ライバル令嬢の前世に気付いたので、ここは協力しなければヤバいと思い
2016/05/07:分かりにくかった部分を少し追記。話の流れは変わりません。
初めまして。
現在の私は、マリア・ホワイトという「あなた色に染めて!」な名前、平凡とか言いながらなかなか高スペックな見た目、平民なのに魔力の才能あふれた少女。
どう見てもヒロインですありがとうございました。
前世が真理という名前だったから、似た名前にしといたよ、ってか?
やかましいわ!
もっとほかに、マリーとかマリアンヌとかアンナマリーとかいろいろあったでしょうが。
マリアって、そもそも略さないからマリにはならねぇよ。
気づいてしばらくやさぐれた私は悪くない。
……おかしい、私は独身ながら人生を謳歌して、還暦も超えたしそこそこ寿命っぽい年齢になっていたはず。
兄は美人のお嫁さんを奇跡的にゲットして、3人の子どもにめぐまれ、こないだ孫も生まれていた。
結婚する前に亡くなった母さんと父さんに、子どもたちを見せたかったと何度も言っていたが、私は結婚しなかったから子どもを産まなかったことは少し心残りだった。
結婚しなかった理由?
単純に、巡り会わなかっただけだよ。
私と結婚しようという強者に。
多分、二次元にのめり込んでいたのが原因ではない。
だって同じく二次元スキーだった友人は結婚していたし、私にも恋人がいた経験はあるのだ。
少ないけどね!
甥や姪が産まれてからは、彼らが可愛すぎて、自分にかまけていなかったのも確かだけど……。
ええ、兄家族の家が実家でしたさ。
近かったからしょっちゅう入り浸っていたし、甥っ子が「おばちゃんとけっこんする!」て言ってくれたときには涙が出そうなくらい嬉しかった。
そうか、甥っ子は一応プロポーズしてくれてたのか……結婚はできないけどね。
とにかく、私はマリアになった。
精神が若返ったように感じるのは、身体の年齢に心が引っ張られているからだと思う。
最初は生まれ変わったらしいことだけ分かっていたが、3歳のとき今世の母が離婚し、旧姓のホワイトに戻って疑問に思った。
自分に魔力があると分かったのは、洗礼と言われる教会での行事のこと。
白いワンピースを着て、教会の大きな石板に向かって手を伸ばしたらびっくりするほど光った。
その光景が、見覚えのあるスチルと重なった。
若い頃ハマった乙女ゲームの1つだ。
お話のように気絶したりはしなかった。
すでに前世からの自我があったからかもしれない。
魔法学園から入学通知が来たときには、どうやって逃れようかと考えた。
私は、ゲームはゲームだからいいのであって、二次元と三次元は別物だと思っている。
それに、もし強制力なんかがあって、勝手に話が進んだら怖い。
だいたい、元が庶民なんだから、このまま庶民として生きる方が楽に決まっている。
めんどくさい政治とか経済とかは、貴族の偉い人たちが適当にまわしてくれたらいいのだ。
搾取?
いいじゃん、そのへんの責任も全部背負ってくれるんだから。
知らぬ存ぜぬで、気楽に生きる場だけ与えられるなら安いものだと私は思う。
あぁ、楽に生きたい。
けれど、入学を拒否することは法律で禁止されていた。
国外に逃げようにも、現世で十二分に世話になっている母や親戚がいるし、理由を説明できないし、そもそも先立つもの(お金)もない。
ないないづくしで、諦めて入学するしかなかった。
幸いだったのは、入学に際して奨学金か適応されたことか。
制服から寮の費用まで、全部国持ち。
ちょっとは頭良くてよかったわ。
そうして入学したら、ゲームと同じような人物がたくさんいた。
攻略対象といわれるイケメンが数人(細かくは覚えていない)、あと印象的だったライバルのご令嬢。
正直に言おう、ライバル令嬢めっちゃ美人。
頭も良さそうな冷静な受け答え、甘く涼やかな声、妖精のような美しい姿。
これでヒロインに乗り換える王子とか、きっと目が腐ってたんだね。
どうやら、私が心配した強制力はなさそうだった。
イベントか起きる場所にいても、攻略対象に出会っても、私が自分で言葉を選べたし、自分の意思で動くことがだきた。
これなら安心だ。
大丈夫、令嬢の邪魔はしないし、ほかの攻略対象にも接触しない。
……はずだったのだが。
「まじか」
私は聞いてしまった。
令嬢の小さな独り言を。
そこは女性用の化粧室で、まだ授業前だったからきっと油断したんだろう。
私は化粧室に入ろうとして、ハンカチがポケットにあったか確かめるため入口の手前で立ち止まったところだった。
要するに、そのつもりはなかったが陰で立ち聞きしてしまった。
彼女は言った。
「ユキくん、まだ会えないのかな」
聞き覚えのある名前だった。
いや、知らないはずがない名前だ。
しかもあの、令嬢が人差し指で顎を支えながら首を傾げるクセ。
見覚えがありすぎる。
あの令嬢は、母さんだ!!
同時期に産まれてるとか時系列がおかしいけど、確実に母さんだ。
そういえば、ちょっとしたしぐさに誰かを思い出すな、と感じていたんだった。
個人的には40年ほどぶりなんだから、気付かなかった私に非はない、と思う。
直接顔を合わせて話したことなんてなかったし、そもそも姿が全然違うんだもの。
あのセリフからするに、まだ父さんと巡りあっていない、と言ったわけだ。
ヤバい。
あの父さんが、母さんを探さないわけがない。
しかも、今はまだ王子の婚約者じゃなかったっけ?
うわ、すっごくヤバい。
私の父さんは、私の母さんを愛している。
そりゃもう、尋常じゃなく執着している。
母さん本意に幸せにしようとしているから、一見ただの酷い愛妻家に見えるだけだ。
そんな両親が、私は大好きだった。
幸せそうな2人を見て育ったから、「母さんみたいなお嫁さんになる」、というのが私の子どもの頃の夢だった。
あ、だから結婚できなかったのか。
あんな風に惚れ込まれるなんてこと、そうそうないし、私もそこまで相手を好きになったことなんてなかった。
……いやいや、私が前世結婚できなかった原因なんていいのよ。
このままだと、父さんが犯罪者になってしまう。
絶対、父さんが王子を消すよね。
父さんと母さんのことだから、一緒に居られるなら国から追われようと平気だろうけど、王子が不憫すぎる。
どうする?
って、選択肢はほぼない。
私ができること。
母さんが解放されること。
その後も母さんが婚約させられないこと。
想定する結果をもたらすのは、私がヒロインとして王子を落として、王子から婚約破棄させる方法だろう。
あぁ、めんどくさい。
でも、多分それが一番平和的解決だ。
他力本願的に、ほかのご令嬢に期待はできない。
だって、ヒエラルキーはできあがっている。
これに体当たりできるのは、知識のない平民だけだ。
親孝行できなかったのも心残りだったんだ、この機会に孝行しようか。
とりあえず、王子ルートでのイベントとか、どんな回答が正解だったか思い出さないと。
できるだけ思い出した。
王子に信頼してもらうためにも、王子の周りにいる友人らしいイケメンたちとも友人になった。
甥っこだと思えば親しくなるのは簡単だった。
そして、シナリオをなぞりつつ、王子の反応を見つつ攻略?していたら、落ちた。
王子、どうやらカリーシャ様(母さんの今世の名前だ)にコンプレックスを持っていたらしい。
冷静で勉強熱心で綺麗で立ち振舞いも言葉遣いも完璧で。
あと、どうやら国王になりたくないらしい。
弟が優秀だから、譲って臣下に、とか思うも、カリーシャ様がいるからそれもできない。
だって完璧な王妃様になるだろうと、皆が認めているから。
その婚約者が、国王にならないなんてあり得ない。
声をあげようにも、周りが許してくれそうにない。
強く言う勇気もない。
なんというヘタレだ。
そして若干サボる方に流されがちなダメンズだ。
こいつ、母さんに婚約破棄言い渡したら、燃え尽きて引きこもるんじゃないか?
私が入れ代わりに婚約するなら、それは困る。
きちんと働いてもらわないと。
ヒモはいらない。
とりあえずは、モチベーションを下げずに婚約破棄を決行して、私が婚約者になって頑張るも、自分が王妃なんて無理です……!的な方向にもっていって、パートナーのために国王の座を譲るという理由を与えれば、めでたしめでたしな結果にもっていけるかな?
まずは婚約破棄か。
破棄できた。
気付かなかったんだが、カリーシャ様は私に嫌味を言っていたらしい。
普通に情報だとしか思っていなかった。
貴族のありようとか平民の立ち位置とか。
あとはもっとお勉強なさいませ、みたいな助言?だったような。
言われた内容なんかよりも、美人だなおい、とかそういうことしか考えていなかった。
王子は嫌味がキツかっただろうと労ってくれたが、残念、思い過ごしだ。
言い方が酷い?
あの見た目にあの声だったら、言葉なんて勝手に美しく変換されるよ。
カリーシャ様マジ天使。
それに母さん、基本的に親切だからなぁ。
父さんが誤解して嫉妬するようなことがなかったのは、ひとえに母さんが父さん一番だったからだ。
「そうですね。国王主催のパーティーにおける殿下のパートナーがいなくなりますが、そこは問題ありません」
婚約破棄(の言い渡し)を確認して、卒業式の後のパーティーの心配までするとは、ユーリくんできる部下だな。
だというのに。
「パートナーはとりあえずなしか……あぁ、面倒だな」
おい、面倒だと?
もっと色々と心配しろよ。
自分の立場とかカリーシャ様の評判とか私の今後とか国民の反応とか国王への言い訳とかさ。
この王子の再教育、なかなか大変そうだ。
仕事が増えるじゃないかめんどくさいなぁ。
「アーリュ様……」
「大丈夫だ、余計な縁談を持ってこようとしたら、すべて断る。私にはマリアがいるのだから」
は?そっちじゃねぇよ。
しかしここではつっこめない。
よし、教育的指導を楽しみにしておけ。
とにかくあとは、国王や重役に認めてもらうのが大変かも。
だってあのカリーシャ様の代わりに選んだ女がヘボかったら話にならない。
私自身のお勉強は、これから本気を出そうじゃないか。
今まで?
ちょっとめんどくさくてね、奨学金がもらえる程度には頑張って、基本的には手を抜いていた。
魔力はヒロインらしく極上だから、そういう意味では心配ないけど。
問題は政治的なこと。
そもそも婚約者が代わるなんて醜聞だから、当面は内密にするべきだ。
少なくとも私がまともにマナーを身に付けてからでないと。
そういう態度が良かったのか、王子が必死にワガママを言ったのか、国王も王妃も重役達も、ギリギリ及第点くらいの感じで婚約者のすげ替えを認めてくれた。
メイドさんとかが、自分たちを気遣ってくれるし親しみやすい、みたいな評価をくれたのも後押しになったらしい。
女性には優しくが基本だし、腰は低いよ、小心者の庶民ですからね。
で、私がマナーやら政治やら経済やらを学ぶのに必死になっていたら、王子が不穏な動きをしだした。
そういえば、しばらくまともに会って話してなかったな。
構ってちゃんか。
そうだった、構ってちゃんだった。
落とす方法も、基本的には構い倒すんだったっけ。
何があったかというと、まだ正式な発表をしていないのをいいことに、私を側妃にしてカリーシャ様を正妃にしたら、と王子に入れ知恵をした輩がいたようだ。
そうすれば、めんどくさいとこはカリーシャ様が引き受けて、思う存分私とイチャつける、と考えたらしい。
だめだめ、そんなことしたら(王子が)父さんに殺される!
私は、頑張ったよって名乗り出れば許してもらえると思うけどね。
仮にも前世の娘だし。
なんとか王子と話して、それはやめさせた。
危ない危ない。
これからは、少し王子の首根っこを押さえるのも必要かも。
やりすぎた。
「男性は、追いかけさせるものよ」とは母さんの名言だ。
ほっといてもあの父さんが追いかけないはずがないものね。
とはいえ、普通はあんまり放置したら離れるだろう。
しかしだな、私はちょっと王子を締め付けすぎた。
お小言を増やしてダメダメ言いすぎた。
具体的には、勉強しろとか、身体関係は全面おあずけとか、そもそもこっちも勉強しているから会えるのは週1回がいいところだとか、派手に遊ぶなとか。
仕方ないよね、品行方正に王子様して周りに認めてもらうしかないもの。
そしたら暴走しそうになった。
放置に耐えられないから、やっぱりカリーシャ様を連れてくるとかあり得ない。
しかも計画からするに無理やり。
こうなったら寝込みを襲って既成事実を作り、私との婚礼を無理やり進めたらとりあえず収まるか、とか考えてたら解決した。
父さんぐっじょぶ。
てか遅いよ。
どうせ母さんを完璧に迎えるための準備に時間をかけていたんだろうけど。
「では、我々はこれで」
「う、うむ」
父さんと母さんが一緒に登城して話して帰って行った。
私は、どこかから広がった噂のおかげで、正式な婚約者としてお披露目されたので、王子の隣に立っていた。
国王の呼び出しに応じた父さんは、ついでに母さんとの結婚を報告しにきた。
そう、許可じゃない、報告だ。
いいよね、でないと国潰しちゃうよ?って副音声が聞こえたのは私だけじゃないはず。
あの父さんと相対するとこんな感じになるのね。
見慣れてるけど、あれはないわー。
国王は真っ青だった。
王子には、父さんが何か魔法をかけていたらしく、立っているだけで必死な様子で。
あれは八つ当たりに違いない。
御愁傷様。
王子は私をマリと呼ぶ。
私が頼んだからだが、やはりしっくりくる。
「マリ、俺は国王になりたくない」
王子がやっと本音を口にした。
今までは、王子の愚痴から、国王になりたくないらしいと容易に推察できただけだ。
私の教育が一段落して、毎日構ってあげたのも功をそうしたようだ。
午前と午後のお茶を一緒にできるし、日によっては食事も一緒だからね。
よしよし、父さんのおかげで予定が狂ったけど、自分で言い出せたんだからそれで良いだろう。
「そう?なら、きちんと手続きして臣下に下げてもらおうよ」
「いいのか?」
「だって、私はもともと貴族じゃないし、王妃の器でもないもの」
めんどくさいし。
「いや、マリは充分に王妃を務められるぞ。教育係たちも口を揃えていた。カリーシャとは違うが、劣ってはいないと」
「だったら、あなたが国王になるの?」
「嫌だ、なりたくない。なれないだけじゃなくて、なりたくないんだ。マリが王妃を望むなら、……マリとの婚約を、弟に、代わってもらう」
「なんで?」
「なんでって……だってマリ、俺は国王にならないんだ」
「そうね、だから?」
「マリは王妃になりたいだろう?」
「いいえ?」
「え?」
今まで何を見てきたんだ、この王子は。
「私はあなたがいいのよ?」
「マリ……」
「ヘタレで、辛いことは嫌いで、すぐサボろうとして、流されやすくて、でも本当はそんな自分のことを一番嫌っているアーリュがいいの。自分の弱さを直視できるアーリュがいいの。本当は誰よりも相手のことを思っているのに、行動にできなくて後悔しているアーリュがいいの。しんどいことからは逃げようとするけど、それで犠牲になる人がいると知ったら逃げずに頑張れるアーリュがいいの。」
私の言葉に、王子の表情がコロコロ変わる。
「ねぇ、私のことが大好きなのに、どうして手放そうとできるの?」
そう、この王子は驚くほど私のことが好きだ。
単に話が合って、じっくり聞いてあげて、後でフォローするけど否定もして、見た目は良いのに言葉はわりと辛辣な私に、なぜか執着している。
父さんが母さんに執着するほどではないと思うけれど。
本心をさらしていて、嘘をついていないと感じるらしい。
確かに、色々とめんどくさいから、嘘はつかない派だ。
あと、実は私が初恋らしい。
遅い初恋って執着しやすいってどこかで聞いた。
私の絵姿で夜の御用を済ましているのも知っている。
……下品でごめんね、分からない人は気にしないでいいことです。
とにかく、こいつは私にぞっこんだ。
前世では出会えなかった、私に結婚を申し込んできた人だ。
そして、私がうっかり惚れ込んでしまった人だ。
なんでだろう、どちらかというと私は強い人がタイプだったと思うのだが。
話を聞いているうちに?
長いこと一緒にいるうちに?
必死にしがみついてくるのにほだされて?
でも、情が移ったのとは訳が違う。
それくらい分かる。
原因は謎だが、ミイラ取りがミイラになったのは確かだ。
「マリは、次期国王に惚れたんだと思っていた……」
王子がそんなことを言った。
だから、私が王妃になれるように、あんなに泣きそうな顔をしながら弟と婚約しなおせばいいと言ったのか。
どんだけ私のこと好きなのこいつ。
そこで頑張って国王にならないのが、この王子の弱さと賢さだ。
実際、弟さんの方が国王に向いていると私も思う。
王子では、いざというとき非情になりきれないだろう。
良く言えば優しい、悪く言えば優柔不断。
大きな決断はできないけれど、特権階級ではあった王子。
使えるものは何でも使え、と教え込まれてきたから、他人を使うことは当たり前だと思っていたらしい。
だからカリーシャ様を正妃にして、とか考えられたのね。
だが、その考えはぶち壊してやった。
他人が自分のために動いてくれることは当たり前じゃない、と。
私の平民生活を事細かに教えてあげた。
話を聞いて興味を持ったから、お忍びで実家に行って色々見せた。
カルチャーショックがすごかった。
王子も、私の現世の母も。
現世の母は、私と王子のことは、驚いていたが応援してくれている。
母親ってすごいね。
そうやって国民の大多数のことを理解したくらいからかな、王子が今まで押し付けられて教わってきたことに疑問を持ったらしい。
王子なんだから許されるとか、王子なんだから我慢するとかそういうの。
そして、彼が自分で考えた結果がコレ。
私のこと好きでずっと見てるんだろうに、なんで私の気持ちに気付かないんだ。
めんどくさがりな私が必死に頑張ってこれたのは、王妃という地位権力のためじゃないよ。
「全部、アーリュのためよ。だってアーリュが好きなんだもの」
「そ、そうか……マリ、俺もマリが好きだ。誰よりも好きだ。だから幸せになってほしいんだ。それが俺と一緒にいないことなら、俺は、俺は……」
とうとう泣き出した。
泣くなよ、高い服が汚れるでしょ?
ハンカチを差し出してよしよしした。
そのまま押し倒そうとしてきたけど、腕を捻りあげた。
独り暮らしが長かったものでね、自衛のために古武術をたしなんでいたのさ。
そういえば、それも次期王妃として評価された要因だったっけ。
国王の身を守る盾が多いのはいいことだとかなんとか。
「マリ、酷い」
よれよれの王子が言った。
「酷くないわよ。醜聞を阻止したんだから感謝してくれてもいいのよ」
私はドレスを整えた。
「うぅ、早く結婚したい」
「ならまずは、王太子の座を譲るところからね」
「やっぱり、そっちが先か」
「当たり前でしょう。私はちゃんとアーリュを待つから大丈夫」
「俺は嫌だ。できるだけ急ぐ」
父さんが国王に結論を出させていたとはいえ、手続きやらなんやら、本当は時間がかかるはずだった。
が、非常にスピーディーに話が進み、1週間で話がまとまった。
この王子、もしかして初めて本気出したんじゃないか?
「では、アーリュは王太子の座を降り、第2王子のラーンを王太子とする。アーリュには、公爵の地位を与えて国王領の一部を与える。マリアはそのまま、アーリュと婚姻せよ」
「はっ」
王子が臣下の礼をとり、私も隣でそれにならった。
これまでの教育も、公爵の妻となれば役に立つし、良かったのかな。
どうにか終えて、王子がほっとしたようにため息をついた。
第2王子のラーン様は、複雑な表情だった。
彼、どうやらお兄ちゃんを神聖視?していたらしい。
10歳も離れていたら、できることが多いのは当たり前だ。
強く生きるのだよ、少年。
2年後、私は義姉を産んだ。
ファンタジーだ。
私や王子に兄はいない。
あんまり賢いからずばっと聞いてみたら、前世の兄と結婚した奇特な義姉の凛だった。
モリーンという名はアーリュが考えた。
この世界の強制力は、名前に終始しているらしい。
そして、きっとどこかで兄が産まれているに違いない。
兄と義姉も随分なラブラブカップルだったからな。
2人目に産んだのも女の子で、前世とは関係のない、普通の子どもだった。
モリーンと一緒に可愛がり倒している。
さすがに、義姉を子どもとして可愛がることはできなかったからね。
モリーンは保護対象でありながら同士のような関係だ。
外から見たら、友達親子みたいなものかな?
どうにか母さんたちに連絡を取って、私のことを打ち明けたのはその後。
父さんと母さんの蜜月期が年単位だと踏んで、黙っていて正解だった。
母さんがすぐに私のところへ来たがったから。
先に知らせていたら、父さんに恨まれていたに違いない。
そして再会し、兄がまた父さんと母さんの子どもとして産まれたと知って、ちょっと嫉妬したのは秘密だ。
連載を書いていたはずが思わず……。
蛇足の蛇足ですみません。
読了ありがとうございました。