表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Jailbreak  作者: 宮沢弘
第二章: 揺りかご
10/15

2−5: 揺りかご5

 ディスプレイの半分の中の鏡には、ジャケットを着た男性が映っていた。

「あー、あー。おい、これ繋がってるのか? 繋がったって反応は聞こえたけどな」

 その男性は言った。

「映ってるぞ」

 ディスプレイのもう半分には工学部教授が映り、そう答えた。

「ジッポンだと、こんなのがもう普及してるのか?」

 鏡の中の男性は襟をなおしながら言った。

「普及とまではいかないな。コンセプト・モデルは2,000年ごろからあったんだが。憶えてないか?」

「うーん。あったかな。ちょっとまてよ。技術系というよりも服飾系が先導してたやつか?」

「あー。たぶんそれだな」

「なぁ、これ、そっちの映像は見えないのか?」

「君が買ったモデルにもよるが。袖のところをタップしてみろよ」

 鏡の中の男性は左腕の袖を右手でタップした。

「来たぞ。あのコンセプト・モデルはさ、こう配線っぽい見た目があったように思うけど、これは違うな」

「服飾系としてのデザインやインパクトも考えてのコンセプト・モデルだったんだろうな」

「体温で発電して、この見た目と機能か。たいしたもんだ」

「知ってる奴は知ってるからな。そこだけ気をつけてくれ」

「わかった。それにしても、これの製造や販売元は大儲けだろ。お前が何千着も買わせたんだからな」

「何千じゃ大したこともないだろが、そっちは知ったこっちゃないね。ただTV局がいろいろやるだろうからな。その映像が欲しいだけだ」


   * * * *


 九月のニュース番組が放送された一週間後。一本の動画がネットにアップロードされた。その右下にはタイムコードが表示されていた。それは五月のものだった。

 数人からなるクルーがおり、一人がTVカメラを持っていた。

 映像はそのクルーに近付いた。あと二三歩でクルーの輪に入れるかというところで、クルーの一人が前に立った。

 映像は一歩引いた。すると前に立ったクルーも横に引いた。

「環境対策で移住した方でよろしいですね?」

「そうだよ」

 中央アイジア系と思われる男性がヨーロッバ的な街の中、道に置かれた椅子に座っていた。その前にはテーブルも置かれ、有名コーヒーチェーンのロゴが入った紙カップが乗せられていた。

「移住についての様子を伺いたいのですが」

 クルーの一人が言った。男性はうなずいた。

「では、条約、法律にもとづいて充分な補償を受け、充分に理解しての移住だったんですね?」

「生活水準換算で500万円を充分な補償と呼ぶならね」

 男性は答えた。

「えーと、すみませんが、もう一度」

 クルーの一人はそこで一旦言葉を切った。

「充分な補償を受け、充分に理解しての移住だったんですね?」

「500万円で、『受け取ったんだから出ていけ』ってのが、それに当てはまるならね」

 男性は答えた。

「もう一度お願いします」

 クルーの一人はそう言い、またそこで一旦言葉を切った。

「それでは、補償を受け取り、理解しての移住だったのですね?」

「あぁ、そうだよ。誰に聞いたっていい。受け取ったかって? あぁ、受け取ったよ。受け取らされたよ。それで、『受け取ったんだから出ていけ』だ。」

 訊ねていたクルーは、他のクルーを見た。その場にいたクルーはうなずいていた。

 映像はそこで切り替わっていた。鏡に映った男性がいた。タイムコードは、先の映像の十分後を示していた。背景は、おそらくトイレのものだった。

「うまく撮れてるかな。さっきぶつかったのがこの記録だ。これで役に立つかな? まぁこんなものだろうとは思っていたがね。クルーがうなずいていたってことは、たぶんうまく編集できそうだってことだろう」

 鏡に映った男性は一度深呼吸をした。

「こちらでの状況だがね。まぁたしかにうまくやっている人もいるよ。だけどね、難民キャンプやゲットーとは言わないが、一時的措置としてまとめられているな。そこの様子はあまり出てこないな。そっちでは聞いたことがあるか? さっきのクルーの様子を考えると、そっちでもそういうニュースはないんだろうな。大義名分は便利なものだよな。正直俺たちには理解できない。お前も理解できないだろ? だからこんな服を買わせたんだ。何着買わせた? 何千着か? 正しさってのはなんだろうな。俺たちにとっては、それははっきりしている。検証できるかどうかだ。だが、世の中ではどうなんだろうな?」

 男性はもう一度深呼吸をした。

「お前が言ってた、揺りかごか牢獄か。俺たちにとっては、それもはっきりしている。ここから出られない。人間社会から、地球から、太陽系から。ここは牢獄だよ。映画にあったな。前作の設定をぶっ壊して地球は流刑地だってしたやつが。まぁ流刑地じゃぁないが。牢獄ではある。まぁ、こんなことを語ってもしょうがない。今度の学会に来るだろ? その時はおごれよ」

 そう言って、男性は笑った。


   * * * *


 それからさらに一週間の間に、数百本の、同様の動画が工学部教授の名義でネットにアップロードされた。



補: 服飾系について:

http://wired.jp/2004/07/27/%E7%8B%AC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%80%81%E3%80%8C%E7%9D%80%E3%82%8B%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%80%8D%E3%81%AE/


http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1505/31/news009.html



補: 映画について:

「前作の設定をぶっ壊して地球は流刑地だってしたやつが。」: 「ハイランダー2」を一応想定しています。流刑地というだけであれば、他にもありますが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ