おちつかない距離と祐也の決心
午後、祐也と待ち合わせて、いつものようなペースでぼちぼちと話しながら、あちこちを見て回っていたら、なんだか雲の上にあった気持ちがふわっと落ち着いて、いつもの私のところまで戻って来たようだった。
この数週間は、やっぱり私には気持ち的にも体力的にもオーバーワークで疲れていたんだなぁと思った。なんというのかな、戻るべき場所はここなんだな、というか。
「祐也、誘ってくれてありがとう」
「ん?」
「祐也と歩いていたら、なんだかほっとした。ここのところ、異常な毎日だったから」
「ああ。昨日の舞台か」
「うん。分不相応な役割をもらっちゃって、あたふたしてたから」
「……ちっとも不相応じゃなかったぞ。うまかった。うまかったし……きれいだった」
「えっ、見てくれたの?」
そのときの私の顔はおそらくゆでダコ状態だったと思う。昨日も今朝も、祐也から何かメッセージはないかな、とスマホを見たけれど、何もなかったから、祐也は忙しくて見てもらえなかったんだと思っていたのだ。
「うん。見たよ。見るさ、そりゃ」
「ありがとう」
そういう私を見ながら、祐也は一度大きく目をみはって、そして私の髪に手を寄せた。
「なんだか、由衣が遠くに行っちゃったみたいで、ちょっと寂しくなった。勉強だけじゃなくて、演じることまでできて、しかも学校中の男の目を集めてるし」
祐也が、祐也じゃないみたいにちょっととろんとしたような顔で、少しかすれ気味の声で話しかける。
ええええ~~~っっ、この人は誰??!
「今日だって、こんなにかわいくしてきて……」
じっと私を見る祐也は、少し切なそうな顔をした。
「しかも、キスされてるし」
きゃあああ~~~っ?!
「あ、あれは、事故だよ……事故!」
あわあわと対応する私を少しかがんで見つめる祐也。その顔がだんだん近づいて来て……
「はいはいはい、ストップストップ~」
いきなり声がかかって振り向くと、いつもの仲間がそこにいて、その声をかけたのが隆正くんだったのがわかった。
「いい雰囲気のところわるいんだけど、ココ中庭だからね。ほら、校舎の中からも見物人があちこちにいるから」
圭くんの声にはっとして、祐也と二人で周りを見回してみると、視線をそらす人がそこここに……。
みどりちゃんと佳代ちゃんもニヤニヤして見ている。
私はおそらく真っ赤な顔をしていたと思う。そして、祐也を見ると……顔はそっぽ向いててわからなかったけど、耳も首も真っ赤だったことはよくわかった。
その後は、6人で校舎をまわって、私はまた「ジュリエットだ~」なんて言われたり、知らない子に手を振られたりしたけど、もうドギマギすることもなく、残りの文化祭を楽しんだ。
また定期テストがやってきた。
私たち6人は、前回と同じく、時々勉強会をしたりして楽しく(私だけかな?)勉強をすすめていた。
世界史がごちゃごちゃになってきた、と私が言うと、佳代ちゃんがきちんと整理したノートを見せてくれたり、情報が良くわからないとみどりちゃんが言うと、ノートパソコンを持って来て圭くんが解説してくれたり、さすが6人いると文殊の知恵の2倍だけあって、ほとんどの問題に対処できることがわかった。すばらしい。
もちろん、祐也との勉強会も続いている。中庭での一件があってから、私は祐也と二人で勉強していて、ときどき落ち着かないような気分になっていた。もちろん、勉強はしっかりやっている。(そこにブレはない。えへん)でも、なんていうか、ときどき祐也の顔をじっと見てしまうのだ。そして、見ていることに自分で気がついてはっとする、その繰り返しというか……一体なんなんだろう。
反対に、視線を感じて顔を上げると、祐也がこっちを見ていることがある。なに?と顔を傾けると、祐也はふいっと視線をそらしたりする。前だったら、「どうしたの??」とすぐに言葉にして聞いたのだが、なんとなく聞けないでいる。だって、自分も同じようなことしているけれど、なんでそうなるのかよくわからないんだもの。
みんなで勉強していたある日のこと、隆正くんが、
「みんな、もう行く大学決めてたりする?」
と聞いた。
佳代ちゃんは、
「目指してるとこはある」
とはっきり言った。えっ、そんな話聞いてない。
「私は考古学をやりたいんだよね。大学院まで行って、研究者になりたいの。だから、自分の興味のある研究をやってる先生がいる大学を目指してる」
すごい!
「由衣は?」
と聞かれたので、
「私は、将来何をやりたい、というとこまでは決まってないの。ただ、英語を使って何か興味のある仕事をしたい。だから、留学はどこかでするつもり」
そう言ったら、「実現可能な進路だな~」と圭くんがつぶやいた。
「やっぱり国立のT大か?」
と隆正くんが聞くので、
「うん。たぶんT大を目指すと思う」
と言うと、「これも実現可能~」と圭くんがもう一度つぶやいた。
圭くんは、おうちが歯医者さんなので、歯学部ということだけ決まっているそうだ。みどりちゃんは、生命科学をやりたいと言っていた。そういえば、生物強かったっけ。
「え? 全然決まってないの、オレだけ? あ、祐也もか」
と、隆正くんが祐也に話をふると、祐也は落ち着いた声で、
「オレは決まってる。一応T大」
えーっ!! とみんな驚いた声をあげた。私もびっくりした。でも、祐也の顔を見たら、ちゃんと考えて言っていることがわかって、「あ、これはおじさまの会社を継ぐことに決心したんだな」と思った。
「そっかー、いや、驚いたけどさ。そうか、がんばれよ」
「うんうん、厳しい道かもしれないけど、きっとがんばれるよ」
「けなげだな、おまえ」
え? あんなにびっくりしてたのに、すぐ納得しちゃうんだ、みんな。おじさまの会社のこと、知ってるってこと? みどりちゃんや佳代ちゃんまで、うなずいてるってことは……一体いつ話したんだろう。




