか。それがどこまでの範囲を指しているのかは知らないが。現状では何%だ? 5%? その程度だろう。どういう根拠でやっていけると言えるんだ? ビートナム程度の換算トンが必要なんだぞ。5%? それじゃぁベラルースやバンガリー程度の換算トンだ」

「ベラルースやバンガリーは国としてやっていけているじゃありませんか。先生、さすがに論旨がずれていますよ」

 経済学部教授がようやく遮った。

「現在の経済規模は維持できないとしても、おおよその国別の経済規模の比率は維持すればいいじゃないですか」

「それが問題だと言っているのがわからないのか!? 経済発展をしたい。そう願う国や人々に、現状で満足しろと言うのか? それとも地球規模で各国6,700万トンに押さえろと言うのか? どうやってそれができる?」

「先生。先生は何を優先事項と考えているのでしょうか?」

 文学部教授がやっと口を開いた。

「人間、あるいは人文と、科学技術、どちらが重要だとお考えでしょうか?」

「どちらかではない。そんなことはわかるでしょう? 科学技術を前提としてこの国、あるいはそれ以外の国も成り立っているんだ」

「つまり、科学技術を優先し、人々をないがしろにしてもかまわないと?」

「そうじゃない。科学技術をないがしろにすることが、人々をないがしろにすることなると言っているんだ」

「失礼ですが、それは自己責任というものではありませんか?」

 環境問題評論家の女性が言った。

「人類史2,000年の間に一定の発展を遂げられなかった。それだけでしょう。もし可能なら先進国や余裕のある国からの援助をすればいいでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。いま『人類史2,000年』と言いましたか? 『人類史2,000年』と。それじゃぁイジプトや、スミルは……」

「ちょっと失礼」

 司会が割り込んできた。

「今、速報が入って来ました。先進20ヶ国と新興国が、途上国への経済支援を行なうことが決まったようです」

 司会は環境問題評論家の女性に顔を向けた。

「先生のご提案どおりですね」

 環境問題評論家の女性は笑みを浮かべた。


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