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植木鉢の彼女

上上手取は、騒がしい街角 が舞台で『植木鉢』が出てくる告白する話を3500文字以内で書いてみましょう。持ち時間は一時間。

 車行き交う騒がしい街角。そんな中彼女と待ち合わせ。今日はデート……と同時に心に決めていることがある。それは彼女に懺悔することだ。俺が過去、彼女にしてしまったひどい行いを告白するのだ。

 彼女はその時のことなどなんとも思っていないかもしれない。しかしそれではダメなのだ。この偽りの恋人関係から本当の恋人になるためにはあの時の行為を謝らなければならない。


 ぐるりとあたりを見回す。彼女はまだ来ない。それはそうだ。なにせ待ち合わせの時間までまだ一時間以上ある。俺はいつも以上に早く家を出た。そわそわとして落ち着かなかったのだ。

 もし、俺の告白で彼女に拒絶されたら。そう考えるだけで胸の鼓動は早くなり嫌な汗が流れてくる。

 空を見上げて深呼吸。今日の空は生憎の曇り空。まるで俺の未来を暗示しているかのようで今から憂鬱な気持ちになる。


 ちらりと腕時計を見やる、まだ10分しか経っていない。

 彼女にしたひどい行い、それはつまりまだ彼女のことをなんとも思っていなかった頃に罰ゲームの一環で告白をするはめになったことだ。

 今では彼女のことを知り周りの皆が言う欠点も微笑ましい美点に見えるのだから恋は盲目とは恐ろしい。

 まぁ、なんだ。ようするに恋人同士になったきっかけがあのような不誠実なものだというのが俺には許せないのだ。


 信号機の色が変わる。集合時間まで後40分。道を行き交う車の中におしゃれなオープンカーを見つけた。


「いつかあんな車に乗ってみたいね」


 そういった彼女の横顔を思い出す。それは何気なく口から出た言葉なのだろうがその時の二人の関係は一体どのようなものになっているのだろうか?

 信号待ちをしているその車はオレンジのカラーリングでいかした洋楽メロディをかき鳴らしていた。乗っていた若い二人組は恋人同士だろうか。時折楽しげに言葉をかわしている。

 信号が変わりオープンカーはこの場から走り去っていった。俺も彼女とあのような関係になれるだろうか?


 残り30分。ポタポタと雨がふりだした。まいったな、傘を持ってきていない。俺はその場から一旦離れ店の軒下へと避難する。

 そういえば彼女と初めてであったのもこんなシチュエーションだったか。


 それは、ある雨の日。今と同じように軒下で雨宿りをしていると彼女が植木鉢を持って同じ軒下へやってきた。

 彼女の噂は聞いていた、ぼっち、根暗、植物しか話し相手がいない。要するに周りに馴染めずにいたのだ。だが、当時の俺はそんなことに気づかずやってきた彼女を見て噂のイメージを信じ”うわ、嫌なやつが来た”とげんなりしていた。


 その時の彼女は俺のことなど目に入っていないかのようにひたすら植木鉢の植物に話しかけていたのも俺が彼女へのイメージを低下させた要因だろう。結局その時彼女は俺のことに気づかず、俺は雨が上がったことを彼女に告げてソクサクとその場を立ち去ったのだった。雨が上がったことに気づかずずっとあのまま植木鉢としゃべっていそうだったので声をかけたのだが聞こえていただろうか?


 残り時間20分を切った。雨はポタポタと降り続いて止みそうにない。今日のデートは中止かな?


 そういえば初デートの時も雨に振られたんだな。よくよく雨に縁がある。

 最初俺は雨が降っているっていうんですっぽかそうとしたんだよ。で、罰ゲームだったから当然その様子を見ようとしていたやじうま連中にもそう連絡して俺は家の中でゴロゴロしていた。

 ところが昼飯の直前になって急に電話が入った。


――あいつこの雨の中ずっと待ち合わせ場所で待ってやがんの。ばっかでー――


 俺はそれに同意し昼ごはんを食べ終えた。そして二時頃になった時急に不安になった。


 ……もしかしてあいつまだ待ってんじゃねぇか?


 電話をくれた友人に電話を入れたがすでにあの場所から離れていたためその後どうなっているかはわからないという。

 われながらバカバカしいと思いながらも俺は傘を手に取り家を飛び出した。

 もう帰っている、風邪をひいても俺のせいじゃない、そもそもなんで待ってんだバカ、etc。様々な考えが俺の頭をよぎりつつ俺は待ち合わせの場所に向かった。


 そこには女の子がいた。精一杯のおしゃれなのだろう、野暮ったいがフリルの付いた可愛いと言えなくもない明るい色の服は雨でぐしょぐしょになり、きれいに整えていたであろう髪の毛も見る影もなく無残なことになっていた。


 なんでそんなになってまで俺を待っているんだ! こちらは罰ゲームでお前をからかっただけなんだぞ!


 一言文句を言ってやろうと近づき、


「あー、もうだめだよ遅刻なんてしちゃ。私すっぽかされたのかと思ってあせっちゃった」


 そう言った彼女の顔を見て俺はなにも言えなくなった。


 あと10分か。

 それから俺は彼女を自分の家に連れ帰り風呂に入れ、家にいた親にこの事についてさんざん説教を食らって風呂あがりの彼女と話をすることになった。


 話をしてみれば彼女は周りで言われているような根暗な娘ではなくちょっと情熱が植物に向きがちな……ありていに言えば変な娘だった。だが悪い娘じゃない。けっしていつも制服で押さえつけられていた胸のボリュームに引き寄せられたからではないとこの場で弁明させていただこう。


 待ち合わせの時間が来る。キョロキョロとあたりを見回していた彼女が俺を見つけたようでこちらへと駆け寄ってくる。はたしてこれからする俺の告白を彼女は許してくれるだろうか?


 ……しかし……なんで今日も植木鉢持ってるの!?



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