心地よいテンポ
1学期の期末テストがやってくる。
テストって燃えるんだよねぇ、とみどりちゃんと佳代ちゃんに言うと、そんなものに燃えるのはあんただけだと冷たく返された。
みんなに不思議がられるんだけど、私はテストが結構好きだ。毎日テニスの練習をして、その技量が上がったかどうかを試合でみることができるように、自分の勉強したことが身についたかどうか調べるのは楽しい。楽しいと思ってテストに向かうからか、私は成績が割といい。……「割と」なんて言うと、2人に怒られそうなので、言い直します。かなりいい。学年で5本の指に入るくらいにはいいのだ。
このトップ校と言われるほどの進学校での話だから、世間一般的に見ても、成績がいいと言って間違いないだろう。
それは私が天才だからじゃなくて、ちゃんと努力しているから。まぁ勉強好きなので、「努力」という言葉があてはまるかどうかは別として。
ともかくテスト2週間前で部活が停止となったので、さっさと帰ろうとしたら、教室の入り口に祐也が立っていた。
私のほうを見ているので、私に用なのかなと思い、自分を指差して、「わたし?」と声を出さないで口を動かすと、首を縦に振った。
なんだろう、と入り口に行くと、
「帰ろう」
と言う。えっ? と思わず、声が漏れてしまった。
「なんか用があるのか?」
「ううん、そうじゃないけど」
「じゃ、帰ろう」
もう習慣になってしまっているのかもしれないけど、部活をしないんだから、真冬でもない今は帰り道は暗くない。祐也に私を送らなくちゃいけない理由はない。
「帰り道、暗くないから、大丈夫だよ、一緒に帰らなくても」
私がそう言うと、祐也の顔から表情が消えて、ちょっと怖い雰囲気になった。
「嫌なのか、俺と帰るのが」
「え、そんなわけないよ。でも、いつも祐也の帰りをしばっちゃってるから、こんな時ぐらいは、と思って」
あわててそう言うと、祐也は、少し表情を緩めて、
「別に、しばられているとは思っていない。……ともかく、帰ろう」
というので、私たちは2人で学校を出た。
二人とも大しておしゃべりなほうじゃないが、2人でいる時は、それでもぼちぼちと会話をする。部活での話とか、家族のこととか。お隣りさんだけに、お互いの家族のことはよく知っているので、家族の話は二人の間では静かに盛り上がる話題の一つだ。
「静かに」と言ったのは、それしか表現方法がないからで、わっと盛り上がるんじゃなくて……うーん、なんというか、お互いふふっと笑い合うぐらいな感じというのかな。そんな祐也との会話は、私のテンポに合っているというか、とてもラクで居心地がいい。
そんなことをつらつら考えながら歩いていたら、祐也が声をかけてきた。
「どうした?」
「うん?」
「なんか考えてるみたいだから」
「ああ。……祐也と話をするのは居心地がいいなぁと思って」
私がそういうと、祐也は一瞬目を見開いて、ちょっと考えるような顔をしたあと、こう言った。
「オレ、面白くないだろ。あんましゃべらないし」
「うん? ああ、そうだね、おしゃべりじゃないよね」
「……」
「でも、私もそうじゃない? だからかなぁ、あんまりがんがんしゃべられると疲れちゃって。祐也ぐらいがちょうどいいんだよ、きっと」
「……そうか」
「うん」
私がそう言うと、祐也は柔らかい表情で、こちらを見た。あ、なかなかイケメンかも、と思ったのはナイショにしておこう。
「オレも……由衣と話すのは、好きだぞ」
び、びっくりした。一瞬言葉が出なくて、でもなんか言わなきゃ、ってかんじがしたので、あわてて、
「そ、そっか、良かった……テンポが合ってるのかもね」
と言って、ニマっと笑ってごまかした。だって、なんて言っていいかわかんないんだもん。私の反応に、祐也も一瞬言葉が出なくなったらしい。でも、そのあと、一呼吸置いて、ニヤッとしながら、
「オレは由衣ほど、トロいテンポじゃないけどな」
とほざいてくれた。




