クラスメイトの正体
上上手取は、朝陽のあたる街角 が舞台で『植木鉢』が出てくる告白する話を3500文字以内で書いてみましょう。持ち時間は一時間。
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朝陽の当たる公園で俺は流行りの歌を口ずさむ。今日は日曜日。学校にいかなくてすむ素晴らしい日だ。休みだというのに珍しく早起きした俺は愛犬の散歩を妹に代わってもらった。
トットユー トットユー フィレオスブリヤ~♪
ところどころ思い出せない歌詞を強引に口にしながら動きまわる愛犬のリードを引く。こいつの名前は締太郎。我が妹ながらセンスが無いというかなんというか……
公園を抜けると街角に出る。日曜の朝だというのに結構な人が行き交っている。ふと視線を建物のポスターに合わせれば今日は小規模ながらアイドルのコンサートイベントがあるらしい。アイドルの名前は蓮菜夕梨花。俺と同年代くらいの可愛らしい娘だ。
なんでもこの街出身でその縁もあって今回、新曲の初お披露目をするらしい。
「あ、靖原くん」
ポスターを眺めていると不意に声をかけられた。声をかけたのはクラスメイトの粕川友梨佳。おや、なにげにポスターのアイドルと名前の読みが同じだな。奇妙な縁もあるものだ。
粕川の格好は長い髪をお下げにして三角巾で縛り花柄のエプロンをかけている。あ、あとついでにメガネ。全体的にどこか野暮ったい雰囲気でこのポスターのアイドルとは正反対だ。
「へぇー、靖原くんアイドルに興味あるんだ」
どこか嬉しそうにそんなことを言う粕川。
「ん~そういうわけじゃないんだけどなんで今日人がこんなに多いのか気になってね」
「あ、それ今日近所でお祭りやるからだよ」
といっても町内会規模だけど。と、そう続ける粕川。あれじゃぁこのアイドルのイベントはどういうことなの?
「いくらアイドルだからってこの子まだ駆け出しだよ? そんなに人が集まるわけないじゃない」
彼女はちょっとすねたようにそう口にする。はてな、なにか気に障ることを言っただろうか? 言ってないよな。
「そ、それにしても朝早いな。俺はたまたまだけど粕川はどうしたんだ?」
「あたしんちここなんだ。知らなかった?」
粕川が指差したのはちょうどポスターが貼ってある建物。そこには粕川生花店という看板が掲げられていた。
――――――――
「おじゃましまーす」
「いえいえ、なにもないところですけど」
あの後何故か粕川の家におじゃますることになった俺はとても緊張していた。クラスメートの女子の家にお呼ばれなんて一体俺に何が起こっているんだ? そんな疑問を抱きながら畳に座りながら出されたお茶を飲み気がつけば開店の準備をしている粕川の身体を舐め回すように……
「ちなみにお父さんは後五分もすれば戻ってくるからね」
……見てませんよ、ええ見てませんとも。女の子の家に上げられて二人っきりでちょっとエッチな展開になるかもだなんて思ってませんとも!
そんな一瞬の意識の隙を突いて抱えていた締太郎が俺の手の中から飛び出した。
「あ、こら締太郎!」
そんな声を他所に締太郎は水場へ走って行くとそのままバケツに溜まっていた水をペロペロと飲み始める。
「さっきから見てたけどかわいい犬だね。締太郎って言うの? 男の子? 女の子?」
粕川はそう言って締太郎を撫で回す。開店の準備はいいのだろうか? なんてことを思いながら粕川の隣に座り込む。
実のところこんな距離で女子と話したことなんてないから心臓がバクバク言っている。あ~っと、え~っとこの後なんて声をかけたらいいんだ?
「あ、あ、だめだよ締! いい子だからそこを離れましょうね~」
悩んでるうちに隣では締太郎が荒ぶっていた。蛇口からはいつの間にか水が出ていてそれを浴びた我家の愛犬が盛大にあたりに飛沫を巻き散らしている。
「あ、ちょっと……顔をペロペロしないで~も、もう! メッてするよ!」
うちの犬がクラスメートを押し倒している件について。犬に先を越されるとか……って押し倒すつもりはないよ! ほんとだよ!
このままじゃいけないと粕川から締太郎を引き剥がす。それと同時に締太郎にはうめぼしの刑を執行する。これをやっておくと同じ悪さはしなくなるんだよな。
「大丈夫か、粕がわ……」
そこにいたのはメガネが外れ頭の三角巾と三つ編みがほどけたちょっと泥で汚れた美少女がいた。え、え? 粕川ってこんなにも可愛かったのか? しかしこの娘ついさっきどこかで見たような……
「あぁぁぁっ! さっきのポスターのアイドル!」
そうだ! メガネを外して髪のほどけた粕川の容姿はさっきポスターで見た蓮菜夕梨花そっくりなんだ!
「おねがい! 靖原くん! みんなには内緒にしてて! 何でも言うことを聞くから!」
そのセリフを聞いて俺の中にある疑問が吹き飛んでしまう。なんでも? 何でもって言ったね? 言ったよね? そして俺の中に湧き上がるのは数多のエッチなシュチエーション。当然の事ながらその中にはかなりきわどいものもあった。いやむしろ18禁な……
「靖原くん? 靖原くん? お~い、聞いてる?」
……つまりこんなアイドルとエロエロなお付き合いを……
「おい、てめぇうちの娘に何をさせるつもりだ?」
気がつけばガシリと頭が強い力で締め付けられていた。目の前には強面のおっさん。10人いれば5人は目をそらすであろうその眼力の前に俺はは思った。「殺される」と。
「い、いやですね~何もさせるつもりはありませんよ、お義父さん」
その不用意に口をついた一言のせいで俺の体は宙を舞った。
告白まで行けず。