1−1: 限界1
それはかなりの昔から放送されていた。
長い間、それは三年に一度。だが、翌日の世間話になって終りだった。また長い間は二年に一度。それでも、翌日の世間話になって終りだった。そして最近は年に一度。しかし、翌日の世間話になって終りだった。そういう頻度だったし、その程度ことだった。
今年に入り、五月の時点で三回めの放送がなされた。今年一回めの放送は、それまでと同じようなものだった。やはり、翌日の世間話になって終りだった。二回めの放送は、四十五分の枠がとられた。だが、翌日の世間話になって終りだった。そしてこの三回めでは九十分の枠がとられ、放送されていた。
七十分のドキュメントに続き、何人かが並んでいる最初の映像に戻った。
「このように、資源によってはあと十年で採掘が現実的にはできなくなるそうです。なぜ、このように重要なことがらがこれまで発表されなかったのでしょうか?」
カメラが一旦引き、並んでいる人々を映した。
司会の男性は、横に並んでいる有識者に問いかけていた。
「こちらをご覧ください」
カメラが別の一人を映し出した。有識者の一人、経済学部教授と書かれた席札が前に置かれた男性だった。男は机の下からプロップを取り出した。
「この二、三年、資源採掘コストはかなりの上昇を見せています。」
その男はまた別のプロップを取り出した。
「こちらは、リサイクルの分を除いた、物価指標の上昇です。こちらは数年前から上昇傾向を見せています」
カメラはまた司会に戻った。
「そうすると、公開せざるをえない状況になったということでしょうか?」
カメラは経済学部教授を映し出した。
「そういうことでしょうね」
「すると、この傾向はこれからも続くということでしょうか?」
「おそらくそうでしょう」
経済学部教授が答えるのを映したのに続き、カメラが別の女性を映した。環境問題評論家と席札にはあった。
「しかし、二酸化炭素排出による温暖化への対策として、私たちはすでに再生可能エネルギーと資源のリサイクルの技術を発達させています」
「と言うと?」
司会の声がうながした。
「先ほどの方が見せたように、新たに採掘する資源に必要なコストは上昇しても、リサイクルによって実際の物価には影響は見られていません」
「それに……」
その声の主をカメラが映した。
「原油の採掘についても、二十年前からごく一部で言われてはいましたが……」
その男の席札には政治問題評論家とあった。
「技術革新、新しい油田の発見などによって、結局今までは、すくなくとも大きな問題になってはいません」
「ということは、いたずらな心配は必要ないということでしょうか?」
司会の声に合わせカメラが引いた。
出演している誰もがうなずいていた。
「えぇ。心配する必要はありません」
政治問題評論家が答えた。
「そうですね、仮に状況が悪化したとしても……」
経済学部教授が続けた。
「それは採掘可能なものは採掘したということです」
「つまり?」
「つまり、地下にあったものはすでに地上にあるということです……」
「というと?」
「環境問題の方がおっしゃったように、リサイクルでやっていけるでしょう。そうですね、江戸時代のように」
「なるほど……」
司会が答えた。
「リサイクルと再生可能エネルギー。そちらがあるのですから大丈夫だということですね」
「えぇ。人間の英知で乗り越えられる問題です」
環境問題評論家の言葉に、出演している誰もが再びうなずいていた。
そして、それはやはり翌日の世間話になって終りだった。