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生物(なまもの)学とは不可思議な

上上手取は、一人きりの堤防 が舞台で『指輪』が出てくるノンビリした話を3000文字以内で書いてみましょう。持ち時間は一時間。

 ぼっぼっぼっぼっぼっぼっぼっぼっ……


 船が走っている。四本の足で。この世界はなにかおかしい。


 俺の名は田上(たがみ)和也(かずや)。この世界にやってきて数ヶ月といったところだ。


 この世界に来る前は地球という場所でサラリーマンをやっていた。取り立てて可もなく不可もなくという感じで無為に日々を過ごしていたらなんやかんやでこの世界に飛ばされてしまった。あの駄女神は次会うことがあったら絶対に泣かしてやる。


 いきなり身一つでこの世界に飛ばされてさてどうしたものかと考えていたがなにも心配することはなかった。この世界の人むっちゃ優しい。いきなり異世界に連れてこられたということを聞いても不審に思うことなく同情してくれて更にはしばらく生活するだけの生活費も出してくれた。地球じゃ考えられないよこんな待遇。


 懐具合が落ち着けば心に余裕も出てくるものだ。帰る家を手に入れた俺はこの世界について調べてみたが地球とはまた随分と趣が異なっていた。


 まずこの世界で発達しているのは科学ではなくて生物なまもの学というわけのわからない学問だった。例えるなら馬車は馬と箱が合体したような奇妙な生物だし鳩時計もとい鳥時計と言うのは過去の生物学者の失敗作で世に解き放たれた一定の時間になると鳴き声を上げる鳥達のことだ。


 で、その失敗作というものがこの世界にはそれこそ山のように溢れている。それらは管理されていればいいのだが大概は不法投棄され土着の生態系と融和しなかなかカオスなことになっている。そういった失敗作は結果を出せなかったアンリアル生物パラノイアと呼ばれよくある異世界物の魔物のような扱いを受けている。


 こういった異世界に魔物とくれば次に来るのは冒険者というのがお約束だが、この世界では地球の警察官や消防士に当たる試験をくぐり抜けたエリート公務員の皆さんが頑張っているので残念ながら冒険者という職業はない。隙間産業としての何でも屋みたいなのはあるみたいだけどね。


 でだ、冒頭に戻るが俺は海に来ていた。周りには誰もおらずひとりきり。波をうちとめる堤防にやってきて俺はあるものを取り出した。ちなみにこの堤防にも生物学が適応されていてなんらかの生き物の鳴き声がそこかしこから聞こえてくる。……なんか俺を捕食しようとしている獰猛な生物の唸り声が聞こえる気がするがそのような生物の姿は見当たらないのできっと気のせいだろう。


 取り出したのは5つの指輪。カー、キー、クー、ケー、コーと名前が付いているらしい。今回この指輪の用途を調べるのが俺の受けたお仕事の内容だ。


 この指輪はいわゆる|結果を出せなかった生物アンリアル・パラノイアなわけだが正規の手順で処分場に持ち込まれたものだ。けれども困ったことに製作者がすでに死去しておりこの指輪の詳細がわからない。アンリアル・パラノイアは処分の手順を間違えると周りに甚大な被害を与えるものもありこうやって人気のない海辺へとやってきたわけだ。


 普通こういったものはエリート公務員のお仕事なわけだが、あいにくと彼らでも解析できなかったためそれならば異世界から来たという俺にダメ元で頼んでみようとそういった経緯で俺のところへ舞い込んだお仕事だ。


 俺はまずひとつ目のカーの指輪と手にとって人差し指にはめてみる。


「カー」


 指輪からそんな声が響き渡り……それだけだった。


「……いや、全く意味がわからないんですけど」


 この世界の生物なまもの学は要するに道具と生命体との融合だ。そうすることによって今まで出来なかった事のできる道具を創りだすというのがこの学問の主題でもある。ようするにこの学問によって作られたものは何らかの実利をもたらすのが当然とされている。だからこのようにただ鳴き声を上げるだけというのはありえない結果なのだ。そこには何らかの意味があるはずである。で、それを調べるのが今回の俺のお仕事なわけだが……うんわけがわからんね、この指輪。


 俺は他の指輪も取り出し指にはめて効果を試してみた。


「キー」

「クー」

「ケー」

「コー」


 それぞれの指輪から名前に対応した鳴き声が上がる。……いやこれほんとどんな意図を持って作られたの? ただのジョークグッズじゃないのか?


 「カッカッキキックックックケッケコーコーコー」


 指輪から鳴き声を上げさせながらこの理由の分からない指輪の効果をどう報告したものかと悩む。


「カケキクケコケコケックーカクケ」


 うーん、流石にジョークグッズですって報告するのはまずいよなー。この世界ではそういう冗談を行う生物は忌み嫌われる存在だ。うん? この指輪は|結果を出せなかった生物アンリアル・パラノイアだからそれでも問題はないのか?


「クケキコカケコカケッケッケクケ。キーキーキー」


 手にした指輪が俺に意志に合わせて不揃いな音楽メロディを奏で……ってこれだ!


―――――――


 俺は依頼人に対して”この指輪は楽器であると思われる”という報告を行った。この報告が指輪の処分にどのような影響をあたえるのかは分からないがこの世界にきてから初めて受けた大きな依頼に答えられたことに俺は安堵の息を吐くのだった。



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