年長者のご意見
部活は毎日あるけれども、大きな大会もすぐにはなく、なんとなくゆったりとしたような日々が続く。
「うお~っ、あっという間に今年も終わっちゃいそうだなぁ」
「来年は受験中心だよなぁ」
「みんなとこうして帰れるのも1年ないんだねぇ」
「うわ~、寂しいこと言わないでよ」
なんて言いながら、私たちはいつものように歩いていた。
そしたら、隆正くんが、
「なんかさー、女の子と二人でクリスマスにでかけてみたいよな」
と、ぼそっと言った。圭くんも、
「おお。いいなぁ。今から彼女作るのもアリかも」
なんて言う。まじか。さらに、みどりちゃんも……
「できるかもよ。うちのクラスの女の子たちも同じようなこと言ってたし」
そういえば、そんなこと言ってた気がする。
「この時期、カップルが出来やすいらしいよ」
「えっ? クリスマスのために?」
という私の問いに、
「そう。というか、それをきっかけに告白?そんな感じ」
「去年もけっこうドドッとくっついたみたいだしね」
「ジュリエットを狙うやつもいるかもよ~」
「また、もう、ばかなこと言って」
「いや、ばかなことでもない」
圭くんが急に真面目な声で、そう言った。みんな、えっという顔で圭くんの方を向く。
「だって、由衣ちゃんと祐也、別につきあってるわけじゃないんだろ? なんとなく行き帰り一緒にいて、二人でいるところをよく見られてるから、周りはつきあってると勝手に思ってるけど。だから、つきあってないことが周りに知られれば、わかんないぜ。実際、由衣ちゃんのこと、いいなって思ってるやつは結構いるし」
「うん、まぁ、そうだよね。私も委員会で3年生に、二人はつきあってるのかどうか聞かれたことあるし」
えーーーっ、佳代ちゃんまでそんなこと言って! そこで、祐也が佳代ちゃんに向かって言った。
「それで、どう答えたんだ?」
祐也、表情が怖いよ。
「どうって、本人に聞いてみて、と答えたよ」
みんなどうしちゃったの? なんで急にそんなこと言うの?
そこまで話して、駅についてしまったので、みんなとバイバイした。私と祐也はそこからは二人だけなんだよ。なんとなく、いつも以上に仏頂面?の祐也。なんだか、声をかけづらい。
でも、なんだかこのまま放っておいていいような気がしなかったので、
「祐也、あのね、駅のそばに、あ、私たちの家とは反対側なんだけど、そこにカフェができたんだって。かわいい雑貨もおいてあるんだって。今日、帰りに寄っちゃダメ?」
「えっ?」
「疲れてて悪いんだけど、だめかな?」
「あ、いや、大丈夫だ……なんか飲んで帰るか」
「うん。ココアがあるといいな」
「……甘いだろ、それ」
「甘くないココアはありえないでしょ」
そんな話をしていたら、祐也の表情がやわらかくなってきた。良かった。
私たちは、その新しいカフェでお茶して、雑貨を眺めて帰ってきた。いつもより少し遅くなったけれど、考えたらこれもデートかな、なんて思ったら、少し照れくさいような嬉しいような、なんとも言えない気分だった。
「ねぇねぇ、津田くんと由衣って、ただの幼なじみなんだって?」
「えっ?」
「恋人じゃないの?」
どうしたらいいんだろう。これは。みどりちゃんは、うふふってしとけばいいって言ってたけど、顔をがひきつってうふふどころではない。私がテンパっていたら、佳代ちゃんが、
「まぁまぁ」
と言って、みんなを引っ張って連れて行った。
後で戻ってきた彼女が言うことには、昨日私たちが話していたのを誰かが聞いていたらしい。
「ごめんね」
とみどりちゃんと佳代ちゃんは謝ってくれたけど、謝られることじゃない。
「大丈夫だよ」
と、彼女には笑ってみたものの、昨日みんなに脅された(?)ことが胸をよぎる。
みんなは、ジュリエットに告白するやつが出るかもよ、なんて言ってたけど、よく考えてみれば、そんな稀有な人が出てくる可能性はそれほど高くない。だって、今まで全然いなかったんだから。ジュリエットなんて非日常を日常に取り入れちゃう人なんていないんじゃないだろうか。それより、祐也に告白する人が出てくる可能性の方がよっぽど高いんだよ。祐也は今まででもちゃんと(?)モテてたんだから。
そこまで考えて、なんだか気持ちが沈んできてしまった。考えたら、こんな状態でみんなに誤解されていることは、祐也が大事な人に会う可能性を潰してるのかもしれない。
でもでも、私は今の祐也と一緒の毎日がとても心地いい。……どうしよう。
夜、夕食を食べながら、ぼーっとしていると、お母さんが声をかけてきた。
「何かあったの?」
「ん? なんで?」
「由衣らしくない顔して、ぼーっとしてるから」
「……ぼーっとって」
「気にかかることがあるんでしょ」
「うん。ある。あのね、私と祐也は毎日一緒に学校に行ったり帰ったりしてるじゃない? だから、恋人どうしだと思ってる人が多いらしいの」
お母さんは、その後に続く私の話を合いの手を入れるでもうなずくでもなく黙って聞いていた。それが心地よかったこともあってか、私はここ最近のクラスメイトとの会話を母にするすると語った。
「でね、本当はみんなに誤解されてる状態をといた方がいいんじゃないかとは思うの。じゃないと、祐也が大事なひとに出会う可能性を私が奪うことになるんじゃないかって……でも、そう考えたら、なんとなく気分が落ち込んでしまって……」
「……落ち込んだの?」
「うん。私は、今みたいに祐也と話しながら帰ったりするのがなくなるのがいやなんだよ。とても楽しいの。ううんと……楽しいっていうより、なんていうか、心地良いの。この毎日が壊れちゃうと思うと……さびしいんだよ」
「自分の心の中のことを他人に言われるのはいやだろうから、私は何も言わないけれど、自分の気持ちには素直に反応しなさいね」
「どういうこと?」
「そうね、たとえば誰かに『私は津田くんが好きなの。由衣は彼女じゃないんだから一緒に帰るのやめて欲しい』なんて言われた時に、祐也くんのチャンスを奪わないように一緒に帰るのをやめる、なんてことがないようにね」
「えっ?! ダメなの?」
「そうよ。祐也くんのことは祐也くんが考えればいいのよ。あなたが勝手に考えるべきことじゃない。由衣は自分の気持ちを考えるのよ。一緒に帰りたいんでしょ?」
「うん」
「じゃ、祐也くんが『一緒に帰るのをやめよう』と言うまで、一緒に帰ればいいのよ。これは正しいからね? 人生の先輩からの言葉だと思ってちゃんとききなさいね。もっとも人生の先輩じゃなくても傍から見てればわかることだけれどね……はぁ」
最後の一文はよくわからなかったけれど、ともかく、祐也に対して自分がそうしたいと思っていることは、祐也がいやだと言わない限り続けていいのだということはわかった。
なんでそれでいいのかはいまいちわからなかったけれども。




